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第三十六話 強者の祭典
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天空の浮遊島からアステリアへ帰還した俺たちの心には、以前とは違う種類の感情が渦巻いていた。美しい秘境を発見した高揚感。そして、それを自分たちの欲望のために蹂躙する者たちへの、静かな怒り。
「パンデモニウム……」
宿屋の一室、リオが忌々しげにその名を呟いた。
「アステリアの闇市場を牛耳ってる、最悪のギルドだよ。バグの悪用、RMT、プレイヤーへの脅迫。あらゆる悪事に手を染めてるって噂だ。まさか、あの浮遊島まで奴らの手が伸びていたなんて」
カエデも、手入れの行き届いたレイピアを握りしめ、厳しい表情で言った。
「奴らは、また必ず島に現れるだろう。今度は、下級メンバーだけでは済まないはずだ。幹部クラス、あるいはギルドマスター本人が乗り込んでくる可能性もある」
その言葉に、部屋の空気が重くなった。俺たちは、あの時リーダー格の男を撃退した。だが、それはあくまで奇襲が成功したからだ。ギルドという組織の、本当の恐ろしさはその物量と情報網にある。俺たち三人だけで、巨大な悪徳ギルドと渡り合えるだろうか。
「……今の俺たちでは、力不足だ」
俺は、認めたくない現実を口にした。
「もっと強くならなければ。奴らから、あの島を守ることはできない」
強くなりたい。初めて、漠然とした憧れではない、明確な目的を持った渇望が、俺の中に生まれた。自分のためじゃない。仲間と、そして俺たちが見つけた大切な場所を守るために。
その日から、俺たちの訓練は熾烈を極めた。
カエデは対人戦を想定した剣技の鍛錬に明け暮れ、リオはパンデモニウムの内部情報や弱点を探るべく、商人ギルドの情報網を駆使した。俺とゴブは、浮遊島で手に入れた素材を使い、より強力で、より多様なモンスターの創造と、魔法の連携を研究した。
そんな日々が続いていたある日。アステリアの街が、奇妙な熱気に包まれていることに気づいた。中央広場には巨大な掲示板が設置され、多くのプレイヤーがその前で歓声を上げている。
「なんだろう、お祭りかな?」
リオが、商人としての好奇心を刺激されたのか、人混みをかき分けて掲示板の情報を確認しに行った。そして、数分後。彼女は目をキラキラさせながら、一枚の羊皮紙を手に、俺たちの元へ駆け戻ってきた。
「大変だよ、二人とも!すごいイベントが開催されるみたい!」
彼女が広げた羊皮紙には、派手なフォントでこう書かれていた。
『第一回 アステリア・モンスターコロッセオ開催!』
『最強のモンスター使いは誰だ!自慢の相棒と共に、その力を証明せよ!』
「モンスターコロッセオ?」
カエデが訝しげに眉をひそめる。
「プレイヤー主催の、非公式イベントみたい!モンスターを使役するジョブのプレイヤー、つまりテイマーやサマナー、そして私たちモンスターメイカーが、一対一のトーナメント形式で戦う、モンスター闘技会だよ!」
リオは、興奮を隠せない様子で説明を続けた。
「ルールはシンプル!プレイヤーと、その相棒モンスター一体のタッグバトル!優勝者には、なんと賞金金貨百枚!それに、アステリア最強モンスター使いの名誉が与えられるんだって!」
金貨百枚。それは、俺たちがスライム印のポーションで数週間かけて稼ぐ額に匹敵する。だが、俺が惹かれたのは、賞金ではなかった。
「……自分の実力を、試せるかもしれない」
俺は、無意識に呟いていた。
パンデモニウムとの戦いを前に、今の俺とゴブの実力が、このアステリアでどれだけ通用するのか。それを客観的に知る、絶好の機会ではないか。
俺の呟きを聞いたリオは、待ってましたとばかりに俺の肩を叩いた。
「そうでしょ!ユーさんとゴブちゃんなら、絶対いいところまで行けるよ!いや、優勝だって夢じゃない!それにさ、もし優勝したら、どうなると思う?」
彼女は、商人の顔になった。
「ユーさんは、無名のモンスターメイカーから、一躍時の人!ゴブちゃんも、ただのゴブリンじゃないってことが、みんなに知れ渡る!そしたら、『スライム印のポーション』の売り上げは、今の何倍にも跳ね上がる!これは、最高の宣伝になるんだよ!」
「……相変わらず、抜け目がないな、あなたは」
カエデが呆れたように言うが、その口元は笑っていた。彼女もまた、この提案に乗り気のようだった。
「だが、リオの言うことにも一理ある。闘技会には、アステリアの強者が集うだろう。その中で勝ち抜くことは、我々のパーティの力を示す、何よりの証明になる。ユー、出てみる価値は、あると思うぞ」
仲間たちの、力強い後押し。そして、俺の隣で、ゴブが俺のローブの裾を、きゅっと握った。
「マスター……。ゴブ、戦いたいです。マスターと一緒に、僕たちの力を、みんなに見せたいです」
その大きな黒い瞳には、初めて見せる、強い闘志の光が宿っていた。
相棒の、その想い。それが、俺の心を決めた。
「……分かりました。出てみます。俺とゴブで」
俺の決意に、仲間たちは満足げに頷いた。
俺たちは、早速闘技会の会場となっている、アステリアの円形闘技場へと向かった。そこでは、すでに出場登録が始まっており、長蛇の列ができていた。
列に並びながら、俺は周囲の参加者たちを観察した。そして、そのレベルの高さに圧倒された。
屈強な鎧を纏ったドラゴンテイマーが、その傍らに本物のワイバーンを従えている。
優雅なローブを着たエルフのサマナーは、伝説の精霊王と謳われるフェンリルを連れていた。
巨大なゴーレムを使役する者、凶暴なキマイラを鎖で繋ぐ者。誰もが、一目で分かるA級、S級のモンスターを相棒にしていた。
彼らから見れば、俺の隣に立つ、身長一メートルにも満たないゴブリンなど、取るに足らない存在に見えるだろう。
案の定、俺たちが受付に近づくにつれて、周囲から嘲笑や侮蔑の視線が向けられ始めた。
「おい、見ろよ。ゴブリンで参加する奴がいるぜ」
「しかも、連れてるプレイヤー、モンスターメイカーじゃねえか。βテストの時の産廃職だろ?まだやってる奴がいたんだな」
「記念参加ってやつだろ。一回戦で、ワイバーンに丸焼きにされて終わりだな」
心無い言葉が、俺の耳に突き刺さる。悔しさで、拳を強く握りしめた。
だが、ゴブは、そんな周囲の声を気にする様子もなく、ただまっすぐに前だけを見つめていた。その小さな背中からは、揺るぎない覚悟が感じられた。
俺は、そんな相棒の姿を見て、自分の心の弱さを恥じた。
誰に笑われたっていい。誰に馬鹿にされたっていい。
俺とゴブが、お互いを信じている。それだけで、十分じゃないか。
「次の方、どうぞ」
受付のNPCに呼ばれ、俺はカウンターの前に立った。
「プレイヤーネーム、ユー。相棒モンスター、ゴブリン・メイジのゴブ。以上で、エントリーします」
俺は、はっきりと、そして力強く告げた。
受付を済ませ、トーナメント表に俺たちの名前が書き込まれる。その小さな文字が、これから始まる俺たちの壮大な挑戦の、始まりの合図に見えた。
俺は、ゴブの小さな肩に、そっと手を置いた。
「行こうか、ゴブ。俺たちの力を、あいつらに見せてやろうぜ」
「はい、マスター!」
ゴブは、満面の笑みで、力強く頷いた。
紛い物じゃない。出来損ないでもない。俺たちが、俺たちのやり方で、最強を目指す。
そのための、最初の戦いが、今、始まろうとしていた。
「パンデモニウム……」
宿屋の一室、リオが忌々しげにその名を呟いた。
「アステリアの闇市場を牛耳ってる、最悪のギルドだよ。バグの悪用、RMT、プレイヤーへの脅迫。あらゆる悪事に手を染めてるって噂だ。まさか、あの浮遊島まで奴らの手が伸びていたなんて」
カエデも、手入れの行き届いたレイピアを握りしめ、厳しい表情で言った。
「奴らは、また必ず島に現れるだろう。今度は、下級メンバーだけでは済まないはずだ。幹部クラス、あるいはギルドマスター本人が乗り込んでくる可能性もある」
その言葉に、部屋の空気が重くなった。俺たちは、あの時リーダー格の男を撃退した。だが、それはあくまで奇襲が成功したからだ。ギルドという組織の、本当の恐ろしさはその物量と情報網にある。俺たち三人だけで、巨大な悪徳ギルドと渡り合えるだろうか。
「……今の俺たちでは、力不足だ」
俺は、認めたくない現実を口にした。
「もっと強くならなければ。奴らから、あの島を守ることはできない」
強くなりたい。初めて、漠然とした憧れではない、明確な目的を持った渇望が、俺の中に生まれた。自分のためじゃない。仲間と、そして俺たちが見つけた大切な場所を守るために。
その日から、俺たちの訓練は熾烈を極めた。
カエデは対人戦を想定した剣技の鍛錬に明け暮れ、リオはパンデモニウムの内部情報や弱点を探るべく、商人ギルドの情報網を駆使した。俺とゴブは、浮遊島で手に入れた素材を使い、より強力で、より多様なモンスターの創造と、魔法の連携を研究した。
そんな日々が続いていたある日。アステリアの街が、奇妙な熱気に包まれていることに気づいた。中央広場には巨大な掲示板が設置され、多くのプレイヤーがその前で歓声を上げている。
「なんだろう、お祭りかな?」
リオが、商人としての好奇心を刺激されたのか、人混みをかき分けて掲示板の情報を確認しに行った。そして、数分後。彼女は目をキラキラさせながら、一枚の羊皮紙を手に、俺たちの元へ駆け戻ってきた。
「大変だよ、二人とも!すごいイベントが開催されるみたい!」
彼女が広げた羊皮紙には、派手なフォントでこう書かれていた。
『第一回 アステリア・モンスターコロッセオ開催!』
『最強のモンスター使いは誰だ!自慢の相棒と共に、その力を証明せよ!』
「モンスターコロッセオ?」
カエデが訝しげに眉をひそめる。
「プレイヤー主催の、非公式イベントみたい!モンスターを使役するジョブのプレイヤー、つまりテイマーやサマナー、そして私たちモンスターメイカーが、一対一のトーナメント形式で戦う、モンスター闘技会だよ!」
リオは、興奮を隠せない様子で説明を続けた。
「ルールはシンプル!プレイヤーと、その相棒モンスター一体のタッグバトル!優勝者には、なんと賞金金貨百枚!それに、アステリア最強モンスター使いの名誉が与えられるんだって!」
金貨百枚。それは、俺たちがスライム印のポーションで数週間かけて稼ぐ額に匹敵する。だが、俺が惹かれたのは、賞金ではなかった。
「……自分の実力を、試せるかもしれない」
俺は、無意識に呟いていた。
パンデモニウムとの戦いを前に、今の俺とゴブの実力が、このアステリアでどれだけ通用するのか。それを客観的に知る、絶好の機会ではないか。
俺の呟きを聞いたリオは、待ってましたとばかりに俺の肩を叩いた。
「そうでしょ!ユーさんとゴブちゃんなら、絶対いいところまで行けるよ!いや、優勝だって夢じゃない!それにさ、もし優勝したら、どうなると思う?」
彼女は、商人の顔になった。
「ユーさんは、無名のモンスターメイカーから、一躍時の人!ゴブちゃんも、ただのゴブリンじゃないってことが、みんなに知れ渡る!そしたら、『スライム印のポーション』の売り上げは、今の何倍にも跳ね上がる!これは、最高の宣伝になるんだよ!」
「……相変わらず、抜け目がないな、あなたは」
カエデが呆れたように言うが、その口元は笑っていた。彼女もまた、この提案に乗り気のようだった。
「だが、リオの言うことにも一理ある。闘技会には、アステリアの強者が集うだろう。その中で勝ち抜くことは、我々のパーティの力を示す、何よりの証明になる。ユー、出てみる価値は、あると思うぞ」
仲間たちの、力強い後押し。そして、俺の隣で、ゴブが俺のローブの裾を、きゅっと握った。
「マスター……。ゴブ、戦いたいです。マスターと一緒に、僕たちの力を、みんなに見せたいです」
その大きな黒い瞳には、初めて見せる、強い闘志の光が宿っていた。
相棒の、その想い。それが、俺の心を決めた。
「……分かりました。出てみます。俺とゴブで」
俺の決意に、仲間たちは満足げに頷いた。
俺たちは、早速闘技会の会場となっている、アステリアの円形闘技場へと向かった。そこでは、すでに出場登録が始まっており、長蛇の列ができていた。
列に並びながら、俺は周囲の参加者たちを観察した。そして、そのレベルの高さに圧倒された。
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優雅なローブを着たエルフのサマナーは、伝説の精霊王と謳われるフェンリルを連れていた。
巨大なゴーレムを使役する者、凶暴なキマイラを鎖で繋ぐ者。誰もが、一目で分かるA級、S級のモンスターを相棒にしていた。
彼らから見れば、俺の隣に立つ、身長一メートルにも満たないゴブリンなど、取るに足らない存在に見えるだろう。
案の定、俺たちが受付に近づくにつれて、周囲から嘲笑や侮蔑の視線が向けられ始めた。
「おい、見ろよ。ゴブリンで参加する奴がいるぜ」
「しかも、連れてるプレイヤー、モンスターメイカーじゃねえか。βテストの時の産廃職だろ?まだやってる奴がいたんだな」
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だが、ゴブは、そんな周囲の声を気にする様子もなく、ただまっすぐに前だけを見つめていた。その小さな背中からは、揺るぎない覚悟が感じられた。
俺は、そんな相棒の姿を見て、自分の心の弱さを恥じた。
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