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闇使
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(ここは…)
目を開けると見覚えのない景色があった。
「あ、気がつきました?」
声の方を見ると、若い女がいた。
「? お主は?」
「え? ああ、ええと、先ほどはありがとうございました。おかげで助かりました」
「?」
先ほど? なんのことだ?
体を起こして見れば、体のあちこちや頭に包帯が巻かれている。
「? このケガは…?」
「あ、先ほどの、魔物との戦いで、お怪我されたみたいだったので、えと、拙いながら手当、したんですけど…」
女が恥ずかしそうに目を伏せる。
「戦い?」
そう言われ、思い出そうとするが、何も覚えていない。
「あの…?」
「お主…、我が輩は誰だの?」
「え?」
「何も…何も覚えておらぬ…」
呆然と自分の掌を見つめた。
女は妙子と名乗った。
妙子の説明によると、町中に現れた魔物に妙子が襲われそうになった時、突然自分は現れ、魔物を倒してしまったらしい。
「てっきり、防衛隊の方だと思っていたんですけど…。でも、素手で倒してたんですよね…」
「? 何かおかしいのかの?」
「いえ、今は魔導銃が開発されて、みんなそれで戦ってるって聞いてますけど。でなければ高度な魔法とかじゃないと魔物は倒せないって聞いてますけど…」
「そういうものかの」
なにせ、魔物というものが分からない。
「お名前も覚えてないんですよね?」
「覚えておらぬ」
「ええと、とりあえず仮の名前だけでも決めておいた方がいいですよね。何か、ちらりとでも覚えていることはありませんか?」
「ない」
まったくなかった。
「ええと…」
妙子もどうしようかと視線を彷徨わせる。
「よい。お主が適当に決めてくれ」
「ええ?! あたし?! あたし名づけのセンスとかないですよ?!」
「構わぬ。よほどおかしなものでなければよい」
「ええ~…」
しばし考えていた妙子が、覚悟を決めたように顔を上げた。
「ええと、では、闇使(アンシ)、でどうでしょう?」
「アンシの。何か意味があるのかの?」
「その、着ていたものが黒いものばかりだったのと、助けに来てくれた時、闇の中から現れたような気がしたので…。闇の使い、なんちゃって」
「よかろう。我が輩は闇使であるの」
「えええ?! いいんですか?! 考え直さなくて本当にいいんですか?!」
「よい。思ったほど悪いものではない」
「いや、いいならいいんですけど…」
本当にいいのかなとぶつぶつ呟いている。
「それより、これでは我が輩、家に帰ることもままならぬ。しばし厄介になると思うが、よいのだろうか?」
「もちろんですよ。闇使さんは私の恩人なんですから。好きなだけいてください」
「…本当によいのかの? 怪我をしているとはいえ、我が輩、男なのだが…。他に家族はおるのかの?」
「…あ…」
妙子がまた視線を彷徨わせた。
話を聞いてみれば、先の魔物の襲撃が起きた時に、妙子の家族は妙子を残し、皆亡くなったらしい。
世界大戦のおり、開いてしまった時空の穴から多数の魔物がこの世界へとやってきた。それは少しずつ数を増やしながら、世界中に広まっているとか。
人の中にも魔素に適合し、魔法を使える者が出てきて魔物と戦っているらしい。しかし魔法も魔力があるから使えるというわけではなく、それなりに鍛錬も必要となる。そこで人々は魔導銃を開発。わざわざ魔法陣を描いたり呪文を唱えたりせずとも、魔力を注ぎ込むだけで攻撃できる銃のおかげで、人々はなんとか暮らしていけているとか。
で、魔導銃を扱える者達が防衛隊となり、日夜街をパトロールし、魔物の襲撃に備えているらしい。
「それでも時々、どこからか現れるんですけどね」
それが妙子が襲われた時のことのようだ。
「闇使さん、配給の時とかにも見かけたことないから、もしかしたらこの辺の人じゃないかもしれませんね」
「配給?」
「ええ。食料も取り合いにならないように決まった曜日に配られることになってるんです。そこで、生き残った人とかも確認してるんです」
妙子の表情が少し暗くなった。
「闇使さんみたいなかっこいい人がいたら、噂になってますよ」
「そうかの」
どうやら自分はかっこいい部類の容姿をしているらしい。
「次の配給は明日だから、その時に申告しに行きましょう。今日は、残り物でよければ…ですけど」
「お主を優先するとよい。我が輩は突然来てしまったわけだからの」
「いえ。頑張って嵩増しします!」
まさかそこらに生えている草など入れないよな?
とちょっと訝しく台所に立つ妙子を見ていたが、特におかしなものは入れなかった。水を大分入れたようで、それはもはやスープのようなものになっていた。
ありがたくいただく。口に入れると、不味くもなく美味くもなく、微妙な味だった。
(はて、この味、どこかで口にしたことがあるような…)
食べられないこともないと、頑張って口に運ぶ。
「す、すいません。調味料なんかもあまり入ってこないものですから…」
闇使の微妙な表情に気づいたらしい。
「い、いや、怪我もしておるでの。ま、まあ、いい塩梅なのではないかと…」
嘘でも美味いとは言えなかった。
「クロはどこ行っちゃったのかな? どこかでネズミでも獲ってるのかな?」
「クロ?」
何故かその単語にざわりとなる。
「ええ。飼っている黒猫なんです。唯一残った家族と言いますか…。賢い子で、自分でネズミとか獲って食べてるみたいです。今は、猫のご飯なんて用意してあげられないから…」
「そうかの…」
黒猫、クロ…。何かを思い出しそうになるが、何も思い出せない。
「今は、犬も猫も、下手すると食料扱いされちゃうから…。心配なんですよね…」
「仕方ないだろうの…」
自分が生きるのに精一杯なのに、犬猫の食料など用意していられないだろう。人とて食糧難が続けば、同族を食らうことだってあるのだ。それはまさに最終手段ではあろうが。
「一応首輪もつけてるし、とても賢い子だから大丈夫だとは思ってます。あ、食べ終わったならまた休んでてください。あとはやっておきますから」
「うむ。すまぬの」
食べ終わった食器を渡して、闇使は布団に横になった。
台所で片づける音が響く。
(わからぬ…。我が輩はいったい何者なのだの…。だが、何故か、妙子からは懐かしい匂いがする…)
そのまま、いつの間にか眠りに落ちていた。
気づけば朝になっていた。
まだ薄暗いが、ほんのりと明るくなっていく外の様子がカーテン越しに分かる。
妙子は別の部屋に布団を敷いて寝たようだった。さすがに知らない男と同じ部屋に寝るわけにはいかなかったのだろう。闇使もほっとした。
妙子が起きだす気配があった。
(早起きだの)
なんだか意外な気がする。何故かは分からないが。
妙子が台所に立って仕度をする音がする。いつの間にか襖が締めきられ、台所は見えなかった。
闇使も体を起こす。昨日も確認はしたが、特に骨折などはしていないようだった。打ち身が激しい場所と、頭に傷があるくらいで、体はなんとか動く。
「闇使さん」
襖をほとほとと叩き、妙子が声をかけてきた。
「うむ。起きておる」
傍に畳まれた自分の服を見つけ、それを素早く身に着ける。
「朝ごはん、食べられますか?」
昨日の微妙な食事を思い出し、一瞬躊躇した。
「うむ。いただくのだの」
しかし何も食べないわけにもいかないと、返事を返した。
配給所へと二人で歩いていく。
「この辺りです。襲われた場所」
途中で妙子が足を止めた。
「ふむ…」
「何か思い出せます?」
「いや、何も…」
現場を見たら何かを思い出すかと思ったが、何も感じなかった。
そのまま配給所へと向かう。
まずは生存者登録から。記憶喪失でどこから来たのかも分からない謎の人物ではあったが、いろいろなシステムが瓦解しているおかげか、それほど怪しまれることもなく登録は終わる。
「これに手をかざして」
「こうかの?」
よく分からない水晶のようなものに手をかざす。何の反応もなかった。
「魔力なし、か。はい、ご苦労さん」
魔力量を測るものだったらしい。なんの反応もなかったので魔力はないそうだ。
がっかり半分、ほっとした。もし魔力があったら、防衛隊へ回されると聞かされたので。
よく分からないが、妙子と離れたくはなかった。防衛隊になど回されたら妙子と離れてしまう。
少し離れた所で待っていた妙子の元へと歩み寄る。
「待たせたかの」
「いえいえ。さ、並びましょうか」
登録が済まないと配給がもらえないらしい。一人七日分の食料を渡される。
「持とうか?」
「大丈夫ですよ」
七日分だとかなりの重さになる。人によってはカートのようなものを持ってきている人もいた。妙子もしょってきた少し大きめの鞄に詰め込み、入らない分は手に持っている。
「闇使さんこそ、大丈夫ですか?」
「これくらいなら問題ない」
二人は連れ立って家へと帰っていった。
冷蔵庫へと食材を突っ込み、冷凍庫へも突っ込む。
「ふふ。久しぶりにこんなにギチギチ」
「? そうなのかの」
「ええ…。家族がいた頃は…」
妙子の顔が少し陰る。
なんとなく、そうした方がいい気がして、闇使は妙子の頭に手を乗せ軽くなでる。
「しばらくは、我が輩が世話になるでの」
「あ、えへへ。あ、ああそうだ! 明日からのこと教えますね!」
妙子が慌てて立ち上がり、テーブルへと向かった。
配給があるのは仕事が休みの日らしい。
いつもは皆生きるためにそれぞれ仕事をこなしているのだそうだ。
「私は、畑の方を担当してます。特に何も言われなかったから、闇使さんも同じ畑に行けば大丈夫だと思います」
「畑以外にもあるのかの?」
「ええ。生活に必要な物を作る缶詰とか、トイレットペーパーの工場とか、そこで大勢の人が働いてるらしいです。このあたりは近場に工場がないので、主に畑が主産業…って言っていいのかな?」
「なるほど。そこで仕事をすればいいのだの」
「あ、でも、闇使さんはまだ怪我もあるし、申告すれば休ませてもらえると思いますよ」
「よい。体は問題なく動く」
「いや、無理しないでほしいんですけど…」
「無理はしとらぬ」
しばらく休め休まぬの攻防が続いた。
「妙子は休みの時は何をしているのだの?」
ふと思った疑問を口にする。
「そうですね。たまった家事をして…。あとはぼーっとしたり、本を読んだり…」
「友と会ったりはせぬのか?」
「友達…。難しくなりました…」
妙子の顔がまた陰った。
「まだ、こんな感じじゃなかった頃は、連絡をとったりしてたんですけど…。周りから人がいなくなると、どうしても、なんて声を掛け合ったらいいのか分からなくなって…。なんとなく疎遠になりましたね…」
「そうかの…」
昨日まで笑いあっていた者が、次の日にはいなくなっていることも多々あったらしい。心配はあるが、自分も生きることに必死で、なんとなく連絡をとらなくなっていったそうだ。
そのうちにネットなども使えなくなり、今は音信不通なのだそうだ。
「住所も分からないから手紙も出せないし。手紙も今は輸送手段が限られているので、よほどのことがなければ受け付けてもらえません」
「そうかの…」
なんだかまずいことを聞いてしまった。
「何かしたいことでもあれば付き合うだの」
「え? 急に言われても…」
「出かけることもできるのであろう?」
「…できないこともないですけど、好き好んで出かける人もいませんよ?」
「そういえばそうか…」
外は魔物がいつ現れるとも分からないので、皆できるだけ家に閉じこもっているらしい。
「闇使さんは今日はゆっくり休んで体を治してください」
「それが先かの」
怪我をしていては何もならんと、妙子の言葉に素直に従うことにしたのだった。
目を開けると見覚えのない景色があった。
「あ、気がつきました?」
声の方を見ると、若い女がいた。
「? お主は?」
「え? ああ、ええと、先ほどはありがとうございました。おかげで助かりました」
「?」
先ほど? なんのことだ?
体を起こして見れば、体のあちこちや頭に包帯が巻かれている。
「? このケガは…?」
「あ、先ほどの、魔物との戦いで、お怪我されたみたいだったので、えと、拙いながら手当、したんですけど…」
女が恥ずかしそうに目を伏せる。
「戦い?」
そう言われ、思い出そうとするが、何も覚えていない。
「あの…?」
「お主…、我が輩は誰だの?」
「え?」
「何も…何も覚えておらぬ…」
呆然と自分の掌を見つめた。
女は妙子と名乗った。
妙子の説明によると、町中に現れた魔物に妙子が襲われそうになった時、突然自分は現れ、魔物を倒してしまったらしい。
「てっきり、防衛隊の方だと思っていたんですけど…。でも、素手で倒してたんですよね…」
「? 何かおかしいのかの?」
「いえ、今は魔導銃が開発されて、みんなそれで戦ってるって聞いてますけど。でなければ高度な魔法とかじゃないと魔物は倒せないって聞いてますけど…」
「そういうものかの」
なにせ、魔物というものが分からない。
「お名前も覚えてないんですよね?」
「覚えておらぬ」
「ええと、とりあえず仮の名前だけでも決めておいた方がいいですよね。何か、ちらりとでも覚えていることはありませんか?」
「ない」
まったくなかった。
「ええと…」
妙子もどうしようかと視線を彷徨わせる。
「よい。お主が適当に決めてくれ」
「ええ?! あたし?! あたし名づけのセンスとかないですよ?!」
「構わぬ。よほどおかしなものでなければよい」
「ええ~…」
しばし考えていた妙子が、覚悟を決めたように顔を上げた。
「ええと、では、闇使(アンシ)、でどうでしょう?」
「アンシの。何か意味があるのかの?」
「その、着ていたものが黒いものばかりだったのと、助けに来てくれた時、闇の中から現れたような気がしたので…。闇の使い、なんちゃって」
「よかろう。我が輩は闇使であるの」
「えええ?! いいんですか?! 考え直さなくて本当にいいんですか?!」
「よい。思ったほど悪いものではない」
「いや、いいならいいんですけど…」
本当にいいのかなとぶつぶつ呟いている。
「それより、これでは我が輩、家に帰ることもままならぬ。しばし厄介になると思うが、よいのだろうか?」
「もちろんですよ。闇使さんは私の恩人なんですから。好きなだけいてください」
「…本当によいのかの? 怪我をしているとはいえ、我が輩、男なのだが…。他に家族はおるのかの?」
「…あ…」
妙子がまた視線を彷徨わせた。
話を聞いてみれば、先の魔物の襲撃が起きた時に、妙子の家族は妙子を残し、皆亡くなったらしい。
世界大戦のおり、開いてしまった時空の穴から多数の魔物がこの世界へとやってきた。それは少しずつ数を増やしながら、世界中に広まっているとか。
人の中にも魔素に適合し、魔法を使える者が出てきて魔物と戦っているらしい。しかし魔法も魔力があるから使えるというわけではなく、それなりに鍛錬も必要となる。そこで人々は魔導銃を開発。わざわざ魔法陣を描いたり呪文を唱えたりせずとも、魔力を注ぎ込むだけで攻撃できる銃のおかげで、人々はなんとか暮らしていけているとか。
で、魔導銃を扱える者達が防衛隊となり、日夜街をパトロールし、魔物の襲撃に備えているらしい。
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それが妙子が襲われた時のことのようだ。
「闇使さん、配給の時とかにも見かけたことないから、もしかしたらこの辺の人じゃないかもしれませんね」
「配給?」
「ええ。食料も取り合いにならないように決まった曜日に配られることになってるんです。そこで、生き残った人とかも確認してるんです」
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「闇使さんみたいなかっこいい人がいたら、噂になってますよ」
「そうかの」
どうやら自分はかっこいい部類の容姿をしているらしい。
「次の配給は明日だから、その時に申告しに行きましょう。今日は、残り物でよければ…ですけど」
「お主を優先するとよい。我が輩は突然来てしまったわけだからの」
「いえ。頑張って嵩増しします!」
まさかそこらに生えている草など入れないよな?
とちょっと訝しく台所に立つ妙子を見ていたが、特におかしなものは入れなかった。水を大分入れたようで、それはもはやスープのようなものになっていた。
ありがたくいただく。口に入れると、不味くもなく美味くもなく、微妙な味だった。
(はて、この味、どこかで口にしたことがあるような…)
食べられないこともないと、頑張って口に運ぶ。
「す、すいません。調味料なんかもあまり入ってこないものですから…」
闇使の微妙な表情に気づいたらしい。
「い、いや、怪我もしておるでの。ま、まあ、いい塩梅なのではないかと…」
嘘でも美味いとは言えなかった。
「クロはどこ行っちゃったのかな? どこかでネズミでも獲ってるのかな?」
「クロ?」
何故かその単語にざわりとなる。
「ええ。飼っている黒猫なんです。唯一残った家族と言いますか…。賢い子で、自分でネズミとか獲って食べてるみたいです。今は、猫のご飯なんて用意してあげられないから…」
「そうかの…」
黒猫、クロ…。何かを思い出しそうになるが、何も思い出せない。
「今は、犬も猫も、下手すると食料扱いされちゃうから…。心配なんですよね…」
「仕方ないだろうの…」
自分が生きるのに精一杯なのに、犬猫の食料など用意していられないだろう。人とて食糧難が続けば、同族を食らうことだってあるのだ。それはまさに最終手段ではあろうが。
「一応首輪もつけてるし、とても賢い子だから大丈夫だとは思ってます。あ、食べ終わったならまた休んでてください。あとはやっておきますから」
「うむ。すまぬの」
食べ終わった食器を渡して、闇使は布団に横になった。
台所で片づける音が響く。
(わからぬ…。我が輩はいったい何者なのだの…。だが、何故か、妙子からは懐かしい匂いがする…)
そのまま、いつの間にか眠りに落ちていた。
気づけば朝になっていた。
まだ薄暗いが、ほんのりと明るくなっていく外の様子がカーテン越しに分かる。
妙子は別の部屋に布団を敷いて寝たようだった。さすがに知らない男と同じ部屋に寝るわけにはいかなかったのだろう。闇使もほっとした。
妙子が起きだす気配があった。
(早起きだの)
なんだか意外な気がする。何故かは分からないが。
妙子が台所に立って仕度をする音がする。いつの間にか襖が締めきられ、台所は見えなかった。
闇使も体を起こす。昨日も確認はしたが、特に骨折などはしていないようだった。打ち身が激しい場所と、頭に傷があるくらいで、体はなんとか動く。
「闇使さん」
襖をほとほとと叩き、妙子が声をかけてきた。
「うむ。起きておる」
傍に畳まれた自分の服を見つけ、それを素早く身に着ける。
「朝ごはん、食べられますか?」
昨日の微妙な食事を思い出し、一瞬躊躇した。
「うむ。いただくのだの」
しかし何も食べないわけにもいかないと、返事を返した。
配給所へと二人で歩いていく。
「この辺りです。襲われた場所」
途中で妙子が足を止めた。
「ふむ…」
「何か思い出せます?」
「いや、何も…」
現場を見たら何かを思い出すかと思ったが、何も感じなかった。
そのまま配給所へと向かう。
まずは生存者登録から。記憶喪失でどこから来たのかも分からない謎の人物ではあったが、いろいろなシステムが瓦解しているおかげか、それほど怪しまれることもなく登録は終わる。
「これに手をかざして」
「こうかの?」
よく分からない水晶のようなものに手をかざす。何の反応もなかった。
「魔力なし、か。はい、ご苦労さん」
魔力量を測るものだったらしい。なんの反応もなかったので魔力はないそうだ。
がっかり半分、ほっとした。もし魔力があったら、防衛隊へ回されると聞かされたので。
よく分からないが、妙子と離れたくはなかった。防衛隊になど回されたら妙子と離れてしまう。
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「ええ…。家族がいた頃は…」
妙子の顔が少し陰る。
なんとなく、そうした方がいい気がして、闇使は妙子の頭に手を乗せ軽くなでる。
「しばらくは、我が輩が世話になるでの」
「あ、えへへ。あ、ああそうだ! 明日からのこと教えますね!」
妙子が慌てて立ち上がり、テーブルへと向かった。
配給があるのは仕事が休みの日らしい。
いつもは皆生きるためにそれぞれ仕事をこなしているのだそうだ。
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「畑以外にもあるのかの?」
「ええ。生活に必要な物を作る缶詰とか、トイレットペーパーの工場とか、そこで大勢の人が働いてるらしいです。このあたりは近場に工場がないので、主に畑が主産業…って言っていいのかな?」
「なるほど。そこで仕事をすればいいのだの」
「あ、でも、闇使さんはまだ怪我もあるし、申告すれば休ませてもらえると思いますよ」
「よい。体は問題なく動く」
「いや、無理しないでほしいんですけど…」
「無理はしとらぬ」
しばらく休め休まぬの攻防が続いた。
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ふと思った疑問を口にする。
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妙子の顔がまた陰った。
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昨日まで笑いあっていた者が、次の日にはいなくなっていることも多々あったらしい。心配はあるが、自分も生きることに必死で、なんとなく連絡をとらなくなっていったそうだ。
そのうちにネットなども使えなくなり、今は音信不通なのだそうだ。
「住所も分からないから手紙も出せないし。手紙も今は輸送手段が限られているので、よほどのことがなければ受け付けてもらえません」
「そうかの…」
なんだかまずいことを聞いてしまった。
「何かしたいことでもあれば付き合うだの」
「え? 急に言われても…」
「出かけることもできるのであろう?」
「…できないこともないですけど、好き好んで出かける人もいませんよ?」
「そういえばそうか…」
外は魔物がいつ現れるとも分からないので、皆できるだけ家に閉じこもっているらしい。
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