異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

強者共の村の跡

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「おお、そうじゃ、思い出したぞ。そういえばタイランのとこの娘さんがお前さんにそっくりじゃ。名は確か…」
「止めて下さい!!」

コハクのビックリするような大声に、皆が固まる。

「私はコハクです。それ以上でも以下でもありません」

コハクの強い言葉と強い瞳に、お爺さんが気圧される。

「お、おおう、そ、そうかの…」

またぎっくりしないでね。

「コハク? いいの? 聞かないで」
「私はコハクです、ご主人様」

何か強い意志を込めた瞳を向けられ、私も何も言えなくなる。
これって、辛い記憶を思い出したくない、とかいうのではなく、私のくれた名を大事にしたい、とか?
それとも、私の為に過去は捨てます的な…。そんな、10歳の女の子が、幾ばくも生きてないような子がそんなことを…。
思わず抱きしめる。

「ご、ご主人様?」
「ううん。大好きよ、コハク」
「あ、あの?」

コハクが顔を赤くしてうろたえている。可愛い。
お爺さんが珍しいものを見るようにこちらを見ていた。

「ほ~。見せかけだけかと思ったら、本当にその子を大事にしとるんじゃなぁ」
「当たり前でしょう。こんなに可愛い子を」

コハクが下を向いた。おや、耳が赤くなっているような…。

「あんたみたいな只人もおるんじゃなぁ」
「私みたいなのは極稀だと思いますよ」

誤解が広まるといけないので釘を刺しておく。
この世界では、只人の間では、やっぱり獣人に対する風当たりは強いからね。私みたいなのは…、いるかどうかは分からないけど、いたとしても極少数だろうし。
その後、お爺さんから緑茶…、ならぬミドリ茶をできるだけたくさん頂いて、

「そんなに持って行くのかい。儂の分がなくなっちまうが」
「大丈夫。また作ればいい」
「お前さんが作る訳じゃないじゃろう!」
「また買いに来ますから、たくさん作っておいて下さい」
「今から予約かい…」

お礼とばかりに金貨を積み上げたからいいよね。お爺さん目を丸くしてたけど。

そこから出て、教えられた通りの場所へ向かう。さっき出て来た門からすぐだ。
山の方へ向かって上り坂を上って行くと、なんとなく傾斜のなくなった場所が出て来た。そして、そこらにある、瓦礫の山。5年も経つというのに、未だに焼け跡などが残っている。さすがに遺体はないが。草もボウボウに生い茂り、ここには最早誰もいないのだと主張しているかのよう。
ジャリジャリと足元の石を踏む音が、なんだか大きく聞こえる気がする。山から吹き下ろしてくる風が、時折強く髪を弄ぶ。

「何もないね」
「そうだの」

時折、生活用品らしきものが転がっている。それを見ると、誰かがここで生活していたのだなと実感する。ただ、瓦礫しか周りにはないが。
しばし無言で瓦礫の山の間を、草を踏みしめて歩く。皆もあちこち見て回っている。何かないかと。
コハクも早足、または駆け足で見て回っている。何か思い出すこともあるんだろうか。
それほど大きくはない村の跡、すぐに端に着いてしまう。そしてそこから伸びる道の先。よく見れば、山肌の一部に何かが崩落した跡。

この辺りで、大勢の人達が亡くなったんだ。

いつの間にか皆も来ており、崩落の場所に行ってみることに。
えっちら上って辿り着く。確かに、本線よりは幾分小さめのような気がする。崩落しているから正確には分からないが。

ここから…。コハクはここから連れ出されたのか…。
親とも引き離され、それから記憶を無くすほどに酷い目に合って…。

「コハク、大丈夫?」
「はい。大丈夫です。思ったほど、何も感じません」

それはそれでなんか悲しいような。

長居する場所でもないと、すぐに引き返す。

「ご主人様…、その、あちらに行ってみてもよろしいでしょうか?」

コハクの指さす先。村跡から崩落跡までの道の途中から、崩落跡と反対に伸びる、ギリギリ道と呼べるかという道。もちろん草は生え放題で、なんとなく形的に誰かが道を作ったのだなということが分かる。
何か思い出したのだろうか?
もちろん拒否する理由も無く、コハクが行きたい方へと足を進める。道幅は3人くらいが並ぶとギリギリという感じ。崩落跡の方は馬車が余裕で通れるくらいに広かったから、こっちは何か違う用事で使っていたのかもしれない。

なだらかながらもずっと上りというのは存外きついもので、途中から息が上がってきた。
どうして皆さん涼しい顔をしているのかしら。え?運動不足?黙らっしゃい。
クロの助けを借りて上って行く。シロガネに乗るかと聞かれるが、コハクが涼しい顔してるのに、乗りますなんて言えない。
やっと頂上?なのか、上り道が終わる。開けた場所に出た。道の先には森が広がっている。

「あらまあ、これは…」

思わず絶句。

「ほう…」
「良い眺めじゃな」
「ふむ、こういう眺めも悪くないであるな」

年長者がそれぞれの感想を言い合う。ハヤテも見下ろすのが面白いのか、端のギリギリまで行っている。まて、危ないから下がれ。あ、コハクが連れ戻してくれた。
眼下に広がる景色。下には虎人族の村跡、その先には街跡の廃墟。お爺さんの小屋辺りは木が茂っているから見えない。そして、その先に広がる大地と、その先にもっと広がる海。
これは、絶景かな絶景かなというところでしょう。

リンちゃんもフワリと飛んで、風を楽しんでいる。自然が多いから気持ちが良いのかもしれない。リンちゃん、ハヤテ、遊ぶのは良いけど、落ちないでね。特にハヤテは今人間形態なんだから。
陽の光に煌めく海の美しさ、広がる大地の緑の色。しばらくその美しさを堪能する。
え?シロガネの背に乗ったりしてしょっちゅう見てるだろ?いえいえ、自分で上って来たのだから、感動が違うのよ。

コハクも景色に圧倒されているのか、無言で眺めている。
もしかして、何か思い出したのだろうか?
ちょっと不安に思った時、コハクが振り向いた。ああ、良かった。とてもすっきりした顔してる。
そしてコハクが言った。

「ご主人様、一生に一度のお願いをしてもよろしいでしょうか?」

何をそんな改まって。

「もちろんよ。なあに?」
「私をここに置いて行って下さい」

コハクが景色に負けぬほどの美しい笑顔を浮かべた。
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