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第五十四話 国王との謁見
クライフォルト公爵家の屋敷で一泊した後、私とカイは王城へと向かった。屋敷では父や母が涙ながらに再会を喜んでくれたが、今は感傷に浸っている場合ではない。
王城の謁見の間は、私が記憶しているよりもずっと冷たく、広く感じられた。磨き上げられた大理石の床に、私たちの足音だけがやけに大きく響く。
玉座には国王が座り、その傍らには苦虫を噛み潰したような顔のレナードが立っていた。居並ぶ重臣たちの視線が、値踏みするように私たちに突き刺さる。
私とカイは玉座の前まで進み出ると、深々と礼をした。しかし、顔を上げた私の背筋は、まっすぐに伸びていた。
「お召しにより参上いたしました、ラピス領主アリシア・フォン・クライフォルトです。こちらは私の婚約者である、カイ・アークライト辺境伯」
私の隣で、カイが国王を一瞥する。その瞳には、一国の王に対する敬意はあっても、畏怖の色は微塵もなかった。彼の無言の圧力が、謁見の間の空気をさらに張り詰めさせる。
国王は、威厳を保ちながらも、その声には隠しきれない疲労が滲んでいた。
「面会に応じ、感謝する。アリシア嬢」
「めっそうもございません、陛下。ですが、私はもはや『嬢』と呼ばれる身ではございません。このラピス領を治める、一人の領主としてここに来ております」
私の言葉に、重臣たちの間にさざ波のような動揺が走った。対等な立場で話をするという、私の明確な意思表示だったからだ。
レナードが「無礼な!」と声を荒らげようとしたが、それを制したのは国王自身の鋭い視線だった。
国王は重い口を開いた。
「……見ての通り、王国は未曾有の危機にある。民は飢え、国庫は底をつきかけている。単刀直入に言おう。ラピス領の、そなたの助けが必要だ」
それは、王としてのプライドをかなぐり捨てた、率直な援助要請だった。
私は静かに、しかしはっきりと答えた。
「陛下の憂慮、お察しいたします。ですが、私は慈善事業家ではございません」
私は居並ぶ者たち全員を見渡した。
「もし、ラピス領が王国に手を差し伸べるとすれば、それは援助ではなく、対等な立場での『取引』となります。その覚悟が、陛下と、王国の皆様におありでしょうか」
謁見の間は、水を打ったように静まり返った。
私の言葉は、この国の運命を決める交渉のゴングだった。
カイが私の隣で、満足げに口の端を吊り上げたのが分かった。
私たちの戦いは、今、始まったばかりだった。
王城の謁見の間は、私が記憶しているよりもずっと冷たく、広く感じられた。磨き上げられた大理石の床に、私たちの足音だけがやけに大きく響く。
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私とカイは玉座の前まで進み出ると、深々と礼をした。しかし、顔を上げた私の背筋は、まっすぐに伸びていた。
「お召しにより参上いたしました、ラピス領主アリシア・フォン・クライフォルトです。こちらは私の婚約者である、カイ・アークライト辺境伯」
私の隣で、カイが国王を一瞥する。その瞳には、一国の王に対する敬意はあっても、畏怖の色は微塵もなかった。彼の無言の圧力が、謁見の間の空気をさらに張り詰めさせる。
国王は、威厳を保ちながらも、その声には隠しきれない疲労が滲んでいた。
「面会に応じ、感謝する。アリシア嬢」
「めっそうもございません、陛下。ですが、私はもはや『嬢』と呼ばれる身ではございません。このラピス領を治める、一人の領主としてここに来ております」
私の言葉に、重臣たちの間にさざ波のような動揺が走った。対等な立場で話をするという、私の明確な意思表示だったからだ。
レナードが「無礼な!」と声を荒らげようとしたが、それを制したのは国王自身の鋭い視線だった。
国王は重い口を開いた。
「……見ての通り、王国は未曾有の危機にある。民は飢え、国庫は底をつきかけている。単刀直入に言おう。ラピス領の、そなたの助けが必要だ」
それは、王としてのプライドをかなぐり捨てた、率直な援助要請だった。
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謁見の間は、水を打ったように静まり返った。
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カイが私の隣で、満足げに口の端を吊り上げたのが分かった。
私たちの戦いは、今、始まったばかりだった。
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