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シュガー・シンドローム
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・・・どうしてこうなった?
男は薄暗い路地裏で息を殺して身を隠すように蹲る。
茹だるような暑さも手伝って、前日の雨による湿気が全身に纏わり付く。
その不快感に男は眉間を寄せた。
「・・・何で俺なんだ」
その問いへの答えは返って来ない。
あいつはヤバい。もし見付かったら・・・
「まーくん、みーつけた♡」
その声に反応して、男の全身から一気に汗が吹き出した。
————見付かった!
逃げないと駄目だっ‼︎
逸る気持ちで足元が覚束ない。
全身から沸き起こる恐怖に男は立ち上がる事が出来なかった。
「く、来るな!お前っ———一体何なんだよ⁉︎」
女は口角を釣り上げ不敵に笑う。
男にはその笑顔が途轍も無く悍ましいものに見えた。
一歩・・・また一歩、女はゆっくりと近付いて来る。躙り寄りながら、女は何かを呟いていた。
「まーくんが悪いんだよ?私はこんなに愛してるのに。他の女を見たりするから・・・」
男を眼前に捉え、見下ろす女は後一歩のところで立ち止まった。
フリルの付いたひらひらのスカートを翻し、男に見せ付けるようにくるりと回ってみせる。
「どう?この服可愛いでしょ?まーくんが好きって言うから頑張って着てみたんだよ♡」
そう言うと女は無邪気に笑う。
しかし、その右手には可愛いらしい服装とは不釣り合いな物が握られていた。
銀色に鈍く光るそれの先端から赤い雫がぽたりぽたりと滴り落ちる。
それを見て男は肝を冷やした。
まさか・・・冷たい汗が一筋、背中を伝い落ちるのが分かった。
「・・・さ、早苗や梨花はどうした⁉︎」
声が上擦る。
男は精一杯の力で叫ぶが、恐怖からか上手く声が出せない。
「それ誰だっけ?・・・ああ、あの害虫ね」
先程までの笑顔から一転し、女は途端に冷淡な表情へと変わった。
射抜かんばかりの鋭い視線を男に送る。
「あんな害虫がいるから。まーくんは騙されただけなんだもんね?大丈夫、ちゃんと分かってるよ。まーくんは私を裏切るような事はしないって」
そしてまた、あの貼り付けたような笑顔に戻ると、次の瞬間、思い切り肩を突いて男を押し倒した。
女はその場に跪くと、覆い被さるような体勢で、男を上からじっと見下ろす。
・・・もう無理だ。もう逃げられない。
全身を包む恐怖に支配され、虫が這い上がるようなぞわりとした感覚に身体中が総毛立った。
「安心して♫害虫はちゃんと駆除したから♡」
その言葉に男は絶望した。微かに残っていた僅かばかりの可能性が絶たれたのだ。
色々な感情が綯い交ぜになり、男の瞳からは涙が零れる。
・・・その時、ポツリと頬を水滴が叩いた。
————雨だ。
突然の雨は男の心模様を表すように段々と強さを増し、重なり合う二人を濡らしていく。
「お前・・・誰なんだよ・・・」
弱々しく発せられた言葉は雨音に掻き消され、そのまま虚空へと消えて行った。
女はゆっくりと顔を近付ける。
そして、そのまま自身の唇を重ね合わせ・・・微かに微笑んだ。
男の方は反応が無い。
虚ろな目で女を見上げているようだが、その視線は何処か遠くを見ているようで————。
「まーくん、誰よりも愛してるよ」
・・・・・・最期に見たそれは、月明かりで照らされていた。
男は薄暗い路地裏で息を殺して身を隠すように蹲る。
茹だるような暑さも手伝って、前日の雨による湿気が全身に纏わり付く。
その不快感に男は眉間を寄せた。
「・・・何で俺なんだ」
その問いへの答えは返って来ない。
あいつはヤバい。もし見付かったら・・・
「まーくん、みーつけた♡」
その声に反応して、男の全身から一気に汗が吹き出した。
————見付かった!
逃げないと駄目だっ‼︎
逸る気持ちで足元が覚束ない。
全身から沸き起こる恐怖に男は立ち上がる事が出来なかった。
「く、来るな!お前っ———一体何なんだよ⁉︎」
女は口角を釣り上げ不敵に笑う。
男にはその笑顔が途轍も無く悍ましいものに見えた。
一歩・・・また一歩、女はゆっくりと近付いて来る。躙り寄りながら、女は何かを呟いていた。
「まーくんが悪いんだよ?私はこんなに愛してるのに。他の女を見たりするから・・・」
男を眼前に捉え、見下ろす女は後一歩のところで立ち止まった。
フリルの付いたひらひらのスカートを翻し、男に見せ付けるようにくるりと回ってみせる。
「どう?この服可愛いでしょ?まーくんが好きって言うから頑張って着てみたんだよ♡」
そう言うと女は無邪気に笑う。
しかし、その右手には可愛いらしい服装とは不釣り合いな物が握られていた。
銀色に鈍く光るそれの先端から赤い雫がぽたりぽたりと滴り落ちる。
それを見て男は肝を冷やした。
まさか・・・冷たい汗が一筋、背中を伝い落ちるのが分かった。
「・・・さ、早苗や梨花はどうした⁉︎」
声が上擦る。
男は精一杯の力で叫ぶが、恐怖からか上手く声が出せない。
「それ誰だっけ?・・・ああ、あの害虫ね」
先程までの笑顔から一転し、女は途端に冷淡な表情へと変わった。
射抜かんばかりの鋭い視線を男に送る。
「あんな害虫がいるから。まーくんは騙されただけなんだもんね?大丈夫、ちゃんと分かってるよ。まーくんは私を裏切るような事はしないって」
そしてまた、あの貼り付けたような笑顔に戻ると、次の瞬間、思い切り肩を突いて男を押し倒した。
女はその場に跪くと、覆い被さるような体勢で、男を上からじっと見下ろす。
・・・もう無理だ。もう逃げられない。
全身を包む恐怖に支配され、虫が這い上がるようなぞわりとした感覚に身体中が総毛立った。
「安心して♫害虫はちゃんと駆除したから♡」
その言葉に男は絶望した。微かに残っていた僅かばかりの可能性が絶たれたのだ。
色々な感情が綯い交ぜになり、男の瞳からは涙が零れる。
・・・その時、ポツリと頬を水滴が叩いた。
————雨だ。
突然の雨は男の心模様を表すように段々と強さを増し、重なり合う二人を濡らしていく。
「お前・・・誰なんだよ・・・」
弱々しく発せられた言葉は雨音に掻き消され、そのまま虚空へと消えて行った。
女はゆっくりと顔を近付ける。
そして、そのまま自身の唇を重ね合わせ・・・微かに微笑んだ。
男の方は反応が無い。
虚ろな目で女を見上げているようだが、その視線は何処か遠くを見ているようで————。
「まーくん、誰よりも愛してるよ」
・・・・・・最期に見たそれは、月明かりで照らされていた。
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