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恋の形を忘れた僕らは
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窓の外、ゆっくりと黒い空から群青色に染められてゆく。
郊外のロードサイドにあるマイナーなファミリーレストランで、バイト終わりにくだを巻く2人が向かい合わせに座っている。
「だる~…明日も一限からだわ。」
突っ伏して、窓の外を見ながらグラスに刺さったストローを器用に飲む黒髪のストレートヘアの女性が呟く。
「マジ?言ってくれたら、仕事終わりにそのまま送ったのに。」
冷えきった鉄板の上のブロッコリーを突つきながら髪を後ろで束ねた男が口を開く。
どちらも20代前半に見えて、徹夜を苦とも思って無さそうだった。
午前5時の7分前、もうすぐ世界が動き出そうとしていた。
「だって、マカロニグラタン食べたかったんだもん…それに。」
「それに?」
「たまに無性に下らない馬鹿話しながら、気の会う仲間と朝を迎えたくならん?」
「まぁ、その気持ちは分からんでもない。」
「だしょ?…っていうか、毎回ブロッコリー残すけど、そんなら頼まなきゃ良いじゃん。」
「好きなんだよ、ここのチーズハンバーグ。」
「いつも、先に言ってくれたら食べんのにさ。」
「ん~…自分の嫌いなもの、人に上げるの嫌な気持ちにならない?」
「そういうもんかなぁ…あぁ~、このまま朝日でも見に行きてえ~。」
両手を上げ、大きく伸びをする女性。
「俺は構わねぇけど。」
「ダメダメ、あんたも一限からって仕事中言ってたじゃん。サボって留年でもしたら絶交だかんね。」
「へいへい…」
「さっ、そろそろ帰ろうか。」
「あのさぁ…」
「ん?」
「…いや、何でもねぇ。」
上着を羽織ろうと袖を通した手を止める女性。
「何よ、言いたいことあるなら言いな?相談ならのるぜ。」
2、3度右手を開き、その手をじっと見つめる男性。
「いや、やっぱり何でもねぇ…」
「そう?あんま溜め込むなよ~。さっ、帰ろうぜ~。」
口の中で【この関係ってなんだろうな?】と呟いてみる。
「ん?」
「だから、なんでもねぇって?」
同じバイト先、もちろん連絡先も知ってて、休みの日には遊びにも行く。
寝た事だって、一度や二度ではない。
でも、どうしようもなく何かが満ち足りていない。
こういう感情の名前の付け方は、きっと誰も教えてくれないんだろう。
仲間でもある。
友達でもある。
胸の中にしまって、伝えていない言葉がある。
言葉にしたら、どういう結果になっても今のこの関係には戻らないからか?
それが怖いから言えないのか?
「おぉ~さすがに、この時間は寒いね~。」
寒そうに肩を縮め、こちらに向かってニヤリと笑う彼女を見て思った。
あぁ…なんだ。
そうか、単純な話だった。
この笑顔も、ファミレスでウダウダしてる姿も、寝ぼけ眼であくびをする声も。
全部、全部。
俺のモノにしたいんだ。
郊外のロードサイドにあるマイナーなファミリーレストランで、バイト終わりにくだを巻く2人が向かい合わせに座っている。
「だる~…明日も一限からだわ。」
突っ伏して、窓の外を見ながらグラスに刺さったストローを器用に飲む黒髪のストレートヘアの女性が呟く。
「マジ?言ってくれたら、仕事終わりにそのまま送ったのに。」
冷えきった鉄板の上のブロッコリーを突つきながら髪を後ろで束ねた男が口を開く。
どちらも20代前半に見えて、徹夜を苦とも思って無さそうだった。
午前5時の7分前、もうすぐ世界が動き出そうとしていた。
「だって、マカロニグラタン食べたかったんだもん…それに。」
「それに?」
「たまに無性に下らない馬鹿話しながら、気の会う仲間と朝を迎えたくならん?」
「まぁ、その気持ちは分からんでもない。」
「だしょ?…っていうか、毎回ブロッコリー残すけど、そんなら頼まなきゃ良いじゃん。」
「好きなんだよ、ここのチーズハンバーグ。」
「いつも、先に言ってくれたら食べんのにさ。」
「ん~…自分の嫌いなもの、人に上げるの嫌な気持ちにならない?」
「そういうもんかなぁ…あぁ~、このまま朝日でも見に行きてえ~。」
両手を上げ、大きく伸びをする女性。
「俺は構わねぇけど。」
「ダメダメ、あんたも一限からって仕事中言ってたじゃん。サボって留年でもしたら絶交だかんね。」
「へいへい…」
「さっ、そろそろ帰ろうか。」
「あのさぁ…」
「ん?」
「…いや、何でもねぇ。」
上着を羽織ろうと袖を通した手を止める女性。
「何よ、言いたいことあるなら言いな?相談ならのるぜ。」
2、3度右手を開き、その手をじっと見つめる男性。
「いや、やっぱり何でもねぇ…」
「そう?あんま溜め込むなよ~。さっ、帰ろうぜ~。」
口の中で【この関係ってなんだろうな?】と呟いてみる。
「ん?」
「だから、なんでもねぇって?」
同じバイト先、もちろん連絡先も知ってて、休みの日には遊びにも行く。
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でも、どうしようもなく何かが満ち足りていない。
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言葉にしたら、どういう結果になっても今のこの関係には戻らないからか?
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「おぉ~さすがに、この時間は寒いね~。」
寒そうに肩を縮め、こちらに向かってニヤリと笑う彼女を見て思った。
あぁ…なんだ。
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全部、全部。
俺のモノにしたいんだ。
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