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膝枕と優しい手に
しおりを挟む「痛くないか…?」
「きもち、い、です、…んっ」
「大丈夫か!?」
「大丈夫です、よ…先輩」
「辛かったら止めるから、な」
「大丈夫です!やめないでくださいっ…」
「わかった、ゆっくり動くぞ」
「はい」
「雪の中、あたたかいな」
「あ、あんっ、わ、渉先ぱ…!」
「んっ、」
「ん、んはっ、あぁっ」
「…雪…!」
ーーーー
ん…
ぼんやりとした視界に、覆い被さるように渉先輩の顔が飛び込んできた。
「目、覚めたか?」
「はい」
どこまでも柔らかな笑顔と、ゆっくりと頭を撫でるゴツゴツした大きな手。
しっかりと頭を包んでくれる先輩の大きな膝は、いつもあったかくて安心する。
渉先輩。
中学のときから、ずっと憧れていた。文武両道を絵に描いた様な人で、裏表の無い実直な性格は、先輩後輩関わらず多くの人から信頼されている。下級生の面倒見が良く、あまり出来の良くない自分は特に目を掛けてもらっていた。
先輩と同じ学校に通いたい一心で、昼夜を忘れ机に齧りつき…やっとの思いで同じ学校に通うことができた。
来月から、先輩はここ生徒会室の主となる。
もっともっと、渉先輩に近づきたい…一緒にいられる時間が欲しい…
この一年、努力を重ね、なんとか役員に滑り込むことができた。
これからは、もっと近くにいられる。
クシュッ
「大丈夫か?」
渉先輩がぐっと顔を近づける。
「はい。このブランケットあったかいし、…まだ、渉先輩に膝枕…しててほしい…な…なんて」
「可愛いやつだな」
髪の流れに沿うように優しく頭を撫でていた手に力が入り、一点をぐりぐり…
「ここはな、頑張り屋の雪に、よく効くツボなんだぞ。」
「ふふふ、くすぐったいですよ、先ぱ……いっ!痛…」
倍返しだ!と、先輩の腰に両腕を回そうとした途端、鋭い痛みが走った。さっきまでいっぱいに先輩を感じていた場所…
「大丈夫か!?」
心配そうな先輩の声が降ってきた。どうやら、ぼくが変な体勢になったせいで身動きが取れないらしい。
「だ、大丈…ぶです。ちょっと痛かっただけなので…」
体勢を戻しながら先輩の顔を見上げる。
「本当か?雪の大丈夫は、信用ならないからな」
「ふふふ、そんなに心配しなくても、大丈夫ですよ。」
先輩の顔を見ながら微笑みを浮かべた。
「辛くなったら、ちゃんと言うんだぞ?」
「はい」
辛くないと云えば嘘だ。というか正直辛い。
ギシギシ痛む関節、ヒリヒリする喉。
日頃の運動不足が悔やまれる。
辛いとは聞いてたから、ずいぶん前からきっちり準備してたんだけどな…
先輩の…思ったより大きかっ…
先輩の形を身体と頭で思い出し、一瞬で真っ赤になった。正に噴火のごとく。
「っ!」
先輩に見られまいと、咄嗟に両手で隠す。
広い肩幅、力強い両腕に抱きしめられ、守られる心地よさ。
どこまでも優しく自分を気遣う声。
少しずつ繋がる身体。
脳天まで突き抜ける痛みと快感。
熱が身体を割って強く進み入ってくる。
「……」
「……」
顔を隠したことで余計な心配をさせてしまったみたいだ。
先輩がぼくに影を作る。
「すまないな、無理させてしまって…辛かったよな。自分は、毎日道場で鍛えてるが、こんな細い身体…無理に抱き締めたら壊れてしまうんじゃないかと…」
素肌に、ブランケットがふわっとかけられた。
さっき動いたときに、どうやらブランケットがずり落ちていたようだ。
ぽんぽんっとしてくれる先輩の手は、やはり昔から変わらない。
「大丈夫です。案外、しっかりできてるもんですよ」
「そうか…でも、もう無理するんじゃないぞ」
先輩の、笑うと細くなる目。
優しく髪を撫でる武骨な手を感じながら、ぼくはまた少し眠りについた。
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