キーナの魔法

小笠原慎二

文字の大きさ
28 / 296
奴の名はサーガ

奴の名はサーガ

しおりを挟む
ミドル王国の街を、疾風のごとく駆けていく影があった。

バビュンッ!

その姿を視線に捉えることも許さぬような勢いで、その影は走り続けた。
影の名はキーナ。
自分を置いて先に旅立ってしまったテル、ことテルディアスを追って、ミドル王国を駆け抜ける。
ただひたすらに、会いたい、と思いながら。










ミドル王国を出ると、東西南北に伸びる道がある。
その道はどれも例外なく、少し行くと森の中へと伸びていく。
広大な大地は深い森で覆われ、街道と呼ばれる道で、国々を、街をつないでいた。
街道には結界が張ってあり、妖魔は近づけにようになっていた。
つまり、街道を出てしまえば、妖魔には好きなだけ出会えるというわけで。
まあそんな物好き滅多にいないが。
北に伸びる街道の、森の始まる木の傍で、寝転ぶ一つの影。
でっけー大欠伸をして、目に涙を貯めて、

「ふぁ~~~、いいカモが通らねぇかなぁ…」

と呟く者があった。
その目の前を、

バビュンッ!

疾風のごとく駆け抜ける影があった。

ヒラッ………

葉っぱが一枚舞って、落ちた。

「なんだぁ?! 今のガキ?!」

かろうじて見えたらしい。

「こっから先ガキの一人歩きはやべえぞ!」

枕がわりに置いておいた剣を掴むと、駆け抜けていくキーナを追って走り始めた。
運命の歯車は動き出す。










「おい! 待てーーーーー!!!」

欠伸をこいていた男が、ひたすらに走り続けるキーナを追って走る。
なぜにこんなに足が速いのか。
男の走りも遅いわけではないのに、なかなかキーナに追いつけなかった。

「ま」

手を伸ばす。

「ち」

狙うは襟首。

「や」

指先が髪をかすめた。

「が」

襟首に指が触れた。

「れ」

指をひっかける。

「つってんだろがーーー!!」

よっとどっこいなんとか襟首を掴んでキーナを止めることに成功した。

「ピ―――――!!!」

突然に動きを制御され、キーナが悲鳴(?)を上げた。

ぜはぜはぜは

息を整えて。

「あんた誰。何の用」

キーナの瞳が疑わしげに、迷惑げに男を見つめる。
黄色い瞳に黄色い髪。これで黄色い服でも着てたらまっきっきやね、などと思うキーナ。
他に考えることないんかい。
ちなみに、水色に近い爽やかなシャツ、それに少し緑を足したようなズボンを履いていた。
そしてその上に、胸部、肩、腰の辺りの急所に軽装な鎧をつけている。
年はあまりキーナと変わらなそうな、少し上くらいか?
見た目では若く見えるが、こっちの世界でのそういう感覚って、どんな基準になってるのだろう? などと首をひねる。

「俺はサーガ。こっからガキの一人歩きは危険だ。俺が護衛してやる。はした金で」
つまり用心棒になってやるっつーことか。

「いらない。そんじゃ」

さっさか歩きだそうとするキーナ。

「ちょい待て!」

それを止めるサーガ。

「まじでやべぇんだって! こっから先はオールやグールやドールの大群がわんさかと出てくる道で・・・」

「大丈夫、僕強いから」

必死になって止めるサーガに、至極迷惑そうに答えるキーナ。
というか思い上がりすぎでないか?
貧弱なガキンチョにしか見えないキーナを本気で心配しているサーガ君。

「だ~か~ら~」

物分りの悪いガキだと頭を抱える。
なんと説明してもキーナにはわからんと思うが。
その時、キーナの後ろで、カサリと木の葉の擦れ合う音がした。
振り向くと、一体のドールが街道の向こうに姿を現していた。

ちなみにドールとは、地系の力を持つ妖魔。
グールは水系の力、オールは風系の妖魔となる。
妖魔もそれぞれに属性を持っているのである。
街道には普通は妖魔は近づけないのだが、街道の力が弱まっていたり、それなりの力を持った妖魔であれば、近づくことも街道に入ることも可能である。

そしてキーナの歩いている(走っている?)道は、街道の結界の力が弱まっているところであり、そこそこの力のある妖魔であれば容易に近づくことができるようになってしまっている道であった。
つまり、サーガ君の言う通り、大群が出やすい場所となっている。
そして、一体かと思ったドールであったが、

カサリ
カサリ
ガサリ…

見る間に数が増えていった。
いつの間にかすっかり囲まれてしまっている。

「にゃ、にゃ、にゃ…」

「だから言ったろう!」

サーガが剣をスラリと抜き放ち身構えた。

「ぼ、僕は強いもん!」

言うなり、手のひらに意識を集中する。

「炎球!」

ゴウ!

炎がドールたちを焼き尽くす。

「やた!」

どんなもんだいと喜ぶキーナ。

「後ろ!!」

「え?」

ズドッ!

いつの間にか忍び寄ってきていたドールを、サーガが一閃する。

「油断してんなよガキ」

「ガキじゃないもん!」

そんな押し問答をしながらも、増え続けるドールを二人は殲滅していった。






ぜいぜい
ふうふう
やっとこドール達の出てこなくなった街道で、二人は荒い呼吸を整えていた。

「多すぎ…」

「だから言ったろう」

精も根も尽き果てるとまではいかないが、さすがに疲れたキーナ。
この先も同じような状況が続くとしたら、さすがに一人ではやばいかもしれない。
う~んとしばらく考えて、妥協することにした。

「んでは…」

と一日の用心棒代について話し合われる。
といってもキーナがそんなこと知るわきゃない。
そんなこと知るわきゃないとサーガが知るわきゃない。
どうせガキだからとサービス料金を提示。
それでいいでしょうと知ったかぶりするキーナ。
他にもなんやかんやと話し合い、

「んじゃ、もろもろの経費入れて一日1リルね。期限はテルが見つかるまで」

実はお金の単位もまだ良く分かっていないキーナであったが、

「しゃーないからそれで手を打とう」

そんなこと知るわきゃないサーガはかなりお安い値段であったが受け入れることにした。
てなわけで話し合いも無事に終わったので、

「ほんじゃ急ごう」

とまたキーナは

どどどどどど

と全力で走り始めた。どこにそんな体力残ってんだ?

「ちょっとまてーーーー!!」

置いていかれたサーガがキーナの後を追って走り出す。





走れるだけ走って日が暮れて、や~まのお寺♪ はこの世界にはないので、鐘の音がなるはずもないわけで。
そんなことは置いといて、日が暮れたので二人は野宿をすることになった。
黒い球に羽の生えた、キーナに『キューちゃん』と名付けられた変な生き物が、キーナの横で羽を休めている。
二人は夕食をとっていた。

「ハ~ン」

疑わしげ~な目をして、お肉を丸めて簡単に焼いたものをほおばっているサーガ。

「うあ?! 信じれないにゃ?!」

こちらはもう少し上等そうなお肉の塊を少し焼いたものをほおばっているキーナ。

「たりめーだろ」

今までの事の次第をかいつまんでサーガに説明していたのである。

「異世界から来ただの、ダーディンにされただの、んな話あるわけねーだろ」

「本当のことだもん」

本当のことでも突拍子過ぎて普通の人には理解不能である。

「へいへい、ご主人様の仰せのままに~」

思ってもいないことを口にしやがられますと、

プチ

と切れる音がしたりなんかして。

「やっぱりあんたなんかいらないーーー!!!」

とそうなるのだな。

「途中解約は契約違反だぞう!!」

とりあえずの金づるのご機嫌を取らなければならないサーガだった。







「んじゃ火の番しっかりよろしく!」

とりあえず途中解約はなくなったらしい。

「へいへい、おこちゃまはさっさと寝な」

ブチッ

何か切れる音がしました。
次の瞬間には、頭にたんこぶを生やしているサーガがおりました。
これを自業自得といいます。

「おやすみっ!」

マントをしっかりとかけて、横になるキーナ。
少し木の葉を集めて下に敷いてはいるが、やはりゴツゴツする。
でも大丈夫。キーナはどこでも安らかに寝られるという特技があるのだ。
よかったね。

(テルがいればこんな変な奴と一緒にいなくてすむのに…)

なかなか寝付けない夜というものはある。

(テル…どこにいるの? 夢でもいいから会いたいよ…)

この日ばかりはキーナもなかなか…、なかなか…、寝付けないわけでもなかった。
意識はすぐに眠りの淵へと誘われた。
ほんとに寝付きのいい子だなぁ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた

黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。 そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。 「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」 前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。 二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。 辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...