君は私の恋人なのか

3章 記憶の秘密と私の選択

15話 素敵な女、嫌な女

（幸せな未来）

　絵名「さて、兄との”おままごと”もそろそろ終わりにしないとね…。」その声は軽いようで僅かに震えていた。



　絵名「…美咲さんは、ゆうくんを迎えに来たんじゃないの？」



　祐司「みさちゃんからは、山梨県に移住して一緒に暮らさないかって誘われている。仕事も紹介できると言われている。」祐司は視線を落としながら話を続けた。



　絵名「すごい！ゆうくんにとって最高のプランだね。このまま結婚とかも視野に入るね。」



　祐司「結婚とかはさすがに話は早いけど、正直嬉しい話だなとは思っている…。けど、迷っている。苦労をかけた絵名を一人にしたくないしさ。」祐司は絵名を見つめた。



　絵名「…そういうのはやめて。」絵名は首を横に降った。

「大好きな人が一緒に暮らそうと言ってくれているのに、妹を選ぶなんておかしいよ。ここで美咲さんを選ばないと、別の男の人の所に行っちゃうかもよ。」



　祐司「…。」



　絵名「私のせいで、ゆうくんを不幸にしたくない！美咲さんと行くのが、ゆうくんの幸せだよ！」

　絵名の言葉は強かった。しかし、彼女の胸の内の本音がどうなのかは祐司には分からなかった。



　祐司「絵名の言いたいことは分かるよ。でも、みさちゃんと絵名はどっちが大切か、今どっちと暮らすことが幸せにつながるのか、俺にとって簡単には答えが出る問題じゃない。」



　絵名「ありがとう、そう言ってくれるのは素直に嬉しいよ。でも、私はずっと好きだった美咲さんを選ぶべきだと思う。

　私といても幸せな未来なんて無いよ。」



（素敵な女、嫌な女）

　祐司は、家の外に出て美咲を探した。冷たい風が吹き、曇り空の下、仮設住宅街の小さな公園のブランコに、彼女は座っていた。



　美咲「おかえり。」

　ブランコってすごい久しぶりに乗ったんだけど、結構怖いね。子どもの時は怖いもの知らずで何でもどんどん行動できてたのに。

　なのに、大人になると色々考えちゃう。怖さとか、不安とか色々考えて…足踏みしちゃう。難しいね。」

　美咲は、小さく、無理をして笑っていた。



　祐司は静かに隣に立っていた。



　祐司「絵名には、みさちゃんと一緒に山梨に行けって言われたよ。」



　美咲「そっか。…でも、まだ悩んでいるんだよね？」



　祐司は答えなかった。



　美咲「自分を選ばず彼女を選べってスパッと言える女性は素敵だよね。

　私は…家族を一人残して彼女の所に行くゆうくんの姿は見たくないなと思うけど、やっぱり私を選んで欲しいと思う嫌な女の一面もある。」



　祐司「全然そんなことないよ。

　半年間必死に俺を探して、俺の将来のためのプランとかも考えてくれていたんだから、一緒に暮らしたいと思うのは自然だよ。

　俺がすぐ決断できていないから、みさちゃんを苦しませている。ごめんね。」



　美咲「気にしないで。私もゆうくんの立場なら即決できないよ。ゆっくりでいいよ…。」



　祐司「ありがとう。でも、みさちゃんは長いことここにいられるわけじゃないよね？

　2人のためにも早く決めるよ。2時間後に、仮設住宅にもう一回来てもらえる？」



　美咲「分かった。後悔ないように考えて。」

　美咲はブランコを揺らし、鎖の軋きしむ音が響いた。



　美咲「2人の女からモテて辛いね、ゆうくん。」意地悪く微笑んだ。



　祐司「ははは。本当だよ。誰かに変わってほしいくらいだ。」



　二人の間を冷たい風と、鎖の軋む音が通り過ぎていた。