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☆こーひーぶれいく☆番外編
殿と私の姫初め・前編
本編とはほとんど関係ございません。
とあるお正月の二人のイチャイチャ話として、お読みください。
********************************************
「お母さん、おかしくない?」
両手を広げながら鏡で自分の姿を見ながらも心配で、後ろに立つ母に再度確認する。
「大丈夫よ。私の腕を信用しなさい」
一仕事終えた母は、額の汗を拭いながら満足そうに微笑んでいた。
皆さま、あけましておめでとうございます。羽田野美月、成人式以来の晴れ着姿でございます。
今日は父と兄と一緒に、輝翔さんのご実家である須崎家にお年始のご挨拶に伺います。父と兄がご挨拶に行くのは毎年恒例だったけれど、今年は輝翔さんのお母様から、私も是非にとご招待を受けた。せっかくなら正装で伺おうと、カルチャースクールで着付けを学んだ母が腕を振るったというわけです。
白とピンクのグラデーションの着物には牡丹と桜が咲いている。金色の帯に帯締めと髪飾りは赤にして、帯揚げは着物に合わせたピンク色。立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花……とまではいかなくとも、こうしてみれば私だって少しは綺麗に見えるってものですよ。
「お待たせしました」
着付けを終えて向かったリビングでは、父と兄、そして沙紀さんが談笑していた。
声をかけた私を三人が一斉に振り返る。三人それぞれ何か言いたそうにしていたけど、真っ先に反応したのは沙紀さんだった。
「きゃあ!! 素敵よ、美月ちゃん。これなら輝翔さんも惚れ直すわね!!」
沙紀さんの言葉にその場の空気が微妙に濁ったような気がするのは、この際スルーしておこう。実際父は無言でソファから立ち上がると、車のキーを持って玄関へと私を促した。
「……お兄ちゃんは?」
身支度をする父をよそに、兄はテレビの駅伝に見入っている。てっきり三人で出掛けると思っていた私が声をかけると、代わりに沙紀さんが応えた。
「輝翔さんのお母様から、私とお義母さんも一緒にどうぞってお誘いがあったの。お義父さんたちはそのままお出かけするそうだから、終わる頃に悠一さんに連れて行ってもらうわ」
どうやら須崎家に挨拶を済ませた後、父はお母様と一緒に会社関係のお年始に出掛けるらしい。
「だったら私も、後から行った方がいいんじゃ……?」
仕事の邪魔になるのではないかと躊躇していると、遅れてリビングに戻った母に背中を押された。
「美月は輝翔くんが待ってるでしょう?蓉子さんも、美月の晴れ着姿を見たいんですって。ほら、早く行きなさい」
後から行ったって晴れ着姿は見れるのに、どうしてなんだろう。納得できずにもやもやした気持ちを抱えたままだったけれど、母に急かされた私は荷物を抱えて父の後を追った。
**********
「いらっしゃいませ、羽田野先生。新年あけましておめでとうございます」
須崎家に到着すると、着物姿の女性が三つ指!!ついて出迎えていた。
「おめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします」
挨拶しながら頭を下げる父に倣って、私も頭を下げる。女性は須崎家のお手伝いさんのようだ。父の挨拶が終わるまで伏せていた顔を上げると、私の姿を認めてパッと目を輝かせた。
「まあ、お嬢様でいらっしゃいますね。お初にお目にかかります。お噂通り可愛らしい方でいらっしゃる。さあ、奥様達がお待ちです。どうぞ、お上がり下さい」
可愛らしいお嬢様だなんて、照れますなあ。にやけそうになるのを必死で堪えて父を見れば、やっぱり憮然としたまま靴を脱いでいる。
いくら寡黙とはいえ、新年のめでたい日にまでそんな仏頂面とは、なんて愛想のない父親だろう。そんなに無口でどうして弁護士が務まっているのかが不思議で仕方ない。
「ねえ、お父さん。私、何かした?」
女性に先導されながら廊下を進む途中で、思い切って父に声を掛けてみた。ここに来るまでのそっけなさすぎる態度には何か理由があるのではと思った。
すると父はようやく足を止めてチラリとこちらを振り返る。
「……いや。お前は何も悪くない」
「じゃあなんでそんなにムスッとしてるのよ?」
初対面の女性でさえお世辞をくれたのに、父も兄も着物姿の私を今の今までスルーだし。だいたい、父は慣れているのかもしれないけど、私はこんなお屋敷に来るのは初めてなんだから、もう少し気を遣ってくれてもいいじゃない。
そんな私の言葉に、父は小さく溜め息を吐いた。
「……気を遣って欲しいのは、あの馬鹿女の方だ」
「──馬鹿女って、私のこと?」
父の言葉に被せるように、凛とした声が響き渡った。長い廊下の向こう側で、黒地に白の桜吹雪の舞った着物姿の姐さん──いやいや、輝翔さんのお母様が立っていた。
着物姿のお母様は、いつにも増して迫力がある。口角は上がっているもののその瞳は決して笑っているわけではなく、まっすぐこちら、いや、父を見据えながら近づくと、正面に仁王立ちした。
そんなお母様にも、父は全く表情を崩さない。
「あけましておめでとうございます、社長。貴女以外に誰がいますか?」
「はい、おめでとう。雇い主に対して随分な言い方ね」
「そりゃ、新年早々に着飾った娘を貢物にさせられれば、腹も立つさ」
「失礼ね。誰も貢物になんかしてないわよ」
しっかりと新年の挨拶を盛り込みながらも和やかな空気はなく、二人の間には冷たい火花がビシバシと飛んでいる。お互いに一歩も引く様子がなくて、これじゃお年始というよりも討ち入りだ。
「お母様、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします」
不穏な空気を打ち破るべく、お母様に向かって挨拶した。すると父と睨み合っていたお母様は、一転して満面の笑みで近づいて来る。
「美月ちゃん、あけましておめでとう!!」
両手を広げて、ギューッと……。今年も、やっぱりハグですか……。苦しい。
「……はあ、綺麗ねぇ。やっぱり女の子は華があるわね。これは輝翔が喜ぶわ」
お母様は私を隅々まで見つめながら感嘆の声を上げた。
「あの……、そう言えば、輝翔さんは……?」
「輝翔には美月ちゃんが来る時間を少し遅らせて伝えているの。きっと、離れで不貞腐れているわ」
輝翔さんには昨晩電話で父や兄と一緒に伺うと伝えていたのだけれど、今朝になって予定が変更になったとわざわざ伝え直したのだそうだ。
しかし、お母様はどうしてそんな嘘をついたのか。
「あら、意地悪じゃないわよ?愛しい息子へのサプライズプレゼントじゃないの」
悪びれた様子もないお母様に対して、父は盛大に溜め息を吐く。
「ほらみろ、やっぱり貢物だ」
「だったら断ればよかったじゃない」
「あれが断れる雰囲気だったか?」
「だって、輝翔より先に美月ちゃんの晴れ着姿を見ておかないと、見れなくなっちゃうじゃない。どうせ帰ってくる頃には着崩れちゃってるだろうし……」
「そういうことを父親の前で言うな」
またも火花を散らしはじめた二人の間に、傍らで待っていたお手伝いさんが割って入った。
「お二人とも、そろそろお時間です。お嬢様は私が離れへと案内いたしますので、どうぞお出かけになられてください」
「ごめんね、美月ちゃん。会社関係のご挨拶回りに出かけてくるから、帰ってきたらまたゆっくり話しましょうね。でも、なるべくゆっくり帰ってくるからね~」
「……いってらっしゃい」
お母様たちを見送り、私は輝翔さんのいる離れへと通された。母屋から繋がる渡り廊下を抜けると、奥まった座敷の襖の前で女性は止まり、その場にしゃがみこむ。
「失礼します。輝翔様、羽田野様がいらっしゃっておりますが、お通ししてもよろしいでしょうか?」
「──どうぞ」
襖の向こうの落ち着いた低い声に、胸が高鳴る。女性は輝翔さんの返事を待ってから襖を開けると、私に先に中へ入る様にと手で促した。
「失礼します」
襖に背を向けて座っていた輝翔さんが声を聞いてこちらを振り返り、私の姿を見て目を大きく見開いた。
「えっ……、美月!?」
「あけましておめでとうございます」
固まっている輝翔さんに、私はできる限りの笑顔で微笑みかけてみた。
「あ、おめでとうございます。ごめん、てっきり悠一かと思って……」
お母様のサプライズは、どうやら成功したようです。私は夕方にしか来ないと思っていた輝翔さんは、とても驚いた様子だった。
「──すごく、綺麗だ。」
輝翔さんは立ち上がると私の目の前まで進んで、両手を掴んで上から下までまじまじと見つめる。
「あの、そんなに、見ないでください……」
「どうして? こんなに綺麗なのに。あんまりにも綺麗すぎて、できればこのまま押し倒したいくらい……」
な、なにを言い出すんだこの人は!?
慌てて手を振り払おうとすると、背後からコホン、とひとつ咳ばらいが聞こえた。
──そうでした。お手伝いの女性が居たんでした。輝翔さんのくっさいセリフを他の人にも聞かれていたかと思ったら途端に恥ずかしさが沸き上って、いたたまれずに俯いた。輝翔さんは特に気にする様子もなく、お手伝いの女性も心得たもので、何事もなかったかのように淡々と自分の用事だけを伝える。
「輝翔様、奥様からのご伝言で、お着物だけは汚さないように、だそうです」
それを聞いた輝翔さんは、少しだけ考えた顔を浮かべると、すぐに小さく息を吐いた。
「──本当、下世話な母親。わかったよ、ありがとう」
用事を終えた女性は一礼をして部屋を出ていく。廊下を遠ざかっていく足音を聞きながら二人きりになった部屋を見渡すと、シュンシュンと蒸気を上げる釜と茶碗、茶筅なんかが目に入った。
「とりあえず、お茶でも、飲む?」
「……は、はい。いただきます」
とあるお正月の二人のイチャイチャ話として、お読みください。
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「お母さん、おかしくない?」
両手を広げながら鏡で自分の姿を見ながらも心配で、後ろに立つ母に再度確認する。
「大丈夫よ。私の腕を信用しなさい」
一仕事終えた母は、額の汗を拭いながら満足そうに微笑んでいた。
皆さま、あけましておめでとうございます。羽田野美月、成人式以来の晴れ着姿でございます。
今日は父と兄と一緒に、輝翔さんのご実家である須崎家にお年始のご挨拶に伺います。父と兄がご挨拶に行くのは毎年恒例だったけれど、今年は輝翔さんのお母様から、私も是非にとご招待を受けた。せっかくなら正装で伺おうと、カルチャースクールで着付けを学んだ母が腕を振るったというわけです。
白とピンクのグラデーションの着物には牡丹と桜が咲いている。金色の帯に帯締めと髪飾りは赤にして、帯揚げは着物に合わせたピンク色。立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花……とまではいかなくとも、こうしてみれば私だって少しは綺麗に見えるってものですよ。
「お待たせしました」
着付けを終えて向かったリビングでは、父と兄、そして沙紀さんが談笑していた。
声をかけた私を三人が一斉に振り返る。三人それぞれ何か言いたそうにしていたけど、真っ先に反応したのは沙紀さんだった。
「きゃあ!! 素敵よ、美月ちゃん。これなら輝翔さんも惚れ直すわね!!」
沙紀さんの言葉にその場の空気が微妙に濁ったような気がするのは、この際スルーしておこう。実際父は無言でソファから立ち上がると、車のキーを持って玄関へと私を促した。
「……お兄ちゃんは?」
身支度をする父をよそに、兄はテレビの駅伝に見入っている。てっきり三人で出掛けると思っていた私が声をかけると、代わりに沙紀さんが応えた。
「輝翔さんのお母様から、私とお義母さんも一緒にどうぞってお誘いがあったの。お義父さんたちはそのままお出かけするそうだから、終わる頃に悠一さんに連れて行ってもらうわ」
どうやら須崎家に挨拶を済ませた後、父はお母様と一緒に会社関係のお年始に出掛けるらしい。
「だったら私も、後から行った方がいいんじゃ……?」
仕事の邪魔になるのではないかと躊躇していると、遅れてリビングに戻った母に背中を押された。
「美月は輝翔くんが待ってるでしょう?蓉子さんも、美月の晴れ着姿を見たいんですって。ほら、早く行きなさい」
後から行ったって晴れ着姿は見れるのに、どうしてなんだろう。納得できずにもやもやした気持ちを抱えたままだったけれど、母に急かされた私は荷物を抱えて父の後を追った。
**********
「いらっしゃいませ、羽田野先生。新年あけましておめでとうございます」
須崎家に到着すると、着物姿の女性が三つ指!!ついて出迎えていた。
「おめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします」
挨拶しながら頭を下げる父に倣って、私も頭を下げる。女性は須崎家のお手伝いさんのようだ。父の挨拶が終わるまで伏せていた顔を上げると、私の姿を認めてパッと目を輝かせた。
「まあ、お嬢様でいらっしゃいますね。お初にお目にかかります。お噂通り可愛らしい方でいらっしゃる。さあ、奥様達がお待ちです。どうぞ、お上がり下さい」
可愛らしいお嬢様だなんて、照れますなあ。にやけそうになるのを必死で堪えて父を見れば、やっぱり憮然としたまま靴を脱いでいる。
いくら寡黙とはいえ、新年のめでたい日にまでそんな仏頂面とは、なんて愛想のない父親だろう。そんなに無口でどうして弁護士が務まっているのかが不思議で仕方ない。
「ねえ、お父さん。私、何かした?」
女性に先導されながら廊下を進む途中で、思い切って父に声を掛けてみた。ここに来るまでのそっけなさすぎる態度には何か理由があるのではと思った。
すると父はようやく足を止めてチラリとこちらを振り返る。
「……いや。お前は何も悪くない」
「じゃあなんでそんなにムスッとしてるのよ?」
初対面の女性でさえお世辞をくれたのに、父も兄も着物姿の私を今の今までスルーだし。だいたい、父は慣れているのかもしれないけど、私はこんなお屋敷に来るのは初めてなんだから、もう少し気を遣ってくれてもいいじゃない。
そんな私の言葉に、父は小さく溜め息を吐いた。
「……気を遣って欲しいのは、あの馬鹿女の方だ」
「──馬鹿女って、私のこと?」
父の言葉に被せるように、凛とした声が響き渡った。長い廊下の向こう側で、黒地に白の桜吹雪の舞った着物姿の姐さん──いやいや、輝翔さんのお母様が立っていた。
着物姿のお母様は、いつにも増して迫力がある。口角は上がっているもののその瞳は決して笑っているわけではなく、まっすぐこちら、いや、父を見据えながら近づくと、正面に仁王立ちした。
そんなお母様にも、父は全く表情を崩さない。
「あけましておめでとうございます、社長。貴女以外に誰がいますか?」
「はい、おめでとう。雇い主に対して随分な言い方ね」
「そりゃ、新年早々に着飾った娘を貢物にさせられれば、腹も立つさ」
「失礼ね。誰も貢物になんかしてないわよ」
しっかりと新年の挨拶を盛り込みながらも和やかな空気はなく、二人の間には冷たい火花がビシバシと飛んでいる。お互いに一歩も引く様子がなくて、これじゃお年始というよりも討ち入りだ。
「お母様、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします」
不穏な空気を打ち破るべく、お母様に向かって挨拶した。すると父と睨み合っていたお母様は、一転して満面の笑みで近づいて来る。
「美月ちゃん、あけましておめでとう!!」
両手を広げて、ギューッと……。今年も、やっぱりハグですか……。苦しい。
「……はあ、綺麗ねぇ。やっぱり女の子は華があるわね。これは輝翔が喜ぶわ」
お母様は私を隅々まで見つめながら感嘆の声を上げた。
「あの……、そう言えば、輝翔さんは……?」
「輝翔には美月ちゃんが来る時間を少し遅らせて伝えているの。きっと、離れで不貞腐れているわ」
輝翔さんには昨晩電話で父や兄と一緒に伺うと伝えていたのだけれど、今朝になって予定が変更になったとわざわざ伝え直したのだそうだ。
しかし、お母様はどうしてそんな嘘をついたのか。
「あら、意地悪じゃないわよ?愛しい息子へのサプライズプレゼントじゃないの」
悪びれた様子もないお母様に対して、父は盛大に溜め息を吐く。
「ほらみろ、やっぱり貢物だ」
「だったら断ればよかったじゃない」
「あれが断れる雰囲気だったか?」
「だって、輝翔より先に美月ちゃんの晴れ着姿を見ておかないと、見れなくなっちゃうじゃない。どうせ帰ってくる頃には着崩れちゃってるだろうし……」
「そういうことを父親の前で言うな」
またも火花を散らしはじめた二人の間に、傍らで待っていたお手伝いさんが割って入った。
「お二人とも、そろそろお時間です。お嬢様は私が離れへと案内いたしますので、どうぞお出かけになられてください」
「ごめんね、美月ちゃん。会社関係のご挨拶回りに出かけてくるから、帰ってきたらまたゆっくり話しましょうね。でも、なるべくゆっくり帰ってくるからね~」
「……いってらっしゃい」
お母様たちを見送り、私は輝翔さんのいる離れへと通された。母屋から繋がる渡り廊下を抜けると、奥まった座敷の襖の前で女性は止まり、その場にしゃがみこむ。
「失礼します。輝翔様、羽田野様がいらっしゃっておりますが、お通ししてもよろしいでしょうか?」
「──どうぞ」
襖の向こうの落ち着いた低い声に、胸が高鳴る。女性は輝翔さんの返事を待ってから襖を開けると、私に先に中へ入る様にと手で促した。
「失礼します」
襖に背を向けて座っていた輝翔さんが声を聞いてこちらを振り返り、私の姿を見て目を大きく見開いた。
「えっ……、美月!?」
「あけましておめでとうございます」
固まっている輝翔さんに、私はできる限りの笑顔で微笑みかけてみた。
「あ、おめでとうございます。ごめん、てっきり悠一かと思って……」
お母様のサプライズは、どうやら成功したようです。私は夕方にしか来ないと思っていた輝翔さんは、とても驚いた様子だった。
「──すごく、綺麗だ。」
輝翔さんは立ち上がると私の目の前まで進んで、両手を掴んで上から下までまじまじと見つめる。
「あの、そんなに、見ないでください……」
「どうして? こんなに綺麗なのに。あんまりにも綺麗すぎて、できればこのまま押し倒したいくらい……」
な、なにを言い出すんだこの人は!?
慌てて手を振り払おうとすると、背後からコホン、とひとつ咳ばらいが聞こえた。
──そうでした。お手伝いの女性が居たんでした。輝翔さんのくっさいセリフを他の人にも聞かれていたかと思ったら途端に恥ずかしさが沸き上って、いたたまれずに俯いた。輝翔さんは特に気にする様子もなく、お手伝いの女性も心得たもので、何事もなかったかのように淡々と自分の用事だけを伝える。
「輝翔様、奥様からのご伝言で、お着物だけは汚さないように、だそうです」
それを聞いた輝翔さんは、少しだけ考えた顔を浮かべると、すぐに小さく息を吐いた。
「──本当、下世話な母親。わかったよ、ありがとう」
用事を終えた女性は一礼をして部屋を出ていく。廊下を遠ざかっていく足音を聞きながら二人きりになった部屋を見渡すと、シュンシュンと蒸気を上げる釜と茶碗、茶筅なんかが目に入った。
「とりあえず、お茶でも、飲む?」
「……は、はい。いただきます」
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