墓標の雲~チェイサー(改題)~

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終わらない夏

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『すべての雲には銀の裏地がある。』という言葉を初めて知ったのはいつの頃だっただろう。
高校の頃の物知りな『博士』と呼ばれていた彼だろうか?それとも敬愛するあの小説家だろうか?ひょっとしたら幼い頃に両親から教えてもらったのかもしれない。

お盆休みも10日程前に終わり、セミの声も聞こえなくなってきたのに、今日もアスファルトの照り返しがきつく自転車で坂道を登っているのも相まって汗が止まらない。
朝のニュース番組のお天気コーナーでは今週一杯はずっと猛暑日と言っていたが、それも納得するほどの暑さだ。
それにしても…、今の世の中ではスマホでいくらでも情報が得られるのに、何故朝起きたら、いつものようにすぐにテレビをつけて、いつもと同じチャンネルのボタンを押して、洗面所に向かい歯磨きをしながら先週始まった新しい映画の舞台挨拶を聞き、冷蔵庫から麦茶を出して、洗面所に行く前に焼いていたパンと一緒に胃に流し込みながら今日の降水確率ー今日も0%だったーを見てしまうんだろう。

別にもう…起きた時には既にテレビがついていて、大きなあくび終わりに珈琲を飲む人も、トーストを焼いてサラダまで用意して、毎回スクランブルエッグを調理してくれる人もいないのに。

そう思ってしまったらいつもは登りきるのに、坂の中腹程で誰に言い訳するでもなく『ペダルに負担かかるからなぁ…』とつぶやき、そこからゆっくりと自転車を降り、コンクリートの丸いリングを横目に歩き出す。
ふと、進行方向に顔を上げると坂の頂上のさらに向こう、青い空を押しのけて真っ正面に入道雲が鎮座してるのを見ると、こんなものが本当に形を変えるのかと不思議に思えてくる。
と、思ってる間にも雲の右側が少しずつ広がり、面積が広がっていく。

【ひとはしんだらおほしさまになるんだよ。】と子供の時に言われたけれど、高校生の時に両親が焼かれて、今みたいに火葬場から煙が出ないなんて事もなく、黒い煙がモクモクと立ち上っていくのを「いや、(雲になる)の方が現実的じゃね?」と全てが薄まって、何もなかったかのような青い空になるまで見つめていた。
だからだろうか…入道雲だろうが、雨雲だろうが、とある瞬間に感じてしまう。

その美しさを。
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