キーナの魔法

小笠原慎二

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始まりの始まり

事の起こり

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服が乾いたので少女が着替えると、その男は言った。

「街道近くまでは送ってやる。その後は一人で行け」

ブーたれても意見は聞き入れてくれなさそうだ。

「あなたは何してる人なの?」

少女が歩きながら聞いてみる。

「俺か?俺は…、あるものを探して旅をしている」
「じゃ、僕も一緒に旅をさせてよ!」
「は?」
「異世界から来たって言ったっしょ。行くとこもないし頼れる人もいないしお金もないし…」
「だからサンスリーに行け」
「いやだ!一緒に行く!行く!!行く!!!行く!!!!」
「だめだ。だめだ。だめだ」
「じゃあ、顔を見せて」

脈絡もくそもない。

「顔を見せるか一緒に連れてくか二つに一つ!」

最早見る気満々のワクワクした表情で、少女は逃がさないように男のマントの裾を掴んでいる。
その男は思った。

(俺に選択権はないのか?)

そしてあきらめた。

「仕方ない、顔を見せてやる。だが、…後悔しても知らんぞ」

フードをゆっくりと脱いでいく。
ドキドキワクワク!
かっこいい顔か、ブッ細工な顔か。

(ブッ細工だったらほかに人を探そう)

なんてやつだ。
フードがはずされ、口元を覆っていたマスクもはずされた。
するとそこから出てきた顔は…
一言で言ってしまえば

「端正な顔立ち」

だけど、だけど、だけど・・・

髪は銀髪。
肌の色は青緑。
耳は長く伸びてつんと尖っている。

「これでわかったろ」

そういってその男は顔を俯かせた。

「お、…お肌ってそんな色してんの!?」

というとその男は見事にその場にずっこけた。

「は?」
「へ~、耳もとんがってるし、髪は銀髪か~。妖精みたいなんだね~。初めて見たな~」

あまりにも珍しいので(というか初めて見るし)ずずいっと顔を近づける。

「ちょっとまて。何を言ってるんだ。よく見ろ」

といわれたので余計に顔を近づけて、じ―――――――――――っとよく見る。

「何か違うの? あ、お肌の色ね! 青緑色? 僕と違うのね~」

と感心。

「そうじゃない! …お前なぁ、ダーディンを知らんのか?」
「ダーディン?知らない」

きっぱり。

「何それ?」
「だ~か~ら~…ウクルナ山脈の向こうに住むと言われている喰人鬼だ。肌の色は青緑。髪は銀髪。尖った耳をしている冷酷無比な連中だ」
「へ~、そんなのもいるんだ~…ん?」

銀髪の髪。青緑の肌。尖った耳。

「まさか…その…ダーディン?」
「その反応が普通なんだ!」

男は思った。

(疲れる…)
「信じないとは思うが、俺はダーディンじゃない。元は普通の人間なんだ。質の悪い魔女にこんな姿にされたんだ…」

哀しみをその瞳に湛え、言いにくそうにその男は言った。

「そ~なんだ~、大変だね~」

少女は納得したように首をうんうんと振った。
その様子を見て男の顔が曇る。

「…信じるのか?」
「嘘なの?」
「いや、嘘ではないが…」

あまりに予想外の反応に男はなんと言ったらいいのか困った。

「もしホントにそのダーディンだったらもう食べられてるでしょ。そんな悪意感じないし、溺れてる僕を助けてくれたし、フードを取らなかったのも僕を恐がらせないためでしょ? なにより命の恩人だし、信じるよ」


―――――信じる。


その言葉は何よりも重い言葉である。 


―――――信じる


いともたやすくその少女は口にした。
如何に重いことかも知らずに。

思いがけない言葉に男は絶句した。
顔が赤くなりそうなのを必死に隠そうと後ろを向いた。

「ち、ちょっと待ってくれ」

赤くなったのが自分で感じ取れるほど。

(何なんだこの女? 異世界から来たなどと変な事は言うわ、ダーディンのことを何一つ知らないわ、それに…会ったばかりのわけの分からん男の言葉をあっさり信じるなどと言うわ…まさか魔女の差し金?)

ちらりと観察してみる。
しかしにっこ~~~とあほな笑いを返すだけだ。

(邪気がなさ過ぎる! もしや頭が少しおかしい奴なのでは…)

「あーーーー!わかった!」

突然少女が声を上げたのでビクリとなる男。

「何がだ?」
「旅してる理由!元に戻る方法を探してるんでしょ!」

なんだか嫌な予感がして男の顔が再び曇る。

「その通りだが…」
「な~んだ、だったら尚更僕を連れてってちょ!」
「どうしてそうなる!」

やっぱりそう来た。

「僕も元の世界に戻る方法を見つけたいし、 一人より二人の方が効率も良いよ! それにその姿だといろいろ不便なんじゃないの? 僕みたいのがいたほうがやり易い事とかもあるでしょ?」

にやり、と少女が笑う。

「…確かにお前の言うことには一理ある」
「そうでしょう♪」

姿を隠して行動しなければならない男にとって、手足となって動いてくれる者がいるのは有り難い。

「だがダメだ! 連れては行かん!」

男は強く言い放った。

「え~?なんで~?」
「なんでもだ。行くぞ。街道までもうすぐだ」

そういうとスタスタと歩き出した。

「ぶ――――――」
(どうしてそんなに頑なに拒むのかな?)

ぶーたれながらも男の後についていった。
その時だった。
少女の首筋めがけて何かがはしった。

「うわっ!」

気付いた少女が間一髪慌てて避ける。と、後ろの木がスパッと切り裂かれた。

ドサッ

幾本もの枝が落ちる。

「なんだ!?」

男が振り向いた。

「い、今、今の…」

驚きで言葉がうまく出てこない。

「どうした?何があった?」
「今、当たってたら、首が…」
「?!」
「首と体を切り離してやろうと思ったのに。うまく避けたこと☆」

どこからともなく美しい女性が現れた。長い黒髪、黒いタイトなドレス。だが身に纏う気配は邪悪なもの…。

「お前は! 魔女!」

男が少女を後ろに庇う。どうやら男の言っていた質の悪い魔女らしい。

「なんだ、近くで見ても大した事ないわね。一文の値打ちもない小娘があたしの玩具に近寄るなんて許せないわ。それはあたしのものよ。消えなさい」

そういうと左手を前に掲げた。力が迸る!

「ウル・ロー!」

男が叫んだ!

ズギャウウウウウウン!

男の作り出した結界が力を防ぐ!

「そんな小娘を庇うなんて、あなた正気なの? テルディアス。どうなるか分かってるんでしょうね?」

テルディアスと呼ばれた男は魔女を睨みながら、

「元より、貴様に従った覚えはない!」
「そうだったわね。あなたは唯一、あたしの元から逃げ出した人形♪ ああ、なんて面白いものを手に入れたんだろう。でも、人形は人形なりに、大人しくしていないといけないときもあってよ♪」
「カウ・ギ・ラチ!」

ゴウッ

風が刃となり魔女に襲い掛かった!しかし、魔女は微動だにせず全てを防ぐ。
風がおさまると、二人の姿は消えていた。

「逃げても無駄なのに」










「今のが魔女?!」

少女が走りながら問いかける。

「そうだ! 捕まったら殺されるぞ! とにかく街道へ! あそこには結界が張ってある。少しは目を眩ませられるかもしれん!」

飛ぶように走っていく。魔女はどこまで追いついてきているのか。

「街道だ!」

木々の間から道らしきものが見えてきた。

(これで助かるの?)

と、その時!

「わ!」

木の根っこにつまづいてしまった! とっさにテルディアスが少女の体を庇った。勢いづいて転がっていく!

ずざざざざ・・・
なんとか街道には辿り着いた…。

「大丈夫か?」
「うん、にゃんとか…ごめんにゃ」

鼻を打った。

「ひ・・・・・・」

人の気配がしたと思った途端、

「きゃああああああ! ダーディン! 誰か―――!」

見知らぬ女の人が逃げていった。

「ダーディンてあなたのこと?」
「そうだ。じゃあな。ここでお別れだ。達者でな」

男は短く別れの言葉を言うと、あっという間に反対側の茂みへ消えていってしまった。

「え! ちょ、ちょっと! まってよぉ―!」

独り置いていかれてしまった。行く当てもなく頼れる人もなし。
さあ、どうする?
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