塚口真司短編集

文字の大きさ
8 / 9

恋の形を忘れた僕らは

しおりを挟む
窓の外、ゆっくりと黒い空から群青色に染められてゆく。

郊外のロードサイドにあるマイナーなファミリーレストランで、バイト終わりにくだを巻く2人が向かい合わせに座っている。


「だる~…明日も一限からだわ。」

突っ伏して、窓の外を見ながらグラスに刺さったストローを器用に飲む黒髪のストレートヘアの女性が呟く。

「マジ?言ってくれたら、仕事終わりにそのまま送ったのに。」

冷えきった鉄板の上のブロッコリーを突つきながら髪を後ろで束ねた男が口を開く。
どちらも20代前半に見えて、徹夜を苦とも思って無さそうだった。

午前5時の7分前、もうすぐ世界が動き出そうとしていた。

「だって、マカロニグラタン食べたかったんだもん…それに。」
「それに?」
「たまに無性に下らない馬鹿話しながら、気の会う仲間と朝を迎えたくならん?」
「まぁ、その気持ちは分からんでもない。」
「だしょ?…っていうか、毎回ブロッコリー残すけど、そんなら頼まなきゃ良いじゃん。」
「好きなんだよ、ここのチーズハンバーグ。」
「いつも、先に言ってくれたら食べんのにさ。」
「ん~…自分の嫌いなもの、人に上げるの嫌な気持ちにならない?」
「そういうもんかなぁ…あぁ~、このまま朝日でも見に行きてえ~。」
両手を上げ、大きく伸びをする女性。

「俺は構わねぇけど。」
「ダメダメ、あんたも一限からって仕事中言ってたじゃん。サボって留年でもしたら絶交だかんね。」
「へいへい…」
「さっ、そろそろ帰ろうか。」
「あのさぁ…」
「ん?」
「…いや、何でもねぇ。」

上着を羽織ろうと袖を通した手を止める女性。

「何よ、言いたいことあるなら言いな?相談ならのるぜ。」

2、3度右手を開き、その手をじっと見つめる男性。

「いや、やっぱり何でもねぇ…」
「そう?あんま溜め込むなよ~。さっ、帰ろうぜ~。」

口の中で【この関係ってなんだろうな?】と呟いてみる。

「ん?」
「だから、なんでもねぇって?」

同じバイト先、もちろん連絡先も知ってて、休みの日には遊びにも行く。

寝た●●事だって、一度や二度ではない。

でも、どうしようもなく何かが満ち足りていない。
こういう感情の名前の付け方は、きっと誰も教えてくれないんだろう。

仲間でもある。
友達でもある。

胸の中にしまって、伝えていない言葉がある。

言葉にしたら、どういう結果になっても今のこの関係には戻らないからか?
それが怖いから言えないのか?

「おぉ~さすがに、この時間は寒いね~。」
寒そうに肩を縮め、こちらに向かってニヤリと笑う彼女を見て思った。

あぁ…なんだ。

そうか、単純な話だった。
この笑顔も、ファミレスでウダウダしてる姿も、寝ぼけ眼であくびをする声も。

全部、全部。

俺のモノにしたいんだ。









しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

麗しき未亡人

石田空
現代文学
地方都市の市議の秘書の仕事は慌ただしい。市議の秘書を務めている康隆は、市民の冠婚葬祭をチェックしてはいつも市議代行として出かけている。 そんな中、葬式に参加していて光恵と毎回出会うことに気付く……。 他サイトにも掲載しております。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

処理中です...