ヒーロー劣伝

山田結貴

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第一話 史上最低・最悪のヒーロー

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 ヒーローとは、弱きを助け悪をくじく正義の象徴。
 その多くは非の打ちどころのない才知・武勇を持ち、高潔で慈善的な心を持った完璧な存在として描かれる。
 しかし、全てのヒーローがそうである保証はどこにもない。

 最悪だ。
 花咲美江はなさきみえは、二十四年の人生の中で一番の絶望を味わっていた。
 先日、派遣社員として勤務していた会社に契約を更新してもらうことができず、実質解雇されてしまったのだ。それもこれも、日本経済の不況のせいである。
 しばらくの間ならば、なけなしの貯金を切り崩していけばまともな生活くらいはできるだろう。だが、それがいつまで持つかなんてたかが知れている。真っ当な仕事であるならば何でもいい。新しい職を探さなくては。
 無職となってしまった日からすぐに思い立ち、仕事を探し求めたが、今の今までいくら求人誌による求人情報に頼ろうが、職業安定所に泣きつくように通い詰めようが職には恵まれなかった。
 いっそ親元に帰ってニートかフリーターにでもなった方が楽だろうか……。
 そんな甘ったれた考えが頭をかすめる日々が続く中、美江の目にあるものが飛び込んできた。
「監視役、募集中?」
 それは、いつものように職業安定所に行き、元気よく突っぱねられた日の昼時であった。
 通りかかった道の電柱に、明らかに手書きと思われる求人チラシがあった。セロハンテープで角の四隅を、ぞんざいに貼り付けられている。
 内容を見てみると、募集先の住所や連絡先の他に『どんな相手とでもコミュニケーションをとれる自信のある方、大大大大歓迎!』と、やたらと太いマジックペンで書かれていた。
「これ、正社員の募集かな」
 バイトや契約社員みたいにあっさり切り捨てられてしまう立場はもうごめんだ。
 美江はこの時、このチラシの内容が少々風変わりであることについては全く気にもとめず、真っ先にそんなことを考えた。『溺れる者はわらをも掴む』ということわざがあるが、その心境に実際に陥ってしまった人間の発想というものは恐ろしいものである。
「応募してみようかな」
 コミュニケーション能力については自信がある。もしかすると、天職に巡り合えるかもしれない。
 美江は半ばやけっぱちになりながら、携帯電話でチラシに書かれた連絡先に電話をかけた。
「はい。こちらKTHケーティーエイチ。どういったご用件でしょうか」
 携帯電話から聞こえてきたのは、男性の声であった。
 わりと気さくな口調で、よく通る低音の美声である。
「あの、チラシの求人情報を拝見しまして。その、応募を」
「えっ、本当? いやぁー嬉しいなあ。チラシ見て応募してきたの、貴女が初めてだよ」
「……え?」
 何だこの人。敬語だったの、最初の数秒だけ?
 男性の話し方が急に砕けたため、美江は反射的に眉をひそめた。
「うーん、やっぱりあんまり人通りがない場所にチラシを貼ってたのがいけなかったのかな。でも、今こうして勇気ある応募者が出たから結果オーライかな……」
「あの、そろそろ話を元に戻していただいてもよろしいでしょうか」
「ああっと、ごめん。応募が嬉し過ぎてつい興奮してしまった。で、もしかして何か聞きたいことでも? それなら、今すぐにでも面接して、その時に詳しいことを話すよ。住所はチラシに書いてあるよね」
「いや、あの、その」
「KTHはその住所のところにあるビルの中の変な扉の先だからすぐにわかるよ。僕の名前は黒沢。貴女は?」
「は、花咲です」
「花咲さんね。じゃ、この後面接で」
「あ……」
 何だか美声の男性のペースに流されているうちに、面接の予定を決められた上に電話を切られてしまった。
 普通は互いの都合のいい日を話し合って、後日に面接という流れが妥当であるはずなのだが、あの男性はその辺りを考えようとは思わなかったのだろうか。
 ……悲しいかな。美江は今いつでも暇を持て余している身なので、すぐに面接に来いと言われても全く困りはしないのだが。
「大丈夫なのかな、こんなんで」
 少々不満が募りつつも、無職である身を考えればぜいたくなんて言っていられない。
 美江は顔を曇らせながらも、チラシに書かれた住所へと向かっていった。
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