ヒーロー劣伝

山田結貴

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第三話 怪人ライブwithヒーロー

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 いまいちもやもやとした気持ちが晴れないまま、あっという間に三日が経過した。
「ヒーローに甘い期待を抱き過ぎ、か」
 溜め息交じりに呟きながら、陰鬱な表情を浮かべる。
 気分の悪さくらい時が解決してくれるだろうと思っていたが、どうしてもスッキリしない。
「で、あいつはどこにいるのかしら」
 美江は現在、先日に訪れた公園からほど近いところにあるライブハウスに来ていた。
 無論、プライベートとしてではなく仕事の一環としてだ。
 三日前に永山との口論を終えた後、美江はKTHに戻り、公園で得た情報を細かく黒沢に報告していた。その時、黒沢からこのような指示を受けたのである。
『また怪人が出現した時にヒーローが間に合わないなんてことがあったら困るしなあ……そうだ、花咲君。悪いけど三日後、外道君にずっと張りついていてくれないかな。で、僕が彼に怪人の情報を送ったら、すぐさま現場に駆けつけるように説得して。大丈夫、外道君の居場所だったらGPS機能で簡単にわかるから。居場所は随時携帯電話に送るからさ。よろしく!』
 それに従ってここまで来たわけだが、指示された場所が何故だかライブハウスだったというわけである。どういう偶然か、怪人達が姿を現すと宣言していた場所と一致していたのだ。
 だが、一口にライブハウスといっても、この地域には何か所かそういった場所があると美江は聞いたことがあった。
 まさか、ここに出没する確率は……多分、低いだろう。
「でも、よりによって……ねえ?」
 このライブハウスは規模が小さく、座る場所すらない。あるのは実質の立ち席と、いかにも使い古しといった感じのステージ。客はいるにはいるが、かなりまばらである。
 怪人達の目的が多くの人に演奏を聞かせることにあるのであれば、もっとほかの場所を選ぶはずだ。さらに駄目押しするならば、ヒーローがいる場所に都合よく怪人が現れるようなことがそう何度も起きるなんて考えられない。いや、現実世界においてご都合主義的な展開が起きてばかりでたまるか。
「で、永山はどこ?」
 美江は気を取り直して、辺りを見回す。
 暗い配色の壁に囲まれた空間の中に、ずいぶんとウキウキとした少人数の客達。心なしか、女性の比率の方が高い印象だ。若い男性の姿もちらほら見えるが、永山はそこには混じっていない。
「そもそも、どうしてあいつがこんなところに。音楽にお金を使う奴とは思えないんだけど」
 このライブハウスの本日の入場料は千円。美江は経費で落としてもらうつもりであるが、永山がここに客として訪れたのならば、奴も入場料を支払わなければならないはずだ。
 あの金の亡者が、音楽をしばしの間堪能するためだけに金を払うなんて考えにくい。奴が予想に反して余程の音楽好きであるとすれば、話は別であるが。
「妥当な線で考えるんだったら、ここのスタッフとしてバイトしてるとか? でも、それらしい人も全く見ないし」
 ブツブツ言っているうちに、照明が落とされて辺りが真っ暗になった。
 ステージだけがピンポイントで照らされ、周囲の注目が集まる。
「ヘーイ! レディース&ジェントルメン。盛り上がってるかーい!」
 ステージの上手から、蛍光色のジャケットを着込んだ時代錯誤風の男が歩いて進行を始めた。
 とてもそういう感じには見えないのだが、おそらくここのライブハウスの司会者なのだろう。
「イエーイ!」
「ヒュー!」
 まばらな客達が、司会者に向かって異常な熱気で返事をする。
 こういった場に全くといっていいほど慣れていない美江には、彼らの心情はさっぱり理解できそうになかった。
「本日素敵な音楽を俺達の熱いハートに響かせてくれるのは、あの『ジミー&リューブラザーズ』だ! 最高のサポートメンバーを引きつれて、ヒートなミュージックをここに刻んでくれるぜ!」
 あのジミー&リューブラザーズって言われても、そんな名前なんて聞いたことないし。しかも、熱い音楽をどうやってステージに刻み込むというのだ。
 ああ、もう帰りたい。許されることなら、仕事をほっぽり出して今すぐ家に帰りたい。
 この場のノリについていけないと思った美江は、どんよりとした心地にとらわれてしまった。
「では、『ジミー&リューブラザーズ』。カモーン!」
 司会者は大げさな素振りをしながらステージの下手にはけていき、代わりに上手から四人組の男が上がってきた。
「ふーん。これがジミー&リューブラ……って、ええっ!」
 彼らがステージの中心に立ち、スポットライトを浴びてその姿をはっきり見せるなり、美江は仰天してひっくり返りそうになってしまった。
 先程の心の声にもあったように、美江はジミー&リューブラザーズなどという、いかにもマイナーそうなバンドなんて見たことも聞いたこともない。
 だが、その中に嫌というほど見覚えのある顔があったのだ。
「な、な、永山っ!」
 前列に並んだ男二人の右斜め後ろに、エレキギターを持った永山が立っていた。
 いつもは後手に束ねている髪を下ろし、上は黒の革ジャンに白のタンクトップ。下はタイトなズボンにこじゃれた革靴という、普段のボロジャージスタイルからは想像がつかないような、本物のミュージシャンを連想させる格好をしているが間違いない。その証拠に、手首には身につけている衣服とは不釣り合いなKTシーバーが巻かれている。
「あいつ、バンドなんてやってたわけ? 嘘でしょ」
 そんな話、一度たりとも聞いた覚えがない。
 ……もとい、永山に対する興味・関心が一切なかったので、立ち入ったことを尋ねたことがなかった。
「今日は一段と盛り上がっていこうぜ!」
 前列で目立つ男のうち、右側の方の男が鼓舞するように叫んだ。
 この二人のうち、どちらかがジミーでどちらかがリューなのだろうか。よく見ると顔立ちが似ているので、もしかすると本物の兄弟なのかもしれないが、そんなことはどうでもいい。
「行くぜ、まずは一曲目! 俺達の代表曲『太陽と月のカンケイ』を聞いてくれ!」
 左にいる方の男が叫ぶと、その斜め後ろに立っているパッとしない感じの男がキーボードの演奏を始めた。それに合わせて永山がギターをかき鳴らすと、客達はさらに熱狂し始めた。
「う、うまい……」
 歌はよく似た声質をした前列の二人が、人並程度の歌唱力で「俺達は近いようで遠くて触れ合えない」だの「ああ、僕は君に照らされるだけの哀れな月なのさ」だのとダサい上に臭い歌詞を恥ずかしげもなくハモるといった感じであるが、後ろのバックバンドの演奏が抜きんでている。特に、永山のギターが別格だ。
 その様は、普段の外道っぷりからは想像がつかないくらいに……悔しいくらいに、格好がついている。
「キャー!」
「こっち向いてー!」
 女性客のほとんどは、メインであるはずのボーカル二人はそっちのけで、永山にばかり注目している。重度の者に至っては、歌を完全に無視して携帯電話で永山の写真を撮りまくっている始末だ。
 ……仮にも歌手のライブだというのに、いいのか? これで。
「にしても、あんな奴でも運動神経以外にすごいものってあるのね」
 美江は周囲の状況に呆れかえりつつも、色々と考えていた。
 特撮物のヒーローというのは、大体は何でもかんでも器用にこなす完全無欠の存在として描かれている。ひょっとすると、永山は欠陥まみれの性格以外の点においてはその条件をちゃっかり満たしているのだろうか。
 ……それに対し、世の中の不条理というものを感じてしまうのはいけないことだろうか。
「あんたら、邪魔だよ。そこをどきな!」
「?」
 曲が終盤に差しかかり、会場がヒートアップしきっていたその時だった。
 入口のドアがバンっ! と音を立てながら勢いよく開き、中に闖入者どもがどっと流れ込んできた。
 客やステージ上のミュージシャン達は、ざわめきつつ一斉にそちらの方へと注目を向けた。
「……」
 しかし、どういうわけか永山だけはがむしゃらにギターを弾き続けたままそちらに見向きもしない。
「あ……!」
 美江は乱入してきたやからを確認するなり、口をポカンと開けて固まってしまった。
 ライブ中に入ってきたのは、紛れもなくあの怪人バンドの三人組であった。ヒーローがいる場所に怪人の方からひょっこりと姿を見せるなんて。本当にこんなことになるとは。ご都合主義的な展開は、もう勘弁していただきたいと思っていたのに。
「こっからはあたい達の時間だよ。地球のボーヤ達は、さっさとそこから降りな」
 リーダー格であるセイコーが聞き苦しいしゃがれ声で言うと、ボーカルの二人は実に不愉快そうな顔をしながら歌うのをピタりとやめた。
 キーボード担当の男は、その雰囲気に臆してしまったらしく一人オロオロするばかりだ。
 空気が張りつめた狭い空間の中に、永山が空気を読まずに弾き続けるギターの音色だけが鳴り響く。
「は? 何だお前ら」
「今は俺達の時間だ。さっさと失せろ」
 ボーカルの二人は相次いで言いながら、怪人バンドを睨みつける。
 それに合わせ、客達は帰れコールやブーイングを邪魔者達に浴びせ始めた。
「失せろだと? それはこっちの台詞だ」
 スキンヘッドが、頭に生えた角をなでながらニタりと笑った。
「さーさーお客さん。こんなしょぼいバンドの演奏なんかより、俺達のパンチ効きまくりのセッションを聞いて下さいよー」
 赤髪がそう言ったのを皮切りに、怪人達は強引にステージへと上がってきた。
「おいっ神聖なステージに上がってくるんじゃねえ!」
 ボーカルの片方が声を荒らげ、客達のブーイングもますます音量が増していく。
 しかし、そんなちっぽけな声は一瞬にしてかき消されることとなった。
「うぎゃあ! な、何だこの音はっ」
「耳が痛い……死ぬっ!」
 怪人バンド達が、とうとうあの泣く子もわめくような地獄のメロディを奏で始めてしまった。
 音がよく響く狭い空間の中で、大音量で不協和音を掻き立てられてはたまったものではない。近くにいたジミー&リューブラザーズを始めとして、この場にいるほとんどの者が騒音に苦しみ悶え始めた。
「WO~♪ WO~♪ WO~!」
 耳が裂けそうな演奏の中で、セイコーがそれに負けないと言わんばかりに声を張り上げる。
 かろうじてうっすらと聞こえていた永山のギターも、とうとうかき消されてしまった。
「に、に、逃げろー!」
 客達やライブハウスの従業員達が、次々に出入口から外へと飛び出していく。ジミー&リューブラザーズのメンバーもまた、先程までの威勢はどこへやったのか、マイクを放り投げて逃げてしまった。
 出入口のドアが、開けっぱなしのままむなしく揺れる。演奏開始から一分も経たないうちに、この場にいる人間はうずくまったまま動けなくなってしまっている美江と、いまだにギターを弾き続けている永山だけになってしまった。
「……おい」
 やかましく響き渡っていた騒音が急に止んだかと思うと、怪人達はステージの後方に視線を傾けた。
「そこのギター。いつまで弾いてやがるんだ。俺達のワンマンライブの邪魔になってんぞ」
 スキンヘッドが、どすのきいた声で威圧する。それでもなお、永山は手を止めるどころか怪人達と目を合わせることすらしない。
 すると今度は、赤髪の方がからみ始めた。
「おいコラ。いい加減にしねえとそのギターをへし折るぞ」
「うっせーな。てめえの腕をへし折られたくなかったら、そのアホ面を引っさげてとっとと失せろよ」
「な、何だとてめえ!」
 暴言をもろに浴びせられた赤髪は、自身のギターをスキンヘッドに預けてから俊敏な動きで永山に殴りかかった。だが。
「人のバイトの邪魔すんな」
「ぎゃあっ!」
 永山はそれをあっさりとかわした後、赤髪の腹に回し蹴りをぶちかました。
 赤髪はステージから転がり落ちると、痛みにあえぎながらゲホゲホとむせた。
「ったく、一回痛い目を見ないと理解しない奴らだな。いいか、俺は今、ナントカっていうバンドのサポートメンバーとしてギターの演奏をしてるところなんだよ。たった四曲演奏するだけで日当五千円。なかなかいいだろ? 俺はな、もらった金に見合う分だけの仕事はするんだ。だから、あと三曲分弾くまで黙ってろ」
 言っていることと、やっていることが滅茶苦茶過ぎる。
 部屋の隅までどうにか逃げた美江は、永山がギターを弾き続ける理由を聞いて呆れ返ってしまった。
 現在の雇い主であるバンドメンバーや、演奏を熱を上げながら聞いてくれる客達が逃げた今、優先すべきことは絶対にそれではない。
 ……自分の仕事に対して律儀であることを自称するのであれば、まずは目の前にいる怪人を倒せ、馬鹿ヒーロー!
「ああっ! よくもレッダスを……この野郎!」
 メンバーが蹴り倒されるのを見て頭に血が上ったスキンヘッドは、自身も楽器を手放して永山に襲いかかった。怪人のゴツゴツとした拳が、永山の顔面目がけて飛んでいく。
「だから、今はやめろっつってんだろうが。……よし、これであと二曲」
 スキンヘッドの動きはなかなかの速さのはずだったが、それも永山はいとも簡単にかわしてしまう。しかも、ギター演奏を継続させたままだ。
 どうでもいいことなのかもしれないが、絶対に才能の使い方を間違っているように思える。
「くそっ地球人のくせに。覚悟しやがれ!」
 少しフラフラとしながらも、赤髪がようやく立ち上がった。そして、今度はスキンヘッドと二人がかりで永山に飛びかかった。
「ちっ」
 流石のヒーローでも、二対一では厳しいものがあるらしい。今までなめらかだった演奏が、段々と乱れ始めた。
 それでもなお、永山は一度たりとも怪人達にその身を触れさせはしなかった。
「狭いんだよな、ここ。思うように動けねえ」
 動きづらい原因はスペースの問題ではなくて、楽器を弾き続けている部分にあると思うのだが。
 美江は心の中で呟きつつも、狭いステージ上で繰り広げられる乱闘を見続けた。
 怪人達が攻撃を加えようしては、永山がさらりとかわし続ける。そんな進展のない攻防戦がしばらく続いたが、とうとう事態が一歩動いた。
「ちょっとあんた、あたいのことを忘れちゃいないかい」
「あ?」
 いつの間にやらセイコーが永山の背中に回り込み、奴のことを羽交い絞めにした。
 どう見ても華奢な腕をしているというのに、永山はそれを振り払おうとしない。相手が怪人であるがゆえに、やはりその力は人間とは比べ物にならないくらいに強いのだろうか。
「放せ、白塗りババア。その腐りきった声を、わざわざ耳元で聞かせてんじゃねえよ」
 それにも関わらず、永山は自分が不利である状況であるにも関わらず相手に怒りの火をつけるような暴言を平然と繰り出した。
 痛烈な口撃を受けたセイコーの厚化粧の顔は当然、みるみるうちに歪んでいった。
「し、白塗りババアですって? この地球人は……スキルム! レッダス! 今のうちにこいつをやっちまいな」
「わかしやした!」
リーダーからの指示を受け、スキンヘッドと赤髪が永山を取り囲む。
「お前、とうとうセイコーさんを怒らせちまったなあ。さーて、どうやって料理してやろうか」
 スキンヘッドが指をバキボキと鳴らしながら嘲るような笑みを浮かべた。
 その横で、赤髪がさらに永山に向かって威圧をかける。
「そうそう、世の中には言っていいことと悪いことがあるんだよ。例えそれが、事実だったとしてもな!」
「レッダス、あとでぶっ殺す」
「……ごめんなさい」
 セイコーが鷹よりも恐ろしい目で睨みつけると、赤髪は自身が口を滑らせてしまったことに気がつき、ビクッと肩を震わせて萎縮した。
 それを見た永山は、まるで喜劇でも見ているかのようにケラケラと笑い出した。
「はははっ。よくもごちゃごちゃと即興でコントなんかできるな。まあ、見た目も白塗りに、ハゲに、ニワトリ頭だし妥当なところか。ひょっとしたら、下手な漫才よりも面白いんじゃねえの? その害虫を死滅させる勢いの騒音バンドなんかやめて、消えるのを前提にして芸人になったらどうだ?」
「! ! !」
 強烈にもほどがある毒舌が繰り出されると、怪人達の表情が一変した。
 自分達は素晴らしいと思っているバンド活動を馬鹿にされたことは、彼らにとっては存在意義を全否定されたことと同義であるらしい。
「お、俺達の音楽を馬鹿にしやがって……許さねえ!」
「別にてめえらに許されようが許されまいがどうでもいいけどよ、殴られるのはごめんだな」
 いきり立った怪人二人が殴りかかろうとすると、永山は一瞬の隙をついて自身の身体を押さえつけるセイコーの腕を振り払った。
「ひいっ!」
 そして、セイコーの腕をわし掴みにし、かがみ込むような姿勢をとってそのまま前方に彼女を放り投げた。
「ぎゃあ!」
「うわあっ」
 スキンヘッドと赤髪が咄嗟に受け止めたため、彼女が床に叩きつけられることこそなかったが、それでも充分に痛そうである。
「あ、あんた。女に手を上げたわねっ」
 セイコーは子分二人に支えられ、逆さ吊りのような状態になりながら上ずった声で叫んだ。
 怪人の世界においても、男が女に攻撃を加えるのはご法度であるという認識は共通しているらしい。
「あ? この男女平等のご時世に何甘ったるいこと言ってんだよ。俺はな、必要とあらば男も女も関係なしに容赦なく退治するって決めてんだよ。そりゃあもう、どんな手段を使おうが平等にな!」
 この男、やっぱり最低だ。間接的に、女も殴ると言っていやがる。
 美江はもはや、何も言う気になれなかった。
 いくら相手が怪人とはいえ、その姿勢にはいかがなものかと思われる節が大いにあるだろう。例え、その外道発言が多少理に適っていたとしてもだ。
「でも、これ以上俺の主義を貫いたら監視役にあとからギャーピー言われそうだしなあ。よし、じゃあこの腐れバンドどもに丁度良さそうな手でも使うとするか」
 永山は嫌味ったらしく美江を方を一瞥した後、意味深なことを言ってからピョンとステージから飛び降りた。
「……お、あったあった」
 そして、ジミーだかリューだかの置き土産であるマイクを手に取ると、それをおもむろに口元へ近づけた。
「え? まさかあいつ、歌う気?」
 何故にこのタイミングで歌おうとしているのだ?
 そう思ったのは美江だけではないらしく、あまりにも突拍子もない行動を目の前にした怪人達もまた、軽くパニックを起こしていた。
「な、ななな……てめえ、一体どういうつもりだ!」
 スキンヘッドがごもっともな一言を放ったが、永山はそれを無視してただ微笑を浮かべるばかりである。
「ふざけやがって……覚悟しろ!」
 とうとう頭に血が上りきったらしい赤髪が、永山に向かって再び飛びかかろうとした。
 ……奴の行動の真意をこの場にいる全員が知ることとなったのは、それとほぼ同時であった。
「まひるのーそーらーにーひかーりかーがやくきみーはー」
「いっ……!」
 永山が大声で歌い出したのは、ジミー&リューブラザーズが歌っていた『太陽と月のカンケイ』であった。それが耳に飛び込んでくるなり、声を聞いた皆が皆、顔面を石化させられたかの如く硬直させた。
「ひ……ひ……ひどい!」
 美江は思わず怪人バンドの騒音騒ぎの時よりも強く耳を押さえ、苦悶の表情を浮かべながら絶叫してしまった。
 抜群の運動神経を誇り、なおかつ楽器まで華麗に弾きこなしてしまう容姿端麗なヒーローの口から放たれた歌……らしきものは、音程という音程がことごとく外れ倒していた。いや、この表現だけでは足りない。さらに言うのであれば、わざと音を外して歌っているのでは? と疑わしいくらいにメロディが本来の音程を一か所たりともかすめてすらいないのだ。それも大声かつ一本調子の歌唱法が恐ろしく不愉快で、さらにその聞き心地の悪さに拍車をかけている。それがマイクを通してライブハウス内に延々と反響し続けるものだから、たまったものではなかった。
「ぎゃああああ!」
「耳が……耳が腐る!」
「ひゃあああああー!」
 怪人達もまた、自分達の音楽を遥かに凌駕する歌を聞かされると、地獄の亡者にも負けないくらいの苦しみ方をし始めた。床をのたうち回っては、永山の歌をどうにか止めようと少しばかり動こうとする。しかし、力尽きてまたのたうち回る。その繰り返しであった。
「あーあーぼくはきみにてらされるだけのあわれなつきーなのーさーふたーりのーあいだにーながれるあまのがわがしずかにふたりをみまもってーいるーよー」
 いやいや、静かになんて絶対に見守ってないから。その歌詞に出てくる天の川、確実に氾濫しまくっちゃってるから。少なくとも二人が……出会う……こと……は……。
 美江の意識は、太陽と月が結局どんな結末を迎えることとなったのかを聞き終える前にぷっつりと途絶えてしまった。
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