異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

文字の大きさ
151 / 194
黒猫と共に迷い込む

喫茶店でのヒソヒソ話し

しおりを挟む
周りにいた人達の視線が全部集まってくる。
いやいやいや、何を言われているのか訳分からないのですが。
突然のことにボケッと突っ立っていると、豚おばさんがつかつかと近づいて来て、

「獣人の子供を大事にしてるなんてデタラメよ! どうせこの耳だって作り物なんでしょう!」

と叫んで、いきなりコハクの耳を掴んで引っ張った。

「痛い!!」
「何するんですか!!」

慌ててコハクを背後に隠す。リンちゃんがコハクの方へと降りて行った。治療してくれるのだろう。

「う、嘘よ…。そんな、飾り物でしょう…」

豚おばさんが後退る。

「コハクはれっきとした獣人です! 同じ獣人なのに傷つけるんですか!」
「ち、違う…、違うわ…、違うわよおおおおお!!!!」

豚おばさんが叫んで、滅茶苦茶に暴れ始める。その前にシロガネが結界を張ったらしい。こちらには被害なし。
すぐ側にあった植木鉢を投げたり、看板を蹴飛ばしたり、皆も豚おばさんから距離を取った。

「そこ! 何をしている!」

駆けつけてきたのは…、わお、長い耳。長く白い耳が帽子を突き抜けてピョコピョコ動いている。白兎だな。
バニーガール、まんま言葉の存在が駆けつけてきた。もちろん、格好はあんなにきわどい格好ではなく、もっとごつい警官と衛士の間くらいの奴、つまり警官かな?
白い長い耳を生やした女性警官がやって来た。コスプレではない。
暴れている豚おばさんに近づき、羽交い締めにして動きを止める。

「止めなさい! 何を暴れているんですか!」
「うちの子を返して、あの子を返してーーーーー!!」

豚おばさんが動きを止めて、そのまま泣き崩れてしまった。
号泣する豚おばさんを見下ろし、巻き込まれた私達を見て、

「とにかく、近くの詰め所まで来て下さい。お話を聞かせてもらいます」

何も話す事なんてないんだけどな。















詰め所に連行、つまり連れて行かれ、調書を取られる。
と言っても、私達はただ歩いていた所を、いきなりあのおばさんに難癖を付けられただけなので、話すことなど何もない。あ、もちろんしっかりとコハクの耳をいきなり掴んで引っ張った事はしっかり話しておいた。
先程とは違うバニーガールに全てを話すと、バニーガールの顔が曇った。

「念の為、今日一日の行動を話して頂けますか?」

何故に?
まあ別に良かろうと、今日の朝からの出来事を話す。思い出してみれば結構濃い一日だったな。
ほぼ最初から胡散臭い目で私達を見ていたバニーガールさんも、クレナイについて話した途端に固まっていた。その後顔色が目に見えて悪くなっていた気がするけど、きっと気のせいに違いない。
とにかく私達はなんの関係もないと分かって貰えたのか、すぐに釈放となった。
だけどもなんとも、後味が悪い。

「あのおばさん、子供が攫われたって言ってたね…」
「そうだの」
「クロさん」
「・・・・・・」
「事情は分かってるんでしょ? 何か私達に出来ることないかな?」

クロがこれみよがしに溜息を吐く。

「いくら我が輩でも、関わったこともない者を探し当てる事は出来ぬぞ?」
「うう、それはそうだけど…」

私達だって顔も名前も性別さえも分かってない。

「ここは名探偵クロさんの出番ね!」
「勝手に探偵にするなだの」
「主殿、『めいたんてい』とはなんじゃ?」
「名探偵ってのはね…」

かくかくしかじか。

「名探偵クレナイの出動じゃ!」
「我も名探偵シロガネである!」
「めーたんてー!」
「わ、私は奴隷なので…」

リンリン!

コハクだけ逃げた。
そのうち名探偵レンジャーなんて名乗り始めるんじゃなかろうね?




















まずは情報収集。と言っても、クロにかかればどんな情報も閲覧可能。
喫茶店らしき所に入って、まずはクロのお話を聞く。

「我が輩が見た所によると、一定の期間を置いて、子供がいなくなる事件がチョコチョコあるらしいの」

ごっそりいなくなるのではなく、ぽつりぽつりらしい。それこそ、子供は何処へ行くかも分からない。森に入って魔獣に襲われたのかもしれないし、謝って川に落ちてしまったかもしれない。時折子供がいなくなる。そんな事は昔からあったわけで。
ところが、期間はバラバラだが、不自然に子供がいなくなる時があった。それこそ何かの事故にあったのかと探し回るも、容易に見つかる物でもない。

魔獣に襲われたかと森を探し回っても痕跡も見当たらず、川に流されたかと探してみても、死体が見つかるわけでもなかった。それこそ神隠しにでも遭ったのかと思うくらいに綺麗に消えてしまうのだ。
前に只人が紛れ込んで、子供を攫おうとした事もあり、只人に関しては皆敏感だった。しかしこの数年は只人など訪れることもなくなっていた。八重子が本当に、初めてまともに国に入った只人だった。
只人がいるならば、子供を攫ってもおかしくはない。これがこの国の常識である。そしてまた、子供が消えた。

「子供が消えて、只人の私がいれば、そりゃあ疑われるのも当然か…」
「しかも孤児院へ行ったろう。それが疑惑を深めているようだの」
「なんで? 寄付しに行っただけなのに」
「孤児院の子供が一番狙われやすい。つまり、品定めに行ったのではないかと思われておるのだの」
「品定めって…」

そんな事しないと言っても、信じては貰えないんだろうなぁ。

「主殿を疑うなどと。この国消してやりましょうか」
「クレナイ、ステイ」

クレナイに黙っててもらう。

「とにかくその消えた子供を探さないとだね。でも、その消えた子って…」

情報がないよ。

「こういう子供らしいの」

おお、なんか頭の中にコハクより少し下くらいの可愛い豚の耳を生やした女の子が…。

「豚の尻尾なら、スカートの中に隠しておいても楽そうだわね」
「八重子、アホ言っている場合ではないぞ」

そっすね。
さてどうやって探しましょう。

「お犬さんがいれば臭いを追ってもらうのに」
「狼人族も臭いを追ったが途中で酷い臭いに掻き消されていたそうだの」
「まぢか」
「ついでに兎人族でも子供の泣き声などの声は拾えていないそうだの」
「ほうほう」
「子供の意識を消し、臭いを消し、音も消した。そしてその存在が綺麗に消えた」
「まさにミステリー小説だわね」
「だがどんなミステリーにも答えはあるのだの」
「まさか、クロさん、もう全て分かっているとか…」
「そこまで万能ではないのだの」

さいでっか。

「ただ、只人に攫われたという可能性が捨てきれぬ。だから、馬とハヤテ、やってきた山の通路に行って、これより誰1人通さぬように話を付けて来い」
「我はペガサスだ!」

懐かしいやりとりだなぁ。

「強行突破しようとしても、馬の結界ならば通ることは出来ぬだろう」
「ペガサス!」
「ハヤテは連絡係だの。何かあったら報せて欲しいのだの」
「あい!」
「それと、八重子、どんな手段を使ってもこの件を片付けたいのだよな?」
「とても含みのある言い方が気になるんですけど」
「我が輩が出来ることにも限りがある。なので、コハクに囮役をやってもらおうと思うのだが」
「お~と~り~?」
「1人攫ってすぐに次とかかるかは分からぬが、コハクも獣人の子供。狙われる可能性は十分にある。我が輩も知らぬ子供を探すより、コハクの気配を追った方が早いからの」
「ううむ」

クロの言いたいことは分かるが、コハクを危険に晒すのは…。

「ご主人様、やらせて下さい」
「コハク…」
「1度攫われた事もありますし、大丈夫です。それに、私もご主人様が疑われている今の状況がとても嫌です」

なんて良い子過ぎるのだ…。

「分かりました。ここはコハクを信じます。でもこれは約束してね。決して危ないことはしないこと。と言ってもこれからさせるのか…。怪我をするかもしれないのは仕方ないとして、絶対に死なないこと! そしてきちんと帰ってくること! 約束ね」

なんだかコハクがちょっと困ったような顔をする。しかしすぐに笑みを浮かべた。

「はい。かしこまりました」
「クロ、リンちゃんをコハクのお供に出来ないかしら?」

リンちゃんがいれば、もしもの時もすぐに怪我を治すことが出来る。

「リンちゃんなら服の中に隠れる事も出来そうだし」
「そうだの。隠れてついて行く分には問題なかろう」

ということで、リンちゃんが私の頭の上から降りて、コハクの服の中に隠れる。

「リンちゃん、コハクをよろしくね」

リリン!

敬礼をしたリンちゃんが服の中にモゾモゾと入って行った。どこで覚えたその敬礼。

「我が輩はいなくなった娘の足取りと、この街の地下を調べる。そして八重子とクレナイ殿は…」
「私とクレナイは?」

何をするのだ?なんでも頑張るよ!

「待機」
「はい?」
「あの熊男の宿にて待機」
「ちょ、ちょっと待ってよ。皆頑張るのに、待機?」
「ハヤテ、何かあったら八重子に報せに飛べ。それで我が輩には分かる」
「あい!」
「いやいやいや、ちょっとクロさん?」
「八重子、忘れておらぬか?」
「何を?」
「我が輩と離れると、会話が出来なくなるのだぞ?」
「・・・・・・」

Oh、それがありましたね…。

「八重子と共に捜索に出ても良いが、八重子は只人。ただでさえこの街の住人には警戒される。聞ける情報も聞けなくなるだろう。それに、只人である八重子に対しての不満が高まった時、どうなると思う?」
「・・・・・・」

証拠はないが、子供を攫ったと言われている。そして私はこの国唯一の只人。もし子供が攫われた確たる証拠が出た時、その疑惑は私に向けられるだろう。

「魔女狩り状態ですね…」
「そうだの。だからクレナイ殿と共に宿で待機してもらい、何かあった時はクレナイ殿に頼むのだの。クレナイ殿、よろしく頼めるかの?」
「もちろんじゃ! 主殿の身柄は妾が絶対にお守りするのじゃ」

世界最強の身辺警護人ですね。

「もちろん事故である可能性もある。我が輩はその両方を調べる。動きがあったら連絡するのだの。では、行動開始だの」
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

ばいむ
ファンタジー
10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~ 大筋は変わっていませんが、内容を見直したバージョンを追加でアップしています。単なる自己満足の書き直しですのでオリジナルを読んでいる人は見直さなくてもよいかと思います。主な変更点は以下の通りです。 話数を半分以下に統合。このため1話辺りの文字数が倍増しています。 説明口調から対話形式を増加。 伏線を考えていたが使用しなかった内容について削除。(龍、人種など) 別視点内容の追加。 剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。 高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。 特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長し、なんとか生き抜いた。 冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、ともに生き抜き、そして別れることとなった。 2021/06/27 無事に完結しました。 2021/09/10 後日談の追加を開始 2022/02/18 後日談完結しました。 2025/03/23 自己満足の改訂版をアップしました。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。 しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。 やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。 そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。 そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。 これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 日曜日以外、1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします! 2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております! こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!! 2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?! なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!! こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。 どうしよう、欲が出て来た? …ショートショートとか書いてみようかな? 2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?! 欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい… 2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?! どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…

処理中です...