異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

否が応でも視線が集まる

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今日の成果は角ウサギ3匹に薬草20本。
薬草集めサボっているわけではないですよ。見つかりにくくなってきているだけですよ。
同じ場所で取り過ぎたかな?明日からはクロと相談してちょっと新しい所を発掘してみようかな?
そんなことを考えつつ、いつものようにギルドへ帰ってくる。
今日はいつもの買い取り嬢ではなく別の人だ。お休みかしら?
角ウサギをカウンターに置くと、何故かがっかりしているような顔。

「今日はこれだけですか?」

「これだけですけど?」

「鳥とか猪とかは…」

「いや、そうしょっちゅう出会うものでもないんで」

何故か溜息を吐きながらも、査定を始める。
と、その辺りにいた冒険者のヒソヒソ声が少し聞こえて来た。

「なんか、今日の獲物は地味だな」

「普通だな。まあ、それでも角ウサギ3匹ってのも凄いっちゃ凄いけど」

何を期待されてるんだ私は。

「本当に喉元だけなんですね。綺麗なものです」

今日の買い取り嬢さんが感心したような声を出す。

「拝見いたしました。では、角ウサギ1匹銀貨2枚、薬草20本で銅貨2枚になりますが、宜しいでしょうか?」

「はい。お願いします」

銀貨6枚、銅貨2枚をもらう。
色々と向けられる視線を感じながら、ギルドを出る。
目立ちたくないのになぁ。目立ってる気がする…。
今日は宿屋のことも考えてゆっくり帰って来たので、もうお部屋に戻っても叱られないだろうと、宿屋へ直行。
ウララちゃんに笑顔で迎えられる。

「夕飯食べる頃に一声おかけ下さい。父がもの凄い頑張っていて、一番美味しい時に食べさせたいと申しておりますので」

「うわあ~、それは楽しみだなぁ。少しゆっくりして、早めに頂いちゃおうかな」

「先に体を拭きますか? そうしたら、後は食べてすぐに寝られますよ」

「・・・。そ、そうしようかな」

昨日は満足してそのまま寝ちゃったから、朝にちょっと湯を貰ったのよね。
食べる前に体を清めておけば、後は食べて寝るだけ。太りそうだな。
少しゴロゴロして(体力のない現代人は歩くだけでも疲れる)、お湯を貰って、空が暮れ始める頃に下へと降りて声をかけた。
最後の仕上げをするからしばらく待ってなと言われ、大人しく席に座って待つ。
今日の仕事を終えた冒険者パーティらしき人達も何組か宿に入ってきて、何かしら注文する。
食堂が一気にざわついてきた。
膝で丸まるクロの背を撫でながら、なんとなく緩んだ空気を味わっていると、良い匂いが漂い始めた。

「な、なんだ? この匂い…」

「う、美味そうだな…」

みんなその匂いに気付き、なんだなんだとざわつき始める。
やべ、これってあれの匂いだよね…。
昨日よりも香が強いというか、良い匂いなんだけど…。
クロも目を開け、テーブルの上に乗ってスタンバイ。
これが漫画なら涎でも垂らしてるんだろうけど…。

猫が涎を垂らすのは病気のサインです。病院へ連れて行きましょうね。

調理場の方から、ウララちゃんのお母さんが、料理を持ってこちらへとやって来た。
ウララちゃん似の美人で、この場合ウララちゃんがお母さん似というのか?、胸もウララちゃんと同じく迫力がある。
この世界ボインちゃんばかりなのかー!と思ってたけど、冒険者の人達を観察して思った。
ああ、人それぞれだよね…。

お母さんが料理を私の目の前に置いた。
クロの前にも、クロ用にその料理が置かれる。
周りのお客さん達の視線も料理に集まる。
・・・食べにくいんだが。

「虹彩雉の香草蒸しです。どうぞ召し上がれ」

昨日は焼きで、今日は蒸しですか。いいっすね!
お肉は不思議なもので、やはり虹色に輝いている。
しかし、そこは昨日の今日である。まったく美味しそうにしか見えない。
クロはすでに食べ始めており、昨日と同じくがっついている。皿まで食べそうな勢いですが。

「いただきま~す」

周りの視線は痛いが、お父さんが頑張って作ってくれたのだもの、美味しく頂かなけりゃ失礼です。
ナイフで小さく切って、口へ運ぶ。
意識が飛んだ。

「は!」

ほんの数秒だとは思うが、目を開けると口の中にすでにお肉はなく、消化器官へと運ばれていた。

「しまった、きちんと味わう前に…」

必死に意識を保とうとするが、口に入れる度に美味しすぎて昇天してしまう。
まわりがザワザワしていて、「噂の猫連れの…」「噂の虹彩雉の…」という言葉も聞こえたけど、それどころではなかった。

「ぬう…、またしても…、もう終わってしまっただと…!」

いつの間に平らげたのか、気付けば皿の上はすでに綺麗になっていた。
クロのお皿も綺麗に舐められている。よほど美味しかったんだね。
私も満腹感に包まれていたけど、もう少し味を堪能していたかったと、なんとなく物足りなさを感じながらも、食事を終えたのだった。
ごちそうさまを伝えると、やっぱり調理場からお父さんが出て来て、

「本当に、虹彩雉の調理を任せてくれて、ありがとうございます! 料理人として、これ以上の喜びはない!」

「そこら辺はよく分からないけど、とても美味しかったです。昨日のステーキも美味しかったけど、今日のは香りも良いし、ステーキよりも味が深くて、本当に美味しかったです。ありがとうございます」

と礼を言ったら、小さくガッツポーズしていた。
虹彩雉ってそんなに憧れの食材なのか。
視線が集まるのを感じながら、部屋へと早々戻る。

「こ、虹彩雉が、なんであんなに高く買い取ってもらえたか…、よく分かった気がするよ…」

「うむ。満足であるの」

お腹もいっぱい、幸せな気分で布団に入る。
今夜はクロも一緒に、夢の世界へと潜って行ったのだった。





















幸せな気分で目覚めると、顔の横でクロが毛繕いをしていた。

「起きたかの。八重子」

「クロ…。おはよ」

「今日は休みたいと言うのではないかの?」

「お、クロさんには分かってしまうのだね」

昨日会ったガタイさんも休みを取ってたし、買い取り嬢の人も定期休みなのか分からんけど休んでたし。
休みたくなるというもの。
この世界に来てから色々頑張ってるし(主にクロが、な気もしないでもないが)、ここらでちょっと体を休めても良いのではないかと思う。
慣れない森の中を歩くのも、結構大変だしね。

「懐に余裕もあるし、八重子の好きにするが良い」

クロもそう言ってくれたし、んじゃ、偶にはうだうだ過ごしますか、と意見が纏まった。

「ところで八重子」

「なぁにぃ?」

「元の世界に戻る方法などは探さぬのか?」

「あるのかな~? てか、クロ戻れないって言ってなかった?」

「空間の亀裂からは戻れる可能性は低いとは言ったが、戻れないとは言ってないぞ」

「戻れるの?!」

思わず身を起こす。

「可能性は、0に近いくらいだがの」

「それって、戻れないってことじゃん」

再び布団に潜る。

「八重子も気付いているとは思うが、この世界には我が輩達の他にも異世界からの来訪者がいるようだし、その者達が何か方法を見つけていてもおかしくはないのではないかの?」

「・・・。なるほど。この国何故か大豆製品の名前の街が多いし、そんな人達が戻る方法を見つけようとしてた可
能性はあるわけね」

「魔法があるということは、異界へ渡る術もあるかもしれぬぞ」

「そうだね。探してみよっか!」

目下の目標が決まった!

「で、どうやって?」

「まずは迷い人についての噂集めだの。文献などもあればそれも読めるに越したことはないの」

「やはり文字か!」

んでも、ちょっと分かりかけては来てるんだよね。

「ん~、紙とペンを買ってきて、なんとなくあいうえお表みたいなの作ってみようかな~?」

「それはいいの。分かり易いのができたら、ギルドにその情報を売ってみても良いのではないか?」

「え、こんなの売れるの?」

「知識は金になるのだぞ」

それもそうか。
日本人ならまず始めにあいうえおから覚え始める。英語ならABC。まずは一文字を読めるようにならなければ、単語さえも覚えられないものね。
昔々に作られた「いろはにほへと」は、画期的な発明だったとも言われているようだし。
分かったものだけでも書き出してみようと言うことになり、早速と出かける支度を始める。
朝食は?だって?
私がどれだけゴロゴロしていたと思ってるんだ。きっとすでに朝食の時間は終わってしまっているよ!
ちょっとお金は勿体ないけど、虹彩雉があったおかげで、今日の宿賃は少し割り引いてもらってるし、いいでしょ。
支度が終わる前に、部屋の扉が叩かれた。

「ヤエコさん? 起きてますか?」

ウララちゃんの声だ。おっと、心配させてしまったかな?

「はいは~い。起きてますよ~」

扉を開けて、元気なことを伝えると、一瞬ほっとしたような顔をしたウララちゃんが、すぐに難しい顔になる。

「あの、表にヤエコさんを訪ねてきた方がいらっしゃって…。その、お断りします?」

「へ? あたしに? 訪ねて来たって、まさか…」

「はい…。この街のただ今の代理領主の、アブーラ様の使いの方とおっしゃっていて…」

脂肪の塊から使いがやって来たらしい。

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