異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

温泉旅館でまったり

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時は戻り、噂を流して貰うように依頼した翌日。
いつものように起きると、いつものようにコハクが顔洗い用の水を持って来てくれる。

「どうして毎朝用意してくれるの?」

疑問に思ってはいたけど聞いた事なかった事を聞いてみた。

「ご主人様。私は奴隷です」
「そうでした」
「朝の支度を手伝うのは当然です。やるなと言われればやりませんが」
「う~ん。コハクが嫌ならやらなくても良いんだよ?」
「私は嫌ではないです」

なんか働かせてるみたいで悪い気もするけど、コハクがやりたいならまあいっか。
いつものように支度して、降りる前に聞いてみる。

「ちょっと色々あったし、どうでしょう。前々から気になってた、ユートピアに行ってみない?」

全員一致で賛成となった。1匹を除いて。

「そして、そこから足を伸ばして、クレナイの里、ならぬドラゴンの里を目指してみようか」

滄司にもいつでもおいでと言われているし、あまり遅くなるのも失礼かと。
クレナイの顔が輝いた。

「わ、妾の、妾の里へ、故郷へ、む、向かって良いのか主殿?!」
「いいと思いますが」
「し、しかし、その、人にとっては、その、ドラゴンというのは、恐怖の象徴なのでは…」
「いや、そのドラゴンが目の前にいるしねぇ」
「よ、よろしのでごじゃろうか…、本当に…」

口調がおかしくなってますが。

「クレナイ? 行きたくないわけじゃないでしょ?」
「い、行きたいのじゃ! とてもとてももの凄くとってもすんごく行きたいのじゃ!」
「だったら行こうよ」
「う、うむ! 行くのじゃ!」

クレナイがとても嬉しそうに笑う。良い笑顔だ。

「シロガネ? なんか顔が暗いけど?」
「その、我、その、食べれたりはしないであろうか…」

そういえば、被捕食者でしたね。

「大丈夫でしょ。クレナイもいるし私もいるし、クロもいるし」
「く、クソ猫に頼らねばならぬとは…」
「1人留守番しててもいいよ~」
「い、行くである!」

同じ雄だから張り合っちゃうのかな?仲良くならないわね、この2人。2人?2匹?
ご飯を食べて、ギルドへ向かう。今度はきちんと報告していかないと、また怒られてしまう。
ギルドへ行くと、すぐに奥へ通される。もう慣れた。
すぐにオンユさんがやって来て、

「早速仕事かい?」

と笑顔で書類を抱えてやって来た。

「いえ、またちょっと街を離れようと思って報告に」

オンユさんの顔が何故?!という青い顔になる。

「い、いや、まだ帰って来たばかりなんだから、この街でちょっと仕事をこなしてゆっくりしたら…」
「いや、仕事してる時点でゆっくりしていないでしょう」
「頼む! この仕事だけでも! これだけでもやってってくれないか?!」

と書類の束をドン!と机に置く。
いや、どんだけこなせと?
やるやらないとのすったもんだのあげく、3分の1程の緊急を要するものだけを片付けることに。最後はクレナイの殺気で片が付きました。
クレナイはさっさと里に行きたいものね。シロガネはちょっとほっとした顔をしていたが…。

10枚程受け取ったその書類。クレナイに読んで貰って、近場のものからこなしていくことに。

「最速でやるのじゃ…」

クレナイの気迫のこもった声の通りに、とてもとてもシロガネに頑張ってもらって、3日で全部こなした。
ただ、クレナイが頑張ったので、ほとんど素材はなくなってしまったが…。オンユさんしょげてたけど仕方ないよね。









そして、旅立ちの朝。
昨日のうちに挨拶は済ませておいたので、必要な物などを買い込み、街を出た。
そしてシロガネにまた跨がって、ユートピアを目指す。場所はちゃんと聞いて来た。

「ほ~、山が近いんだな。やっぱり」
「山が近いのが関係あるのかのう?」
「う~ん、山がなくても湧き出てる所はあったと思うけど、山っていうか、火山が近いと、温泉が出やすいらしいよ」

私の母国、火山王国。

「ほう、そうなのか」

クレナイが感心している。

「お風呂は皆大好きだもんね。シロガネもこの3日間すんごい頑張ってもらったし、着いたらゆっくり羽を伸ばしてよ」

もちろん、リアルの羽ではないからね。

「うむ。有り難いである」

シロガネも嬉しそうに羽を羽ばたかせる。
少し離れて飛ぶコハクとハヤテと、その頭に乗っているリンちゃんも、楽しみなのか顔が輝いている。
ただ1匹、私の足の間で、クロだけがちょっと不機嫌そうであった。
























王都から北西の位置にある温泉の街、ユートピア。
昔々、ここを訪れた迷い人が作り上げた都市なんだそうだ。
元々寂れた村だったのを、温泉が湧いている事を発見し、それを売りにして1大都市を築き上げたそうな。きっと日本人だったのではないかと思う。そして、男の人だったのかもしれないと、ちょっと思う。
何故なら、時折ではあるが、「混浴」の文字がチラチラ見えるからだ。
いや、そういうのが好きな女性だったのかもしれないが、殆どが男性の発想だと思うのだが。

偏見になるのか?

ユートピアの街からちょっと離れた所にいつものように着地して、歩いてこの街に入った。
あちこちに林立する温泉旅館に土産物屋。そして、練り歩く浴衣のような物を着た人々。
うん、日本人か日本ラブの人だわね。

混浴の文字にシロガネが反応し、

「これならば、我も一緒に浸かることが出来るである!」

と喜んでいたが、

「いや、入らないし」

と速攻で断ったら、項垂れていた。
え、シロガネって覗き癖のある人、ならぬペガサスだったのだろうか…。私の中でシロガネの評価が一気に下がる。
腕の中でクロが微かに震えていた。寒いわけじゃないよね?

とりあえずお腹を満たし、何処の宿に泊まろうかと街を練り歩く。面白い事に案内所なんかもあった。これ、ほぼ日本でしょう。

「ふむ。主殿、あちらから何やら美味そうな匂いがするのじゃ」

と、クレナイの鼻を頼りに進んで行くと、ちょっと奥まった所に、とても、非常に、趣のある建物が。まあ簡単に言うと、ボロい。

「え、ここ?」

ちょっと眉をひそめてしまう。

「匂いは良い匂いじゃぞ」

いや、クレナイセンサーはお墨付きだけどね、この外観だと、ちょっと腰が引けてしまうよ。
他の宿がいいな~と渋っていると、

「あの、うちにお泊まりですか?」

後ろから声が掛けられた。
振り向くと、赤茶の髪に緑の目の青年が立っていた。
その期待した眼差しに、いいえとも言えず…。

「その、考えている所で…」

必殺、日本人の持って回った言い方、濁す。

「うむ! 泊まりたいのじゃ!」

こおら!クレナイ!

「そうですか! いらっしゃいませ! どうぞ、こちらへ!」

食材を抱えた青年が、よっこら入り口の戸をガラガラと開けてくれた。
お泊まり決定になってしまったよ。

「クレナイ? 後できちんと話そうか」
「あ、主殿…。しかし、その、飯は美味いと保証するのじゃ?」

にっこり。
問答無用。














中に案内されると、うわお、日本の旅館そのものだった。
なんだか懐かしい風景に、ちょっと胸が詰まる。

「母さん、お客さんだよ!」

先程の青年が、カウンターの奥に声を掛けると、よく似た女性が出て来た。
おお、法被を着ている。

「あら、いらっしゃいませ! まあまあ、久しぶりのお客さんだわ!」

嬉しそうに迎えてくれる女将さん。間違いですなんて口が裂けても言えない。

「これは、靴を脱ぐんですか?」

上がり框の所で、一応尋ねる。

「ああ、はい! 珍しいでしょう? うちはそこで靴を脱いで貰うんです。靴はそこの靴箱へどうぞ。その札が鍵になってますので、失くさないようにお気を付け下さい」

お食事処なんかでよく見る、札鍵の靴箱だった。靴を脱いでその中に入れ、札を取る。
よく分かっていないコハクに説明し、とにかく靴を入れて札を取るのだともう一度実演。
必要ないくせに、従魔ズが、見せかけの靴を入れて、同じように札を取っている。いや、君達靴…。まあいいか。説明が面倒くさいし。

宿帳に記帳して下さいと言われ、記入。大丈夫さ。皆の名前くらいは書けるようになってるから。身分証で冒険者証を皆で出して、チェックOK。

「数が多いので、柳の間がいいかしら?」

と女将さん。柳の間って、日本だな。

「僕が案内するよ」

と先程の青年が荷物を置いてきたのか、奥から出て来た。お、女将さんと同じ法被を着ている。

「あらそう? じゃ、ごめんね。任せるわ」

青年に鍵を渡すと、青年がカウンターから出て来て、

「お待たせしました。ご案内致します」

と挨拶をして、前を歩き始めた。
う~ん、日本に帰ってきた感じがする。
廊下を静々と進んで行って、ちょっと奥まった所の部屋の扉を開ける。さすがに襖ではない。

「こちらが柳の間になります。ごゆっくりおくつろぎ下さい」

玄関や廊下もそうだったが、外がボロい…、かなり趣がある感じなのだが、中はしっかり綺麗に整備されている。これは、プロだ。
しかも、下は、畳っぽい。

「うわ…」

思わず絶句。
まさに日本の温泉旅館という風情で、懐かしさが込み上げる。
なんとなく畳とは断言出来ないが、かなり近い物だろう。素材とかが違うのかな?
部屋は広く、客が多い時には部屋を分けるのか、途中に戸がある。襖の代わりのような横に引くタイプの戸だ。手前が6畳、奥が10畳くらいの広さだ。
宿の青年が入り口の所で膝を付き、

「では、当旅館についてご説明させて頂きます。まず浴場ですが、玄関入って右手にありました通路を通って行って頂ければすぐに分かると思います。食堂は玄関入って左手にございます。夕飯は夕方の鐘が鳴ってから夜の鐘が鳴るまで。それ以降は食堂が閉まりますので、お時間には遅れないようにお気を付け下さい。他に何か分からない事がございましたら、お気軽にお申し付け下さい」

そう言って一礼して、静かに部屋から出て行った。
う~~ん、温泉旅館…。

「ほう、かような所に泊まるのは初めてじゃ故、面白い物じゃのう」
「うむ。しかし、ベッドはどこにあるのであろうか?」

2人が部屋のあちこちを見回しながら、歩き回っている。
コハクとハヤテとリンちゃんも、部屋のあちこちを覗き回っている。うん、やるよね。

「多分、ベッドじゃなくて布団で寝るんじゃないかな? 皆は布団は初めてだよね?」
「布団? 布団とはなんじゃ?」
「布団? ベッドとは何が違うであるか?」
「布団はまあ、ベッドに敷いてた敷き布団と掛け布団を、そのまま床に敷いて寝るのよ。ベッドと違って転げ落ちる心配がないから、子供でも安心」

時折、ハヤテはベッドから落ちているらしい。

「床に敷く? 不思議な事をするのじゃな」
「何故ベッドにしないのであろう?」
「まあまあ、そんな変な所にこだわってないで、早速お風呂に入りに行こうよ!」

壁にはめ込まれているタイプの衣装棚を開けると、そこにはサイズ色々の浴衣が畳まれて置いてあった。











皆に温泉旅館の決まりについて説明をする。
温泉旅館に来たらば、お風呂は最低3回は入る事!これ大事!
着いて荷物を下ろして1回。お食事して一段落して1回。朝起きてお食事の前に1回。

「そんなにお風呂に入るんですか?」

コハクが驚いていた。

「それが温泉旅館ってものよ!」

だって、お風呂に入りに来てるんだものね!
荷物を下ろして、浴衣を選んで、おや、子供用がないね。
タオルと着替えを持って、一先ずカウンターへ。
女将さんがいたので声を掛ける。

「すいません。子供用の浴衣ってないですか?」
「あら! すいませんね。今用意致しますわ」

人の良い笑顔を見せて、女将さんが奥に入ろうとすると、

「ああ、すいません。今持って行く所でした」

すでに青年が浴衣を用意していたようだ。

「ありがとうございます」

浴衣をもらって、行こうとすると、頭の上で何やら引っ張る気配。

「リンちゃん?」

リンリン!

何か主張していらっしゃる。

「おや、リンも着てみたいのじゃと」

ただ今1人1着浴衣を持っている状態。
でもなあ。リンちゃん妖精のままで入っちゃったしなぁ。

「あらまあ、その子も浴衣を着たいの?」

女将さんがリンちゃんを優しげに見つめて笑う。

「そうねえ。余った生地があったかしら?」

何かを思いついたらしい。

「お嬢さん、出来合いになっちゃうけど、それでよければ今作ってみるから、ちょっと測らせてもらえる?」

女将さんがどこからか巻尺のような物を取り出した。
ちょっと恐る恐るリンちゃんがカウンターの上に乗り、女将さんがリンちゃんの体の長さを測っていく。

「あらあらあら、可愛らしいわねぇ」

とても嬉しそうな女将さん。うん、この人は良い人だな。
測り終えてリンちゃんが頭の上に戻る。

「出てくるまでには形にしておくから、ゆっくり浸かっていらして」

ほっとするような笑みを浮かべ、私達を見送ってくれた。









通路を進むと、すぐにあの暖簾が見えて来た。

「いや、これ、漢字でしょうが」

見事に、赤い暖簾には「女」、紺の暖簾には「男」と書いてある。いや、この世界の人読めないんじゃ?
シロガネだけ男風呂へと送り出し、皆で女風呂へ。見事に誰もいなかった。
大衆浴場で皆慣れている。というか、クレナイとハヤテは一瞬で脱いで?タオルを持って準備万端。
私とコハクは着ている物を脱いで、脱衣籠へ。おや、有料だけど洗濯サービスがあるとある。後で聞いてみよう。

中に入ると、広々とした大浴場。シャワーはないが、壁からお湯が出てくる装置は付けてあった。大衆浴場とは違うのは、やはり、これを湯船と言っていいのか疑問だが、湯船だろう。
大衆浴場はなんの木か分からないが、木製の物が多かったが、ここは石を敷き詰めてある。うん、温泉だ。
しかも、どうやら扉の向こうには、露天風呂もあるようだ。

まずは体を洗って、目の前の大きなお風呂に。
これ、泳いじゃいけませんよハヤテ。
少しして、皆を露天風呂に誘う。

「露天風呂とはなんじゃ?」
「露天風呂?」
「ろてんぶろ?」

リン?

「まあまあ、行ってみてのお楽しみよ」

扉を開けると、少し冷たい空気。これがまた気持ちいい。
少し離れた所に、中のお風呂よりも小さいお風呂がちょこんとあった。周りは葦簀よしずって言うんだっけ?それで囲まれていたので、周りの景色が見渡せるような物ではなかった。
ただ、一部分だけ背丈が低くなっている所があり、そこから山の景色が見えた。
近くに川でも流れているのか、川のせせらぎの音も聞こえる。

「ほう、野外での風呂か」
「寒いですね」
「おそとー?」

三者三様の反応を見せ、皆で一緒に露天風呂に浸かる。

「はああああああああ・・・。なるほど。主殿が勧めるだけはある…」

周りの少し冷たい空気と温泉の温かさのギャップが心地よい。

「なんだか、開放感があって、落ち着きませんね」

コハクはちょっとソワソワ。慣れない露天に戸惑っているようだ。

「おそらみえるー」

リリリン

ハヤテとリンちゃんはいつも通り楽しそうだ。
そんな感じでお風呂を楽しみ、大分経ってから風呂から出た。
浴衣の着方を2人に教えつつ、ハヤテが着るのを手伝ってやる。
初めて着る服に、クレナイとハヤテが面白い物を見るように浴衣を見ていた。

「長風呂のシロガネはまだ入ってるのかな?」
「どうじゃろうのう? あまりの気持ち良さに出てこなくなってしまうかもしれんぞ?」
「あり得ますね」

何度か見せ合いっこをして、そんな話をして笑いながら出て行く。
カウンターに女将さんが控えていた。

「あら、ごゆっくり。お嬢さん、先程の、出来てるわよ」

女将さんが楽しそうに、それをカウンターの上に掲げた。そこにはリンちゃんサイズの浴衣が。

リンリン!

リンちゃんが速攻で頭の上から降りて、カウンターの上に乗る。そして早く着せろとばかりに腕を伸ばす。

「はいはい。まずはこちらの手から袖を通してね」

女将さんが上手にリンちゃんに浴衣を着せてやる。私より上手いわやはり。
羽用の穴も開けておいてくれたようで、リンちゃんが器用に浴衣を装着。

おおおおい、誰か、カメラ~~~~~~。

「あらまあ、あらまあ、可愛らしい!」

女将さんも嬉しそうだ。
リンちゃんも何度も自分の姿を確認して、どうだとばかりにこちらにも見せてくる。

「うん! 可愛いよ!」

サムズアップ。

嬉しそうにまた頭の上に戻って来た。うはあ、可愛い。

「ありがとうございます。リンちゃん用に作って下さって」
「あらいいのよ。どうせ暇だったんだから」

う…。洒落になってませんぜ、女将さん。

「と、ところで、私達と一緒にいた白い髪の男性、お風呂から出て来ましたか?」
「いいえ。まだ姿を見ないわねぇ。のぼせていないかしら?」

どうやらまた長風呂らしい。先に部屋に戻ると伝言を頼み、お部屋へ戻った。
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