異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

零れ話~とあるドラゴンの話

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自分を守ってくれている殻から、頑張って外に出た。初めて目に入る光は少し眩しく、最初はよく見えなかった。光に慣れた目を開け周りを見ると、目の前につるんとした生き物がいた。

「○▲(*^_^*)!!◇□!!」

何か騒いでいた。
もちろんのことだが、それが親だと思い、

「ギィ!」

ご飯を要求した。
それが自分の始まりだった。











日が経つにつれ、自分が大きくなるにつれ、色々と分かってくる。
自分のことを世話してくれているこの生き物が、本当の親ではないと。

小さな頃は良かった。バスケットの中で布団にくるまって寝たり、主人と共にベッドで寝たりもした。色々な書物を読むことも出来、料理や洗濯、掃除や研究など、あらゆるものを見せてくれた。自分が興味を持つと、面白い面白いと言ってなんでもやらせてくれた。

だが時が経ち、自分の体が大きくなると、家の中にいられなくなった。共に眠る事も出来なくなり、共に食事することもなくなった。主人が自分に向ける感情も、多分愛情も含まれてはいたとは思うが、ほとんどが研究対象に対する好奇心であったと、後から理解した。

最初は家の外で。そのうちにもっと大きくなると、専用の施設が造られ、そこに入れられた。
その頃になると、自分がドラゴンという種族であり、主人が人という種族であるということも理解していた。そして、共にいられないということも。

人の言葉を覚え、動かないのも暇なので、書物を要求。色々な物を読み漁った。なので知識だけは増えていった。
一日にほんの数時間だけ運動することを許された。羽を伸ばすことの出来る貴重な時間。その頃には気付いていた。自分は囚われの身であるということを。
魔法を知り、自分が生まれてすぐに従魔にされていることも理解した。暇なので魔法の勉強に没頭。自分は火の魔法が得意なのだと分かった。

そんな日々を過ごしていたある日、主人の息子がやって来た。
幼い頃は遊んだこともあるその息子は、しばらく見ないうちに大人になっていた。そして、主人が亡くなりそうになっていると告げられた。
一目会いたい、最後の別れを言いたいと願ったが、主人はもう動かすことも出来ず、ドラゴンである自分が主人の元へ行くのは街中なので難しいと言われた。

そして、その日、主人が替わった。

人の生は短いのだと、その時実感した。そして、この先自分は幾度主人が替わっていくのだろうかと思った。
新しい主人は、前の主人と同じ職に就いたらしかった。つまり、自分を観察することだ。
だがしかし、前の主人は自分のこと多少は気遣ってくれていたのだが、新しい主人は、完全に自分を研究対象としてしか見ていなかった。
人は変わる物だと知った。

そして、自分は魔法の勉強、研究を重ね、ある時人化に成功した。もちろんだが、自分が寝ている幻像を作ってからだ。

「これが、人の体か…」

最初は慣れずに、なんとなく変な感じがしたが、次第に分かってくる。

「おっと、そうじゃ、服を着なければ」

街の人達が着ていた服を思い出すと、便利なことに勝手に服を着ているようになる。

「面白いのう」

人の体で一頻り遊んでから、前より考えていた、脱走を試みることにした。
と言っても、自分は従魔なので、主人とはある程度の距離以上は離れる事は出来ない。しかし、その範囲内ならば、そこそこ自由に活動は出来る。

この施設が街から少し離れた所に作られているのは知っていた。そして、この施設、壁はあれど天井はない。逃げ出す危険性はないので、人の目から隠せるだけの壁しか作られていないのだ。
そして、見張りは出入り口に1人か2人。
幻像はきっちり作用して、自分が寝ているようにしか見えない。主人が来るのは3日置きに1度に減っていた。そして時間はだいたいいつも同じ。
昨日来たばかりなので今日は来ないだろう。

となれば。

こんな壁などドラゴンの脚力をもってすればないに等しい。
軽々と壁を飛び越え、見張りから見えない所に着地。そして、

「よし! 街へ行くぞ!」

街へと散策に出かけたのだった。

街に入るには、街門を通らなければならないのは知っていた。
長い列の最後尾に並び、大人しく順番を待つ。

(いろいろな人や物があるのう)

列の前にもいろいろな人。後ろにも続々と人がやって来る。
時折、馬車が横を通って行く事があった。その時は馬が自分を発見して酷く怯えたりもしていた。

(むう、勘のいいものは気付くかのう)

少しドキドキしながら順番を待つ。
やっと順番が回ってきて、やっと街に入れると喜んだのも束の間。

「身分証は?」
「身分証?」

身分証、身分を証明する物。いや、それくらいは知っている。

(そういえば、先程からいろんな者達がそんなものを翳しておったのう)

なにせ初めての事なので分かっていなかった。これはまずいと考える。

「なんだ? 身分証もないのか? どこから来たんだ?」

兵士の顔が警戒の色を示し出す。

「申し訳ございませぬ!」

顔を覆って、泣き真似を始めた。何かの書物に載っていたやり方だ。

「途中盗賊に襲われ、全ての荷を奪われてしまったのでございます。ただ今の私は、身分を証明する物も持たず、無一文の哀れな女にございます」

目に涙を浮かべ、兵士に向かって訴えた。
兵士の顔が哀れみの色を浮かべた。内心ニヤリ。

「そういうことなら仕方ないか。まあとりあえず規則だから、こっち来て検査だけ受けてもらえるかな」
(検査?)

よく分からないが、とにかく案内された方へと付いて行く。
小さな部屋に通されると、真ん中に少し大きめの水晶がデデンとあった。

「一応犯罪経歴なんかを調べなきゃならないからな。これに手を置いてくれ」

従魔の自分が触ったらどうなるのかと思ったりもしたが、これまでに犯罪などに手を染めたことはない。なので素直に手を乗せた。

「ん。大丈夫だな。じゃあ通って良し。この街に知り合いでもいるのかい?」
「はい。おりますのじゃ」

主人がね。

「じゃあ大丈夫だな。あんた別嬪さんなんだから、街中でも気をつけろよ」

そう言って、兵士は快く通してくれたのだった。

(別嬪さん、確か美しい女性をそう言うのじゃったな)

つまり美しいと言われたのだ。
気をよくして街中を歩き始める。

「良い香りがするのう…」

街中を進むほどに、あちらこちらから美味しそうな匂いが漂ってくる。近頃は出される生肉しか食していない。幼い頃に主人からもらった人の食事を思い出し、涎が垂れそうになる。
だがしかし、金がない。

(金がなければ食せぬことは分かっておるのじゃ)

分かってはいても、腹は鳴る。

(どうにか金を手に入れることは出来なんだか…)

騒ぎを起こすことは絶対に避けなければならない。かといって、どうやったらお金が手に入るのかも分からない。
暴力的な美味しい匂いを嗅ぎながら、フラフラと街中を進んで行く。

(なにやら、後ろをついてくるのう)

少し前から、なにやらこちらに嫌な気を飛ばしながらついてくる者達がいることに気付いた。

(は! これが噂の追い剥ぎというものか?!)

確か弱い者から搾取する悪い奴の話を聞いた覚えがある。

(悪い者からなら、こちらが搾取しても構わぬよな)

いい資金源が出来たとニヤリと笑うと、道を間違えた振りをして、人気のない道へと入っていった。
少しして周りに人がいなくなると。

「よう、お嬢さん」

嫌な気を飛ばして来た者達が近づいて来た。

「俺達をちょっといいことして遊ばねえ?」
「気持ちよくしてやんぜえ?」

ニヤニヤと下卑た笑いを顔に貼り付けながら、4人の男達が近づいて来た。

(なるほど、これが気持ちの悪い視線というものか)

全身を舐め回すかのような男達の視線。怖いことはないが、気持ちが悪い。普通の女性ならばこの先に待ち構えることに恐怖を抱いて縮こまってしまったことだろう。

「なあ?」

先頭の男が、こちらの肩に手を伸ばして来た。

「触れるな、汚らわしい」

咄嗟に軽く振り払った。

ボキ

「え?」

男の腕があらぬ方向へ曲がってしまった。

「え? うで? え? 痛え…、ええええええ!! いでえええええええ!!」

遅れて状況を理解した男が騒ぎ始める。

「しまった。加減したはずじゃがのう」
「おいこら! 何しやがったこのアマ!」

2人目の男が掴みかかって来た。

「触れるなというに」

また軽く払ったつもりだったのに、何故か男は頭から壁にぶつかっていった。

「むう、加減が難しいのう」

払った手を見つめる。大分手加減したのに、まだ強いらしい。

「な、なんだこの女…」
「やべえ…」

残った2人が逃げ腰になっている。

「なんじゃ、其方らは来ぬのか?」

にたり、と笑いかけると、男達は逃げ出した。

「化け物!!」
「む、逃げるとは。それでも男《オス》か?」

風を繰り、壁を作る。

「な、なんだこれ!」
「なんで通れないんだ?!」

通れなくなった通りを、体当たりなどをして無理に通ろうと試みている。

「無駄じゃのう。其方らでは破ることは難しかろう」
「ひ、来るな…」
「た、助け…」
「其方らは、大事な実験台じゃからのう…」

男達の悲鳴は、風の壁によって消された。
4人目の男だけは、なんとか気を失わない程度の加減が出来た。

「なるほど。人間は弱い者じゃのう」
「た、助けて…。もうしません。2度としません…」
「よい心がけじゃ。その心に免じて、今回はその懐にあるだけの金銭ですませてやろう。さあ、全部出すのじゃ」

震える男が持っているだけの金を財布ごと差し出す。

「うむ。よかろう」

他の気絶している3人の懐もきちんと漁って、財布を4つ持って通りを後にした。
激痛などで気絶してはいるが、殺してはいないから大丈夫だろう。

さっそく近くの屋台で美味しそうな串に刺さった肉を買ってみる。男達の財布の中に入っていた銅貨を差し出すと、それが3枚いると言われ、3枚漁って差し出す。そして肉と交換してくれた。
初めての買い物と、目の前の旨そうな臭いに少し興奮しながらも、その場でかぶりつく。

「んんまい!」

餌だと言って放り込まれるただの生肉の何倍美味いことか。肉に付いているタレもまさに絶妙。
あっという間に平らげると、目に付く屋台に片っ端から飛びついていった。

「むう、もうなくなってしまった…」

元々そんなに入っていなかった財布の中身は、腹を満たすこともなく銅貨1枚を残すのみとなってしまう。

「ぬう、まあ味わえただけ良しとしよう」

まだまだお腹に余裕はあるが、財布に余裕がない。仕方なくその日は諦め、今後の街への侵入の仕方を考えた。

「やはり、壁を越えるか…」

また門からとも思うが、身分証がないまま頻繁に出入りすれば怪しまれる。壁にも見張りがいないわけでもないが、普通の人間は壁を越えてくることはない。どちらかというと空の警戒にあたっている。つまり、警備の目を盗んで入るのも然程難しくなさそうだった。

「あとは…、金じゃのう」

さすがにどうしたらお金を稼げるのか分からない。その日はそのまま諦め、暗くなった頃を見計らい、壁を越えて施設へと帰っていったのだった。
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