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変わらない日常
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週始めの月曜日。セットしたアラームが鳴ったと同時に起床する。
時間は六時五十五分。普段と何ら変わらない朝の目覚め。
リビングに行くと父はソファーに座って、珈琲を飲みながら新聞を読んでいた。
母は朝食の準備で忙しそうで、キッチンとリビングの間を行ったり来たり。
中学生になる弟は朝練があると言うのに今日も寝坊で朝から大騒ぎ。
「飯食ってる時間ないからもう行くわ!」
ドタバタと大きな足音を立ててリビングを飛び出して行く。
そこで母が「お弁当は⁉︎」と弟を呼び止め、背負ったリュックに無理矢理お弁当を突っ込んでから家を出るのを見送るまでが一連の流れだ。
これぞまさにいつもの朝。
見慣れたいつもの光景だ。
テレビに視線を移すと、どの辺が可愛いのか分からないパッションピンクのカバのキャラクターが画面いっぱいに映し出され、小気味良くステップを踏んでいる。
「今日の運勢第一位は~・・・」
そして、軽快なドラムロールが聞こえて来ると、それを聞き終える前に、私は咄嗟に手にしたリモコンでテレビのチャンネルを替えた。
「観てたのに何で替えるんだ」と、父に文句を言われたが気にしない。
運動部に所属する弟と違って、手芸部の私は朝練もないし、朝はゆっくり出来る。
ピーナッツバターをたっぷり塗ったトーストを頬張りながら甘めに作られたミルクティーを一口飲むと、糖分が巡って頭が冴えて来たような気がする。
気がするってだけなんだけれど。
「あんた、そろそろ期末試験だったわよね?勉強の方はちゃんとしてるの?」
「うん、大丈夫。私の事より隆の事を気にした方が良いんじゃない?」
あの子はねえ・・・そんな風に母はぼやいた。
学校に向かう途中、私の少し前を歩いていた美代子が後ろを振り返り手を振るのが見えた。
「陽葵ちゃんおはよ!」
「おはよ」
そう短く返すと当たり前のように並んで一緒に登校する。
歩きながら隣のクラスの男子がどうとか先生が何だとか他愛もない話しをしていく。
これもいつもと同じ。
楽しそうに話してはいるけれど、話しの内容には特に意味もなくて、ただ沈黙の時間を作りたくないから何かしらの話題を放り込む。
会話の為の会話だ。
「そう言えば今朝の星座占い見た?乙女座が一位だった!陽葵ちゃんは?」
「どうだろうね?お父さんが朝のニュースを観てたから占いは観てなくて」
学校でも良く当たると人気の占いコーナー。
悪い結果なんて聞いても気分が落ちるだけだから私は好きになれなくて観ていない。
だから私はいつも適当な理由を作って誤魔化していた。
お昼休み。お弁当を食べ終わったところで壁に掛けられた時計をちらりと見る。
十二時五十三分。そろそろか、と私は席を立った。
「ごめんね、ちょっと御手洗い行って来る」
そう言って教室を出ると、私が出て行ったタイミングでクラスの男子が私の席にやって来て、前の席に座る美代子と何かを話していた。
一瞬、美代子が廊下に出る私を指差していたのが視界の片隅に映ったけど、私は気にする事もなくその場を後にした。
・・・はあ、溜め息が出る。
いつもと変わらない毎日。
変わらない会話。
変わらないクラスメイトの顔。
こんな毎日に何の意味があるのか?
誰も居ない階段の踊り場に腰掛けて私はそんな答えの見えない問答を繰り返す。
毎日に新しい刺激を———一人センチメンタルな気分に浸っていた。
「陽葵ちゃん!」
名前を呼ばれて顔を上げると、慌てふためく美代子がそこには居た。
「先生が!先生が呼んでる!隆くんが!」
弟が怪我をして救急車で病院に運ばれたと聞かされた。
「早く行ってあげなさい」
先生にそう言われ、私はさっさと荷物をまとめると、弟が運び込まれたと言う病院に駆け付け、そのまま一直線に病室へと向かう。
中に入ると弟の笑い声と呆れた母の顔。
「おっ、姉ちゃん。来てくれたんだ?」
「元気そうだね」
「まあね。階段で足滑らせてちゃってさ」
弟はてへっと舌を出して戯けてみせた。
「この子ったら中学生にもなって廊下で鬼ごっこしてたらしいわよ?逃げてる途中で階段から落ちるなんて本当に何考えてるのかしら」
「怪我は大した事ないの?救急車で運ばれたんでしょ?」
「んー、精密検査したけど特に問題はないってさ。頭打って気絶して気付いたら病院だったからびっくりしちゃったよ」
びっくりしたのはこっちよ!と呆れ顔の母の顔がどんどん渋面になって行く。
「隆、アンタ今日は帰れないんでしょ?」
「おっ、良く分かったね。全然何とも無いんだけど、一応今日一日は様子を見ようって事で入院になるっぽい」
入院なんて何かワクワクする、なんて言ったもんだから、また母の怒号が飛んだのは言うまでもない。
夕飯時。夏の時分、まだ外は多少の明るさを残しているが時刻は十九時を回っていた。
食卓にはお肉や野菜、豆腐に白滝と言った様々な食材が土鍋と共に並んでいる。
「隆も本当に間が悪いわよねえ。せっかく今日はあの子が好きなすき焼きだって言うのに」
鍋からは湯気が立ち、美味しそうなすき焼きの匂いが鼻の奥に広がっていく。
「そうだ、陽葵。冷蔵庫にプリンあるから後で食べて良いわよ」
小鉢に具材をよそいながらちらりと母が私の顔を見た。
「うん、分かった。後で食べるね」
「あら?リアクションが薄いわね。アンタ好きだったでしょ?駅前のケーキ屋さんに売ってるプリン」
私は「うん」とだけ答えると、さっさと夕飯を済ませ自分の部屋へと戻って行った。
リビングの方から「あの子どうしちゃったのかしら?」「色々難しい年頃なんだろ」なんて両親の会話が聞こえたが、やっぱり私は気にしない。
今日も一日が終わる。
代わり映えのしない毎日。
最近はもうそんな事ばかり・・・と言うよりそれしか考えていなかった。
最初の内は友達に相談しようかと思ったりもしたけれど、これは自分自身の問題だからと誰にも言わずに今に至る。
解決の糸口も見付けられずにどうしたものかと心の内側に渦巻くモヤモヤを今日も見て見ぬ振りをして、ある種の諦めにも似た気持ちが芽生え始めたのを感じていた。
人生なんてなるようにしかならないだろう。
それでも明日には・・・そんな微かな希望を残して私は静かに眠りに就いた。
————窓からの陽射し。
セットしたアラームが鳴ったと同時に起床する。
時間は六時五十五分。普段と何ら変わらない朝の目覚め。
やっぱり何も変わらない。
私はゆっくり身体を起こすと、手にしたスマホをベッドに放り投げて大きく大きく溜め息を吐いた。
「これで何回目になるんだろ・・・」
スマホの画面を見てみると、また今日も変わらない一日が始まりを告げていた。
時間は六時五十五分。普段と何ら変わらない朝の目覚め。
リビングに行くと父はソファーに座って、珈琲を飲みながら新聞を読んでいた。
母は朝食の準備で忙しそうで、キッチンとリビングの間を行ったり来たり。
中学生になる弟は朝練があると言うのに今日も寝坊で朝から大騒ぎ。
「飯食ってる時間ないからもう行くわ!」
ドタバタと大きな足音を立ててリビングを飛び出して行く。
そこで母が「お弁当は⁉︎」と弟を呼び止め、背負ったリュックに無理矢理お弁当を突っ込んでから家を出るのを見送るまでが一連の流れだ。
これぞまさにいつもの朝。
見慣れたいつもの光景だ。
テレビに視線を移すと、どの辺が可愛いのか分からないパッションピンクのカバのキャラクターが画面いっぱいに映し出され、小気味良くステップを踏んでいる。
「今日の運勢第一位は~・・・」
そして、軽快なドラムロールが聞こえて来ると、それを聞き終える前に、私は咄嗟に手にしたリモコンでテレビのチャンネルを替えた。
「観てたのに何で替えるんだ」と、父に文句を言われたが気にしない。
運動部に所属する弟と違って、手芸部の私は朝練もないし、朝はゆっくり出来る。
ピーナッツバターをたっぷり塗ったトーストを頬張りながら甘めに作られたミルクティーを一口飲むと、糖分が巡って頭が冴えて来たような気がする。
気がするってだけなんだけれど。
「あんた、そろそろ期末試験だったわよね?勉強の方はちゃんとしてるの?」
「うん、大丈夫。私の事より隆の事を気にした方が良いんじゃない?」
あの子はねえ・・・そんな風に母はぼやいた。
学校に向かう途中、私の少し前を歩いていた美代子が後ろを振り返り手を振るのが見えた。
「陽葵ちゃんおはよ!」
「おはよ」
そう短く返すと当たり前のように並んで一緒に登校する。
歩きながら隣のクラスの男子がどうとか先生が何だとか他愛もない話しをしていく。
これもいつもと同じ。
楽しそうに話してはいるけれど、話しの内容には特に意味もなくて、ただ沈黙の時間を作りたくないから何かしらの話題を放り込む。
会話の為の会話だ。
「そう言えば今朝の星座占い見た?乙女座が一位だった!陽葵ちゃんは?」
「どうだろうね?お父さんが朝のニュースを観てたから占いは観てなくて」
学校でも良く当たると人気の占いコーナー。
悪い結果なんて聞いても気分が落ちるだけだから私は好きになれなくて観ていない。
だから私はいつも適当な理由を作って誤魔化していた。
お昼休み。お弁当を食べ終わったところで壁に掛けられた時計をちらりと見る。
十二時五十三分。そろそろか、と私は席を立った。
「ごめんね、ちょっと御手洗い行って来る」
そう言って教室を出ると、私が出て行ったタイミングでクラスの男子が私の席にやって来て、前の席に座る美代子と何かを話していた。
一瞬、美代子が廊下に出る私を指差していたのが視界の片隅に映ったけど、私は気にする事もなくその場を後にした。
・・・はあ、溜め息が出る。
いつもと変わらない毎日。
変わらない会話。
変わらないクラスメイトの顔。
こんな毎日に何の意味があるのか?
誰も居ない階段の踊り場に腰掛けて私はそんな答えの見えない問答を繰り返す。
毎日に新しい刺激を———一人センチメンタルな気分に浸っていた。
「陽葵ちゃん!」
名前を呼ばれて顔を上げると、慌てふためく美代子がそこには居た。
「先生が!先生が呼んでる!隆くんが!」
弟が怪我をして救急車で病院に運ばれたと聞かされた。
「早く行ってあげなさい」
先生にそう言われ、私はさっさと荷物をまとめると、弟が運び込まれたと言う病院に駆け付け、そのまま一直線に病室へと向かう。
中に入ると弟の笑い声と呆れた母の顔。
「おっ、姉ちゃん。来てくれたんだ?」
「元気そうだね」
「まあね。階段で足滑らせてちゃってさ」
弟はてへっと舌を出して戯けてみせた。
「この子ったら中学生にもなって廊下で鬼ごっこしてたらしいわよ?逃げてる途中で階段から落ちるなんて本当に何考えてるのかしら」
「怪我は大した事ないの?救急車で運ばれたんでしょ?」
「んー、精密検査したけど特に問題はないってさ。頭打って気絶して気付いたら病院だったからびっくりしちゃったよ」
びっくりしたのはこっちよ!と呆れ顔の母の顔がどんどん渋面になって行く。
「隆、アンタ今日は帰れないんでしょ?」
「おっ、良く分かったね。全然何とも無いんだけど、一応今日一日は様子を見ようって事で入院になるっぽい」
入院なんて何かワクワクする、なんて言ったもんだから、また母の怒号が飛んだのは言うまでもない。
夕飯時。夏の時分、まだ外は多少の明るさを残しているが時刻は十九時を回っていた。
食卓にはお肉や野菜、豆腐に白滝と言った様々な食材が土鍋と共に並んでいる。
「隆も本当に間が悪いわよねえ。せっかく今日はあの子が好きなすき焼きだって言うのに」
鍋からは湯気が立ち、美味しそうなすき焼きの匂いが鼻の奥に広がっていく。
「そうだ、陽葵。冷蔵庫にプリンあるから後で食べて良いわよ」
小鉢に具材をよそいながらちらりと母が私の顔を見た。
「うん、分かった。後で食べるね」
「あら?リアクションが薄いわね。アンタ好きだったでしょ?駅前のケーキ屋さんに売ってるプリン」
私は「うん」とだけ答えると、さっさと夕飯を済ませ自分の部屋へと戻って行った。
リビングの方から「あの子どうしちゃったのかしら?」「色々難しい年頃なんだろ」なんて両親の会話が聞こえたが、やっぱり私は気にしない。
今日も一日が終わる。
代わり映えのしない毎日。
最近はもうそんな事ばかり・・・と言うよりそれしか考えていなかった。
最初の内は友達に相談しようかと思ったりもしたけれど、これは自分自身の問題だからと誰にも言わずに今に至る。
解決の糸口も見付けられずにどうしたものかと心の内側に渦巻くモヤモヤを今日も見て見ぬ振りをして、ある種の諦めにも似た気持ちが芽生え始めたのを感じていた。
人生なんてなるようにしかならないだろう。
それでも明日には・・・そんな微かな希望を残して私は静かに眠りに就いた。
————窓からの陽射し。
セットしたアラームが鳴ったと同時に起床する。
時間は六時五十五分。普段と何ら変わらない朝の目覚め。
やっぱり何も変わらない。
私はゆっくり身体を起こすと、手にしたスマホをベッドに放り投げて大きく大きく溜め息を吐いた。
「これで何回目になるんだろ・・・」
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