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第十七話 価値を見抜く瞳
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俺の前に現れたのは、小柄な少女だった。亜麻色の髪を三つ編みにしており、そばかすの浮いた顔には、好奇心旺盛な光を宿した大きな瞳が輝いている。服装は、動きやすそうな旅人のもの。だが、その背中に背負った、体に見合わないほど巨大なリュックサックが、彼女がただの旅人ではないことを示唆していた。
「お姉さん、何かご用で?」
俺は、もう期待していなかった。どうせ、また冷やかしだろう。
少女は俺の言葉を気にも留めず、敷物の上に並べられたスライムコアに視線を落とした。そして、ふむふむと感心したように頷いている。
「メディック、カッター、アシッド……。普通のスライムじゃないね、これ」
その言葉に、俺は少し驚いた。今まで誰も、アイテム名以上のことには言及しなかった。
少女はしゃがみ込むと、カッタースライムのコアを指先でつん、とつついた。
「ねえ、これ、ちょっと見せてもらってもいい?」
「え、ええ。どうぞ」
俺が許可すると、彼女はコアをそっと手に取った。そして、その大きな瞳をじっとコアに近づける。すると、彼女の瞳が、淡い翠玉色の光を放った。
「スキル、『千里眼』」
その呟きと同時に、俺の視界の隅にシステムメッセージが表示された。
『プレイヤー“リオ”が、あなたのアイテムに鑑定スキルを使用しました』
鑑定スキル。それも、ただの鑑定ではない。『千里眼』。高レベルの商人や鑑定士だけが習得できる、アイテムに秘められた全ての情報を読み解く最上位スキルだ。
翠玉色の光が、コアの内部を走査するように明滅する。数秒後、光が収まると、少女――リオは、ぱっと顔を輝かせた。その表情は、まるで砂漠でオアシスを見つけた探検家のようだった。
「すごい……!なにこれ、すごい!」
彼女は興奮した様子で、俺の顔をまじまじと見つめた。
「スライムのコアに、スキル『ブレードフォーム』と『高速振動』が付与されてる!しかも、素材として使った場合、武具に『斬れ味+』の特殊効果を付与する可能性まで秘めてるなんて!」
彼女は、俺ですら把握していなかったコアの隠された性能まで、完璧に見抜いていた。
「こっちのアシッドも……付与効果『腐食』!防具破壊に使えるじゃない!メディックに至っては、ポーションの効果を増幅させる触媒になるなんて……!」
リオは一人で興奮し、早口でまくし立てている。その様子を、俺は呆然と眺めることしかできなかった。
初めてだった。俺の創造物の価値を、これほど的確に、そして情熱的に理解してくれた人は。カエデでさえ、その性能を肌で感じただけで、ここまでの詳細なデータは知らなかっただろう。
一通り興奮し終えたのか、リオははあと大きなため息をつくと、満面の笑みで俺に向き直った。
「ねえ、お兄さん。あなた、何者?こんなとんでもないお宝、どうやって手に入れたの?」
「……俺が、創りました」
俺がそう答えると、今度は彼女が目を丸くして固まった。
「……は?創った?あなたが?職業は?」
「モンスターメイカーです」
その言葉を聞いた瞬間、彼女の目の色が、尊敬と畏敬のそれに変わった。
「モンスターメイカー……!あの、誰も見向きもしない不遇職で、こんなものを……!信じられない!あなたは、天才だよ!」
天才。そんな言葉を、俺は生まれて初めてかけられた。現実でも、ゲームの中でも。
何時間も向けられ続けた嘲笑と侮蔑。それが、彼女のたった一言で、全て洗い流されていくようだった。胸の奥が、じんわりと熱くなるのを感じた。
リオは立ち上がると、自分のアイテムボックスから革袋を取り出し、カウンターに叩きつけるように置いた。ジャラリ、と重い金属音が響く。
「これ、全部買う!」
「え、全部!?」
「当たり前でしょ!こんな逸品、他人に渡してたまるもんですか!」
彼女は値札を指差した。
「メディックが5000、カッターが8000、アシッドが10000。合計23000G。でも、こんな値段じゃ安すぎる!初対面のご祝儀も兼ねて、30000Gでどう!?」
「さ、三万……!?」
俺の所持金の、三百倍以上の金額。
あまりのことに、俺は言葉を失った。
俺が呆然としていると、リオは「決まりね!」と一方的に取引を成立させ、俺の目の前に30000Gが入った革袋を置いた。そして、宝物を扱うかのように、三つのスライムコアを自分のリュックサックにしまい込んだ。
「ふふーん。いい買い物をしちゃった」
彼女は満足げに鼻を鳴らす。その姿は、抜け目のない商人の顔だった。
「あの……本当に、よかったんですか?こんな値段で」
俺がおずおずと尋ねると、彼女は悪戯っぽく笑った。
「いいのいいの。これでも、私にとっては安い買い物なんだから。このコアを素材に新しい商品を作れば、きっとこの何倍にもなって返ってくる。私、そういうのを見抜く目には、ちょっと自信があるんだ」
彼女はそう言って、自分の胸をぽんと叩いた。その自信に満ちた姿は、とても頼もしく見えた。
小鳥遊莉緒。プレイヤーネーム、リオ。俺はこの時、この世界で二人目の、そして最高の理解者と出会ったのだ。
取引を終えたリオは、しかし、その場を立ち去ろうとはしなかった。彼女は何かを考えるように顎に手を当てると、俺に向かってにっこりと微笑んだ。
「ねえ、ユーさん。あなたに、一つお願いがあるんだけど」
その瞳は、新たな儲け話――いや、新たな冒険の匂いを見つけた、優秀な商人の瞳をしていた。
金欠だったはずのモンスターメイカーに、予想もしなかった新たな出会いと、依頼が舞い込もうとしていた。
「お姉さん、何かご用で?」
俺は、もう期待していなかった。どうせ、また冷やかしだろう。
少女は俺の言葉を気にも留めず、敷物の上に並べられたスライムコアに視線を落とした。そして、ふむふむと感心したように頷いている。
「メディック、カッター、アシッド……。普通のスライムじゃないね、これ」
その言葉に、俺は少し驚いた。今まで誰も、アイテム名以上のことには言及しなかった。
少女はしゃがみ込むと、カッタースライムのコアを指先でつん、とつついた。
「ねえ、これ、ちょっと見せてもらってもいい?」
「え、ええ。どうぞ」
俺が許可すると、彼女はコアをそっと手に取った。そして、その大きな瞳をじっとコアに近づける。すると、彼女の瞳が、淡い翠玉色の光を放った。
「スキル、『千里眼』」
その呟きと同時に、俺の視界の隅にシステムメッセージが表示された。
『プレイヤー“リオ”が、あなたのアイテムに鑑定スキルを使用しました』
鑑定スキル。それも、ただの鑑定ではない。『千里眼』。高レベルの商人や鑑定士だけが習得できる、アイテムに秘められた全ての情報を読み解く最上位スキルだ。
翠玉色の光が、コアの内部を走査するように明滅する。数秒後、光が収まると、少女――リオは、ぱっと顔を輝かせた。その表情は、まるで砂漠でオアシスを見つけた探検家のようだった。
「すごい……!なにこれ、すごい!」
彼女は興奮した様子で、俺の顔をまじまじと見つめた。
「スライムのコアに、スキル『ブレードフォーム』と『高速振動』が付与されてる!しかも、素材として使った場合、武具に『斬れ味+』の特殊効果を付与する可能性まで秘めてるなんて!」
彼女は、俺ですら把握していなかったコアの隠された性能まで、完璧に見抜いていた。
「こっちのアシッドも……付与効果『腐食』!防具破壊に使えるじゃない!メディックに至っては、ポーションの効果を増幅させる触媒になるなんて……!」
リオは一人で興奮し、早口でまくし立てている。その様子を、俺は呆然と眺めることしかできなかった。
初めてだった。俺の創造物の価値を、これほど的確に、そして情熱的に理解してくれた人は。カエデでさえ、その性能を肌で感じただけで、ここまでの詳細なデータは知らなかっただろう。
一通り興奮し終えたのか、リオははあと大きなため息をつくと、満面の笑みで俺に向き直った。
「ねえ、お兄さん。あなた、何者?こんなとんでもないお宝、どうやって手に入れたの?」
「……俺が、創りました」
俺がそう答えると、今度は彼女が目を丸くして固まった。
「……は?創った?あなたが?職業は?」
「モンスターメイカーです」
その言葉を聞いた瞬間、彼女の目の色が、尊敬と畏敬のそれに変わった。
「モンスターメイカー……!あの、誰も見向きもしない不遇職で、こんなものを……!信じられない!あなたは、天才だよ!」
天才。そんな言葉を、俺は生まれて初めてかけられた。現実でも、ゲームの中でも。
何時間も向けられ続けた嘲笑と侮蔑。それが、彼女のたった一言で、全て洗い流されていくようだった。胸の奥が、じんわりと熱くなるのを感じた。
リオは立ち上がると、自分のアイテムボックスから革袋を取り出し、カウンターに叩きつけるように置いた。ジャラリ、と重い金属音が響く。
「これ、全部買う!」
「え、全部!?」
「当たり前でしょ!こんな逸品、他人に渡してたまるもんですか!」
彼女は値札を指差した。
「メディックが5000、カッターが8000、アシッドが10000。合計23000G。でも、こんな値段じゃ安すぎる!初対面のご祝儀も兼ねて、30000Gでどう!?」
「さ、三万……!?」
俺の所持金の、三百倍以上の金額。
あまりのことに、俺は言葉を失った。
俺が呆然としていると、リオは「決まりね!」と一方的に取引を成立させ、俺の目の前に30000Gが入った革袋を置いた。そして、宝物を扱うかのように、三つのスライムコアを自分のリュックサックにしまい込んだ。
「ふふーん。いい買い物をしちゃった」
彼女は満足げに鼻を鳴らす。その姿は、抜け目のない商人の顔だった。
「あの……本当に、よかったんですか?こんな値段で」
俺がおずおずと尋ねると、彼女は悪戯っぽく笑った。
「いいのいいの。これでも、私にとっては安い買い物なんだから。このコアを素材に新しい商品を作れば、きっとこの何倍にもなって返ってくる。私、そういうのを見抜く目には、ちょっと自信があるんだ」
彼女はそう言って、自分の胸をぽんと叩いた。その自信に満ちた姿は、とても頼もしく見えた。
小鳥遊莉緒。プレイヤーネーム、リオ。俺はこの時、この世界で二人目の、そして最高の理解者と出会ったのだ。
取引を終えたリオは、しかし、その場を立ち去ろうとはしなかった。彼女は何かを考えるように顎に手を当てると、俺に向かってにっこりと微笑んだ。
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