異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

猛攻!

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「街から出来るだけ離れて欲しいのじゃ」
「承知しておる」

クレナイを背に乗せ、シロガネがスタンピードの迫っている西の門へと急ぐ。
ハヤテもその後に続く。
西の門にはかなりの人が集まっているのが見えた。
門の上、外壁の上に、兵士やら冒険者やらが集まり、じっと西の方を見つめている。
森の奥の方で、木々が倒されるのが見える。あそこがスタンピードの最前線なのだろう。
よく見ればその後ろにも黒い影が連なり、かなりの数がこの街の方角を目指しているのが分かる。

「これはなかなか。暴れがいがありそうじゃのう」

それを見て、クレナイが呟いた。

「あまり森を焼きすぎると、主に迷惑がかかるであるぞ」
「承知しておる」

口元を扇で隠しながらも、クレナイの口角は上がっていた。
今まで碌な相手に出会えず、街のコロシアムでちまちまと戦っていて、ちょっと鬱憤が溜まっていた。やはり時には全力とは言わずとも、思い切り戦ってみたい。
シロガネが悠々と門を超え、森へと急ぐ。
シロガネの姿を見て、門やら外壁やらの人間達が騒ぎ始めた。

「そこの者! 止まれ! 何処へ行く!」

責任者らしき男がこちらに向かって声を掛ける。
自分を人として見ているのだろう。そう思ってクレナイが振り向くと、男達の顔が色めき立ったのが分かった。

「美しいというのも、罪よの…」
「・・・・・・」

シロガネは黙っていた。

男達にサービスとばかりに微笑んでやると、幾人かの者が顔を赤くし、体を固くしたようだった。
興味ない雄とは言え、自分を見て顔を赤らめるのを見るのは気分が良いもの。クレナイは満足そうに前方を見据えた。

「人と言うのは面白いのう。何故自分も危険じゃというのに、他人の心配などするのかのう」
「確かに。人は何故か、己より他人を心配するおかしな者が時折おるな」

見ず知らずの他人なのに、危険と分かると体を張って助けたりする。ともすれば、身内でも蹴落としてまで助かろうと藻掻く者もいる。
とても不思議な生き物だと、クレナイとシロガネは頷き合った。

「さて、そろそろかのう。ハヤテ、少し離れておれ!」

大分街から離れたことを確認し、クレナイがハヤテに声を掛け、シロガネの背から飛び降りた。
言われた通りハヤテはクレナイから距離を取り、シロガネもすぐにUターンして、街へと向かった。
クレナイの体が光り、ドラゴンの姿へと戻る。

ズズン・・・

地に降り立つと、地響きがした。
久々に元の姿に戻ったので、軽く全身を伸ばし、伸びをする。

「ふあああああああ~…」

と気の抜けた声を出したつもりであったが、そこはドラゴンであったため、

「グオオオオオオ!!」

周りにはそう響き渡った。

スタンピードの方を見るが、迫り来る魔物達は正気を失っているのか、自分の姿を見ても怯んだ様子はなく、真っ直ぐ突き進んでくる。

「そうでなくては面白うない」

首を軽く回す。うむ、凝ってはいない。
近づいて来たハヤテに、

「ハヤテ、妾の前には出ず、妾の後ろで、妾が取りこぼした者を屠っておくれ。前に出たら間違えて攻撃してしまうやもしれぬからのう」

ハヤテが頷き、自分の背に回るのを確認する。
これで前に気にする者は無い。
口元に魔力を集めていく。
ちょっと森が燃えてしまうかもしれないが、殲滅するにはこれが一番早い。
口を大きく開け、魔力を練り、勢いよく吐き出した。

ドラゴンブレス。

超高温の光線が、スタンピードの最前線に突き刺さった。
そのまま横薙ぎにすると、数多の魔獣が吹き飛んだ。

「ん~~~~~! これじゃこれじゃ! 偶には思いっきりやらんとのう!」

再び魔力を練り、それを翼に集め、翼を強く羽ばたかせた。
途端に、大きな竜巻が2つ現われ、スタンピードの方へと向かっていく。
魔獣達が次々に竜巻に飲み込まれて、空高く舞い上げられ、地面に激突していく。
翼のある魔獣も、竜巻に飲み込まれると、自由を失い、宙へと投げ飛ばされる。
ついでに森を焼き始めた炎も、竜巻に飲まれて消えて行った。

運良く竜巻から逃れて来た者達も、その鋭い牙や爪で一薙ぎにして行く。
取りこぼした者も、後ろで控えていたハヤテの爪や嘴の餌食となっていった。






しかし、それでも漏れてくる者はいる。
街に向かって、数匹の魔獣がやってくる。
だが、今までの数と比べれば、なんと容易い数にまで減ったのだろう。
門や外壁に控えていた人間達が声を上げ、士気を高める。

ここまで来たら自分たちもやらねばと、各々の武器を握りしめ、迫り来る魔獣達を迎え撃つ。
魔術師達が呪文を唱え、弓矢隊が矢を番える。
攻撃の範囲内に達し、少し粘った所で、それぞれの力を発射させた。
ゴブリンやオーク、蛇型や牛型の魔獣が火の玉や矢を受け、地面に転がっていく。
攻撃隊に気付いたのか、オーガの1匹が、外壁の上に向かって、自分の持っていた武器をぶん投げた。

「ああっ!!」


避けきれないと思った術師が、観念して目を閉じるが、

ガン!

何か固い物に当たったような音がしただけで、術師達にまで、武器は飛んでこなかったのである。
何かと思い、目を凝らしてみれば、いつの間にか結界が張られているではないか。

「人間達よ。よく聞け。あのドラゴンは我らの仲間、我らの味方だ! この街には我が結界を張った。何があろうと外からの攻撃は受け付けぬ! 存分に戦え!」

声のした方を見上げれば、先程あの女性を背に乗せていたペガサスが、浮遊しながら人間達を鼓舞しているのだった。
外からの攻撃は届かないと知り、俄然張り切り出す人間達。
よく見れば、とある場所から、魔獣達が何かに阻まれたように前進出来なくなっている。
あそこが境界線なのだろう。

となれば、門を開けても魔獣が雪崩れ込んで来る心配はない。
人間達は門を開け、剣や斧などの近接武器を持った者達が、結界に阻まれ動けない魔獣達に向かって武器を振るった。
なんと楽な戦いか。

だがしかし、1つ気を付けなければならないことがあった。
1人の冒険者らしき人物が、調子に乗って結界の外に出てしまったのだ。
この結界は、中から出ることは出来るが、外からは何であれ、入れないようになっている。つまり、その冒険者は戻ることが出来なくなってしまったのだ。
魔獣に囲まれる冒険者。助けようと、その冒険者の周りの魔獣に剣を向ける仲間達。
手を繋いで戻そうとするも、一度全身が出てしまうと、戻れなくなってしまうらしく、中に引き入れることは出来なかった。

魔獣の包囲もだんだんと狭まっていき、これまでかと思ったその時。
風の刃が走り抜け、魔獣達をバラバラにしてしまった。


「世話が焼ける。我に掴まれ」

フワリと降り立ったペガサスが、翼の先を差し出してくる。
訳が分からないながらも、しっかりと翼を握りしめる。

「ほれ、我と共にならば入れるぞ」

入れた。
翼を握ったまま、促されるままに歩いたら、いつの間にか結界内に入っていた。
仲間と喜び合う。

「まだ戦は終わってはおらん。気を引き締めて気をつけて戦え」

そう言うと、ペガサスは空へと駆け上がって行った。
その姿を見て、人々はなんと神々しいお姿か…と、呟き、祈りを捧げるのだった。
いや、シロガネは神じゃないぞ。
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