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ミドル王国編
闇の魔女と光の御子
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ドガガ!
優雅な手つきで、テルディアスが剣を鞘に収める。
ドオッ
その背後で妖魔が倒れ、砂塵と化す。
(こんな街道近くに妖魔がいるとは・・・)
街道は妖魔にとってあまり気持ちのいいものではない。
特に余り力のない妖魔にとって、命に関わるといっても過言ではない。
なので、余程の事がない限りは、いかなる妖魔であってもあまり近づきたがらない。
それがこんな近くで現れるということは・・・。
(あの女が仕向けて来てるのだろうか・・・。それならいい・・・。キーナから目を逸らせれば・・・)
「ふにゃ~~~~」
ぺたし。
疲れて座り込んでしまうキーナ。
ちなみに今日の服装は、肩丸出し、昨日に負けず劣らず短いスカートといういでたち。
これなら誰が見ても、キーナを男と思う者はいないだろう。
「ようやったのう嬢ちゃん。合格じゃ」
おじいさんがにこやかにキーナに歩み寄る。
「本当!?」
「ああ、今日はこのくらいにしてもう休みなさい。くたくたじゃろう」
「もそっとできるよ」
キーナが口を尖らせる。
「無理は禁物じゃ」
おじいさんがちっちっちっと指を振り、キーナを牽制する。
精神的な負担の大きい魔法の修行は、休むことも大事な修行の一環なのだ。
その時。
おじいさんの顔が急に真面目になった。
そしてバッと天井を見上げる。
「結界が・・・」
何事かを呟いた。
「? おじいさん?」
「来る」
おじいさんの顔が険しくなった。
と同時に、
ドゴオッ!!!
ドームの天井が破壊され、青い空と、その中心に黒い影が現れた。
「み~つっけたっ!」
黒く長い髪、闇のような漆黒のドレスをまとった、闇の魔女。
「魔女・・・!」
「リー・リムリィ・・・」
キーナがおじいさんの側に寄り添う。
「どこに隠れても無駄よ☆ 私に分からないところなんてないんだから◇」
悪戯っ子の様な笑みを浮かべて、魔女がクスリと笑う。
「あ~ん、それにしても調子悪い★ あなたにやられた所治りが悪いのよ■」
そう言ってお腹をさすりながら、魔女が徐々にドーム内に入ってくる。
「悪い芽は早めに摘んで、ついでにテルディアスのおみやげにして、一石二鳥ね◎」
おじいさんが身構える。キーナも同じように身構えた。
「ということで、死んで♪」
なんでもないようなことのように言い放つと、右手をキーナ達に差し向けた。
一瞬のうちに、闇がドーム内を包み込んだ。
ミドル王国から遠く離れた街道近くの森の中。
ふと嫌な感じを覚え、テルディアスは振り返った。
(なんだ?)
特に近くに妖気を感じるわけでもない。
ただ、なんだか胸の奥がざわつく。
(気のせいか・・・?)
再び前を向き歩き始める。
だが、一度覚えた嫌な感じはなかなか抜けない。
(キーナ・・・)
あの不思議な少女のことを思い出す。
今頃はミドル王国で魔法の修行でもしているのだろう。
ミドル王国なら大丈夫だ。
なんといったって、あの魔法の師がいるのだ。
テルディアスはそのまま、もう振り向くこともなく歩いていく。
ドーム内に砂ぼこりが舞う。
「ふ~ん」
それを少し感心したように魔女が見つめる。
「なかなかやるわね。おじいさま☆」
ドーム内が晴れてくると、結界を張ったおじいさんとキーナが現れた。
「まあのう。これでも一応大魔道士と呼ばれとるでのう。この子をやりたければ、ワシを倒さんと無理じゃのう」
「おじいさん?!」
キーナが慌てる。
「僕も戦うよ!」
「嬢ちゃんはまだいかん!」
「なんで?!」
「嬢ちゃんはまだ力の制御の仕方を覚えたばかりじゃ。いつ暴走するかも分からん。
隙を見て逃げなさい。そしてテルディアスを追うんじゃ。嬢ちゃんはテルディアスに必要じゃからな」
「テルを・・・?」
おじいさんの言葉にポカンとするキーナ。
テルを・・・? 追っていいのか?
まだ修行も途中なのに・・・?
「あいつは北へ向かったよ」
そういうとキーナの頭にポンと手を置いた。
「にゃ?」
「色々と楽しかったよ」
そしてにっこり微笑むと、キーナに背を向ける。
「え?」
突然風がおじいさんの周りに集まった。
「わっ!!」
ブワッ
「おじいさん!!」
風を纏ったおじいさんが魔女に向かって魔力を練りだす。
そして、聞いたことのない呪文を唱えだした。
「まあすごい! ただの人間が光の力を使えるなんて!」
パチパチと拍手をする魔女。
「でもただの人間がその力を使って、ただで済むと思って?」
「もちろん思っとらん」
おじいさんはにやりと笑うと、右手に力を集め、渾身の力を振り絞って解き放った。
ドガガガガガガ!!
大きな闇の力と、おじいさんの放つ光の力がぶつかり合う。
「ぐおおおおおおお!!」
「無理なさらないほうがよろしいですわん◇」
魔女が涼しげな顔で言った。
「力の差は歴然としているのだし」
そういうと魔女は、指先に闇の力を集め、
「えい」
鯉にえさでも与えるかのように、軽くおじいさんに向かって放り投げた。
力と力の間をすり抜け、小さな闇の力がおじいさんに届く。
バヂイッッ
「ぐあああっ!!」
「おじいさん!!」
キーナが叫ぶ。
「くぬぅ・・・」
口の端を袖で拭う。
苦しげな表情を浮かべながら再び呪文を唱えだす。
「光よ!!」
小さな光の力がおじいさんの周りに集まる。
ズドドドドドドドド!!
「今じゃ! 逃げろ嬢ちゃん!」
おじいさんが叫ぶ。
「だめだよう・・・」
キーナが呟く。
「おじいさんを置いてなんていけないよう!!」
キーナの脳裏に一人の青年の姿が浮かんだ。
恋人に別れを告げ、自分たちのために闇に捕まってしまった青年。
レイさん。
「もう・・・誰も・・・苦しんで欲しくない・・・」
ズゴオオオン・・・
「ぐあああ!!」
「おじいさん・・?!」
爆煙の中からおじいさんが落ちてきた。
「おじいさん!!」
キーナが走る。
「風よ!」
風を呼び、おじいさんに纏わせた。
おじいさんの体がふわっと浮き上がり、静かに床に横たわる。
「おじいさん!」
キーナが駆け寄る。
「嬢ちゃん・・・逃げろというたじゃろ・・・」
痛みを堪えつつ、おじいさんが体を起こそうとする。
「でも・・・」
おじいさんに手を貸してやるキーナ。
「逃げても無駄よ」
すぐそこにに魔女が立っていた。
「私から逃げられると思って?」
嘲笑うかのように魔女が二人を見下ろす。
「おじいさんはやらせないぞ!」
キーナがおじいさんをかばって前に出た。
「嬢ちゃん!」
「あなた、邪魔」
魔女がキーナを指差す。その指先が闇色に光り、
キュオ!
「嬢ちゃん!!」
キーナの体が吹き飛んだ。
ドゴオッ
壁に激突し、キーナの頭ががくりと垂れた。
(!! 大丈夫か?!)
駆け寄って行きたいが、
「これでいいわ」
魔女がおじいさんを見つめた。
「で? おじい様♪ 次は何を見せてくださるの?」
魔女が楽しそうに言った。
「ふ、しかたがないのぅ・・・」
おじいさんの背中をつめたい汗が流れ落ちる。
とっておきのあれを出すしかない・・・。
だがしかしあれは、まだ研究段階のもので、うまく制御できるかも分からない。
だがやるしかない。
「わしのとっておきを見せてやろう」
おじいさんは意識を集中させた。
北に北斗
南に十字
東に曙
西に黄昏
吾の時は過ぎて是有り
其の時は過ぎて是成り
流れ行く時の戒め解き放ち
我が前に姿を現さん
「その呪文は・・・」
魔女が驚愕の表情を見せた。
一つ一つの言葉に反応するかのように、おじいさんのまわりに魔方陣が広がっていく。
青い微かな光をたたえ、おじいさんが全ての言葉を唱え終えたとき、光は強くなりそして、
バチバチバチ!!!!
おじいさんの頭上で光がぶつかり合う。
「その昔、異世界説を唱えた一人の大魔道士が編み出した秘術、時空の扉じゃよ」
ぶつかり合う光の中心が裂け、暗い様な明るい様な、不思議な穴が少しづつ大きくなっていく。
「異世界への扉を開くはずが、亜空間までしか開けなかったという。
あまりに強大な術故、扱える者もおらず、書庫の奥に眠っとったんじゃ」
魔女が徐々に開いていく穴を見つめる。
穴は徐々に徐々に、人一人が通れるくらいに大きくなった。
「一度この穴に呑まれてしまえば、再びこの世界に戻るは不可能だろう。観念するんじゃ」
ともすれば意識が呑まれてしまいそうになるのを必死に堪えながら、おじいさんが魔女を見つめた。
すると魔女は口もとに手をやると、クスリと笑った。
「それが奥の手なの?」
おかしそうな顔をして魔女が穴とおじいさんを見つめ返す。
「何?!」
「光が時を統べるなら・・・」
魔女がすっと穴を指さした。
その途端、ガクッと手応えがあり、急におじいさんの体が軽くなる。
「闇は空間を統べるのよ」
にっこりと魔女が微笑んだ。
「な・・・」
(制御が・・・!!!)
それまで不安定に広がり続けていた穴が、途端に安定して広がるのをやめた。
「残念ね」
穴が魔女の側まですうっと移動する。
「この魔法は闇に属するものなの。つまり私の管轄ね☆」
「まさか・・・」
おじいさんの顔が険しくなる。
「手詰まり? じゃあ、仕方ないわね」
魔女の瞳が怪しく光った。
「時空の狭間へ、いってらっしゃい♪」
穴がおじいさんの方へ向けられた。
その時、キーナの内から光が弾けた。
ドウッ!!
光はあっという間にドームを満たす。
おじいさんは振り向いたがあまりの眩しさに何も見えない。
「これは・・・!」
魔女の目が見開かれる。
まるで光の中にいるものが見えているかのように。
「やはり・・・、お前!」
光が徐々におさまる。そしてその中心にいるのが、
ポウ・・・
柔らかな光をまとったキーナだった。
「対為す者・・・」
魔女の呟きが聞こえた。
おじいさんの顔がはっとなる。
だが、しかし、それは・・・。
キーナは静かに佇んでいる。
魔女の顔が一層険しくなる。
「いつかは現れるとは思っていたわ・・・」
魔女がにやりとした。
「でも、今ここであなたの息の根を止めてしまえば済むこと☆」
ざわり
闇が動く。
「眠りなさい。永遠に」
ズオオオ!!
闇がキーナの足元から現れ、キーナを覆い隠していく。
「嬢ちゃん!!」
おじいさんが叫んだ。
キーナが瞳を閉じた。
すると光が一瞬強くなり、
シュオン・・・
あたかも日の光に影が打ち消されるかのごとく、闇が消滅した。
魔女の瞳が驚愕に開かれる。
一瞬のことにおじいさんの顔も唖然となった。
まさか・・・これほどとは・・・。
先ほどと同じように静かに佇むキーナ。
その瞳が魔女をとらえる。
「あなた、気に入らないわ!」
魔女が闇を集めだす。
先ほどよりさらに強い力を放つつもりだろうか。
だが、
「 」
キーナが何か言葉を発した。
おじいさんには何を言っているのか聞き取れなかったが、その言葉を放った瞬間、魔女がびくりとして動きを止め
た。
「う・・・う・・・、・・あう・・・」
何かに縫いとめられたかのようにピクリとも動けなくなってしまった魔女。
おじいさんが驚いてキーナを見つめる。
「少し、お眠り」
今度は言葉が聞こえた。
「い・・・や・・・」
魔女が何かに抗うようにもがいているように見えたが、確かにそれは、おじいさんには何かが、眠りに落ちるように感じた。
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
魔女が絶叫を放つ。
途端に戒めから解かれたのか、体が動いた。
おじいさんは何が起こったのかもよく分からず、見つめていた。
キーナはやはり静かに佇んでいる。
「あ・・・あ・・・」
魔女が両の手を見つめる。
その顔は青ざめ、先ほどまでの威勢はない。
「!」
おじさんは気づいた。
(闇の気配が消えた?!)
つい今までまとわりつくように充満していた闇の気配が嘘のように消えていた。
魔女の傍らの暗い穴以外は。
バリ
「!」
制御を失った闇の穴が暴走を始める。
「きゃああああ!」
魔女が穴に飲み込まれていく。
「助け・・・」
すべての言葉を言い終える前に、魔女は穴に飲み込まれた。
キュオウ!!
もともとおじいさんの力で生み出されたものだ。
それ以上力を保つこともできず、穴は四散した。
そしてその場から、すべての闇の気配は消えた。
「終わった・・・のか?」
後に残るは瓦礫の山と、柔らかな光を携えて佇むキーナのみ。
「嬢ちゃん!・・・いや・・・」
おじいさんがその存在を見つめなおす。
「光の御子」
キーナが、いや、光の御子がニコリとほほ笑んだ。
御子が手をかざすと、すっと光がおじいさんを包み込み、すべての傷が消えた。
「傷が・・・」
「あなた・・・分かる・・・だね・・・」
かたことで御子がしゃべり始めた。
「もちろん」
おじいさんが答えた。
「私・・・覚醒・・まだ・・・時間・・いる。・・ココロ・・まだ・・・足りない・・」
「ココロ?」
御子がすっと上を見上げた。
「世界・・・軋む・・音・・・・聞こえる・・」
「世界?!」
御子が目を閉じる。
そのまま光の気配が消え、キーナが倒れそうになった。
「おっと」
おじいさんがキーナを支えた。
「世界の軋む、音、・・・か」
おじいさんがつぶやく。
「わしらの考えもあながち間違いではなかったのか・・・? とすると・・・」
腕の中のキーナを見つめる。その顔は少し疲れたかのように、眠っていた。
(この子を渡すわけには・・・いかんなぁ)
おじいさんの瞳には、珍しくまじめに悩む光が宿っていた。
美しく輝く宮殿のような建物が、レティースト山脈の西側にあった。
人々はそこを希望の地と称し、参拝に訪れた。
そして、その建物の奥のさらに奥に、こじんまりとした神殿が建っていた。
ただ一人のために建てられたその場所に、幾人かの人が集まっていた。
「間違いない・・・」
「ああ、間違いないだろう・・・」
「あの気配は・・・」
「あの光の強さは・・・」
「御子様だ」
「御子様だ」
「光の時が、訪れた・・・」
「世界の希望が現れた・・・」
「迎えにやらねば」
「迎えに行かねば」
人々は虚ろな目をしながら、天を仰ぐ。
自分達を、人々を先導してくれる者の出現を待ち焦がれていたように。
光の宮が、動き出す。
浮かび上がる意識。
キーナが目を開けた。
「気付いたかね? 嬢ちゃん」
横を見ると、おじいさんがベッドの端に座っていた。
ベッド? いつの間にベッドに寝ていたのだろう?
ぼんやりとした頭が徐々に回転を増していく。
自分は・・・自分は?!
「魔女は?! どうなったの!!」
キーナがガバッと身を起こす。
「落ち着きなさい嬢ちゃん」
おじいさんがキーナをなだめた。
ゆっくりとおじいさんが語る。
「魔女はワシが、時空の狭間へ追いやった。二度とこの世界には戻ってこれんよ」
おじいさんの言葉をゆっくりと理解する。
「本当?」
「ああ」
おじいさんが微笑んだ。
「て、ことは、魔女は、この世界から、消えた? もういない・・・てこと?」
さすがファンタジー大好きっ子、理解が早い。
「そうじゃ、もう魔女におびえなくていいんじゃよ。嬢ちゃんもテルディアスも安心していいんじゃ」
「お・・・」
キーナがおじいさんを見つめる。
「おじいさんすごいっ!!」
といいながらおじいさんの首筋にダイブ!
というよりラリアットに近いんでないかい?
「ぐへっ」
ほら、ぐへって言った。
「やっぱり、一応、大魔法使いだったんだね!」
「やっぱり? 一応?」
おじいさんが復唱した。
にっこりと辛辣なことを言うが、本人は分かっていない。
とりあえず気にしないことにして、おじいさんはキーナの肩に手を置き、キーナの顔を見つめて言った。
「じゃから嬢ちゃん、よくお聞き。嬢ちゃんはテルディアスを追っていいのじゃよ」
「本当?!」
キーナの顔が輝く。
「ああ、もう魔女はいないのだし、置いておく理由がなくなったからのう」
おじいさんの顔が少し真面目になる。
「ただ一つだけ、知っておいておくのじゃ。嬢ちゃんには他にはない力が眠っておる。
今はまだ不安定で無意識のうちでしか使うことができんがのう」
肩に添えられた手に少し力が入ったような気がした。
「己を鍛え、己を磨き、その力を使いこなせるようになりなさい。それが嬢ちゃんに課せられた使命じゃ」
よく分からずにほけっとした顔をしているキーナ。
「うまく使いこなせるようになれば、テルディアスの呪いを解く手伝いができるぞ」
途端にキーナの目が輝いた。
「頑張る!」
テルディアスの名前が出け来なけりゃ理解せんのかこの娘。
おじいさんはにっこり微笑んだ。
けしてスケベな笑みではない。
「あり? おじいさんのところで修業しなくていいの?」
そういえば、魔法の基礎の基礎しか習っていないような・・・?
「ん? ああ・・・、嬢ちゃんの力は大きすぎるでの、実戦で鍛えたほうがよかろう。ワシにも扱いきれんわい」
ふぉっほっほ。
とおじいさんが笑った。
「ふにゃ?」
やっぱりなんだか理解していないキーナだった。
城の北門。
3日前にテルと一緒に通った門。
今度は一人で通っていく。
「色々ありがとうおじいさん」
キーナがおじいさんに頭を下げた。
キーナの頭の周りを、なにやら黒い球に羽が生えたような、奇妙なものが飛び回っている。
「気を付けてな」
にっこりと笑っておじいさんが言った。
「テルディアスのこと、頼んだぞ」
おじさんが右手を差しだす。
「うん!」
キーナも握り返した。
「元気でね! おじいさん!」
そういうと踵を返し、元気に走り出す。
「嬢ちゃんもな!」
おじいさんが手を振る。
「いってきま~す!」
大きく手を振りながらキーナが走って行った。
黒い球のようなものがその前をすいすいと飛んでいく。
あっという間にキーナの姿は見えなくなってしまった。
「いってきます、か」
おじいさんがふと笑みをこぼす。
「ここにまた戻ってくる気かのお」
もし自分の思う通りの者であるならば、もしかしたら、またここに来ることがあるかもしれない。
そうしたら・・・。
おじいさんが遠い目をして空を仰いだ。
何かを懐かしむかのように。
「テルディアス・・・、お前は・・・、想像もつかん程の運命を背負っているのかもしれんなぁ・・・」
光の御子という存在に出会うということ自体が稀であるというのに、その存在と旅をするなど・・・。
どれほどのことがこの先待っているのか・・・。
「生きろよ」
おじいさんが小さくつぶやいた。
優雅な手つきで、テルディアスが剣を鞘に収める。
ドオッ
その背後で妖魔が倒れ、砂塵と化す。
(こんな街道近くに妖魔がいるとは・・・)
街道は妖魔にとってあまり気持ちのいいものではない。
特に余り力のない妖魔にとって、命に関わるといっても過言ではない。
なので、余程の事がない限りは、いかなる妖魔であってもあまり近づきたがらない。
それがこんな近くで現れるということは・・・。
(あの女が仕向けて来てるのだろうか・・・。それならいい・・・。キーナから目を逸らせれば・・・)
「ふにゃ~~~~」
ぺたし。
疲れて座り込んでしまうキーナ。
ちなみに今日の服装は、肩丸出し、昨日に負けず劣らず短いスカートといういでたち。
これなら誰が見ても、キーナを男と思う者はいないだろう。
「ようやったのう嬢ちゃん。合格じゃ」
おじいさんがにこやかにキーナに歩み寄る。
「本当!?」
「ああ、今日はこのくらいにしてもう休みなさい。くたくたじゃろう」
「もそっとできるよ」
キーナが口を尖らせる。
「無理は禁物じゃ」
おじいさんがちっちっちっと指を振り、キーナを牽制する。
精神的な負担の大きい魔法の修行は、休むことも大事な修行の一環なのだ。
その時。
おじいさんの顔が急に真面目になった。
そしてバッと天井を見上げる。
「結界が・・・」
何事かを呟いた。
「? おじいさん?」
「来る」
おじいさんの顔が険しくなった。
と同時に、
ドゴオッ!!!
ドームの天井が破壊され、青い空と、その中心に黒い影が現れた。
「み~つっけたっ!」
黒く長い髪、闇のような漆黒のドレスをまとった、闇の魔女。
「魔女・・・!」
「リー・リムリィ・・・」
キーナがおじいさんの側に寄り添う。
「どこに隠れても無駄よ☆ 私に分からないところなんてないんだから◇」
悪戯っ子の様な笑みを浮かべて、魔女がクスリと笑う。
「あ~ん、それにしても調子悪い★ あなたにやられた所治りが悪いのよ■」
そう言ってお腹をさすりながら、魔女が徐々にドーム内に入ってくる。
「悪い芽は早めに摘んで、ついでにテルディアスのおみやげにして、一石二鳥ね◎」
おじいさんが身構える。キーナも同じように身構えた。
「ということで、死んで♪」
なんでもないようなことのように言い放つと、右手をキーナ達に差し向けた。
一瞬のうちに、闇がドーム内を包み込んだ。
ミドル王国から遠く離れた街道近くの森の中。
ふと嫌な感じを覚え、テルディアスは振り返った。
(なんだ?)
特に近くに妖気を感じるわけでもない。
ただ、なんだか胸の奥がざわつく。
(気のせいか・・・?)
再び前を向き歩き始める。
だが、一度覚えた嫌な感じはなかなか抜けない。
(キーナ・・・)
あの不思議な少女のことを思い出す。
今頃はミドル王国で魔法の修行でもしているのだろう。
ミドル王国なら大丈夫だ。
なんといったって、あの魔法の師がいるのだ。
テルディアスはそのまま、もう振り向くこともなく歩いていく。
ドーム内に砂ぼこりが舞う。
「ふ~ん」
それを少し感心したように魔女が見つめる。
「なかなかやるわね。おじいさま☆」
ドーム内が晴れてくると、結界を張ったおじいさんとキーナが現れた。
「まあのう。これでも一応大魔道士と呼ばれとるでのう。この子をやりたければ、ワシを倒さんと無理じゃのう」
「おじいさん?!」
キーナが慌てる。
「僕も戦うよ!」
「嬢ちゃんはまだいかん!」
「なんで?!」
「嬢ちゃんはまだ力の制御の仕方を覚えたばかりじゃ。いつ暴走するかも分からん。
隙を見て逃げなさい。そしてテルディアスを追うんじゃ。嬢ちゃんはテルディアスに必要じゃからな」
「テルを・・・?」
おじいさんの言葉にポカンとするキーナ。
テルを・・・? 追っていいのか?
まだ修行も途中なのに・・・?
「あいつは北へ向かったよ」
そういうとキーナの頭にポンと手を置いた。
「にゃ?」
「色々と楽しかったよ」
そしてにっこり微笑むと、キーナに背を向ける。
「え?」
突然風がおじいさんの周りに集まった。
「わっ!!」
ブワッ
「おじいさん!!」
風を纏ったおじいさんが魔女に向かって魔力を練りだす。
そして、聞いたことのない呪文を唱えだした。
「まあすごい! ただの人間が光の力を使えるなんて!」
パチパチと拍手をする魔女。
「でもただの人間がその力を使って、ただで済むと思って?」
「もちろん思っとらん」
おじいさんはにやりと笑うと、右手に力を集め、渾身の力を振り絞って解き放った。
ドガガガガガガ!!
大きな闇の力と、おじいさんの放つ光の力がぶつかり合う。
「ぐおおおおおおお!!」
「無理なさらないほうがよろしいですわん◇」
魔女が涼しげな顔で言った。
「力の差は歴然としているのだし」
そういうと魔女は、指先に闇の力を集め、
「えい」
鯉にえさでも与えるかのように、軽くおじいさんに向かって放り投げた。
力と力の間をすり抜け、小さな闇の力がおじいさんに届く。
バヂイッッ
「ぐあああっ!!」
「おじいさん!!」
キーナが叫ぶ。
「くぬぅ・・・」
口の端を袖で拭う。
苦しげな表情を浮かべながら再び呪文を唱えだす。
「光よ!!」
小さな光の力がおじいさんの周りに集まる。
ズドドドドドドドド!!
「今じゃ! 逃げろ嬢ちゃん!」
おじいさんが叫ぶ。
「だめだよう・・・」
キーナが呟く。
「おじいさんを置いてなんていけないよう!!」
キーナの脳裏に一人の青年の姿が浮かんだ。
恋人に別れを告げ、自分たちのために闇に捕まってしまった青年。
レイさん。
「もう・・・誰も・・・苦しんで欲しくない・・・」
ズゴオオオン・・・
「ぐあああ!!」
「おじいさん・・?!」
爆煙の中からおじいさんが落ちてきた。
「おじいさん!!」
キーナが走る。
「風よ!」
風を呼び、おじいさんに纏わせた。
おじいさんの体がふわっと浮き上がり、静かに床に横たわる。
「おじいさん!」
キーナが駆け寄る。
「嬢ちゃん・・・逃げろというたじゃろ・・・」
痛みを堪えつつ、おじいさんが体を起こそうとする。
「でも・・・」
おじいさんに手を貸してやるキーナ。
「逃げても無駄よ」
すぐそこにに魔女が立っていた。
「私から逃げられると思って?」
嘲笑うかのように魔女が二人を見下ろす。
「おじいさんはやらせないぞ!」
キーナがおじいさんをかばって前に出た。
「嬢ちゃん!」
「あなた、邪魔」
魔女がキーナを指差す。その指先が闇色に光り、
キュオ!
「嬢ちゃん!!」
キーナの体が吹き飛んだ。
ドゴオッ
壁に激突し、キーナの頭ががくりと垂れた。
(!! 大丈夫か?!)
駆け寄って行きたいが、
「これでいいわ」
魔女がおじいさんを見つめた。
「で? おじい様♪ 次は何を見せてくださるの?」
魔女が楽しそうに言った。
「ふ、しかたがないのぅ・・・」
おじいさんの背中をつめたい汗が流れ落ちる。
とっておきのあれを出すしかない・・・。
だがしかしあれは、まだ研究段階のもので、うまく制御できるかも分からない。
だがやるしかない。
「わしのとっておきを見せてやろう」
おじいさんは意識を集中させた。
北に北斗
南に十字
東に曙
西に黄昏
吾の時は過ぎて是有り
其の時は過ぎて是成り
流れ行く時の戒め解き放ち
我が前に姿を現さん
「その呪文は・・・」
魔女が驚愕の表情を見せた。
一つ一つの言葉に反応するかのように、おじいさんのまわりに魔方陣が広がっていく。
青い微かな光をたたえ、おじいさんが全ての言葉を唱え終えたとき、光は強くなりそして、
バチバチバチ!!!!
おじいさんの頭上で光がぶつかり合う。
「その昔、異世界説を唱えた一人の大魔道士が編み出した秘術、時空の扉じゃよ」
ぶつかり合う光の中心が裂け、暗い様な明るい様な、不思議な穴が少しづつ大きくなっていく。
「異世界への扉を開くはずが、亜空間までしか開けなかったという。
あまりに強大な術故、扱える者もおらず、書庫の奥に眠っとったんじゃ」
魔女が徐々に開いていく穴を見つめる。
穴は徐々に徐々に、人一人が通れるくらいに大きくなった。
「一度この穴に呑まれてしまえば、再びこの世界に戻るは不可能だろう。観念するんじゃ」
ともすれば意識が呑まれてしまいそうになるのを必死に堪えながら、おじいさんが魔女を見つめた。
すると魔女は口もとに手をやると、クスリと笑った。
「それが奥の手なの?」
おかしそうな顔をして魔女が穴とおじいさんを見つめ返す。
「何?!」
「光が時を統べるなら・・・」
魔女がすっと穴を指さした。
その途端、ガクッと手応えがあり、急におじいさんの体が軽くなる。
「闇は空間を統べるのよ」
にっこりと魔女が微笑んだ。
「な・・・」
(制御が・・・!!!)
それまで不安定に広がり続けていた穴が、途端に安定して広がるのをやめた。
「残念ね」
穴が魔女の側まですうっと移動する。
「この魔法は闇に属するものなの。つまり私の管轄ね☆」
「まさか・・・」
おじいさんの顔が険しくなる。
「手詰まり? じゃあ、仕方ないわね」
魔女の瞳が怪しく光った。
「時空の狭間へ、いってらっしゃい♪」
穴がおじいさんの方へ向けられた。
その時、キーナの内から光が弾けた。
ドウッ!!
光はあっという間にドームを満たす。
おじいさんは振り向いたがあまりの眩しさに何も見えない。
「これは・・・!」
魔女の目が見開かれる。
まるで光の中にいるものが見えているかのように。
「やはり・・・、お前!」
光が徐々におさまる。そしてその中心にいるのが、
ポウ・・・
柔らかな光をまとったキーナだった。
「対為す者・・・」
魔女の呟きが聞こえた。
おじいさんの顔がはっとなる。
だが、しかし、それは・・・。
キーナは静かに佇んでいる。
魔女の顔が一層険しくなる。
「いつかは現れるとは思っていたわ・・・」
魔女がにやりとした。
「でも、今ここであなたの息の根を止めてしまえば済むこと☆」
ざわり
闇が動く。
「眠りなさい。永遠に」
ズオオオ!!
闇がキーナの足元から現れ、キーナを覆い隠していく。
「嬢ちゃん!!」
おじいさんが叫んだ。
キーナが瞳を閉じた。
すると光が一瞬強くなり、
シュオン・・・
あたかも日の光に影が打ち消されるかのごとく、闇が消滅した。
魔女の瞳が驚愕に開かれる。
一瞬のことにおじいさんの顔も唖然となった。
まさか・・・これほどとは・・・。
先ほどと同じように静かに佇むキーナ。
その瞳が魔女をとらえる。
「あなた、気に入らないわ!」
魔女が闇を集めだす。
先ほどよりさらに強い力を放つつもりだろうか。
だが、
「 」
キーナが何か言葉を発した。
おじいさんには何を言っているのか聞き取れなかったが、その言葉を放った瞬間、魔女がびくりとして動きを止め
た。
「う・・・う・・・、・・あう・・・」
何かに縫いとめられたかのようにピクリとも動けなくなってしまった魔女。
おじいさんが驚いてキーナを見つめる。
「少し、お眠り」
今度は言葉が聞こえた。
「い・・・や・・・」
魔女が何かに抗うようにもがいているように見えたが、確かにそれは、おじいさんには何かが、眠りに落ちるように感じた。
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
魔女が絶叫を放つ。
途端に戒めから解かれたのか、体が動いた。
おじいさんは何が起こったのかもよく分からず、見つめていた。
キーナはやはり静かに佇んでいる。
「あ・・・あ・・・」
魔女が両の手を見つめる。
その顔は青ざめ、先ほどまでの威勢はない。
「!」
おじさんは気づいた。
(闇の気配が消えた?!)
つい今までまとわりつくように充満していた闇の気配が嘘のように消えていた。
魔女の傍らの暗い穴以外は。
バリ
「!」
制御を失った闇の穴が暴走を始める。
「きゃああああ!」
魔女が穴に飲み込まれていく。
「助け・・・」
すべての言葉を言い終える前に、魔女は穴に飲み込まれた。
キュオウ!!
もともとおじいさんの力で生み出されたものだ。
それ以上力を保つこともできず、穴は四散した。
そしてその場から、すべての闇の気配は消えた。
「終わった・・・のか?」
後に残るは瓦礫の山と、柔らかな光を携えて佇むキーナのみ。
「嬢ちゃん!・・・いや・・・」
おじいさんがその存在を見つめなおす。
「光の御子」
キーナが、いや、光の御子がニコリとほほ笑んだ。
御子が手をかざすと、すっと光がおじいさんを包み込み、すべての傷が消えた。
「傷が・・・」
「あなた・・・分かる・・・だね・・・」
かたことで御子がしゃべり始めた。
「もちろん」
おじいさんが答えた。
「私・・・覚醒・・まだ・・・時間・・いる。・・ココロ・・まだ・・・足りない・・」
「ココロ?」
御子がすっと上を見上げた。
「世界・・・軋む・・音・・・・聞こえる・・」
「世界?!」
御子が目を閉じる。
そのまま光の気配が消え、キーナが倒れそうになった。
「おっと」
おじいさんがキーナを支えた。
「世界の軋む、音、・・・か」
おじいさんがつぶやく。
「わしらの考えもあながち間違いではなかったのか・・・? とすると・・・」
腕の中のキーナを見つめる。その顔は少し疲れたかのように、眠っていた。
(この子を渡すわけには・・・いかんなぁ)
おじいさんの瞳には、珍しくまじめに悩む光が宿っていた。
美しく輝く宮殿のような建物が、レティースト山脈の西側にあった。
人々はそこを希望の地と称し、参拝に訪れた。
そして、その建物の奥のさらに奥に、こじんまりとした神殿が建っていた。
ただ一人のために建てられたその場所に、幾人かの人が集まっていた。
「間違いない・・・」
「ああ、間違いないだろう・・・」
「あの気配は・・・」
「あの光の強さは・・・」
「御子様だ」
「御子様だ」
「光の時が、訪れた・・・」
「世界の希望が現れた・・・」
「迎えにやらねば」
「迎えに行かねば」
人々は虚ろな目をしながら、天を仰ぐ。
自分達を、人々を先導してくれる者の出現を待ち焦がれていたように。
光の宮が、動き出す。
浮かび上がる意識。
キーナが目を開けた。
「気付いたかね? 嬢ちゃん」
横を見ると、おじいさんがベッドの端に座っていた。
ベッド? いつの間にベッドに寝ていたのだろう?
ぼんやりとした頭が徐々に回転を増していく。
自分は・・・自分は?!
「魔女は?! どうなったの!!」
キーナがガバッと身を起こす。
「落ち着きなさい嬢ちゃん」
おじいさんがキーナをなだめた。
ゆっくりとおじいさんが語る。
「魔女はワシが、時空の狭間へ追いやった。二度とこの世界には戻ってこれんよ」
おじいさんの言葉をゆっくりと理解する。
「本当?」
「ああ」
おじいさんが微笑んだ。
「て、ことは、魔女は、この世界から、消えた? もういない・・・てこと?」
さすがファンタジー大好きっ子、理解が早い。
「そうじゃ、もう魔女におびえなくていいんじゃよ。嬢ちゃんもテルディアスも安心していいんじゃ」
「お・・・」
キーナがおじいさんを見つめる。
「おじいさんすごいっ!!」
といいながらおじいさんの首筋にダイブ!
というよりラリアットに近いんでないかい?
「ぐへっ」
ほら、ぐへって言った。
「やっぱり、一応、大魔法使いだったんだね!」
「やっぱり? 一応?」
おじいさんが復唱した。
にっこりと辛辣なことを言うが、本人は分かっていない。
とりあえず気にしないことにして、おじいさんはキーナの肩に手を置き、キーナの顔を見つめて言った。
「じゃから嬢ちゃん、よくお聞き。嬢ちゃんはテルディアスを追っていいのじゃよ」
「本当?!」
キーナの顔が輝く。
「ああ、もう魔女はいないのだし、置いておく理由がなくなったからのう」
おじいさんの顔が少し真面目になる。
「ただ一つだけ、知っておいておくのじゃ。嬢ちゃんには他にはない力が眠っておる。
今はまだ不安定で無意識のうちでしか使うことができんがのう」
肩に添えられた手に少し力が入ったような気がした。
「己を鍛え、己を磨き、その力を使いこなせるようになりなさい。それが嬢ちゃんに課せられた使命じゃ」
よく分からずにほけっとした顔をしているキーナ。
「うまく使いこなせるようになれば、テルディアスの呪いを解く手伝いができるぞ」
途端にキーナの目が輝いた。
「頑張る!」
テルディアスの名前が出け来なけりゃ理解せんのかこの娘。
おじいさんはにっこり微笑んだ。
けしてスケベな笑みではない。
「あり? おじいさんのところで修業しなくていいの?」
そういえば、魔法の基礎の基礎しか習っていないような・・・?
「ん? ああ・・・、嬢ちゃんの力は大きすぎるでの、実戦で鍛えたほうがよかろう。ワシにも扱いきれんわい」
ふぉっほっほ。
とおじいさんが笑った。
「ふにゃ?」
やっぱりなんだか理解していないキーナだった。
城の北門。
3日前にテルと一緒に通った門。
今度は一人で通っていく。
「色々ありがとうおじいさん」
キーナがおじいさんに頭を下げた。
キーナの頭の周りを、なにやら黒い球に羽が生えたような、奇妙なものが飛び回っている。
「気を付けてな」
にっこりと笑っておじいさんが言った。
「テルディアスのこと、頼んだぞ」
おじさんが右手を差しだす。
「うん!」
キーナも握り返した。
「元気でね! おじいさん!」
そういうと踵を返し、元気に走り出す。
「嬢ちゃんもな!」
おじいさんが手を振る。
「いってきま~す!」
大きく手を振りながらキーナが走って行った。
黒い球のようなものがその前をすいすいと飛んでいく。
あっという間にキーナの姿は見えなくなってしまった。
「いってきます、か」
おじいさんがふと笑みをこぼす。
「ここにまた戻ってくる気かのお」
もし自分の思う通りの者であるならば、もしかしたら、またここに来ることがあるかもしれない。
そうしたら・・・。
おじいさんが遠い目をして空を仰いだ。
何かを懐かしむかのように。
「テルディアス・・・、お前は・・・、想像もつかん程の運命を背負っているのかもしれんなぁ・・・」
光の御子という存在に出会うということ自体が稀であるというのに、その存在と旅をするなど・・・。
どれほどのことがこの先待っているのか・・・。
「生きろよ」
おじいさんが小さくつぶやいた。
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