ドラゴンスレイヤーズ Zero Fighter

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第2章

第一回防衛会議(仮名)2

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 川北が新たに開発したステルス化技術は、レーダーの反射などを一切考慮していない物に対しても容易く加工を施すことが可能ということで会議参加者、とりわけ軍関係者は大いに沸き立った。

 というのも、自衛隊の航空機は予算不足もあって米国製の最新鋭のステルス戦闘機の導入は進んでいなかったし、既に導入されている機体も維持費がやたらとかかるので、自衛隊内でも根強い不要論が出てくる始末だったからだ。


 坂本はさらに続ける。

  「このステルス化された表面加工は将来的にはシールの様にして供給するので、熱や水に直接触れない処では理論的にはどこでも貼れることになります。

 具体的に言うと、ミサイル本体、護衛艦の上部構造物、F-4J、F-15J、F-3など非ステルス機などですかね」

 年甲斐もなく沸き立つ軍関係者達(笑


 それに対して釘を指す坂本。

  「先程も言いましたが、この技術が進んでいるのは“一瞬”だと思います。

 我々が思いついているということは他国も当然、同様の技術を実用化させようとするでしょうし、特にパクるのが得意な龍国は速攻でパクって実用化してくるでしょうから。

 ですので、私が言いたいのは、この新たなステルス化によって戦闘スタイルが根本的に変わるということと、それに対応した兵器を他より早く実用化し、その兵器に応じた戦術と戦略を磨くことが不可欠だということです」


 なるほど、という感じで落ち着きを取り戻す軍関係者達。


  「私どもはこの『新型ゼロ戦七◯(ナナマル)型』の登場で、これまでの空戦や海戦の常識が根底から覆ると考えています。

 新型ゼロ戦のコンセプトについて補足説明を続けますが、この戦闘機は“有視界戦闘”を想定した戦闘機です。

 索敵は基本的に「目」によって行い、その情報を味方全てでリアルタイムに共有し、戦闘を優位に進めます。

 このようなシステムはC4I(シーフォーアイ)システムとして自衛隊でも既に運用されていますから敢えて説明しませんが、我々も米軍や自衛隊のものとは別に独自フォーマットで開発しています。

 戦闘は昔ながらの“格闘戦”が復活するだろうと想定しています。

 そこで新型のゼロ戦では、格闘戦を想定して格闘戦に強かった“ゼロ戦”を復活させることにしたのです。

  『それならなんで隼にしなかったんだ?』とか『それなら大戦決戦機の疾風(はやて)の方がいいだろう?』という意見が出るかもしれませんが、陸軍機は現時点ではなしですね、これはあくまで個人の好みですから」

 ここで、参加者から笑いがこぼれた。

  「ただ、大戦期のゼロ戦をそのまま復活させたのでは意味がありません。

 まずはゼロ戦が結果的に負けてしまった一撃離脱戦法を封じなければなりません。

 だから、『高速誘導弾』が必要になったのです。

 背後や上空から襲ってきたジェット戦闘機やより優速の敵の戦闘機がゼロ戦をオーバーシュート(追い抜くこと)したら、これまでのゼロ戦では追いかけることが出来なかったので手も足も出せませんでしたが、高速誘導弾は例え新型のジェット戦闘機と言えども追い抜かれた直後に背後から撃墜可能です。

 当然、敵はゼロ戦に合わせてクルクルとドッグファイトしなければならなくなりますが、ここで活きてくるのがゼロ戦が生まれた時から持っている驚異的な旋回性と格闘戦能力です。

 ですが、旧ゼロ戦には致命的と言える欠点がありました。

 それは、非力なエンジンをカバーするため、極限まで軽量化をしたことによる脆弱性でした。

 この脆弱性ゆえにパイロットの損耗が激しく、大戦末期にはエースパイロットの多くを失っていたということは猛烈な反省が必要なことだと思います。

 ですが、新型のゼロ戦はパワーセルユニットと電動モーターを動力とした極めてレスポンスの良い、しかも瞬間的にですが10000馬力を超える出力を持つ電動モーターというエンジンを搭載したことで、驚異的な上昇力、加速力、機動性を得たのです。

 また、元々のゼロ戦では持っていなかったダイブブレーキと自動空戦フラップにより、飛行中の急減速からの急な方向転換が可能になり、格闘性能は本家のゼロ戦を上回るほどだと思っています。

 機体の剛性アップや防弾性の向上、操縦系統の複数化などによるパイロットの生存性の向上などの結果、大幅に機体重量は増加しましたが、大量の燃料を載せずに済む点なども考慮すると戦闘時の機体重量はそれほど差がないレベルなので間違いなく格闘戦能力は大幅に向上しています。


 次に、この新型ゼロ戦ですが、周囲の監視システムとしてAIが載っています。

 パイロットの後部に半球形の物体が見えると思いますが、そちらは内部にカメラが複数搭載されていて、自動で常時後方を警戒しています。

 また、AIは魔理沙などで作られた物を簡易化したシステムを載せていますので、パイロットとの意思疎通は主に言葉によって行います。

 このAIは機体のアビオニクスとも直結しているので、パイロットはこのAIを通じて、機体のダメージコントロールや索敵の指示、情報交換などを行うことが可能です。

 カンタンに言うとですね、仮にそのAIの名前を『吉田くん(仮)』とするのなら、

  『おい吉田くん、右後方を特によく注意しておいてくれ』と言うと、

  『分かりました、それより坂本さん、エンジンの表面温度が上がってきているので、プロペラピッチを調整するか、出力を絞るか、エンジンカウルフラップを開けた方がいいですよ』

  『ほんじゃあ、カウルフラップを全開にしてくれ、速度が落ちるが仕方ないだろう』

  『分かりました、では開度100%にしておきます』

  ・・・こんな風に自動でやってくれます。

 また、戦術データも載っているのである程度なら状況判断と戦術アドバイスなどもやってくれます。

 これらはまだまだ開発段階なのでサポート程度しか出来ませんが、これが実用化されたら、細かい機体のコントロールや索敵、戦闘のアドバイスなどをしてくれるので経験の浅いパイロットの補助にもなると期待しています」


 パイロットの後部の半球状のカメラがスター◯ォーズに出てくるX◯ァイターのC◯POそっくりだな、というツッコミが飛び出してきたが、坂本もソレを素直に認め、最初からそれを参考に開発しましたと言った。

 かの映画と違っているのは、ピコピコという電子音ではなく、人間の言葉で相互の情報交換をするってことか。

 ちなみに、この戦術支援AIは開発室でも「通称:吉田くん」と呼ばれ、ちゃんとダミ声でしゃべってくれるわけだが、量産型では著作権の問題もあるので、他のボイスに変わるだろうと言われていた。

 このAIは会話をすることで言葉遣いを自動的に学んでいくので、パイロットに対して一つのAIが割り当てられることになる。

 ツッコミを教えておけば、ちゃんとツッコむようになるというわけだった。


 ここで、新型戦闘機についての質問を受け付ける時間となった。

 質問はほとんど航空自衛隊から出席したメンバーばかりであったが。

空「例えば我が方のF-15J戦闘機との空戦になったと想定して、どのような結果になると思われるか?」

 坂「新型ゼロ戦にはAIによる早期警戒システムがあるので、接近すると高速誘導弾によって撃墜される可能性が高いですね」

空「では、遠方からの空対空ミサイルでの攻撃はどうか?」

坂「どの種類の空対空ミサイルになるかで結果は多少変わってくるかと思いますが、基本的にスパローやミーティアみたいなレーダー追尾によるミサイルは全く効果がありません。

そもそもロックオンすら不可能でしょう。

また、サイドワインダーのような赤外線追尾ミサイルも厳しいと思いますね。

新型ゼロ戦はターボジェットエンジンやターボファンエンジンの様な高温のエンジン排気がありませんから。

ちなみに空自が採用している04式空対空ミサイルは我々の技術が使われていますが、この誘導方式は赤外線シーカーとヘルメット装着式照準器による誘導のマルチ誘導方式が採用されていますが、コレなら多少、新型ゼロ戦には対抗出来るかもしれません。

途中まではパイロットによって誘導され、終末部は赤外線モニターによって誘導されるわけなのでレーダー誘導ではありません。

ですが、新型ゼロ戦にはそのミサイルの誘導を振り切る圧倒的な機動性がありますから、避けられてしまう可能性が極めて高いですね。

ゼロ戦のマニューバ(空戦技術)で有名なもののひとつに『木の葉落とし』というものがあります。

敵機に背後をつかれた状態から急上昇し、意図的に失速状態を起こし、クルッと小回りして敵の背後を取る機動ですが、これなどされると従来のミサイルでは絶対に追いきれません。

ちなみに我々が開発した高速誘導弾はある意味『対 ゼロ戦』を想定した兵器なわけなんですよね」


空「敵が高速誘導弾と同程度のものを開発してきたとしたら、どう対抗されますか?」

坂「現時点でどうするかをはっきり述べるのはどうかと思いますが、その場合は『敵の数倍離れた距離から敵の存在をいち早く察知して、敵の射程圏より外から攻撃可能な回避不可能な高速誘導弾を開発する』というところでしょうかね。

より大出力のパワーユニットを搭載すれば初速のより早いレールガンを装着出来ますから、理論上はより長距離から狙撃することが可能です」


空「敵の戦闘機が大量のドローンを展開してきて襲って来た場合、どう対抗しますか?」

坂「新型戦闘機の説明から随分外れている気がしますが(笑)、一応お答えしておきます。

まだ実用化はしていませんが、対ドローン用の小型のレーザー兵器を開発するかもしれません。

実際、威力の弱いレーザー砲は現時点でも開発が終わってますし、新型のゼロ戦は電力の問題はありませんから。

もしくは9mmパラベラム弾など拳銃弾を使用した自動迎撃兵器を作るかもしれません、丁度護衛艦に載せている近接防禦兵器のCIWSの小型版です。

小型のドローンなら拳銃弾でも十分破壊可能かもしれませんし、搭載弾数も多く出来ると思います。

威力が足りないのであれば、小口径高速弾の5,56mmNATO弾を使ってもいいでしょう。

6本バレルのガトリングガンを2門装備して、毎分1万発とかバラまいてやれば、雲霞のごとく敵のドローンが押し寄せてきても蹴散らせるんじゃないですかね?

また、ショットガンのような散弾を連射する方法なども有効かもしれません。

こればかりはテストしてみないと分かりませんけどね」


 この他にも、細かい機体のスペックとか、航続距離や燃料の補充サイクル、パワーユニットやエンジンの寿命など、数多くの質問が寄せられたのだが、企業側からはそれらの兵器や機体の生産などについての質問が殺到した。


 まず、メンテナンスや修理での話になったのだが、エンジンやパワーユニットは脱着が非常にしやすいよう工夫されていて、フォークリフトなどがあれば一人でも交換作業が可能なようになっていた。

 エンジン(電動モーター)はエンジンカウルを装着したままで脱着可能。

 まず、機体の前方からフォークリフトの爪を持ち上げエンジンの重さを支える状態で停止。

 エンジンカウル後部のカバーを開けてボディ側のフレームとエンジンを接続しているピンを合計3本抜けばそのままエンジンは取り外し出来る。

 ピンを抜けばエンジンは機体の前方に抜くことが出来るので、フォークリフトで後ろの抜けば取り外し完了だ。

 エンジンの整備は基本的にはこのように機体から取り外しておいて整備専用の工場にて行われる。

 戦闘時などでは当然、被弾したり故障することも出てくると思われるが、その場合はエンジンの予備を常時複数用意しておいて現地で付け替え、すぐに再出撃出来るようになっている。

 他の箇所も基本的にこのように現場での脱着が少数のスタッフでも可能になっていて、基本、アッセンブリーごと交換、修理は専用工場で行う。

 パワーユニットもフォークリフトがあれば一人で脱着可能だし、翼に至っては、機体下部の取り付けボルトを12箇所外せば、翼とボディはカンタンに切り離せる。

 最初からボディをクレーンや天井のチェーンブロックや電動ウインチで持ち上げておけば、やる気になれば一人でも切り離し作業と合体作業が出来る。

 作業の大半は電動フォークリフトを最大限活用することになるわけだが、その充電も戦闘機のパワーユニットから行うことが出来る。

 パワーユニットというのは一度火が入ってしまうと止めることが困難なので、基本的には稼働しっぱなしになる。

 そこで、帰還した戦闘機は外部への出力コネクタから電力を外に出してなんらかのことに使うことになる。

 運用しているのが基本的に南方の暑い場所なので強力なエアコンを回すのに使うかもしれないし、スマートグリットのような仕組みに繋いで発電所の代わりにしてしまうかもしれない。

 このように「より少数の人間で」効率よく作業が出来、なるべく快適な環境で作業が出来るよう、工夫された機体の構造を目指していた。


  ・・・このようにして会議とは名ばかりの新戦闘機のコンセプト発表会というか説明会は終了した。

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