異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

クロの消耗

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「主殿!」
「主!」
「あるじ!」

リン!

皆の声が聞こえ、ゆっくりと瞼を持ち上げた。

「主殿」
「主」
「あるじ~!」

リリン

皆の顔と声。

「帰って来たんだ…」

こっちの世界に。
頬を拭うと、涙の跡。泣いてたんだ。

「ただいま、皆」

皆のほっとした顔。
左腕の重さに、クロがいたことを思い出す。

「クロ、ありがとうね。おかげで元気出たよ」

と、体を起こすも、いつも私が動こうとすると動くクロが動かない。

「クロ?」

なんだかぐったりしている。

「クロ?!」
「そう大声を出すな…」

弱々しい声でクロが答えた。良かった、死んではいない。

「どうしたの? 何かあった?」
「ちと…、簡潔に言えば、エネルギーを使い過ぎたという所だの。休めば治る」

苦しそうに答えた。
リンちゃんも心配したのか、クロに触れて、緑の光で包んだ。

「リン、これは体力がなくなっているような状態だの。それはあまり意味がない」

それでもしばらくリンちゃんは光で包んでいた。でもクロの言うとおり、回復した様子は見えなかった。

「そんなに、疲れる事なんだね…」

クロを撫でながら呟く。

「まあ、世界を渡るのだしの…」

動く気配はない。

「ええと、それから、こっちではどれくらい時間経ったのかな?」
「はて、10分も経ってはおらぬと思いますのじゃが?」
「うむ。そんなに経っておらぬである」
「すこし?」

リン?

「え? 結構長いこと向こうに行ってたと思うけど…」
「霊体に時間は関係ない。強いて言うなら距離もあまり関係はない。あまり離れすぎても良くはないのでの、この世界の時間で短時間で済ませたのだの」
「そうだったのか。ありがとうね。クロ。ごめん、ゆっくり休んで」
「うむ…」

ということは、寝る前の時間だったと言うことだから…。
寝ることにした。

詳しいことは明日にすることに。分からない事があったら、またクロに聞くことになりそうだし。これ以上クロに負担をかけるわけにもいかない。
寝ている間に潰してしまうと不味いので、クロは枕の横に寝かせる。これなら、余程の事がない限りは、頭で潰すなんてこともなかろう。一応、今までに目が覚めて頭が落ちていたと言うことはないから…。大丈夫だよね?
灯りを消して、ベッドに潜り込む。

「お休み、クロ」

顔の横にあるクロの体を軽く撫でて、目を瞑った。





皆の夢を見た気がした。
















次の日、目が覚めると、まだクロは枕の横で横になっていた。

「クロ?」
「八重子、起きたかの」

顔を動かしてこちらを見た。良かった。昨日よりは回復してるみたい。でもまだ体を動かすのはしんどいらしく、いつもより動きたがらない。
朝の支度をして、下の食堂へ。いつものようにクロを抱えると、何故か腕にずっしりときた。そういえば、向こうの世界にいる時は、いつもこんな感じに重さを感じていた気がする。もしかして今まで、クロが何かの方法で体重を軽くするなどして、私の負担をなくしてくれていたのかもしれない。

「クロ、太った?」
「なわけなかろう」

膝の上でだるそうに、私の手から食事を食べるクロに、ちょっと萌える。

「ハアハアしたい…」
「主殿、食事中じゃぞ?」

自重します。
食事の後に部屋にもう一度戻り、昨日のことについて軽く話をした。
何故食事を先にしたかって? 考えれば分かるでしょう!

クロによると、やはり世界を跨ぐには魂だけといえど、それなりに負担がかかるらしい。なのでクロが消耗してしまったのだそうな。もうクロにはありがとうとしか言えない。

「まあ、存外世界が近い所にあったのでの。探すのは然程苦労もせんかったの」

そうなのですか。

それと、魂が抜けている体には、悪鬼などが入りやすいのだそうな。なので皆に周りを固めておいてもらったのだと。この世界だと、悪鬼って、レイスとかリッチとかになるのかしら?

「とまあ、色々あったので、光の御子さんに会うという目的は果たせそうにないので、早々にこの国を出て、また何か方法がないか、あちこちフラフラしながら探そうと思うの」
「うむ! 妾は主殿にどこまでも付いていくのじゃ!」
「我は足として必要であるな」
「いっしょにいく~」

リンリン!

「ありがとうね、皆。まだしばらく力を貸してね」
「「「もちろん(じゃ)(である)(~)」」」

リリリン!

良い仲間に出会えて本当に良かった良かった。

「で、今日はクロがこんなだし、部屋でもう一日のんびりしようかと思うんだけど。皆は出かけて来る?」
「クロ殿も連れて一緒に出かけたらどうじゃ?」
「それがですね…」

クロの重さについて説明した。
クロの最終体重記録は5.25㎏(直前に病院で量って貰ってた)。ちょっと大きめ。これが常時負荷がかかると、私の腕がおかしな事になってしまう。

「今までは普通に持っていたのではないかえ?」
「クロがね。どうやら何か術でも使っていてくれたようでね。ほとんどまったく重さを感じていなかったのです」

気付かない私も私だけどね。

「私の代わりに誰かに抱っこしてもらえばいいんだけど…」

シロガネは渋い顔。クレナイは顔を輝かせる。

「クロ、クレナイに抱っこしてもらうのは…」

たしーんたしーん。

「嫌みたい」
「クロ殿ぉ…」

クレナイがっくり。
ハヤテに持たせるのは…。ま、小さい子に持たせるのは色々怖いよね。

「う?」

ううう、ハヤテのなあにという顔、可愛ええええええ。

「多少は回復しておるし、馬の背に乗って移動するくらいなら大丈夫だろうの。最初の街くらいまでなら移動出来ると思うがの」

確かに、シロガネの背に乗ってしまえば問題ないか。

「ペガサス!」

このやりとりも何回目だ?

チェックアウトすると言ったらちょっと驚かれた。参拝は諦めるのかと。

「うん。また気が向いたら来るわ」

適当にそう答えて宿を出る。別に信仰している訳でもないし、参拝したくて来たわけでもないし。
街を出てほどなくして、シロガネの背に乗せてもらう。良かった。腕がプルプルしてきた所だった。いや、猫って存外重いのよ。ホントよ? だって、5㎏もあるんだよ?

いつものように膝の間にクロを置いて、出発。

「主殿、一度マメダ王国に戻るのかえ?」
「う~ん、他に行っても良いけど、まだ特に決めてないし、とりあえずマメダ王国だね。下手に日を開けると、まだ仕事が増えそうだし」
「主殿、拠点を変えぬか?」
「考えようか」

あまり仕事を押しつけられるのもあれだしなぁ。そういえば、この世界に来て本当に始まりの街、ナットーはどうしてるかしら? あそこのギルドマスターも同じ迷い人だし、あそこのほうがのんびり出来るかな?
そんなことを考えつつ、空の旅を楽しむのだった。

















夕方に最初の街に着く頃には、クロも大分回復していた。おお、腕にかかる負担が大分軽くなっている。良きかな良きかな。
クレナイも早くこの国を出たいらしい。うん、肉料理がないからだね。

一夜明けると、クロもすっかり元気になっていた。うんうん、この尻尾のゆらゆら具合が可愛い。んふふ。

「クロさん、私、またクロさん可愛い過ぎてどうしようもない病が発病してしまったのですけど」
「そんなしょうもない病があるか!」
「クロ~~~~~~~!!!!」
「やめい!」

朝からお腹、いただきました。









朝食を頂いた後はさっさと宿を出て、国境に向かう。これで後はマメダ王国に来たルートをそのまま逆さまに辿るだけだ。

「あ、そうか、途中のレオサークって国、なんか知識の宝庫? みないな感じだったから、ちょっと寄って何かいい情報でもないか探ってみようか」
「そうだの」
「主殿が言うなら」
「依存はないである」
「さがす~」

リンリン

そういうことになった。

そして国境にさしかかり、無事に宗教国家から出る。すると、

「お待ちしておりました」

目の前にとても立派な馬車が止まって、その関係者らしき人がこちらに向かって頭を下げていた。
え? 私達? と思って後ろを振り向くも、他には誰もいない。

「タカマガハラ子爵に、貴女方をご案内するように仰せつかった者です。お急ぎでなければ、是非我が主人にお会いして行って下さい」

頭を下げたままそう言われる。
え~? 貴族がご招待? あまり良い感じはないよね。

「特別な料理などもご用意しております。お付きの方々もご満足頂けるのではと」

じゅるり

横からそんな音がした。明らかにクレナイだよね。

「う~ん、でもなぁ…」

貴族ってあまり良いイメージないしなぁ。断ろうかと思ったその時、懐から何やら紙を差し出してきた。

「こちらをご覧頂ければ、是非とも来て頂けるようになると、仰せつかっております」

手紙?

よく分からないけど受け取って、中を開いてみる。

「え…」

そこには、見慣れた文字が並んでいた。

『迷い人について、是非話をしたい』

迷い人、そして日本語…。

「行きます」

そう答えていた。
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