異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

終わりに向けて

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色々手続きを終わらせて、コウジさんが言った。

「ついでに何か依頼を受けていく?」

にっこり笑ったその背後に積まれている書類…。違うよね?
先を急ぐのでときちんと断り、部屋を逃げるように出て行った。
う~ん、一度も涙涙のお別れになっていない…。

「あ、ヤエコさん、お話終わったんですか?」

出た所でエリーさんに会った。

「はい。エリーさん、お元気で」
「? はい。またいらしてくださいね」

もう来ないよ。
曖昧に笑って、さよならと言ってギルドを出た。エリーさんは笑顔で手を振ってくれていた。















昼食ついでに猫耳亭へ。
久しぶりと歓迎され、久しぶりに猫耳亭定食を食べた。相変わらず美味しい。
こっそりリルケットに2人の進展を聞くと、

「キシュリーがこの頃ソワソワしていて、兄貴もなんだか色々もそもそしてるのよ。こりゃ、ゴールも近いかもね」

とにんまり。
式には是非来てねと言われたが、冒険者だと難しいよとやんわりお断り。

「出席できるなら、是非出席したいけどね」

この世界の結婚式か。見たかったなぁ。てか、結婚するの、早くね? 2人共私と同じくらいの年じゃなかったっけ? まあいいか。
きちんとお金を支払って、店を出る。

「あとは、ウララちゃんくらいかな?」

ウララちゃんには初期の頃に大変お世話になったしね。

「主殿、1つ忘れておらぬか?」
「へ? 誰?」
「あの変態爺じゃよ。妾にいきなり飛びついてきた」
「・・・・・・」

ああ、そんな人もいたっけねぇ…。















ドラゴンの里に行ったら是非聞いて来てくれと凄い勢いで頼まれたんだっけ。
すっかり忘れてた。

「大丈夫じゃ。妾がちゃんと聞いて来たのじゃ」

さすがクレナイ! 頼りになる!
てことで、草むしりお爺さんの家へ。
ひっさびさだね、この端の端の端の家。

「こんにちは~」

扉をノック。
ガタガタ音がして、

「お前さんか?!」

勢いよく扉が開け放たれた。
反応早くね?

「あ~、えと、ごぶたさしてます…」
「待っておった! さ、早う早う!」

腕を掴まれて、問答無用で家の中に通された。
相変わらず、そこそこの整理のしてあるお家ですこと。

「おや? もう1人小さいのがおらんかったか?」

お爺さんが首を傾げた。
すでに研究室らしき部屋に通された後に。遅くね?

「実は…」

途中で声が萎んでいく。その後はクレナイとシロガネが引き継いでくれた。

「そうか…。それは、ご愁傷様じゃったのう」

お爺さんが悲しそうな顔をする。

「まあそれは置いといて、それで、儂の研究の答えは、聞いて来てくれたのか?」

一瞬だったね!

「うむ。それについては、妾が直々に長老様に聞いて来たのじゃ!」

胸を張るクレナイ。

「ほうそうか、それで、それで?」

ワクワクとクレナイの次の言葉を待つお爺さん。

「うむ。長老様に聞いたところじゃな、「人族の使っていた言葉など儂らが知るか」と仰っていた」
「・・・・・・」

お爺さんががっくりと項垂れた。可哀相に思える程にがっくり来ている。んで、背中に黒いオーラが乗っている。
あれ、これ、やばくね?

「まあしょげるでない。1つ、面白い術式を学んできたのじゃ」

とクレナイが側により、なにやらこっそり耳打ち。
お爺さんが顔を上げる。

「なんじゃと…? そんな方法が…」
「紙と書くものがあれば、もう少し詳しく説明も出来よう」
「ちょ、ちょっとまってくれ。この辺に…。あった、これにでも書いてみてくれ」
「うむ。まずはじゃな、これがこうなっておるじゃろう?」
「ふんふん」
「それでこうなってこうなるから、ここをこうしてじゃのう」
「なるほど! そんな手が…」
「それでこれがこうなると、こうなるわけじゃ!」
「これは凄い! なるほど、既存の技にばかり捕らわれすぎていたのじゃな。もっと多角的に色々見て見ないと分からないものじゃ!」
「そうじゃろう、そうじゃろう」

なにやら頷きあっている2人。

「それで、これで本当に紋は消えたのかの?」
「この通りじゃ」

胸元を開くクレナイ。こらこら、年頃の女性がなにやってるのよ。いや、全部は見せてないけどね。

「本当じゃ…。これは、ある意味大発見じゃぞ」
「そうじゃろう? それでのう、其方にもこの紋の解き方のすべを世に知らしめる為に一役買って欲しいのじゃが」
「よかろう! 新しい技術は取り入れるべきじゃ!」

お爺さんがウキウキと張り切りだした。新しいものが好きなのね。

「でも、これが世に広まるかな?」

思わず口出し。

「主殿、良いのじゃ。最悪人の間に広まらずとも、悲惨な目にあっておる従魔達に届けばのう」

いや、それ、かなりまずいんじゃ?

「それでじゃのう、ついでにこのようなものも考えておってのう」
「ほう、これは? 今までの紋と何か違うようじゃが」
「今までのをちと改良して、ここをこう繋いで、互いの信頼度に応じて力が強まるような紋を考えてみたのじゃが」
「なるほど…。ならば、こちらをもう少しこうした方が…」
「ほう、そう来たか。ならばこちらももそっと…」
「いやいや、こっちは動かさん方が…」

クレナイとお爺さんが再び話し込み始めた。
話の内容によると、新しい従魔紋の話しみたいだけど…。
どうせ私には関係ないやと、シロガネとハヤテとリンちゃんと遊びながら話が終わるのを待つのだった。

















「いやあ、有意義な議論が出来たわい」
「ほんに。良き話しが出来たものじゃ」

長い話が終わり、がっちりと握手を交わす2人。待ちくたびれて、ちょっとうとうとしてしまったよ。
ふと見れば、窓の外が暗くなり始めている。おいおい、どれだけ話してたんだ。
挨拶をして家を出る。お爺さんはそれはそれは嬉しそうに手を振って見送ってくれたのだった。

「話しは終わったの? クレナイ」
「うむ。待たせてしまって申し訳なかったのじゃ主殿」

道々話しを聞きながら、ウララちゃんの宿屋を目指す。

「雛形は出来たのじゃ。あとは誰かで実験してみるのみじゃ」
「実験て…」
「ひとまずはチャージャに協力を仰ごうとは思っておるのじゃ。あとは、王都であったあのウサギ使いじゃな」

ゴメン、チャージャにイスタ。せめて無事を祈ってる…。
知り合えた従魔師達の無事を祈りつつ、ウララちゃんの宿屋へ入っていったのだった。
遅い時間だったけど、泊まれて良かったよ。
ついでに恒例のシロガネのブラッシングも。2人共満足したようで、良かった良かった。











そして、朝が来た。
これでこの世界でお世話になった人達とも挨拶を済ませたし、今日で…この世界ともお別れだ。

























その2人は突然現われて、言った。

「あなた、迷い人ですよね?」

白いフードを被った、声の調子からして女性と、黒いフードを被った、体つきからして男性の不思議な2人。
何の用でギルドマスターの執務室まで案内させて来たのか、良く思い出せず、警戒を抱くはずが、何故かその気が湧いてこない。
本能が告げていた。この2人に手を出してはいけない。決して敵ではないと。

「どこでその話しを?」

そう問いかけたら、にっこりと微笑んで、

「八重子さん、と言えば分かるかしら?」

途端に、腑に落ちた。

「平凡過ぎて~」

などとのたまうあの風変わりな女性の事を。
いや、確かに本人は平凡かもしれないが、その周りが濃い。濃すぎる。
彼女はどれだけ自分が目立っているか、自覚していなかった。まあ、あの集団に下手に手を出したらどうなるかは、実力のある者なら分かろうものだし、分からなくても洗礼を受けるだけだと放っておいたが。その辺りの力加減も絶妙とも噂が聞こえていたりもする。

「彼女に私の事を聞いたのか。それで、彼女は? もう元の世界に?」
「いいえ。今頃はお世話になった人達に会いに行ってるんじゃないかしら?」

なるほどと頷いた。彼女ならやりそうだ。

「と言う事は、ここにも顔を見せるつもりかな?」
「そうだと思うわ」

ふふふと笑い合う。

「それで、貴方は? 元の世界へ帰る? それとも帰らない?」

その問いかけを聞き、黙り込んでしまう。
元の世界に未練がないわけではない。しかし、この世界に築き上げてきた物もある。ずっと考えていたが、答えは出ていなかった。

「ちなみにだけど、大人しく帰ると言うのであれば、この世界の記憶を持って帰ることも許すわ。戻るのも、貴方がいなくなったその場所、その時間。体の年齢も元に戻す事が可能よ」
「な?!」

なんだって?!

「それは…。嫌だと言ったら…」
「この世界の事を全て忘れてもらって、強制送還させて頂きます。あ、もちろん、送るのはその日その場所その時間よ。体の年齢も戻っているから、何事もなかったように普通に暮らしに戻るでしょうね」
「・・・・・・」

それは、大人しく言う事を聞いた方が、良い気がする。
つまりは、逆異世界生まれ変わりみたいなものだ。あの時、13のあの時から、人生をやり直せるのだ。
まあ、こちらの世界の知識では、知識チートは出来ないだろうが。

「はっきり言ってしまうと、貴方達は本来この世界の歴史に存在しないはずだったイレギュラーな人達なの。だから、出来るだけ早めにこの世界からいなくなって欲しいのよ」

随分な言われようだ。

「歴史に存在しない存在?」
「ええ。だから、この世界にいろいろ歪みが出て来てしまっていて…」

頭を抱えている。

「まさか、いると、この世界に何か影響が、とか?」
「そこまで大きくはなくとも、ないわけではないわ。それに、それが積もりに積もっている状態ではあるし…」

怖い事を聞いた気がする。

「そこまで聞かされて、この世界に残りたいとは言えないよ。私も、大人しく帰るよ。その、手続きなんかをする時間はもらえるのだろうか?」
「ええ。良かったわ、話が分かる人で。周りへの挨拶とか、色々あるでしょうから、終わったら呼びだしてくれればいいわ。これを渡しておくから、用が全て済んだら、叩き割ってくれればすぐに迎えに行くわ」

そう言って、水晶の玉のような物を差し出してきた。

「分かった…」
「出来るだけ早めに、お願いするわね」

そう言って部屋を出ようと背を向けた時、何かに気付いたように足を止める。

「あ、そうそう。ないとは思うけど、すでにマーキングはしたから、逃げようと思っても無駄ですからね。そんな動きが見られたら、即強制送還に向かいますので。あしからず」

フードの下でにっこりと笑うと、白黒コンビは部屋の外へと出て行った。
黒い方は一言も喋らなかったが…。

「そうか…。帰れるのか…」

妻と子の事を考えて、胸が痛んだ。













その夜、妻にだけ事情を打ち明けた。元々彼女は自分の事情をある程度知ってはくれている。

「すまない…。帰らなければならないようだ…」

と私が告げると、彼女は少し寂しげだったが、にっこりと笑った。

「何を言ってるのよ。ずっと探してきたんでしょう? その方法が見つかったのなら、帰るべきだわ。大丈夫よ。あの子達の事は任せて」

思わず泣いてしまった。嬉しさと悲しさと喜びと寂しさで。
そんな私を彼女は抱きしめて、ずっと背中を撫でてくれていた。
本当に、いい女と所帯を持ったと思った。
この世界の事を、彼女の事を、絶対に忘れたくない…。
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