M.M.O. - Monster Maker Online

夏見ナイ

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第九十七話 光は混沌を祓う

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俺の意識がゆっくりと浮上していく。
最初に感じたのは柔らかなベッドの感触と消毒液の匂い。そして俺の手を固く握りしめる、小さな温かい感触だった。
目を開けると、そこはアステリアの宿屋の一室。俺は自分のベッドの上で眠っていたらしい。

「……マスター!」
俺が目覚めたことに気づいたゴブが、歓喜の声を上げた。彼の大きな瞳には涙が溢れていた。
「よかった……!本当によかった……!」

「ゴブ……。みんなは?」
俺がかすれた声で尋ねると、部屋の扉が開き、カエдеとリオが心配そうな顔で入ってきた。

「ユー!気がついたか!」
「ユーさん!三日も眠ってたんだよ!」

三日。あの戦いからそんなに時間が経っていたのか。
俺はゆっくりと体を起こした。最後の創造の代償か、体は鉛のように重かったが、不思議と痛みはなかった。

「……メフィストは?」
「消えたわ。完全にね」
リオが答えた。
「彼が消滅したのと同時に、パンデモニウムのギルドもシステム上から完全に解体された。残っていたメンバーたちも主を失って、蜘蛛の子を散らすようにアビスから消えていったみたい」

「そうか……」
本当に終わったんだ。
俺は窓の外を見た。アステリアの街はいつもと変わらない活気に満ちた日常が流れている。俺たちのあの死闘が嘘だったかのように。

だが、世界は確かに変わっていた。
リオの話によれば、パンデモニウムが支配していたアビスは、バルガンたちが中心となって新たな自治組織『フロンティア』が管理することになったという。無法地帯は冒険者たちが互いに助け合う、自由な街へと生まれ変わろうとしていた。

スライム印のポーションも、市場を独占していた大手商会が力を失ったことで、今やアステリアで最も信頼されるブランドとなっていた。

そして、ゼノン。
彼は戦いが終わった後、誰にも告げず一人アステリアを去ったらしい。
「……彼らしいな」
カエデが少しだけ寂しそうに呟いた。
「だが彼もまた自らの過去に一つの決着をつけたのだろう。きっと、またどこかで会えるさ」

俺たちの戦いは多くのものを失った。だがそれ以上に多くのものを守り、そして変えることができたのだ。

俺が仲間たちと静かに勝利を噛みしめていると、部屋の扉がノックされた。
入ってきたのはドワーフのバルガンだった。
彼の顔にはリーダーとしての自信と威厳が戻っていた。

「よう、ユーの旦那。目が覚めたか」
彼はベッドの脇にどかりと腰を下ろした。
「フロンティアの連中が、あんたに礼を言いたいと毎日この宿屋に押しかけてきてるぜ。あんたは今やアビスの、いや、このアステリアの救世主だ」

「やめてくださいよ、そんな柄じゃありません」
俺は照れくさくて頭を掻いた。

「謙遜するな」
バルガンは真剣な顔で俺の肩を力強く叩いた。
「あんたが諦めなかったから俺たちも最後まで戦えた。あんたのあの最後の光が、俺たちに本当の希望を見せてくれたんだ。ありがとう、ユー。心から礼を言う」

彼のその飾り気のない真っ直ぐな感謝の言葉。
それが何よりの報酬だった。

「さて、と」
バルガンは立ち上がった。
「俺はアビスの復興でまだやることが山積みでな。今日はこれで失礼する。だが、いつでもアビスに顔を出しな。最高の酒と最高の仲間たちが、あんたを待ってるぜ」

彼は豪快に笑うと、嵐のように部屋から去っていった。

後に残された俺たち四人。
長い長い戦いが終わった。
俺たちはこれからどうするのだろう。

俺がそんなことを考えていると、リオがにっと笑って言った。
「決まってるじゃない!」
彼女は一枚の新しい地図をベッドの上に広げた。
「私たちの冒険は、まだ始まったばかりだよ!」

その地図には、まだ誰も見たことのない未知の大陸が描かれていた。
パンデモニウムとの戦いが終わったことで、運営から近々大型アップデートが実施されるという告知があったらしい。

「新しい大陸!新しいモンスター!そして新しい商売のチャンス!」
リオの瞳はいつものようにキラキラと輝いていた。

カエデも呆れたように、しかし嬉しそうに微笑んでいる。
「……全く、あなたという人は。少しは休むということを考えたらどうだ」
「マスター!冒険、ですか!?」
ゴブも目を輝かせている。

俺はそんな仲間たちの顔を見渡した。
そうだ。
これで終わりじゃない。
俺たちの物語はまだ終わらない。

俺はベッドからゆっくりと立ち上がった。
体はまだ完全じゃない。
だが心はどこまでも軽く、そして晴れやかだった。

「行きましょうか」
俺は仲間たちに向かって言った。
「俺たちの新しい冒険へ」

光は混沌を祓った。
そしてその光は今、新たな地平線の先を明るく照らし出していた。
俺たちのオンラインは、これからもずっと続いていく。
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