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第三十五話 最初の接触
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森の奥から聞こえてくる、下品な笑い声と金属音。俺たちは息を潜め、ゆっくりと音の源へと近づいた。
木々の隙間から見えた光景に、俺たちは言葉を失った。
そこには、巨大な水晶の鉱脈が剥き出しになった場所があった。本来なら、神々しいほどの輝きを放っていたであろうその場所は、無残にも荒らされていた。五、六人のプレイヤーが、つるはしを振るい、乱暴に水晶をかち割っている。
彼らは、砕け散った水晶の欠片や、価値が低いと判断した鉱石を、ゴミのように投げ捨てていた。周囲には、この島固有の光る苔や美しい花々が、無造作に踏みつけられ、泥にまみれている。空になったポーションの瓶や、食べ散らかした食料の包装紙まで散乱していた。
それは、発見や探索などというものではない。ただの、破壊と略奪だった。
「おい、チンタラやってんじゃねえぞ!ノルマ達成できなきゃ、ガノバス様にどやされるのはこっちなんだ!」
リーダー格らしき、傷だらけの鎧を着た大男が、仲間を怒鳴りつけている。
「へいへい、分かってまさぁ。しかし、この島はマジですげえや。こんな純度の高い魔晶石、見たことねえぜ」
「これを独占できりゃあ、俺たち【パンデモニウム】がアステリアの市場を完全に牛耳れる日も近いな!」
パンデモニウム。
その名を聞いた瞬間、リオの肩がピクリと震えた。俺が彼女の方を見ると、その顔からは血の気が引き、瞳には恐怖と、それを上回るほどの強い嫌悪の色が浮かんでいた。
「……なんてこと。まさか、奴らの仕業だったなんて」
リオが、絞り出すような声で呟いた。
その時、一人の男が、俺たちが隠れている茂みに気づいた。
「ん?おい、誰かいるぜ」
しまった。
俺たちは、隠れるのをやめて姿を現した。もはや、隠れてやり過ごせる状況ではない。
リーダー格の大男が、ぎろりと俺たちを睨みつけた。その目は、獲物を見つけた肉食獣のそれだった。
「ほう、先客がいたとはな。しかも、こんな上玉の聖騎士様と、小娘まで連れて」
男の下品な視線が、カエデとリオの体を舐めるように這う。
カエデは、その視線に臆することなく、レイピアの柄に手をかけた。
「あなたたち、この島で何をしている。この美しい場所を、無断で荒らす権利など、誰にもないはずだ」
彼女の凛とした声に、男たちは顔を見合わせ、げらげらと下品に笑い出した。
「権利?はっ、笑わせるな。このゲームの世界で、権利なんざ力があるやつが作るもんだ。俺たち【パンデモニウム】が、この島は俺たちのものだと決めれば、それがルールになるんだよ」
「なんて、横暴な……!」
リオが、震える声で抗議する。
だが、男は聞く耳を持たない。彼はつるはしを投げ捨てると、背負っていた巨大な戦斧を手に取った。
「まあ、どっちでもいい。お前ら、この島を見ちまったからには、生かして帰すわけにはいかねえな。その綺麗な装備と、持ってるもん全部、ここに置いていけ。そうすりゃあ、痛い思いはさせねえで、街に送り返してやるよ」
それは、交渉の余地のない、最後通告だった。
男たちが、じりじりと包囲網を狭めてくる。
カエデは、静かにレイピアを抜き放った。
「……問答無用、ということか。ならば、力で語るまでだ」
「上等だ!野郎ども、やっちまえ!」
リーダーの号令と共に、【パンデモニウム】のメンバーたちが、一斉に襲いかかってきた。
「カエデさん、前衛を!」
「言われるまでもない!」
カエデが、閃光のように駆け出した。リーダー格の大男と、もう一人の戦士の攻撃を、一人で引き受ける。金属音が激しく交錯し、火花が散った。
「リオは下がって!ゴブ、後衛の魔術師を!」
「承知しました、マスター!ファイアボール!」
ゴブの杖から放たれた火球が、詠唱を始めていた敵の魔術師に直撃する。悲鳴を上げて吹き飛ぶ魔術師。
「なっ、なんだあのゴブリン!?」
残った弓使いと盗賊が、ゴブの存在に驚愕する。
俺は、その隙を見逃さない。
「行け、スライム軍団!」
硬質化スライムが、弓使いの放った矢を弾き返し、粘着スライムが盗賊の足を地面に縫い付ける。俺たちの完璧な連携が、敵の陣形をいともたやすく切り崩していく。
「ぐあっ!」
「足が、動かねえ!」
敵は、完全に混乱状態に陥っていた。
彼らは、自分たちが格下だと思っていた俺たちの、予想外の強さに、全く対応できていなかった。グリフォンとの死闘を乗り越えた俺たちのパーティは、もはや並のプレイヤーが束になってかかれるレベルではなかったのだ。
「馬鹿な……!こいつら、ただの初心者じゃねえ!」
リーダーの大男が、カエデの猛攻を防ぎながら、焦りの声を上げる。
「今更気づいても、もう遅い!」
カエデのレイピアが、戦士の鎧の隙間を正確に貫く。一人、また一人と、敵が光の粒子となって消えていく。
わずか数分。
あれほど威勢の良かった【パンデモニウム】のメンバーは、リーダー格の大男を残して、全員が戦闘不能に陥っていた。
「ひ……!」
大男は、信じられないという顔で、味方が消えていった空間と、静かに佇む俺たちを交互に見た。その瞳には、先ほどまでの傲慢さは微塵もなく、ただ純粋な恐怖だけが浮かんでいた。
「お、覚えてろよ……!この落とし前は、必ずギルド総出でつけさせてやるからな!」
彼は、典型的な悪役の捨て台詞を吐くと、転移結晶を握りしめて光の中へと消えていった。
戦いが終わり、静寂が戻る。
だが、荒らされた鉱脈と、踏みつけられた花々が、この場所で起こった惨劇を静かに物語っていた。
「……ひどい」
リオが、膝から崩れ落ちた。
「この島は、誰のものでもない、みんなの宝物のはずなのに……。どうして、自分たちだけのものにしようとするの……」
その声は、悔しさに震えていた。
カエデも、怒りを押し殺したように、固く拳を握りしめていた。
「パンデモニウム……。噂には聞いていたが、これほど非道な連中だったとは。許しておけん」
俺も、同じ気持ちだった。
この美しい浮遊島は、俺に大空を飛ぶ夢を叶えてくれた、特別な場所だ。そして、俺の創造意欲を無限に刺激してくれる、インスピレーションの源泉でもある。
それを、自分たちの私利私欲のために汚す者たちを、俺は決して許すことはできない。
これが、悪徳ギルド【パンデモニウム】との、最初の接触。
そして、俺たちが、この世界の歪みと、初めて正面から向き合った瞬間だった。
俺は、荒らされた大地を見つめながら、静かに決意を固めていた。
この島は、俺たちが守る。
そして、奴らの横暴を、いつか必ず止めさせてみせる。
俺たちの新たな戦いは、この天空の楽園から、静かに始まろうとしていた。
木々の隙間から見えた光景に、俺たちは言葉を失った。
そこには、巨大な水晶の鉱脈が剥き出しになった場所があった。本来なら、神々しいほどの輝きを放っていたであろうその場所は、無残にも荒らされていた。五、六人のプレイヤーが、つるはしを振るい、乱暴に水晶をかち割っている。
彼らは、砕け散った水晶の欠片や、価値が低いと判断した鉱石を、ゴミのように投げ捨てていた。周囲には、この島固有の光る苔や美しい花々が、無造作に踏みつけられ、泥にまみれている。空になったポーションの瓶や、食べ散らかした食料の包装紙まで散乱していた。
それは、発見や探索などというものではない。ただの、破壊と略奪だった。
「おい、チンタラやってんじゃねえぞ!ノルマ達成できなきゃ、ガノバス様にどやされるのはこっちなんだ!」
リーダー格らしき、傷だらけの鎧を着た大男が、仲間を怒鳴りつけている。
「へいへい、分かってまさぁ。しかし、この島はマジですげえや。こんな純度の高い魔晶石、見たことねえぜ」
「これを独占できりゃあ、俺たち【パンデモニウム】がアステリアの市場を完全に牛耳れる日も近いな!」
パンデモニウム。
その名を聞いた瞬間、リオの肩がピクリと震えた。俺が彼女の方を見ると、その顔からは血の気が引き、瞳には恐怖と、それを上回るほどの強い嫌悪の色が浮かんでいた。
「……なんてこと。まさか、奴らの仕業だったなんて」
リオが、絞り出すような声で呟いた。
その時、一人の男が、俺たちが隠れている茂みに気づいた。
「ん?おい、誰かいるぜ」
しまった。
俺たちは、隠れるのをやめて姿を現した。もはや、隠れてやり過ごせる状況ではない。
リーダー格の大男が、ぎろりと俺たちを睨みつけた。その目は、獲物を見つけた肉食獣のそれだった。
「ほう、先客がいたとはな。しかも、こんな上玉の聖騎士様と、小娘まで連れて」
男の下品な視線が、カエデとリオの体を舐めるように這う。
カエデは、その視線に臆することなく、レイピアの柄に手をかけた。
「あなたたち、この島で何をしている。この美しい場所を、無断で荒らす権利など、誰にもないはずだ」
彼女の凛とした声に、男たちは顔を見合わせ、げらげらと下品に笑い出した。
「権利?はっ、笑わせるな。このゲームの世界で、権利なんざ力があるやつが作るもんだ。俺たち【パンデモニウム】が、この島は俺たちのものだと決めれば、それがルールになるんだよ」
「なんて、横暴な……!」
リオが、震える声で抗議する。
だが、男は聞く耳を持たない。彼はつるはしを投げ捨てると、背負っていた巨大な戦斧を手に取った。
「まあ、どっちでもいい。お前ら、この島を見ちまったからには、生かして帰すわけにはいかねえな。その綺麗な装備と、持ってるもん全部、ここに置いていけ。そうすりゃあ、痛い思いはさせねえで、街に送り返してやるよ」
それは、交渉の余地のない、最後通告だった。
男たちが、じりじりと包囲網を狭めてくる。
カエデは、静かにレイピアを抜き放った。
「……問答無用、ということか。ならば、力で語るまでだ」
「上等だ!野郎ども、やっちまえ!」
リーダーの号令と共に、【パンデモニウム】のメンバーたちが、一斉に襲いかかってきた。
「カエデさん、前衛を!」
「言われるまでもない!」
カエデが、閃光のように駆け出した。リーダー格の大男と、もう一人の戦士の攻撃を、一人で引き受ける。金属音が激しく交錯し、火花が散った。
「リオは下がって!ゴブ、後衛の魔術師を!」
「承知しました、マスター!ファイアボール!」
ゴブの杖から放たれた火球が、詠唱を始めていた敵の魔術師に直撃する。悲鳴を上げて吹き飛ぶ魔術師。
「なっ、なんだあのゴブリン!?」
残った弓使いと盗賊が、ゴブの存在に驚愕する。
俺は、その隙を見逃さない。
「行け、スライム軍団!」
硬質化スライムが、弓使いの放った矢を弾き返し、粘着スライムが盗賊の足を地面に縫い付ける。俺たちの完璧な連携が、敵の陣形をいともたやすく切り崩していく。
「ぐあっ!」
「足が、動かねえ!」
敵は、完全に混乱状態に陥っていた。
彼らは、自分たちが格下だと思っていた俺たちの、予想外の強さに、全く対応できていなかった。グリフォンとの死闘を乗り越えた俺たちのパーティは、もはや並のプレイヤーが束になってかかれるレベルではなかったのだ。
「馬鹿な……!こいつら、ただの初心者じゃねえ!」
リーダーの大男が、カエデの猛攻を防ぎながら、焦りの声を上げる。
「今更気づいても、もう遅い!」
カエデのレイピアが、戦士の鎧の隙間を正確に貫く。一人、また一人と、敵が光の粒子となって消えていく。
わずか数分。
あれほど威勢の良かった【パンデモニウム】のメンバーは、リーダー格の大男を残して、全員が戦闘不能に陥っていた。
「ひ……!」
大男は、信じられないという顔で、味方が消えていった空間と、静かに佇む俺たちを交互に見た。その瞳には、先ほどまでの傲慢さは微塵もなく、ただ純粋な恐怖だけが浮かんでいた。
「お、覚えてろよ……!この落とし前は、必ずギルド総出でつけさせてやるからな!」
彼は、典型的な悪役の捨て台詞を吐くと、転移結晶を握りしめて光の中へと消えていった。
戦いが終わり、静寂が戻る。
だが、荒らされた鉱脈と、踏みつけられた花々が、この場所で起こった惨劇を静かに物語っていた。
「……ひどい」
リオが、膝から崩れ落ちた。
「この島は、誰のものでもない、みんなの宝物のはずなのに……。どうして、自分たちだけのものにしようとするの……」
その声は、悔しさに震えていた。
カエデも、怒りを押し殺したように、固く拳を握りしめていた。
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