異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

ナットーの街にさよならを

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朝目が覚めて、いつも通り左脇に温かくて柔らかくて触り心地のいい感触。
なんとか動く左手の可動部を動かし、毛並みに沿って体を撫でる。
すると、クロがゴロゴロいいながら、う~んという感じで手を伸ばして来た。
そのまま手が顎に当たる。
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。

顎に肉きう・・・がああああああああぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・。

朝からご褒美頂きました。
そのまま肉球の感触を味わっていると、

「八重子、朝から我が輩の手で何をしておる」

クロが起きました。








いつも通り食堂へ降りて行くと、

「おはようございますヤエコさん」
「おはよう、ウララちゃん」

爽やかな笑顔のウララちゃんと挨拶。
いつも通り席に着き、朝ご飯が出てくるのを待つ。
しばらくすると、ウララちゃんが料理を持って出て来た。
私のテーブルまでそれを運んでくる。
目の前に置かれたその料理を見て、言葉を失う。
どう見ても生姜焼きに見えるんだが…。
ご飯の代わりにパンなのがちょっと寂しい。
ウララちゃんを見上げると、ちょっとやるせなさそうに目を伏せ、

「夜、仕事が一段落した頃に姿が見えなくなりまして…。しばらくしたら、オーク肉を抱えて帰って来ました…」

我慢できなかったらしい。

「ヤエコさんに美味いオーク肉を食べてもらうんだと、そのまま仕込みに入りまして。おかげで今朝はいろんな方々に喜んでは頂けました」

今朝この宿に泊まった者、偶々この食堂で食事をして行った者は、みんな生姜焼きの恩恵を受け取ったらしい。
まあ、美味しい物食べられて良かったと思います。
ということで、早速頂きます。
口に生姜焼きを入れて、驚き。
確かに、他の肉と違う!
何が、とはなんとも言えないが、なんだか違う!
美味さというか柔らかさというか歯ごたえというか…。
これぞ、豚!(オークだけど)

もっしゃもっしゃと食べ進め、試しにとパンに挟んで食べてみたらば、なお美味し!
なかなかいけるではないですか、生姜焼きサンド。
できればご飯で食べたかったけどね。
周りの人達もなんだか私がサンドにしたら真似し始めたけど、美味けりゃ何でも良し!
朝から美味しい物頂けました。
厨房の方からおじさんが覗いてたから、挨拶しておきました。











部屋に戻って、明日の支度。他に何がいるのか確認。とりあえず大丈夫そう。
ついでに出し忘れていた薬草を、どうしようと悩んでいたら、リンちゃんが新鮮な状態に戻してくれました。魔法様様。リンちゃん様様。
厩舎に行くと、またシロガネが人の姿に。

「おはよう」
「おはようである、主」

隣を覗けば、やっぱり人の姿になったハヤテ。

「おはようハヤテ」
「おはようあるじ~」

おおお!可愛い!!

「この中ではあまり人の姿になって欲しくないなぁ」
「一応気をつけてはいるので、大丈夫である」

周りに配慮はしているらしい。
ヨタヨタ歩いて来るハヤテを抱きしめる。
温かくて柔らかいですね。
少ししたらまたグリフォンの姿に戻った。
私と話がしたくて頑張っていたらしい。健気。
昨日より長く変身していられるようになったと。頑張ってるね。

シロガネはそのまま人の姿で、みんなでギルドに出かける。
ギルドに行って、薬草を出す。
新鮮な事に驚かれた。当然ですね。
お金をもらって、エリーさんに挨拶して、特に変わったこともないと確認し、ギルドを出る。
その後は昨日のように散歩に行って、今日は狩りはしなくていいからとハヤテに念を押して自由行動させた。
もし狩りたければ虹彩雉ならOKと。虹彩雉の説明はクロがやってくれました。
いやさ、できればもう一度食べたいじゃん。
結局見つからなかったらしく、ちょっと項垂れながら帰って来たハヤテ。
そんな時もあるよと、なでこなでこ。
珍しく変わったこともなく一日が終わる。
ウララちゃんが最後だからと、ブラッシングを頼んできた。
もちろんやってもらいました。







「クロ、朝の鐘って知ってた?」
「もちろんだの」

さすがクロさん。抜け目なし。

「起こしてやるから、今日は早く寝ろ」
「もうクロ様に頭が上がりません」
「うむ。もし帰れたら○―ルをくれれば良い」
「一年分くらい用意しようか」
「金はあるのか?」
「・・・。ちょっとづつ買います」

賞味期限もあるだろうしね。
安心して眠りに就く。
明日でもしかしたら、この街ともお別れだ。











「八重子、八重子」
「う~? まだ暗いよ~」
「仕事だぞ」
「う~? ・・・。そうだ! 仕事!」

慌てて起きたら、リンちゃんが転がって来た。





朝の鐘はおおよそ6時くらいに鳴っているらしい。
その後、9時、12時、15時、18時に鳴っていたと。知らんかった。
え?注意力が足りない?よく言われる。
忘れ物がないか確認して、重くなった荷物を持って(大きな鞄を買って、その中に入れてある)、朝食食べて(この時間にも冒険者がかなりいることを初めて知った)、最後のお昼ご飯をもらって、お世話になったことにお礼を言って、宿を出る。
厩舎に行って、今朝は人の姿になっていなかったシロガネとハヤテを出し、北の門へと向かった。
街もそこそこ活動し始めており、みんな早起きだったことを初めて知った。

「八重子が遅すぎるのだ」

はい。いつも8時頃に起きていたようです。遅いですね。
門へ着くと、月夜の風の面々はすでに待機していた。早いですね。

「おはようございます」
「おはよう」

挨拶すると、みんなも挨拶を返してくる。
チラチラとシロガネを見ているのは、珍しいから気になるのか?
雑談していると、商人さん達も荷馬車に乗ってやって来た。
丁度鐘が鳴り始める。
凄い、時間ぴったりだ。
打ち合わせ通りに真ん中の馬車に向かう。
乗っているのはオッサムさんだった。
挨拶を交わし、荷物を端に乗せてもらい、連れだって歩き出す。
さあ、始まりの街から出発だ!










最初の野営地までは、特に何も起こらずに平和だった。
お弁当が生姜焼きサンドだったのは美味しいと絶賛したからだろうか?
時折荷馬車に乗せてもらったりもした。月夜の風の面々も、そうやって交代しながら歩き続けていた。
野営地に着き、野営の準備を始める。
薪になりそうな枝拾い。リンちゃんが案内してくれるので早めにいっぱい集まった。
月夜の風の面々はテント等の準備。商人さん達は荷馬車で寝ると。そうだよね。
各々食事の支度をしている時に、ふと気付くとハヤテがいない。

「あれ? ハヤテは?」

クロが空を見上げた。
つられて見上げると、上空に翼をはためかせている者が。

ドサリ

なんか落ちてきた。

「クエ!」

ハヤテも降りてきた。
鹿っぽい生き物がうつろな瞳をこちらへ向けて来るのだが…。

「ハヤテ…? 獲って来ちゃったの?」
「クア!」

撫でての顔してる。
とりあえずなでこなでこ。
で、どうしろと?

「ヤエコ、それ…」

月夜の風のメイサさんが、驚いた顔で寄ってきた。

「鹿じゃないの?! え…、どうするの? 食べるの?」

なんだか羨ましそうな顔してます。

「いえ、私解体できないから…。食べたくても食べられません…」

と言っても近くにギルドもないし、このまま置いて行くしかない。

「解体なら、俺達が出来るぜ?」

と、剣士でリーダーのクィドさん。

「調理器具や、少しですが調味料ならございますが」

と商人の、誰だ?3人似てるからぱっと見見分けがつかない。
多分ハッサムさんだろう。
顔を見合わせる私達。
となれば、答えは簡単である。

少しは肉以外も食べたいとのことで、月夜の風が持っていた食材と、リンちゃんの案内で獲って来た野草を入れて。
収穫、私達。解体、月夜の風。調理、商人さん達。
で、そこそこ豪華な夕食が出来ました。

「まさか、旅先でこんなモノ食べられるとは…」
「いろんな意味で美味しいですね」

月夜の風女性陣が感動していました。
余った分はシロガネとリンちゃんに氷付けにしてもらった。
明日の朝に解凍して、また朝から豪華な朝食です。







護衛の面々で夜間の見張りの順番を決める。
私が初心者なので、一番始めの時間帯になった。
誰が私と組むかと月夜の風の面々が話していると、

「主には我らがいる。お主らがいなくても大丈夫であるぞ」

とシロガネ。
それもそうだけどと、一応リーダーのクィドさんが私と一緒にやることになった。
皆が寝静まり、辺りの闇がいっそう濃くなって来たように感じる。
いつもは温かい布団にくるまって寝ている時間。
すでにウララちゃんの宿屋が恋しくなっている。いかんいかん。
クィドさんと眠気覚ましにお喋りをしていたら、いつの間にか交代の時間に。
さりげなく勧誘されました。断ったけど。
次の人達は戦士のガルズさんと弓士のアントさん。
クィドさんはテントに引っ込んでいった。
私も少し隅に行く。

「主、ここらで良いであろうか?」

トントンとシロガネが地面を叩くと、地面が四角く隆起した。
リンちゃんがリンと鳴って、その盛り上がった場所に降り立ち、何か魔法を使う。
と、草がわさわさ生えてきた。

「おお、凄い!」

靴を脱いでそこに上がる。柔らかい草なのでフワフワしている。

「こ、これは、寝心地がいい…」

マントを体に巻き付け、ちょっと盛り上がっている所に頭を置く。
リンちゃんがいつものように頭の上に。クロが左脇に。シロガネがその向こうで座り、ハヤテが右側から体を押しつけてきた。

なんですかこの楽園…。

シロガネが何か魔法を使ったのか、寒さが和らぐ。
右側からハヤテに温められモフモフを感じ、左脇でクロが温め、モフモフを感じ、満点の夜空を見ながら眠りに就いた。
あれ?宿より贅沢?
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