怪奇蒐集録

華月雪兎-Yuto Hanatsuki-

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夢日記

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 最近、〝夢日記〟と言う物が流行っているらしい。

 何でも自分が見たい夢の内容を日記に書く事で、その通りの夢が見れるんだとか。

 クラスの女子生徒達が休み時間にその話しで盛り上がっていたが、高校生にもなってそんなまやかしを信じるなんてどうかしてる。

 そう思っていたら職員室でもその話しが聞こえて来て「世も末だな」なんて思わずボヤいちまった。


 だがな、実はその夢日記が今手元にある。

 胡散臭い事この上ないが、授業中にその夢日記を書いてる奴が居たから流石に取り上げたんだ。

 見た目はちょっとばかし豪華な装丁をしちゃいるが、中身は何て事ない至って普通の日記帳だ。

 何で分かるのかって?

 悪いとは思いつつ中を見ちまったからな。

 まぁ、あれだ。教師として一応確認しておかないとなって事で。 

「こんなんで見たい夢が見れるのかねぇ」

 そこで俺ははたと気が付いた。

「そうだよ。俺が実際に使ってみて真偽を確かめりゃ良いんじゃねえか?」

 我ながら名案だ。

 折角、此処に実物があるんだ。

 試すだけならタダだ。

 これでこいつがただの日記帳だって事を証明してやりゃ良い。

 生徒の持ち物を持って帰ったとあっちゃ大問題だが、うちの学校は昔から変わらず取り上げた物は学校側で一週間預かるのが規則だ。

 幸いにも俺が預かり品の管理を任されてるから俺が言わなきゃバレやしない。

 仮に・・・だ。仮にこいつの効果が本物だったとして。

 勿論そんなもん信じちゃいないが、もし本当に見たい夢が自由自在ってんなら儲け物って話しだ。損は無い。


 良し。そうと決まれば物は試しだ。

 帰って早速やってみるとしよう。


         ◆ ◆ ◆


 帰宅後、椅子に腰掛けると、まずは一日の憂さを晴らすように煙草に火を点けた。

 ポケットの中から取り出したそれはくしゃりと不恰好に折れ曲がっていたが、吸えれば何の問題もない。

 ジリジリと先端を赤く燃やし、白い煙が小さな部屋を満たしていく。

 喫煙者には厳しい世の中だ。

 昔は学校にも喫煙室くらいはあったもんだが、こんなご時世、学校と家の往復じゃあ吸える場所なんてありゃしない。

 短気な俺はまだ半分以上の長さを残して、灰皿の底にぐりぐりと火種を押し当て揉み消すと、

「はてさて、どんな夢を見ようかね」

 机に置いた夢日記のページを開いてみた。

 そこには有名な俳優やミュージシャンの名前を使って妄想デートをしているような内容があちらこちらに書かれていた。 

「こりゃ夢日記と言うか妄想日記だな。日本語めちゃくちゃじゃねえか」


 取り敢えず、書き方は分かった。

 日記らしく、ちゃんと日付を書き入れる所もある。多分、その日の日付で日記を書けばその日に夢が見れるって事なんだろう。

 問題は夢の内容だが・・・これはもう決めた。

 書かれた事が夢で再現されるなら、内容が具体的であればある程、その内容に忠実になるのは道理。

「現役現国教師の文章力を舐めんなよ」

 俺は目的も忘れてひたすら頭の中の物語を書いていく。


 ————気付けば自分の書いた物語ならぬ夢日記でページが一枚丸々埋まっていた。

 一時間以上も掛けて懲り過ぎたか・・・なんて思いはしたが、納得のいく出来栄えだ。

「これでこの夢が見れるのか?」

 今更ながら何をやってるんだか。

 まぁ、元々の目的はこいつがインチキだって事を証明する事だ。

 だから夢なんて見れなくて良い・・・そう思いながらも————俺は溜め息を吐いて布団に潜り込んだ。


         ◆ ◆ ◆


 翌朝、いつものように起きて、いつものように学校に向かう。

「やっぱりインチキじゃねえか」

 あれだけ気合い入れて書いたってのに。

 信じてないなんて言いながら、どっかで期待してる自分が居て、それがまた何とも腹立たしい。


 学校に到着すると下駄箱の所で生徒に声を掛けられた。まだ時刻は朝の七時半前。

 登校時間にしてはまだ随分早い。

「谷岡か。何だ、今日は早いな。朝練か?」

 首を横に振ると、俺を見て何故だかニヤニヤとした表情を浮かべている。

「何だ何だ、その顔は。俺に何か用事か?」

 谷岡は俺に顔を近付けるようジェスチャーすると、耳元で囁いた。

「先生も案外ピュアなんだね♡」

 それだけ言うとさっさとその場を離れて行った。

 俺は呆気に取られてその場で固まっていた。


 ああ・・・そうか。夢日記に書いた事は持ち主の夢・・・・・として再現されるのか。

「・・・・・・マジかよ・・・」

 これは暫く谷岡の顔を見れそうにもない。
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