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始まりの旅
これは酷いと動けない
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「キーナ!」
テルディアスが崖から飛び降りる。
風を受け落下していく。思ったより高い。
これは…もしかすると…やばいか?
着地寸前に風を纏い、地に降り立った。
「ちっ、こんなに早く使う羽目になるとは」
テルディアスがイヤリングに手を添えた。
別名、双子石と呼ばれるその石は離れ離れになるとお互いに呼び合う性質がある。
離れ離れになった時など、お互いを見つけるのに便利です☆
迷子防止用に使われる事が多いです。
キラっと何か光るものが見えた。
光ったところ目指してテルディアスが走る。
「無事でいてくれ…!」
あの高い崖から落ちたのだ。無事でいることなどありえないのだが…。
キーナを見つけて思わず安堵のため息を吐いたテルディアスだった。
「なんと、まあ…運のいい奴」
木の枝とツタの複雑に絡まったその中に、キーナがいた。
それはまるでキーナの為に造られた揺り籠のようだった。
夜の帳が森の木々を隠す。
炎が小さな抵抗をするかのように辺りを小さく照らす。
小さな光の輪になんとか身を委ねるかのようにキーナが眠っている。
その隣にテルディアスが腰掛け、火を見つめていた。
「ん…ん…」
小さく呻いたキーナが目を覚ました。
「気付いたか。大丈夫か?」
テルディアスが優しく声を掛けた。
「テル…」
うつろな瞳でテルディアスを見上げた。
優しげな瞳がキーナを見つめ返す。
「痛いところはないか?」
キーナの額に手を当てる。
少し熱っぽいようだ。
「特に…」
額に当てられたテルディアスの手が少し冷たくて気持がいい。
気付けばテルディアスのフードとマントがない。
どうやら頭の下に枕として置かれているのがフードらしい。
マントは上に掛けられていて温かい。
「ごめんねテル。足手まといになっちゃった」
「全くだ。調子が悪いなら最初から言え! そうすりゃロックスじゃなくてゴイブにしたのに…」
テルディアスがブチブチと呟く。
「俺には言ってくれないのか?」
悲しそうにテルディアスが言った。
「宿屋のカミさんには言えて、俺には言えないのか? …やっぱり俺は…信用ならないか?」
やはりダーディンである自分など信じられないのだろうか。
そんな不安が持ち上げてくる。
「テル…」
整った面立ちが炎に照らされ、悲しげな横顔からテルディアスの不安な気持が伝わってくる。
キーナはテルディアスにそんな気持を抱かせてしまったことが悲しかった。
「ごめんね。違うよ。そうじゃないよ」
テルディアスに安心して欲しかった。信頼していないわけではないのだから。
ただ…。
「ちょっとね、言いにくかったの。だって…これはね…」
キーナの歯切れが悪い。
やはり言いにくいものがあるのである。
「生理だから…」
ずりっ
テルディアスが滑った。
「そ、そうか…」
テル君、顔が赤くなっておるぞ。
「悪い…。そりゃ無理に聞くんじゃなかった…」
テルディアスは聞いて後悔した。
あまり知りたくもない。
というか、男の俺が知ったところで…よく分からないし…。
話には聞いていても生理のことについてなんて男には分かるもんじゃない。
「いいよ。言わなかった僕が悪いんだし…」
(いや、言われてもなぁ…)
困るだけだ。
「生理になると、なんか体重くなるし、微熱出るし、体力なくなるけど、行けると思ったんだよ」
キーナは目を閉じて思い返しているようだった。
「今度なったら体調不良ってちゃんと言うからね」
にっこりとテルディアスに微笑みかける。
「ああ…」
(気をつけよう)
とテルディアスは密かに思った。
「テル…」
「ん?」
「も少し寝てていい?」
また少し瞼を閉じ、キーナの呼吸が一定のリズムを刻み始める。
「ああ、よく寝とけ」
「うん…ありがと…」
というとキーナは早くもすやすやと寝息を立てて眠りだした。
相変わらず寝つきがいい。
テルディアスはキーナのおでこに手を当てる。
(熱っぽいのは少し引いたか)
少し顔色も良くなっている。
「女も大変だな」
拾って来た薪を少しくべて、火を大きくした。
夜の闇は一段と濃く全てを飲み込もうとしている。
山際より朝の光が大地を温かく照らし出す。
ところがキーナは暗く沈み、ぐったりと頭を抱えている。
「気分は?」
聞かなくても分かる気もしたが、一応聞いてみた。
そして一言。
「最悪」
「歩けそうにないな」
顔色は真っ青、少しゲッソリとしている感じともとれる。
「ゴメ・・・」
一生懸命微笑んではいるのだが、その目つきは睨んでるとしか思えない。
とにかく体調が悪いと表情が語っている。
「ま、仕方ないだろ」
キーナにかぶせていたマントを拾い、バサリと肩に羽織った。
「担いで行ってやるよ」
「え゛?」
担ぐってことはおんぶされるってこと?今あまりお股は開きたくないのだけど…。
そんな心の声など露知らず、テルディアスはキーナに手を伸ばす。
「暴れるなよ」
というが早いか、キーナをひょいっと担ぎ上げた。勿論、お姫様抱っこである。
「テー! テル!」
恥ずかしいのもあいまって思わず大声を上げてしまうキーナ。
こんな抱かれ方慣れていないから思わず顔が赤くなってしまう。
「耳元で大声を出すな」
ちっこい体のどこからこんな大声が出るのかというくらいの大きな声。
さすがに耳がキンキンする。
手で塞ぎたいが、今はキーナを抱いている。
「歩けるよ! 歩くよ! 歩く!」
恥ずかしさからやはり声が大きくなってしまうキーナ。
んだが、
「歩けないっつーたばかりだろうが。飛ぶから暴れるな」
キーナの要求は却下されたが、飛ぶと聞いた途端にキーナの瞳がキラリと光った。
「飛ぶ?」
「ああ」
キーナの瞳の輝きに少し怪しさを感じつつも、テルディアスは素直に答える。
「長時間は無理だが、ロックスまでなら持つだろう」
魔法は精神力によってその強弱や持久力が変わってくるのである。
故にどんな強力な魔法であっても、その使い手によって効力が変わってくることもあるのだ。
「いいよ。飛んで」
「・・・」
顔中キラッキラさせながら気体に満ちた眼差しでテルディアスを見つめるキーナ。
まあ、魔法に憧れるというか、別に魔法を知らなかったとしても、一度は誰もが願う事。
空を飛んでみたい。
その夢が今まさに実現しようとなったら、誰もがこんな顔をするんでないかい?
「ついでに精霊呪文も唱えるからしっかり聞いてろよ」
「うん!」
珍しくキリッと真面目な顔になるキーナ。
テルディアスはゆっくりと精霊呪文を唱え始めた。
「風よ。わが身に纏いて力を成せ」
ドキドキワクワクする心を抑えつつ、キーナは一言一句洩らすまいとテルディアスの言葉に耳を傾ける。
すると、風が集まってくるのが感じ取れた。
テルディアスとキーナの周りを取り囲むように風の壁が出来ているようだ。
「風・#_翔_レイ__#」
風が意味成す力となってテルディアスに働きかける。
テルディアスの足がフワリと地面を離れだした。
「おお!」
感動の一瞬に思わず声が漏れたキーナ。
「暴れるなよ」
念の為釘を刺しておくテルディアス。
「うん」
一応返事はしたが、聞いてるのかよく分からない、輝いた顔をしているキーナ。
きっと聞いていないだろう。
体制を整えつつ、テルはロックスがある方向に体を傾ける。
そのまま地面を蹴るように空を蹴った。
ドウッ
風の音を残しつつ、テルディアスはキーナを抱えて空を翔けだした。
「きゃ~~~~~~~~~♪」
風の音に混じってキーナの嬉しそうな悲鳴も尾を引いていく…。
「飛んでる~~~~~~♪」
手を広げ足を広げ、抱えにくいったらありゃしない。
「暴れるなっつーに」
危惧していたことがドンピシャで当たり、テルディアスが注意する。
下手すれば手が滑って落ちてしまう。
そしたらどうなるか…位分かるだろうに。
「いぇ~い!!!」
「だから暴れるな!!!」
そんなことなどおかまいなしにはしゃぎ続けるキーナであった。
ってか、お腹の痛みはどうした?
ロックスの宿屋のある一室で、見るからに体調の悪そうなキーナが寝ていた。
はしゃぎすぎた反動か、顔の青白さが増しているようだ。
「はしゃぎ過ぎだアホたれ!」
テルディアスの渇が飛ぶ。
「飛ぶの…初めてだったから…つい…」
弱弱しく、今にも消え入りそうな声でキーナが答える。というか呟く?
「何か食うか?」
一応、心配してテルディアスが訊ねる。
「今はいい~~~~…」
今食べたらきっと戻してしまうだろう。
ああ、なんて辛いのかしら。
「子守唄が聞きたい」
「あ?」
キーナが素っ頓狂なことを言い出した。
といっても別に素っ頓狂というわけではない。
この苦しみ、というか、痛みから逃れるには、寝るのが一番なのだ。
寝ている間は勿論のことだが痛みを感じない。
手っ取り早く眠りを誘うには、そう、子守唄。ということになる。
「テルの歌声が聞きたい」
どうやら眠りたいだけの要求ではなさそうだ。
そういえば、こんな頑なな男はどんな歌声をしているのだろう。作者も気になる。
「歌って!歌って!!歌って!!!」
体調が悪いと、いつも以上に我儘になるのは何故だろう。
「分かったから落ち着け」
テルディアスは観念したようだ。
「少しな」
「うん」
えらいぞキーナ。
これでアニメ化でもされたらとても楽しいだろう!勿論そんな贅沢なことここで求める気はない。
ラジオドラマでも文句はないのだから。
閑話休題
うっほん、と軽い咳払いをすると、少し照れながらも静かにテルディアスが歌い始めた。
彼方の山に日は沈み
夜空の星は夢誘う
御母の胸に身を沈め
今宵は如何なる夢を見ん
この世界の子守唄だろうか。
(意外にうまい…)
などと失礼なことを思いつつ、キーナはテルディアスの歌声に包まれて、穏やかに夢の世界に誘われていった。
穏やかに寝息を立て始めたキーナをテルディアスは優しい眼差しで見下ろす。
額に手を当ててみる。どうやら熱はもう引いたようだ。
「よく眠っとけよ」
テルディアスの優しい眼差しと、柔らかな月の光に包まれて、キーナは安らかに眠り続ける。
シャアッ!
勢いよくカーテンが開かれた。
「ん!」
いきなり眩しくなったので思わずテルディアスは顔を手で覆った。
「テルッ!朝だよ!」
完全復活したキーナが朝日を背に仁王立ちになってテルディアスを見下ろした。
「朝だぁ?」
まだ完全に眠りの世界から戻って来れないテルディアスが呻いた。
なかなか起きないテルディアスに痺れを切らし、キーナがテルディアスのベッドに飛び乗って、ドスン! とテルディアスにまたがった。
「起きてよぉ。お腹空いたよぉ。何か食べたいよぉ」
テルディアスの腹の上…主に下腹部のちょっといやんな所に近い所にまたがって(本人に自覚はない)テルディアスにせがむ姿は…。
想像にお任せします。
テルディアスが、
ギョ!
っとなったのも無理はない。
「乗るなーーーーーーーーー!!!!」
布団と一緒にキーナがふっ飛んで行った。
洒落ではない。
カタンと壁にかかっていた絵画が傾いた。
起きたばかりだというのに肩で息をしているテル君。
「まったく…」
テルディアスのその呟きは、壁にめり込んでしまったキーナには、多分届いていない。
テルディアスが崖から飛び降りる。
風を受け落下していく。思ったより高い。
これは…もしかすると…やばいか?
着地寸前に風を纏い、地に降り立った。
「ちっ、こんなに早く使う羽目になるとは」
テルディアスがイヤリングに手を添えた。
別名、双子石と呼ばれるその石は離れ離れになるとお互いに呼び合う性質がある。
離れ離れになった時など、お互いを見つけるのに便利です☆
迷子防止用に使われる事が多いです。
キラっと何か光るものが見えた。
光ったところ目指してテルディアスが走る。
「無事でいてくれ…!」
あの高い崖から落ちたのだ。無事でいることなどありえないのだが…。
キーナを見つけて思わず安堵のため息を吐いたテルディアスだった。
「なんと、まあ…運のいい奴」
木の枝とツタの複雑に絡まったその中に、キーナがいた。
それはまるでキーナの為に造られた揺り籠のようだった。
夜の帳が森の木々を隠す。
炎が小さな抵抗をするかのように辺りを小さく照らす。
小さな光の輪になんとか身を委ねるかのようにキーナが眠っている。
その隣にテルディアスが腰掛け、火を見つめていた。
「ん…ん…」
小さく呻いたキーナが目を覚ました。
「気付いたか。大丈夫か?」
テルディアスが優しく声を掛けた。
「テル…」
うつろな瞳でテルディアスを見上げた。
優しげな瞳がキーナを見つめ返す。
「痛いところはないか?」
キーナの額に手を当てる。
少し熱っぽいようだ。
「特に…」
額に当てられたテルディアスの手が少し冷たくて気持がいい。
気付けばテルディアスのフードとマントがない。
どうやら頭の下に枕として置かれているのがフードらしい。
マントは上に掛けられていて温かい。
「ごめんねテル。足手まといになっちゃった」
「全くだ。調子が悪いなら最初から言え! そうすりゃロックスじゃなくてゴイブにしたのに…」
テルディアスがブチブチと呟く。
「俺には言ってくれないのか?」
悲しそうにテルディアスが言った。
「宿屋のカミさんには言えて、俺には言えないのか? …やっぱり俺は…信用ならないか?」
やはりダーディンである自分など信じられないのだろうか。
そんな不安が持ち上げてくる。
「テル…」
整った面立ちが炎に照らされ、悲しげな横顔からテルディアスの不安な気持が伝わってくる。
キーナはテルディアスにそんな気持を抱かせてしまったことが悲しかった。
「ごめんね。違うよ。そうじゃないよ」
テルディアスに安心して欲しかった。信頼していないわけではないのだから。
ただ…。
「ちょっとね、言いにくかったの。だって…これはね…」
キーナの歯切れが悪い。
やはり言いにくいものがあるのである。
「生理だから…」
ずりっ
テルディアスが滑った。
「そ、そうか…」
テル君、顔が赤くなっておるぞ。
「悪い…。そりゃ無理に聞くんじゃなかった…」
テルディアスは聞いて後悔した。
あまり知りたくもない。
というか、男の俺が知ったところで…よく分からないし…。
話には聞いていても生理のことについてなんて男には分かるもんじゃない。
「いいよ。言わなかった僕が悪いんだし…」
(いや、言われてもなぁ…)
困るだけだ。
「生理になると、なんか体重くなるし、微熱出るし、体力なくなるけど、行けると思ったんだよ」
キーナは目を閉じて思い返しているようだった。
「今度なったら体調不良ってちゃんと言うからね」
にっこりとテルディアスに微笑みかける。
「ああ…」
(気をつけよう)
とテルディアスは密かに思った。
「テル…」
「ん?」
「も少し寝てていい?」
また少し瞼を閉じ、キーナの呼吸が一定のリズムを刻み始める。
「ああ、よく寝とけ」
「うん…ありがと…」
というとキーナは早くもすやすやと寝息を立てて眠りだした。
相変わらず寝つきがいい。
テルディアスはキーナのおでこに手を当てる。
(熱っぽいのは少し引いたか)
少し顔色も良くなっている。
「女も大変だな」
拾って来た薪を少しくべて、火を大きくした。
夜の闇は一段と濃く全てを飲み込もうとしている。
山際より朝の光が大地を温かく照らし出す。
ところがキーナは暗く沈み、ぐったりと頭を抱えている。
「気分は?」
聞かなくても分かる気もしたが、一応聞いてみた。
そして一言。
「最悪」
「歩けそうにないな」
顔色は真っ青、少しゲッソリとしている感じともとれる。
「ゴメ・・・」
一生懸命微笑んではいるのだが、その目つきは睨んでるとしか思えない。
とにかく体調が悪いと表情が語っている。
「ま、仕方ないだろ」
キーナにかぶせていたマントを拾い、バサリと肩に羽織った。
「担いで行ってやるよ」
「え゛?」
担ぐってことはおんぶされるってこと?今あまりお股は開きたくないのだけど…。
そんな心の声など露知らず、テルディアスはキーナに手を伸ばす。
「暴れるなよ」
というが早いか、キーナをひょいっと担ぎ上げた。勿論、お姫様抱っこである。
「テー! テル!」
恥ずかしいのもあいまって思わず大声を上げてしまうキーナ。
こんな抱かれ方慣れていないから思わず顔が赤くなってしまう。
「耳元で大声を出すな」
ちっこい体のどこからこんな大声が出るのかというくらいの大きな声。
さすがに耳がキンキンする。
手で塞ぎたいが、今はキーナを抱いている。
「歩けるよ! 歩くよ! 歩く!」
恥ずかしさからやはり声が大きくなってしまうキーナ。
んだが、
「歩けないっつーたばかりだろうが。飛ぶから暴れるな」
キーナの要求は却下されたが、飛ぶと聞いた途端にキーナの瞳がキラリと光った。
「飛ぶ?」
「ああ」
キーナの瞳の輝きに少し怪しさを感じつつも、テルディアスは素直に答える。
「長時間は無理だが、ロックスまでなら持つだろう」
魔法は精神力によってその強弱や持久力が変わってくるのである。
故にどんな強力な魔法であっても、その使い手によって効力が変わってくることもあるのだ。
「いいよ。飛んで」
「・・・」
顔中キラッキラさせながら気体に満ちた眼差しでテルディアスを見つめるキーナ。
まあ、魔法に憧れるというか、別に魔法を知らなかったとしても、一度は誰もが願う事。
空を飛んでみたい。
その夢が今まさに実現しようとなったら、誰もがこんな顔をするんでないかい?
「ついでに精霊呪文も唱えるからしっかり聞いてろよ」
「うん!」
珍しくキリッと真面目な顔になるキーナ。
テルディアスはゆっくりと精霊呪文を唱え始めた。
「風よ。わが身に纏いて力を成せ」
ドキドキワクワクする心を抑えつつ、キーナは一言一句洩らすまいとテルディアスの言葉に耳を傾ける。
すると、風が集まってくるのが感じ取れた。
テルディアスとキーナの周りを取り囲むように風の壁が出来ているようだ。
「風・#_翔_レイ__#」
風が意味成す力となってテルディアスに働きかける。
テルディアスの足がフワリと地面を離れだした。
「おお!」
感動の一瞬に思わず声が漏れたキーナ。
「暴れるなよ」
念の為釘を刺しておくテルディアス。
「うん」
一応返事はしたが、聞いてるのかよく分からない、輝いた顔をしているキーナ。
きっと聞いていないだろう。
体制を整えつつ、テルはロックスがある方向に体を傾ける。
そのまま地面を蹴るように空を蹴った。
ドウッ
風の音を残しつつ、テルディアスはキーナを抱えて空を翔けだした。
「きゃ~~~~~~~~~♪」
風の音に混じってキーナの嬉しそうな悲鳴も尾を引いていく…。
「飛んでる~~~~~~♪」
手を広げ足を広げ、抱えにくいったらありゃしない。
「暴れるなっつーに」
危惧していたことがドンピシャで当たり、テルディアスが注意する。
下手すれば手が滑って落ちてしまう。
そしたらどうなるか…位分かるだろうに。
「いぇ~い!!!」
「だから暴れるな!!!」
そんなことなどおかまいなしにはしゃぎ続けるキーナであった。
ってか、お腹の痛みはどうした?
ロックスの宿屋のある一室で、見るからに体調の悪そうなキーナが寝ていた。
はしゃぎすぎた反動か、顔の青白さが増しているようだ。
「はしゃぎ過ぎだアホたれ!」
テルディアスの渇が飛ぶ。
「飛ぶの…初めてだったから…つい…」
弱弱しく、今にも消え入りそうな声でキーナが答える。というか呟く?
「何か食うか?」
一応、心配してテルディアスが訊ねる。
「今はいい~~~~…」
今食べたらきっと戻してしまうだろう。
ああ、なんて辛いのかしら。
「子守唄が聞きたい」
「あ?」
キーナが素っ頓狂なことを言い出した。
といっても別に素っ頓狂というわけではない。
この苦しみ、というか、痛みから逃れるには、寝るのが一番なのだ。
寝ている間は勿論のことだが痛みを感じない。
手っ取り早く眠りを誘うには、そう、子守唄。ということになる。
「テルの歌声が聞きたい」
どうやら眠りたいだけの要求ではなさそうだ。
そういえば、こんな頑なな男はどんな歌声をしているのだろう。作者も気になる。
「歌って!歌って!!歌って!!!」
体調が悪いと、いつも以上に我儘になるのは何故だろう。
「分かったから落ち着け」
テルディアスは観念したようだ。
「少しな」
「うん」
えらいぞキーナ。
これでアニメ化でもされたらとても楽しいだろう!勿論そんな贅沢なことここで求める気はない。
ラジオドラマでも文句はないのだから。
閑話休題
うっほん、と軽い咳払いをすると、少し照れながらも静かにテルディアスが歌い始めた。
彼方の山に日は沈み
夜空の星は夢誘う
御母の胸に身を沈め
今宵は如何なる夢を見ん
この世界の子守唄だろうか。
(意外にうまい…)
などと失礼なことを思いつつ、キーナはテルディアスの歌声に包まれて、穏やかに夢の世界に誘われていった。
穏やかに寝息を立て始めたキーナをテルディアスは優しい眼差しで見下ろす。
額に手を当ててみる。どうやら熱はもう引いたようだ。
「よく眠っとけよ」
テルディアスの優しい眼差しと、柔らかな月の光に包まれて、キーナは安らかに眠り続ける。
シャアッ!
勢いよくカーテンが開かれた。
「ん!」
いきなり眩しくなったので思わずテルディアスは顔を手で覆った。
「テルッ!朝だよ!」
完全復活したキーナが朝日を背に仁王立ちになってテルディアスを見下ろした。
「朝だぁ?」
まだ完全に眠りの世界から戻って来れないテルディアスが呻いた。
なかなか起きないテルディアスに痺れを切らし、キーナがテルディアスのベッドに飛び乗って、ドスン! とテルディアスにまたがった。
「起きてよぉ。お腹空いたよぉ。何か食べたいよぉ」
テルディアスの腹の上…主に下腹部のちょっといやんな所に近い所にまたがって(本人に自覚はない)テルディアスにせがむ姿は…。
想像にお任せします。
テルディアスが、
ギョ!
っとなったのも無理はない。
「乗るなーーーーーーーーー!!!!」
布団と一緒にキーナがふっ飛んで行った。
洒落ではない。
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