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黒猫と共に迷い込む
金額の分の情報は渡したつもり
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「凄い! 噂以上だね!」
前髪男がやたら褒めだした。
「動きといい、戦い方といい…、どうやって仕込んだんだい?」
「知りません。全部この子が考えて行動した結果です。私は何もしてませんよ」
しつっこいぞこいつ。
「妾が多少教えたが、考えたのはハヤテ自身じゃ。ようやったの、ハヤテ」
「クア…」
ぐったりと座り込むハヤテの頭を膝に乗せ、その頭を撫でる。これは、私のご褒美にも思えるのだが。いや、意外にハヤテの頭が重いから、これはいずれ痺れてくるやつか!
余談ですが、猫も人の膝が大好きです。今はハヤテに譲ったので、私の横に座って顔を洗っている。ふううう、可愛いな。
「だけど、グリフォンがあんな風に先陣切って戦うなんて、聞いたこともないよ。何か特別な魔法でも使ってるの?」
「使ってませんたら!」
マジしつこいなこいつ!
「でも、従魔がそんなに簡単に言うことを聞くなんて…」
シュ
何かが空を切る音がすると、前髪男の前髪が宙を舞った。
「あ?」
「おやすまぬ。妾の手が当たってしまったようじゃ」
ハラハラと地面に落ちていく前髪。あら、すっきりした。
「ぼ、僕の前髪…!」
「それ以上主殿を困らせると、今度は間違えて手が顔に当たってしまうかもしれんのじゃ」
ニヤリ、と暗い笑みを浮かべるクレナイ。
それを聞いて、前髪男、いや前髪なくなったから、ハーレム男か、が黙り込んだ。
やはり顔は大事なのね。ならなんで兜を被らないんだろう? 顔に被弾したら凄いことになるんじゃ? ああ、魔法で治してもらうのか。
バラバラの面々が集まってヒソヒソ話し出した。ヒソヒソ声なのに何故か聞こえる不思議。クロさん、何かしてる? 私と目が合うと、ちょっとニヤリとした顔になったよ。
「で、アルダール、何か分かった?」
「分かったのは、命令していないのは本当みたいだってことかな。でも、命令せずにどうやってあんな風に戦わせられるんだ? 先のグレーオウルだって、命令しないと動かなかったよな?」
「しかもタイミングがすんごい不味い時とかにねー。あれは困ったのだよ」
「ご、ごめんなさい」
「いえいえ、イスタのせいではありませんわ。イスタは未だに修行中ですものね」
「はい…」
「しかも、凄い従魔に近くない? ペガサスに乗るのはまだ分かるけど、あの人さっきからグリフォンの頭撫でてるわよ」
「なんか、名前も付けてるみたいなのだな」
「魔獣に名など…。恐ろしい事です」
「えと、でも、個体を識別するには、いい手かと…」
「イスタ、従魔に名前などいらないだろう。あいつらは戦わせる道具なんだから」
「・・・・・・」
「そうそう、あたしたちのサポートをしてくれるはずでしょう? まあ、うちにいるのは役に立ってないみたいだけど」
「それほど難しい事なのですよね、イスタさん」
「はい…」
「まー仕方ないのだな。イスタはまだ新人さんなのだし」
「まあでも、僕達がイスタのサポートをすれば、イスタだってそのうちにあんなグリフォンを操れるようになるかもしれないし、そうしたら今よりずっと楽になるよ」
「・・・・・・」
イスタの顔が暗いなぁ。なんかあの子だけ新人のようだし。それに、あの子はもしかしたら、私寄りの思考の持ち主かもしれない。
それはこの世界では異質なのかもしれないけど、ああいう人が増えてくれればいいなぁ。
「クア」
ハヤテが少し回復したのか、頭を上げる。
「大丈夫? まだ休んでてもいいのよ?」
「クア!」
大丈夫というように、立ち上がる。うむ、足元がフラフラしていないし、とりあえず大丈夫そうだな。
「ではそろそろ戻ろうかのう。ハヤテ無理をせずに、駄目じゃったら言うのじゃぞ」
「クア!」
「よしよし。じゃあ街に帰ろうか。これはまた、ここに置いておいて良いのかしら?」
そう言ってマーダーベアとキングマーダーグリズリーの死体を差す。
さすがに大きすぎて持って行けない。
「ああ、そうだ。討伐証明部位…」
そう言って薔薇の面々がマーダーベアの爪を死体からもぎ取っていた。うわ、ああいうことするのね…。
「じゃあ私達も討伐証明部位を…」
「いや、妾が持ち帰ろうぞ」
「へ? クレナイ?」
「おい、こちらも其方らは持って行かないのじゃろう?」
といってマーダーベアを指さしながら、薔薇の人達に確認を取る。
「え? ああ、こんなに大きいと、解体するのも大変だし…」
「ではよいな。討伐証明部位もきちんと剥ぎ取ったようじゃし」
そう言ってマーダーベアをむんずと掴むと、キングマーダーグリズリーの上にぽん、と放り投げた。
目を広げ、口をあんぐりと開ける薔薇達。
うん、あんな物片手でひょい、なんて普通の女性は出来ないものね。
「リンよ、頼めるかのう?」
リンリン!
リンちゃんが魔法を使って、キングマーダーグリズリーとマーダーベアを木の根のようなもので縛り付ける。そしてクレナイの前にはその先端が…。
「今夜は焼き肉パーティーじゃのう」
嬉しそうにそう言って、小山のようなキングマーダーグリズリーを引っ張って歩き出す。
それを見て、ますます口を大きく開ける薔薇達。
私はハヤテが少し心配だったので、シロガネには乗らずに一緒に歩いて行く。
しばらく固まっていた薔薇達も、気付いて慌てて付いてきた。
ちょっと置いて行きたかった気もするけど…。
森を出た所で、再び前髪男、じゃないや、ハーレム男が話しかけてきた。
「とても凄いグリフォンだね。どうだろう、そのグリフォン、僕達に譲ってくれないだろうか?」
「ああ?!」
つい893さんみたいな感じで答えて睨み付けてしまう。何言っとんじゃこのアホは。
「い、いや、君達は、こんなに素晴らしいペガサスとか、あちらのとても力持ちの女性とか、戦力的には恵まれているじゃないか。グリフォン1匹くらい、どうってことはないだろう? 僕達は今戦力を必要としていて…」
「譲りません」
きっぱりこん。
ハヤテも嫌そうな顔している。こんな嫌そうな顔初めて見たかも。
シロガネも眉をひそめている。あれ、馬に眉ってあるのか? 顔を顰めていると言った方が適切?
クレナイがキングマーダーグリズリーを引きながら、凄い目でバラバラの面々を見ている。若干死角になっているせいか、薔薇達は気付いていない様子。
リンちゃんも頭の上でなにか動いている。抗議しているのかな?
クロも尻尾をぺしぺしし始めた。可愛い尻尾に叩かれるのは、どちらかというとご褒美です。
「お、お金なら、そこそこ手持ちもあるし…」
「譲りません」
「珍しいマジックアイテムなんかも…」
「譲りません」
「それと…」
「譲りません」
きっぱりはっきり言っているのに、めげないなこいつ。
「其方、グリフォンを従魔にしたいと?」
クレナイが怖い笑顔でハーレム男に聞いてくる。
「そ、そうだ。そうすれば、僕達もSランクを目指す事が出来るようになる…」
「良いのか? 制御出来なければ、今度はグリフォンにその自慢の顔を蹴られるかもしれんのじゃぞ?」
言われて、ハーレム男が顔を押さえ、黙り込んだ。気にしてるらしい。
ふ、いい気味だ。ハヤテを従魔にしようだなんて、私が死んでも許さない。
そのまま街道を目指して歩いていると、今度はイスタが近寄って来た。
「あ、あの、同じ従魔師として、ご教授頂きたいのですけど…」
「教えられる事があればね。何か聞きたいの?」
イスタは他のメンバーよりは若干思考が私寄りだが、あんなパーティーにいるのだ、警戒は解けない。
「あ、あの、従魔を、可愛がって良いものなのでしょうか!」
イスタの目が、自信なさげに揺れている。
「良いんじゃない? 私は可愛いから可愛がってるけど」
言いながらハヤテの頭をナデナデ。う~んこのふわっふわ。癖になる。
クロさん、肩に爪立てないで。
「で、でも、従魔は、従わせるもので、可愛がるものじゃないって…」
「別にいいじゃない。自分が可愛いと思ってるなら」
イスタの顔がぽかんとなる。
「世間の人がどう言ってるかは分からないけど、私は可愛いものは可愛がるわ。私がそうしたいから。それが獣だろうが魔獣だろうが関係ない。可愛いものは正義! これこそ真実!」
きっぱりこんと言い放つ。
「可愛いものは正義…」
イスタが目から鱗のような顔になる。
「触りたいから触るのよ。嫌がってるなら無理には触らないけど。それに、このモッフモフを知ってしまったら…、触らないなんて…、出来ない!!」
ハヤテの頭をモフモフ。クロの腕にかかっているお尻をモフモフ。はあ、モフモフ天国。
クロの頭が私の首に押し当てられる。はあはあ、可愛い…。
「あの、顔が溶けてますよ…」
どんな顔だっつーの!
「人の娘、従魔であっても、やはり主人にブラッシングしてもらうことは、我にとって至上の喜びである」
あれ、シロガネが口を出してきた。
「我が主はとてもできた御方であるからな。そんな御方に触れて頂けるだけでも我にとっては喜び。そしてブラッシングして頂けると至上の喜び。分かるか? 娘よ」
分かっていないみたいだよ。
「まあ、シロガネが言いたいのはさ、大好きな人に触られるのは、従魔であろうと人であろうと変わらないって事だと思うよ」
多分。
「イスタも、好きな人に触れられるのは、嫌じゃないでしょう?」
そう言ってちらりと前髪のなくなった男を見る。いや、眉の上で切り揃えられてるんだけどね。ちょっとマヌケ面に見えるんだよな。
視線の先にいる者に気付いて、イスタが顔を赤くする。うん、ウブな反応。可愛いな。
なんでこんなに可愛い子が、あんなゲス野郎の事を好いてるんだろう。
「あの、でも、従魔にどうやったら、好かれるのでしょう…?」
そうくるか。
「イスタは、どうやってあのクズ…じゃない、ええと、アズルールだっけ? を好きになったの?」
「アルダールです。って、好きって、分かります?!」
「モロバレです」
余計に顔が赤くなる。やべえ、この子も可愛がりたくなってきた。
年の頃は妹と同じくらいかしら。うん、大丈夫。可愛い子と言える年だわ。
「アルダールには…、師匠の元から、一応一人前と認められてから、初めて来た冒険者ギルドで、声を掛けてもらったんです。分からなくて右往左往している私を、色々助けてくれて…」
ああ、可愛い子が困ってる風だったから、声を掛けたのね。やりそうだ。
「折角だから仲間にならないかい? と誘ってくれて。丁度戦力を増やそうかと思っていた所だったらしいのです。鳥の従魔なら偵察などにも向いているし、便利だからと」
べんり、ね。
「未だにパーティーでは足手まといなんですけど、アルダールは優しくて。どんなに失敗しても、私を励ましてくれるんです。まだまだこれからだよって」
顔可愛い、胸でかい、性格控えめでお淑やか。それで選ばれたんじゃなきゃいいけど。
「そんな、優しさに惹かれたんです。顔ももちろん良いですけど、やっぱり、優しくされて、嬉しかったから…」
「じゃあ、今度はイスタがそれをすれば良いんじゃない?」
「え?」
思い出に浸っていたイスタが顔を上げる。
「優しくされて、認められて、それで相手を好きになったんでしょう? だったら、それを角ウサギちゃんにしてあげればいいのよ」
イスタの後ろからぴょんこぴょんこ付いてくるウサギを見る。可愛い…。あの短い足で一生懸命付いてくる姿がまたいい…。
「優しくして…、認める…」
「イスタがされて嬉しかったことを、その角ウサギにしてあげたら? そしたら、角ウサギもイスタの事を好きになってくれるんじゃない? そしたら、きっと角ウサギもイスタのお願いを聞いてくれるようになるよ」
「お願い?」
「そう。イスタだって、好きな人にお願いされたら、やってあげたくなっちゃうでしょう? それと同じ。従魔だって、人と同じように感じているのだもの。されて嫌なことは従魔も嫌。されて嬉しいことは従魔も嬉しい。そうじゃない?」
「そ、そうしたら、私の言うことを、もっと聞いてくれるようになりますか?」
「少なくとも、うちの子達はそうだと思うけど。イスタの目から見て、どう?」
「あ…」
シロガネとハヤテを見る。
私の横を付かず離れず一緒に歩く2人、じゃない2頭。
その顔は、角ウサギのようにぶすっとしたものではなく、嬉しそうな楽しそうな、それでいて誇らしげな顔。やだぁ、私も嬉しくなっちゃうよ。
「そ、そうですね。やってみます!」
イスタの顔が明るくなった。なんとなく目の前を塞いでいた物が取れたような顔。
「ありがとうございます!」
そう言って、私達から離れ、パーティーの方に戻って行った。
今度は、追いかけてくる角ウサギを気にしながら。
これでちょっとは変わってくれると良いな。
その後、ハヤテも魔力が大分回復して来たのか、軽く飛んだりするようになったので、私もシロガネに騎乗。街道も近くなっていたので、
「妾達は先を急ぐのでな。後は悠々帰られるが良いぞ」
とクレナイが言ったので、遠慮なくシロガネも走り始める。
「お、おい、僕達を置いて行く気か!」
もう用は済んだし、一緒に行動するメリットもない。それに街道が近ければそこまで危ないこともないだろう。
ということで、脱兎の如く、そのパーティー達から逃げ出したのだった。
また王都で会っても、今度は最初からクレナイ様の脅し付きだわね。
前髪男がやたら褒めだした。
「動きといい、戦い方といい…、どうやって仕込んだんだい?」
「知りません。全部この子が考えて行動した結果です。私は何もしてませんよ」
しつっこいぞこいつ。
「妾が多少教えたが、考えたのはハヤテ自身じゃ。ようやったの、ハヤテ」
「クア…」
ぐったりと座り込むハヤテの頭を膝に乗せ、その頭を撫でる。これは、私のご褒美にも思えるのだが。いや、意外にハヤテの頭が重いから、これはいずれ痺れてくるやつか!
余談ですが、猫も人の膝が大好きです。今はハヤテに譲ったので、私の横に座って顔を洗っている。ふううう、可愛いな。
「だけど、グリフォンがあんな風に先陣切って戦うなんて、聞いたこともないよ。何か特別な魔法でも使ってるの?」
「使ってませんたら!」
マジしつこいなこいつ!
「でも、従魔がそんなに簡単に言うことを聞くなんて…」
シュ
何かが空を切る音がすると、前髪男の前髪が宙を舞った。
「あ?」
「おやすまぬ。妾の手が当たってしまったようじゃ」
ハラハラと地面に落ちていく前髪。あら、すっきりした。
「ぼ、僕の前髪…!」
「それ以上主殿を困らせると、今度は間違えて手が顔に当たってしまうかもしれんのじゃ」
ニヤリ、と暗い笑みを浮かべるクレナイ。
それを聞いて、前髪男、いや前髪なくなったから、ハーレム男か、が黙り込んだ。
やはり顔は大事なのね。ならなんで兜を被らないんだろう? 顔に被弾したら凄いことになるんじゃ? ああ、魔法で治してもらうのか。
バラバラの面々が集まってヒソヒソ話し出した。ヒソヒソ声なのに何故か聞こえる不思議。クロさん、何かしてる? 私と目が合うと、ちょっとニヤリとした顔になったよ。
「で、アルダール、何か分かった?」
「分かったのは、命令していないのは本当みたいだってことかな。でも、命令せずにどうやってあんな風に戦わせられるんだ? 先のグレーオウルだって、命令しないと動かなかったよな?」
「しかもタイミングがすんごい不味い時とかにねー。あれは困ったのだよ」
「ご、ごめんなさい」
「いえいえ、イスタのせいではありませんわ。イスタは未だに修行中ですものね」
「はい…」
「しかも、凄い従魔に近くない? ペガサスに乗るのはまだ分かるけど、あの人さっきからグリフォンの頭撫でてるわよ」
「なんか、名前も付けてるみたいなのだな」
「魔獣に名など…。恐ろしい事です」
「えと、でも、個体を識別するには、いい手かと…」
「イスタ、従魔に名前などいらないだろう。あいつらは戦わせる道具なんだから」
「・・・・・・」
「そうそう、あたしたちのサポートをしてくれるはずでしょう? まあ、うちにいるのは役に立ってないみたいだけど」
「それほど難しい事なのですよね、イスタさん」
「はい…」
「まー仕方ないのだな。イスタはまだ新人さんなのだし」
「まあでも、僕達がイスタのサポートをすれば、イスタだってそのうちにあんなグリフォンを操れるようになるかもしれないし、そうしたら今よりずっと楽になるよ」
「・・・・・・」
イスタの顔が暗いなぁ。なんかあの子だけ新人のようだし。それに、あの子はもしかしたら、私寄りの思考の持ち主かもしれない。
それはこの世界では異質なのかもしれないけど、ああいう人が増えてくれればいいなぁ。
「クア」
ハヤテが少し回復したのか、頭を上げる。
「大丈夫? まだ休んでてもいいのよ?」
「クア!」
大丈夫というように、立ち上がる。うむ、足元がフラフラしていないし、とりあえず大丈夫そうだな。
「ではそろそろ戻ろうかのう。ハヤテ無理をせずに、駄目じゃったら言うのじゃぞ」
「クア!」
「よしよし。じゃあ街に帰ろうか。これはまた、ここに置いておいて良いのかしら?」
そう言ってマーダーベアとキングマーダーグリズリーの死体を差す。
さすがに大きすぎて持って行けない。
「ああ、そうだ。討伐証明部位…」
そう言って薔薇の面々がマーダーベアの爪を死体からもぎ取っていた。うわ、ああいうことするのね…。
「じゃあ私達も討伐証明部位を…」
「いや、妾が持ち帰ろうぞ」
「へ? クレナイ?」
「おい、こちらも其方らは持って行かないのじゃろう?」
といってマーダーベアを指さしながら、薔薇の人達に確認を取る。
「え? ああ、こんなに大きいと、解体するのも大変だし…」
「ではよいな。討伐証明部位もきちんと剥ぎ取ったようじゃし」
そう言ってマーダーベアをむんずと掴むと、キングマーダーグリズリーの上にぽん、と放り投げた。
目を広げ、口をあんぐりと開ける薔薇達。
うん、あんな物片手でひょい、なんて普通の女性は出来ないものね。
「リンよ、頼めるかのう?」
リンリン!
リンちゃんが魔法を使って、キングマーダーグリズリーとマーダーベアを木の根のようなもので縛り付ける。そしてクレナイの前にはその先端が…。
「今夜は焼き肉パーティーじゃのう」
嬉しそうにそう言って、小山のようなキングマーダーグリズリーを引っ張って歩き出す。
それを見て、ますます口を大きく開ける薔薇達。
私はハヤテが少し心配だったので、シロガネには乗らずに一緒に歩いて行く。
しばらく固まっていた薔薇達も、気付いて慌てて付いてきた。
ちょっと置いて行きたかった気もするけど…。
森を出た所で、再び前髪男、じゃないや、ハーレム男が話しかけてきた。
「とても凄いグリフォンだね。どうだろう、そのグリフォン、僕達に譲ってくれないだろうか?」
「ああ?!」
つい893さんみたいな感じで答えて睨み付けてしまう。何言っとんじゃこのアホは。
「い、いや、君達は、こんなに素晴らしいペガサスとか、あちらのとても力持ちの女性とか、戦力的には恵まれているじゃないか。グリフォン1匹くらい、どうってことはないだろう? 僕達は今戦力を必要としていて…」
「譲りません」
きっぱりこん。
ハヤテも嫌そうな顔している。こんな嫌そうな顔初めて見たかも。
シロガネも眉をひそめている。あれ、馬に眉ってあるのか? 顔を顰めていると言った方が適切?
クレナイがキングマーダーグリズリーを引きながら、凄い目でバラバラの面々を見ている。若干死角になっているせいか、薔薇達は気付いていない様子。
リンちゃんも頭の上でなにか動いている。抗議しているのかな?
クロも尻尾をぺしぺしし始めた。可愛い尻尾に叩かれるのは、どちらかというとご褒美です。
「お、お金なら、そこそこ手持ちもあるし…」
「譲りません」
「珍しいマジックアイテムなんかも…」
「譲りません」
「それと…」
「譲りません」
きっぱりはっきり言っているのに、めげないなこいつ。
「其方、グリフォンを従魔にしたいと?」
クレナイが怖い笑顔でハーレム男に聞いてくる。
「そ、そうだ。そうすれば、僕達もSランクを目指す事が出来るようになる…」
「良いのか? 制御出来なければ、今度はグリフォンにその自慢の顔を蹴られるかもしれんのじゃぞ?」
言われて、ハーレム男が顔を押さえ、黙り込んだ。気にしてるらしい。
ふ、いい気味だ。ハヤテを従魔にしようだなんて、私が死んでも許さない。
そのまま街道を目指して歩いていると、今度はイスタが近寄って来た。
「あ、あの、同じ従魔師として、ご教授頂きたいのですけど…」
「教えられる事があればね。何か聞きたいの?」
イスタは他のメンバーよりは若干思考が私寄りだが、あんなパーティーにいるのだ、警戒は解けない。
「あ、あの、従魔を、可愛がって良いものなのでしょうか!」
イスタの目が、自信なさげに揺れている。
「良いんじゃない? 私は可愛いから可愛がってるけど」
言いながらハヤテの頭をナデナデ。う~んこのふわっふわ。癖になる。
クロさん、肩に爪立てないで。
「で、でも、従魔は、従わせるもので、可愛がるものじゃないって…」
「別にいいじゃない。自分が可愛いと思ってるなら」
イスタの顔がぽかんとなる。
「世間の人がどう言ってるかは分からないけど、私は可愛いものは可愛がるわ。私がそうしたいから。それが獣だろうが魔獣だろうが関係ない。可愛いものは正義! これこそ真実!」
きっぱりこんと言い放つ。
「可愛いものは正義…」
イスタが目から鱗のような顔になる。
「触りたいから触るのよ。嫌がってるなら無理には触らないけど。それに、このモッフモフを知ってしまったら…、触らないなんて…、出来ない!!」
ハヤテの頭をモフモフ。クロの腕にかかっているお尻をモフモフ。はあ、モフモフ天国。
クロの頭が私の首に押し当てられる。はあはあ、可愛い…。
「あの、顔が溶けてますよ…」
どんな顔だっつーの!
「人の娘、従魔であっても、やはり主人にブラッシングしてもらうことは、我にとって至上の喜びである」
あれ、シロガネが口を出してきた。
「我が主はとてもできた御方であるからな。そんな御方に触れて頂けるだけでも我にとっては喜び。そしてブラッシングして頂けると至上の喜び。分かるか? 娘よ」
分かっていないみたいだよ。
「まあ、シロガネが言いたいのはさ、大好きな人に触られるのは、従魔であろうと人であろうと変わらないって事だと思うよ」
多分。
「イスタも、好きな人に触れられるのは、嫌じゃないでしょう?」
そう言ってちらりと前髪のなくなった男を見る。いや、眉の上で切り揃えられてるんだけどね。ちょっとマヌケ面に見えるんだよな。
視線の先にいる者に気付いて、イスタが顔を赤くする。うん、ウブな反応。可愛いな。
なんでこんなに可愛い子が、あんなゲス野郎の事を好いてるんだろう。
「あの、でも、従魔にどうやったら、好かれるのでしょう…?」
そうくるか。
「イスタは、どうやってあのクズ…じゃない、ええと、アズルールだっけ? を好きになったの?」
「アルダールです。って、好きって、分かります?!」
「モロバレです」
余計に顔が赤くなる。やべえ、この子も可愛がりたくなってきた。
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「アルダールには…、師匠の元から、一応一人前と認められてから、初めて来た冒険者ギルドで、声を掛けてもらったんです。分からなくて右往左往している私を、色々助けてくれて…」
ああ、可愛い子が困ってる風だったから、声を掛けたのね。やりそうだ。
「折角だから仲間にならないかい? と誘ってくれて。丁度戦力を増やそうかと思っていた所だったらしいのです。鳥の従魔なら偵察などにも向いているし、便利だからと」
べんり、ね。
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顔可愛い、胸でかい、性格控えめでお淑やか。それで選ばれたんじゃなきゃいいけど。
「そんな、優しさに惹かれたんです。顔ももちろん良いですけど、やっぱり、優しくされて、嬉しかったから…」
「じゃあ、今度はイスタがそれをすれば良いんじゃない?」
「え?」
思い出に浸っていたイスタが顔を上げる。
「優しくされて、認められて、それで相手を好きになったんでしょう? だったら、それを角ウサギちゃんにしてあげればいいのよ」
イスタの後ろからぴょんこぴょんこ付いてくるウサギを見る。可愛い…。あの短い足で一生懸命付いてくる姿がまたいい…。
「優しくして…、認める…」
「イスタがされて嬉しかったことを、その角ウサギにしてあげたら? そしたら、角ウサギもイスタの事を好きになってくれるんじゃない? そしたら、きっと角ウサギもイスタのお願いを聞いてくれるようになるよ」
「お願い?」
「そう。イスタだって、好きな人にお願いされたら、やってあげたくなっちゃうでしょう? それと同じ。従魔だって、人と同じように感じているのだもの。されて嫌なことは従魔も嫌。されて嬉しいことは従魔も嬉しい。そうじゃない?」
「そ、そうしたら、私の言うことを、もっと聞いてくれるようになりますか?」
「少なくとも、うちの子達はそうだと思うけど。イスタの目から見て、どう?」
「あ…」
シロガネとハヤテを見る。
私の横を付かず離れず一緒に歩く2人、じゃない2頭。
その顔は、角ウサギのようにぶすっとしたものではなく、嬉しそうな楽しそうな、それでいて誇らしげな顔。やだぁ、私も嬉しくなっちゃうよ。
「そ、そうですね。やってみます!」
イスタの顔が明るくなった。なんとなく目の前を塞いでいた物が取れたような顔。
「ありがとうございます!」
そう言って、私達から離れ、パーティーの方に戻って行った。
今度は、追いかけてくる角ウサギを気にしながら。
これでちょっとは変わってくれると良いな。
その後、ハヤテも魔力が大分回復して来たのか、軽く飛んだりするようになったので、私もシロガネに騎乗。街道も近くなっていたので、
「妾達は先を急ぐのでな。後は悠々帰られるが良いぞ」
とクレナイが言ったので、遠慮なくシロガネも走り始める。
「お、おい、僕達を置いて行く気か!」
もう用は済んだし、一緒に行動するメリットもない。それに街道が近ければそこまで危ないこともないだろう。
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斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。
偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。
「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」
選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。
《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。
そして夢をみた。
日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。
その顔を見て目が覚めた。
なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
日曜日以外、1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
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2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!
2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております!
こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!!
2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?!
なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!!
こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。
どうしよう、欲が出て来た?
…ショートショートとか書いてみようかな?
2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?!
欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい…
2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?!
どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…
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