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第六十二話 学び舎の槌音
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ラピス領で最初に槌音が響き始めたのは、学校の建設現場だった。
村の中心から少し離れた、日当たりの良い丘の上。そこに、子供たちの未来の学び舎が建てられることになった。
「こっちの梁を頼む!」
「おう、任せとけ!」
カイの領地から派遣された熟練の職人たちの指示のもと、ラピス領の男たちが生き生きと働いている。水路や水車小屋の建設で経験を積んだ彼らの動きは、驚くほど手際が良かった。
私はカイと共に、その様子を丘の下から眺めていた。
「カイ様、本当にありがとうございます。あなたのところの職人さんがいなければ、こうも早くは進みませんでした」
「気にするな。お前の作る国は、俺の作る国でもある」
彼はそう言うと、私の肩をそっと抱き寄せた。その眼差しは、どこまでも優しい。
建物という箱を作るのは、彼らの力でできる。しかし、その魂となる「教育」を担う教師がいなければ、学校はただの建物でしかない。
「問題は、教師をどうするかですわ。こればかりは、お金で解決できるものではありません」
私の懸念に、カイは静かに頷いた。
その夜、私は父であるクライフォルト公爵へ手紙を書いた。王都の貴族社会に染まっていない、真に知識を愛し、子供たちのためにその力を振るってくれる人物を探してほしいと。
数週間後、父からの返信と共に、一人の老人がラピス領を訪れた。
マテウスと名乗るその老人は、かつて宮廷学者としてその名を知られた人物だった。しかし、レナードの無能さと、真理よりも体面を重んじる王宮のあり方に絶望し、自ら職を辞して隠居していたという。
彼は、ラピス領の活気と、そこに住む人々の輝くような目に驚いていた。
そして、私と対面すると、その鋭い瞳で私をじっと見つめた。
「……あなたが、アリシア嬢か。噂はかねがね。不毛の地を楽園に変えた、稀代の魔法使いだと」
「ただの、土いじりが好きな女ですわ、マテウス先生」
私がそう返すと、彼は初めてふっと表情を緩めた。
私は彼に、私の考える教育について語った。身分に関係なく、全ての子供に学ぶ機会を与えたいこと。知識こそが、人を豊かにし、未来を切り拓く力になると信じていること。
私の話を黙って聞いていたマテウス先生は、やがて深く頷いた。
「面白い。実に、面白い」
彼の目に、学究の徒としての強い光が蘇っていた。
「王宮の書庫で埃をかぶる知識よりも、この地で子供たちに教える一文字の方が、よほど価値があるやもしれん。よろしい、その話、引き受けましょう」
心強い味方を得た。
丘の上に響く槌音は、ラピス領の輝かしい未来を奏でるファンファーレのように、私の耳に聞こえていた。
村の中心から少し離れた、日当たりの良い丘の上。そこに、子供たちの未来の学び舎が建てられることになった。
「こっちの梁を頼む!」
「おう、任せとけ!」
カイの領地から派遣された熟練の職人たちの指示のもと、ラピス領の男たちが生き生きと働いている。水路や水車小屋の建設で経験を積んだ彼らの動きは、驚くほど手際が良かった。
私はカイと共に、その様子を丘の下から眺めていた。
「カイ様、本当にありがとうございます。あなたのところの職人さんがいなければ、こうも早くは進みませんでした」
「気にするな。お前の作る国は、俺の作る国でもある」
彼はそう言うと、私の肩をそっと抱き寄せた。その眼差しは、どこまでも優しい。
建物という箱を作るのは、彼らの力でできる。しかし、その魂となる「教育」を担う教師がいなければ、学校はただの建物でしかない。
「問題は、教師をどうするかですわ。こればかりは、お金で解決できるものではありません」
私の懸念に、カイは静かに頷いた。
その夜、私は父であるクライフォルト公爵へ手紙を書いた。王都の貴族社会に染まっていない、真に知識を愛し、子供たちのためにその力を振るってくれる人物を探してほしいと。
数週間後、父からの返信と共に、一人の老人がラピス領を訪れた。
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彼は、ラピス領の活気と、そこに住む人々の輝くような目に驚いていた。
そして、私と対面すると、その鋭い瞳で私をじっと見つめた。
「……あなたが、アリシア嬢か。噂はかねがね。不毛の地を楽園に変えた、稀代の魔法使いだと」
「ただの、土いじりが好きな女ですわ、マテウス先生」
私がそう返すと、彼は初めてふっと表情を緩めた。
私は彼に、私の考える教育について語った。身分に関係なく、全ての子供に学ぶ機会を与えたいこと。知識こそが、人を豊かにし、未来を切り拓く力になると信じていること。
私の話を黙って聞いていたマテウス先生は、やがて深く頷いた。
「面白い。実に、面白い」
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「王宮の書庫で埃をかぶる知識よりも、この地で子供たちに教える一文字の方が、よほど価値があるやもしれん。よろしい、その話、引き受けましょう」
心強い味方を得た。
丘の上に響く槌音は、ラピス領の輝かしい未来を奏でるファンファーレのように、私の耳に聞こえていた。
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