初めての、そのあとは…

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たくさんある答えの中からひとつ

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「ん、京ちゃ、ん…」

「もっと手、きつくしてくれると…嬉しい…」

「で、でも」

「大丈夫だか、ら…んっ!」

「わかった」

「ありがと…な」

「…うん!」

「ん、あっあぁぁっ!」

「京ちゃん…!」




ーーーー

  ん…

  ソファに寝ているサキの胸に、目を閉じそっと耳を当てる。汗で少し冷えた胸が、火照ったオレの顔に気持ちいい。
  心臓がドクドクいっている。

「京ちゃん、どうしたの?」

「んー、なんかちょっとやってみたくて」

  胸に耳をつけると、サキの足先が膝にあたる位置だ。そのぶんだけ、二人の身体はソファの座面を使っている。しかし、それでも生徒会室のソファは充分に大きい。

「ふふっ」

  眼鏡に隠れた紅茶色の瞳で優しく笑いながら、サキは京介の短い髪をそっと撫でた。


  このまま眠ってしまいたい気持ちを抑え、オレはサキに聞いた。

「さっきのはどうだった?気持ちよかったか?」

「なぶぁほぃぇヴぉっっ!」

  文字にならない声と共にサキが飛び起きた。そのせいで、胸につけていた顔が腹まで滑る。少し痛い。オレはサキの手首を握った。

「いろいろ試してみたいって言ったのはサキじゃん」

「そうだけどだけどもでもども…」

  唇を尖らせ言う京介に、サキは慌てふためく。

「ぷっ、ははは!そんなに慌てんなって」

「もう!京ちゃん!!」

  真っ赤になるサキ。オレの中に愛おしさが積もっていく。

「ごめんな。でも、ちゃんとサキを気持ちよくできたかなって、さ…」

「…大丈夫、だよ。す、す…すごく、良かった…か、ら…」

「そうか…よかった」

  恥ずかしがるサキと目が合う。
  まっすぐに気持ちを伝える見慣れた色の瞳に、安心した表情を浮かべる京介。

  夕日が差し始める生徒会室に柔らかな空気が流れる。









  眼鏡を外し、力を抜いてペタンとソファに座るサキ。京介は背後へ回り、制服を着たサキの背中をぐっと押した。そして、上を向く足の裏に手を沿わせる。


  こ、これは、大丈夫か…?


  今まで試した中では初めての体勢におっかなびっくりで心配になるが、本人は何も言わないから大丈夫なのだろう、と、京介は自分に言い聞かせた。

  首からネクタイを抜き取り、そのまま右手と右足を縛る。サキの首元からもネクタイを借り、左側も同様に。最悪、なんとかほどけるように、跡がつかないような強さで。

「よし、できた!」

「京ちゃ…っん!」

  顔から突っ伏すような体制。オレを呼ぶ声が布地に吸い込まれていく。目の前には突き上げられている腰。制服の上からでもわかるサキの形が、隙間から浮かび上がっている。


「なかなかいいカッコだな」


  サキは片頬をソファに擦るようにして、後ろに立つオレになんとか目を合わせてくる。無理な体勢のせいか、怒っているようにも見える。

「サキが縛って欲しいって言ったんだろー?そんな顔すんなって」

「京…ちゃ…」

  戸惑いを悟られないよう、オレはいたずらっぽく笑いながら言った。

  揺れ始めるサキの腰が、怒っていないことを示す。

  京介は目の前の窮屈そうにしている股の間に手を突っ込み、ファスナーをゆっくり下げた。



  もう一度、幼馴染みの顔を見る。
  サキとは小さい頃からいつも一緒に過ごしてきた。同じクラスになった回数を数えるのが面倒になった今では、生徒会長と副会長をしている。おっとり、時にヘタレな雰囲気のサキが生徒会長で、オレが副会長。ヘタレボケとツッコミの名コンビとして活躍…はしてないが、いい感じに上手くやっている。もちろん恋人としても。



  お互いの性癖も知っている。




「やっぱさ、なんか、ぎゅっとされると、僕だけを強く独占してるというか、求められているというか…そんな感じがして…そこに気持ちが全部が集まってきて、それしか考えられなくなるというか…」


「こう、食べられそうな恐怖を感じるのに、どんどん痺れて熱くなって、そこから、ぐわって来る波が脳に響いていって…オレだけだっていう特別感っていうか…」


「え?」

「え?」



  自分を知ってほしい気持ちと、嫌われたくない気持ちが同居する空間で。淡い期待と恐怖に怯え話す二人の顔は、互いにそっぽを向いている。
  幼い頃から知った仲だが、このとき初めて互いの性癖を知った。




「サキは、腕とか足とかそうじゃないとこも縛って欲しいってことだよな?」

「京ちゃんは、身体に痛みを感じたいってことだよね?」

  お互いのを恐る恐る確認する。しかし、ここから気まずい沈黙が続いた。ずっと一緒にいて、ここまで長い沈黙は初めてだ。

「…」

「…」

  堪えきれず京介が口を割った。

「い、嫌だとか、気持ち悪いとか思ったら…オレから離れていいから…嫌いになっても…」

  細い肩が震えている。そんなサキを見ていたくなくて、オレは強く言った。

「でも、サキ。教えてくれてありがと、な。できるかわかんないけど。オレは、サキがしてほしいこと…したいん、だ」


「京ちゃん…」


  サキの性癖を聞いたとき、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。むしろ愛しいとさえ思った。

  どちらも、相手に対して行動を要求する物だ。相手の要求が強ければ強いほど、その未知の行動を自分に強いることになる。
しかしそれは、大した問題ではなかった。
戸惑いが無い訳ではない。それよりも、相手の為にそうしたいと思う、そうなりたいと思う。嫌われる恐怖よりも、自分の欲求を飲んでもらうことよりも、大きいその気持ちが、自然と湧いてきた。






  サキを縛りたい。自分の中に未知の感情を見つけた。性癖について理解したわけではない。縛られたい理由はわからない。しかし、それは相手がサキだからだ。

  紅茶色の瞳を愛おしく見つめる。包み込んでくれるような笑顔がそこにあった。


「僕も…京ちゃんのしてほしいこと、したい…」

  オレたちの試行錯誤の日々が始まった。






  互いにあれこれ試し、共に気持ちよくなれる方法を探していた。やりすぎない、身体に傷をつけない。それがお互いのルールとなった。
  そして今日、初めて繋がる。


  華奢なサキが持つ太く長いもの。手足の拘束によって反り返る、今握っているそれが…。身体の奥が疼くのを感じた。

  我慢できず、京介はさっさと制服を脱ぎ捨てた。


  突っ伏すサキから見えるよう、足を開いてソファに座る。手元にあったブランケットを丸め、腰の下に入れた。


「サキ。なめてほしい」


  本当は今すぐにでも入れて欲しい。だけど、小さい頃から知るいつもの優しいサキの瞳が、とろんと溶けて甘ったるい色になっているのを見ていたい…


  サキは縛られたままの身体でにじり寄った。

「うん」

  これ以上無理というところまで首を上げる。そこから延びる舌がチロチロと這う。当たる息が熱い。縛られている手足が動き辛そうに見えるが、それが嬉しそうだ。




「そのまま歯、立てて」

「わかった」

「オレも…欲しい…か、ら」

「うん」

  揺れる腰、夢中で舌を動かす顔。だんだんとサキが狂っていく。しかもそれが、自分の手によるもの。そしてそこから欲しいものをくれる。なんとも表現できない快感が全身を駆け抜けた。


  オレに縛られて興奮し狂いに狂ったサキから、強い痛みがほしい…サキが望むことをしたい、そればかりだった心の中に、そんな欲が生まれたことに気づいてしまった。





「ん、んんーっ!」

  上下の固い歯が当たる。そして遠慮がちに狭まっていく。少しの恐怖が混じりながらもそこに全神経が集中する感覚。日常では味わえないこの特別な感覚が、頭を支配する。

「んあっ、ぁあぁぁっ!!あぁ!」

「京…ちゃ」

  心配そうな目が見上げている。
  大丈夫だ、と京介は目線を送った。




「ちょっと動くぞ」

  全身を甘く痺れさせ荒く息を吐く京介。そのまま足をのばし、指先でサキの股間をつかんだ。

「んんっ!!」

「オレばっかりじゃなくて、サキも、気持ちよくなってほしい…から」


  指を動かすのに合わせてビクンと波打つ身体。細い腰が小刻みに震えている。

「口が止まってるぞ。そのまま後ろもほぐして、な」

  顔の前に持っていくため、片足をソファの背もたれに掛けた。無理な体制か、関節が少し悲鳴をあげる。しかし痛みは歓迎だ。とくにサキとのなら。

「でないとサキのでっかいの、入んないからな」

  言いつつ、太く長いサキが、狭いところに無理やり入ってくる痛みを想像する。まだ身体に残る快感と混じり、ニヤニヤが止まらない。






  ぬるぬるした舌先の感触に名残惜しさを感じながら、京介は早々に身体を起こした。

  身体がはやくはやくと急かすが、まぁお楽しみはこれからだと、ぐっと抑えた。


「一回、解くぞ」

「え…や、だ」

  不服そうなサキの声。しかし、同じような体格の京介に、ネクタイを解かず次に進む力は無い。

「そんなこと言っても、このままじゃ無理だな」

「いやだ…!」

「サキ…?」

  いつもの温和なサキからは考えられないような、強い拒否。ここまでハッキリ言うのは珍しい。これも、縛られたことによるものなのか。


  もしそうなら、どうにかしてこのままのサキと…


  頭の中を、先ほど見つけた強い気持ちが塗り潰していく。


「京ちゃん、無茶なこと言って、ごめん…ね…」

  下の方から聞こえる声に、オレはハッと我に返った。
  顔面から突っ伏すサキの後頭部が目に入る。頭の中で渦巻いていた興奮が、一気に静かになった。






「サキが気持ちいいことしたいけど…どうしていいかわかんないんだ」

  ゆっくりと身体を起こすサキを支えながら、京介はボソリと呟いた。

「京ちゃん…ごめん、ね?」

「サキが謝ることじゃないから…」

「ごめんね…今日は、普通に、しよ?」

「いいよ…サキごめん、な」

  半端に脱げた制服を、一欠片の諦めが混じった笑顔で一枚一枚脱いでいく。サキの望むことから遠ざかっていく。


  二人とも、満足できるなんて、やっぱり無理だっのか…


  サキの気持ちに答えられなかった自分の不甲斐なさが、じわじわ心を占めていく。







「んっ、あ、あぁぁあぁぁぁ…サキ、サキッ…!」

  すぼまった穴を無理やりこじ開け進む熱くて太い塊。身体は悲鳴を上げるが心は足りないと叫ぶ。


「んぁっ、はっ、あぁあぁぁっ…サキ、もっと、もっとぉ!」

「んっ、きょ、京ちゃん…」

  サキの腰に跨がり、京介は喉から絞り出すように甘い声を上げる。壊れてしまうのではないかという恐怖と、サキのものから生まれる痺れが全身を取り巻く。

  望んでいた、なによりも欲しかったこの脳に響くほどの痛み。これがもたらす、何物にも変えられない特別感。

  しかし。
  ビリビリと感じれば感じるほど、先ほどの不甲斐なさと、自分だけが性癖を満たされているという辛さが引っ掛かる。

  細い腰に足を回し、腕と両方でぎゅっと抱き締めた。そして同じ力が返ってくる。
今日は仕方がないんだ、そう上書きするように、より強くサキを求めた。








「京ちゃん!いいこと、思い付いたよ!」

「ん?」

  熱に浮かされる京介の腰が、絶頂だけを目指しリズムよく動いている。

「京ちゃん」

「んっ」


  サキは両手で、大切な物を扱うかのようにオレ自身を包みこんだ。少し汗ばんだ細長い指が当たる。

「え?」

「京ちゃん、このまま、縛って?」

「…わかった!」

  サキが意図することを理解し、諦めていた気持ちが一気にせり上がってきた。

  最早どちらの物か分からないネクタイをつかみ、ぐるぐると何重にも巻く。

「んっ、京ちゃ…ありが…と…」

「ん」


  これで、サキがして欲しいこと、できる…


  サキに負けないくらいのとろけそうな笑顔で、目の前の顔を見つめる。

  温かい気持ちが、奥のほうから身体の中にじんわり広がっていく。まるで奥底に引っ掛かっていたものを飲み込むように。

  紅茶色の瞳がゆっくり閉じる。どこまでも優しいサキの笑顔が目の前にあった。



  身体の中のものが、一回り大きくなった気がした。

「京ちゃん、手…少し、力、入れるね?」

「ん…っもっと、強く…」

「わかった」

  サキの手が作り出す音に合わせて、オレは夢中で腰を振る。

「ぁあ、んっ、んぁっ、あ、あぁぁあぁぁぁ!」

「んっ!!」

  京介はサキの手をネクタイの上から包んだ。


  オレがしたい、サキの望むこと。それを叶えた先に、サキがしたいオレが欲しいものがある。


「あっ、ん、あ、あぁ…サキっ、サキ!」

「京ちゃん…!」




  オレが求めるもの。サキが求めるもの。それぞれを同時に叶えるための答えをひとつ、見つけた。
  きっと、まだまだこれからたくさん見つけられるだろう。








「あっ!そういえば…18時に、来客があるんだった!!」

  柔らかな空気が流れる生徒会室。眠りに誘ってくるそれを、サキの声が遮った。

「おいおい、しっかりしろよー?佐伯会長!」

  いつものノリでつっこむ京介。チラリと時計を見ると、17時45分。

「うわぁぁあぁ…!!どうしよどうしよどうしよ」

「しかたねぇな」

  慌てるサキの手を引きながら、京介は生徒会室の隅にある質素な扉を開けた。脱ぎ散らかした布の山を取るのも忘れず。


  備品と書かれたダンボールが積まれた棚。その横でサキがわたわたと制服を着る。ボタンを留める指が言うことを聞かないらしい。

  なんとか全ての衣服を身に付け、眼鏡を掛けなおし、襟を整え、最後は…というところで、素肌にブランケットを纏った京介の手が延びる。

  スッと伸びた手は、ネクタイをサキから奪った。

「サキ。ここで待ってるから、な…」

  優しく笑う紅茶色の瞳を、愛おしく見つめる。
  くるりと首にかけたネクタイを、ほんの少しだけ、きつく締めた。
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