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ミドル王国編
夢
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そんなことなど露知らず、キーナは眠り続ける。
そして見る夢はまた、あの夢。
闇の中に独り。
しかし、今日に限って、キーナは不思議な違和感を感じていた。
上も下も右も左も前も後ろも、いつもと同じように闇が広がる。
何の音もなく、何の気配もない。
いや、違う。
気配がある。
誰の?
どこに?
ふと気がつくと、闇の中にぼやっと何かが見えた。
闇に溶けそうな暗い服を着ているから分からなかったのだ。
そっと近づくと、確かに人だった。
黒い髪。
黒っぽい服。
座っているようだ。
(誰?)
恐る恐るキーナは近づいた。
この闇の中、見知らぬ誰かとはいえ、誰かがいるということが嬉しかった。
独りではないという安心感。
キーナの気配に気づいたのか、座っていた人が顔だけ振り向いた。
(テル?)
テルディアスにそっくりの顔。
しかし、テルディアスよりは幼い。
テルディアスそっくりの男の子が言った。
「妖の類か?」
キーナがお化けに見えるのか?
「消えろ。お前らなどに構っていられん」
横柄な口ぶりで失礼なことを言う。
「ち、違うよ! 僕は人間だよ!」
キーナが頑張って反論する。
「どっちでも同じだ。消えろ」
そういうと顔を戻してしまった。もうこちらを振り向く気もないだろう。
ひっさびさにむっか~~~ときたキーナ。ここで大人しく消えるのもなんだか悔しい。
そこで、
ドッカシ
嫌がらせに隣に座ってやった。
そんなキーナをジロッと男の子は睨んだが、相手をしてられるかとばかりにそっぽを向く。
これにもピキッとくるキーナであった。
嫌がらせに話しかけてみる。
「こんなところで何してんの?」
答えはないかもしれないと思ったが、
「別に・・・。考えてた・・・」
以外にも素直に答えが返ってきた。
「何を?」
続けざまに質問をぶつけるキーナ。
そんなキーナをジロッと睨むと、
「俺が生まれた理由。俺がここに存在する理由。俺が生きる理由」
これまたスラスラと返ってきた。実は話したかったのでは?
「そんな小難しい・・・」
キーナの眉毛がカモメになった。
難しいことを考えるのは苦手だ。
「俺は愛人の子だ。望まれて生まれてきたわけじゃない。
現に父親には会ったことがない。母上も俺を通してその人を見てる。
・・・俺は、父親の代わりでしかない」
顔を上げた苦悩の顔。それはまさにテルディアスだった。
どういうことかは分からぬが、幼いテルディアスがキーナの夢に出てきているのだ。
父親に会った時のことを話したテルディアスの顔。怒りと悲しみがない交ぜになっていた。
その時のテルディアスの顔を思い出し、キーナは目の前の少年がテルだと確信した。
何故幼い少年の姿なのかは分からぬが。
「その理由を取ってしまったら俺には何もない」
幼いテルディアスが淡々と続ける。
「望まれて生まれてきた訳でもない。望まれてここにいる訳でもない。望まれて生きている訳でもない。
ならば・・・俺は・・・一体なんなんだ?」
自分の掌をじっと見つめるテルディアス。決して出ない答えを捜し求めている。
その横で頭を抱えるキーナ。
「あ・・・だめ。僕、そーゆーのだめ・・・」
何やら呟いたかと思うと突然ガバッと立ち上がり、
「くっっっっっっっっっっっっっっっっっらい!!! 暗すぎる!!」
確かにここは闇の中だから暗いけど。と、そんな突っ込みは置いといて。
「そーーーーーじゃなくて! テルは生きたくないの?! せっかく生まれてきたのに!
もっと楽しいこと考えようよ!」
キーナが声を張り、力説(?)する。
「お日様があったかいな~とか、風が気持ちいいな~とか、花が綺麗だな~とか、水が冷たいな~とか」
キーナらしい感想である。
「いっくらでもあるっしょ! 楽しみなよ! 生きてるってことを!」
「お前は望まれて生まれてきたからだろう!!」
キーナの顔が強張る。
「俺の何が分かる・・・」
テルが顔をうつむかせた。
キーナが少し哀しげな顔をして、静かに言い放つ。
「僕は捨て子だよ」
聞き慣れない単語を耳にし、テルディアスが驚いて顔を上げた。
「え?」
キーナがにっこり微笑む。
「赤ん坊の時に捨てられてたんだって」
その顔に翳りはなかった。
「秋の花に囲まれて、僕は眠ってたんだって。知ったときはショックだった。本当の子供じゃなかったなんて」
両親が部屋で話しているのを偶然に聞いてしまったのだ。
あまりのことで動転し、その場を逃げ出した。
後ろから両親の呼び止める声がしていたが。
森の中に身を隠し、独りで泣いた。何もかもがよく分からなくて、世界の全てが嘘に思えて。自分がここにいてはいけないような気がして。
どうしたらいいのかもわからず、ただ泣いた。
泣いて、泣いて。
そして。
ふと気づくと、目の前に小さな花が咲いていた。
「花がね、咲いてたの。背の高い木に囲まれて、陽の光もあまり届かないようなところで一生懸命。
本当に小さくて、今にも踏み潰してしまいそうなくらい小さくて、可愛い花だった。でもね・・・」
キーナはしばらくその小さな花を見つめていた。
守るものもなく、強い風が吹いたら折れてしまいそうな小さな花。
でも一生懸命咲いている。
「すごいなって思ったの」
いずれ花は実を結び、その種はまた同じように花を咲かせる。
そばに生えている草だって、そびえ立つ様に大きな木だって、みんな同じように一生懸命生きているのだ。
そんな世界が、
「嘘なわけがない」
キーナは立ち上がり、森の出口へと一歩一歩歩いていった。
向こうからは両親の声が聞こえてくる。
「お母さんも、お父さんも、僕を愛してくれていることに変わりはなくて、僕も、お母さんとお父さんが大好きだから」
抱きしめてくれた母の腕の中はとても暖かくて、安らいで、キーナは泣いた。
ただ、その涙は悲しみの涙ではなかった。
「望まれて生まれてきたわけじゃなくても、僕は生まれて来て良かったって思ってる」
抱きしめてくれる人がいる。そんな人に会わせてくれた世界がある。
キーナは全てに感謝した。
喜びと、温もりと、安らぎと、そんな穏やかな感情を感じられる世界に。
自分を捨てた理由は知らないけど、自分を生んでくれた母親に。
育ててくれた両親に。
キーナは生まれてきて良かったと思った。
生まれてこなければ、そんなことも感じなかった。考えなかった。
辛い、厳しいこともあるかもしれない。でも、生まれてきたからこそ味わえる。
だから。
だからこそ、楽しもうと思った。
全てを楽しまなければ損だ!
これがキーナの結論だった。
何かの本に書いてあった。
『人生の最後は、「あー楽しかった」と言って死にたい』
キーナはこの言葉にものすごく賛同し、自分の目標にしたのだ。
「生まれてきた理由なんて後からついてくるよ。誰も彼もみんな始めから生まれてくる意味なんて知らない。
そんなこと知ってたら誰も苦しまないよ。そうでしょ?」
微笑むキーナの無邪気な笑顔。
テルディアスは思わず見とれる。
「・・・なら、今をどう生きればいい」
「え?」
「理由が後からついてくるなら、今は?」
キーナはテルディアスの手をとった。
「だから、今は今を楽しむの!」
その気もないのに、何故かテルディアスは立ち上がっていた。
目の前の少女の笑顔から目が離せない。
「苦しいことも哀しいこともいっぱいあるよ。でもそれだけじゃないはず」
握り返す掌は温かく、その温もりがテルディアスの顔の曇りを取っていった。
「小さな小さな喜びを見つけて! それだけで嬉しくなる、幸せになる。そうしたら、毎日楽しくなるよ」
小さな喜び。
「俺には無理だ・・・。そんなこと・・・」
感じたこともない。そんなこと。
「大丈夫! テルならできるよ!」
何故か少女は断言した。いかなる理由があって?
「一つ聞いていいか?」
「ん?」
「どうして、俺の名を知ってるんだ?」
少年テルディアスの顔から、悲壮な翳りは消えていた。
「それは―――」
そして見る夢はまた、あの夢。
闇の中に独り。
しかし、今日に限って、キーナは不思議な違和感を感じていた。
上も下も右も左も前も後ろも、いつもと同じように闇が広がる。
何の音もなく、何の気配もない。
いや、違う。
気配がある。
誰の?
どこに?
ふと気がつくと、闇の中にぼやっと何かが見えた。
闇に溶けそうな暗い服を着ているから分からなかったのだ。
そっと近づくと、確かに人だった。
黒い髪。
黒っぽい服。
座っているようだ。
(誰?)
恐る恐るキーナは近づいた。
この闇の中、見知らぬ誰かとはいえ、誰かがいるということが嬉しかった。
独りではないという安心感。
キーナの気配に気づいたのか、座っていた人が顔だけ振り向いた。
(テル?)
テルディアスにそっくりの顔。
しかし、テルディアスよりは幼い。
テルディアスそっくりの男の子が言った。
「妖の類か?」
キーナがお化けに見えるのか?
「消えろ。お前らなどに構っていられん」
横柄な口ぶりで失礼なことを言う。
「ち、違うよ! 僕は人間だよ!」
キーナが頑張って反論する。
「どっちでも同じだ。消えろ」
そういうと顔を戻してしまった。もうこちらを振り向く気もないだろう。
ひっさびさにむっか~~~ときたキーナ。ここで大人しく消えるのもなんだか悔しい。
そこで、
ドッカシ
嫌がらせに隣に座ってやった。
そんなキーナをジロッと男の子は睨んだが、相手をしてられるかとばかりにそっぽを向く。
これにもピキッとくるキーナであった。
嫌がらせに話しかけてみる。
「こんなところで何してんの?」
答えはないかもしれないと思ったが、
「別に・・・。考えてた・・・」
以外にも素直に答えが返ってきた。
「何を?」
続けざまに質問をぶつけるキーナ。
そんなキーナをジロッと睨むと、
「俺が生まれた理由。俺がここに存在する理由。俺が生きる理由」
これまたスラスラと返ってきた。実は話したかったのでは?
「そんな小難しい・・・」
キーナの眉毛がカモメになった。
難しいことを考えるのは苦手だ。
「俺は愛人の子だ。望まれて生まれてきたわけじゃない。
現に父親には会ったことがない。母上も俺を通してその人を見てる。
・・・俺は、父親の代わりでしかない」
顔を上げた苦悩の顔。それはまさにテルディアスだった。
どういうことかは分からぬが、幼いテルディアスがキーナの夢に出てきているのだ。
父親に会った時のことを話したテルディアスの顔。怒りと悲しみがない交ぜになっていた。
その時のテルディアスの顔を思い出し、キーナは目の前の少年がテルだと確信した。
何故幼い少年の姿なのかは分からぬが。
「その理由を取ってしまったら俺には何もない」
幼いテルディアスが淡々と続ける。
「望まれて生まれてきた訳でもない。望まれてここにいる訳でもない。望まれて生きている訳でもない。
ならば・・・俺は・・・一体なんなんだ?」
自分の掌をじっと見つめるテルディアス。決して出ない答えを捜し求めている。
その横で頭を抱えるキーナ。
「あ・・・だめ。僕、そーゆーのだめ・・・」
何やら呟いたかと思うと突然ガバッと立ち上がり、
「くっっっっっっっっっっっっっっっっっらい!!! 暗すぎる!!」
確かにここは闇の中だから暗いけど。と、そんな突っ込みは置いといて。
「そーーーーーじゃなくて! テルは生きたくないの?! せっかく生まれてきたのに!
もっと楽しいこと考えようよ!」
キーナが声を張り、力説(?)する。
「お日様があったかいな~とか、風が気持ちいいな~とか、花が綺麗だな~とか、水が冷たいな~とか」
キーナらしい感想である。
「いっくらでもあるっしょ! 楽しみなよ! 生きてるってことを!」
「お前は望まれて生まれてきたからだろう!!」
キーナの顔が強張る。
「俺の何が分かる・・・」
テルが顔をうつむかせた。
キーナが少し哀しげな顔をして、静かに言い放つ。
「僕は捨て子だよ」
聞き慣れない単語を耳にし、テルディアスが驚いて顔を上げた。
「え?」
キーナがにっこり微笑む。
「赤ん坊の時に捨てられてたんだって」
その顔に翳りはなかった。
「秋の花に囲まれて、僕は眠ってたんだって。知ったときはショックだった。本当の子供じゃなかったなんて」
両親が部屋で話しているのを偶然に聞いてしまったのだ。
あまりのことで動転し、その場を逃げ出した。
後ろから両親の呼び止める声がしていたが。
森の中に身を隠し、独りで泣いた。何もかもがよく分からなくて、世界の全てが嘘に思えて。自分がここにいてはいけないような気がして。
どうしたらいいのかもわからず、ただ泣いた。
泣いて、泣いて。
そして。
ふと気づくと、目の前に小さな花が咲いていた。
「花がね、咲いてたの。背の高い木に囲まれて、陽の光もあまり届かないようなところで一生懸命。
本当に小さくて、今にも踏み潰してしまいそうなくらい小さくて、可愛い花だった。でもね・・・」
キーナはしばらくその小さな花を見つめていた。
守るものもなく、強い風が吹いたら折れてしまいそうな小さな花。
でも一生懸命咲いている。
「すごいなって思ったの」
いずれ花は実を結び、その種はまた同じように花を咲かせる。
そばに生えている草だって、そびえ立つ様に大きな木だって、みんな同じように一生懸命生きているのだ。
そんな世界が、
「嘘なわけがない」
キーナは立ち上がり、森の出口へと一歩一歩歩いていった。
向こうからは両親の声が聞こえてくる。
「お母さんも、お父さんも、僕を愛してくれていることに変わりはなくて、僕も、お母さんとお父さんが大好きだから」
抱きしめてくれた母の腕の中はとても暖かくて、安らいで、キーナは泣いた。
ただ、その涙は悲しみの涙ではなかった。
「望まれて生まれてきたわけじゃなくても、僕は生まれて来て良かったって思ってる」
抱きしめてくれる人がいる。そんな人に会わせてくれた世界がある。
キーナは全てに感謝した。
喜びと、温もりと、安らぎと、そんな穏やかな感情を感じられる世界に。
自分を捨てた理由は知らないけど、自分を生んでくれた母親に。
育ててくれた両親に。
キーナは生まれてきて良かったと思った。
生まれてこなければ、そんなことも感じなかった。考えなかった。
辛い、厳しいこともあるかもしれない。でも、生まれてきたからこそ味わえる。
だから。
だからこそ、楽しもうと思った。
全てを楽しまなければ損だ!
これがキーナの結論だった。
何かの本に書いてあった。
『人生の最後は、「あー楽しかった」と言って死にたい』
キーナはこの言葉にものすごく賛同し、自分の目標にしたのだ。
「生まれてきた理由なんて後からついてくるよ。誰も彼もみんな始めから生まれてくる意味なんて知らない。
そんなこと知ってたら誰も苦しまないよ。そうでしょ?」
微笑むキーナの無邪気な笑顔。
テルディアスは思わず見とれる。
「・・・なら、今をどう生きればいい」
「え?」
「理由が後からついてくるなら、今は?」
キーナはテルディアスの手をとった。
「だから、今は今を楽しむの!」
その気もないのに、何故かテルディアスは立ち上がっていた。
目の前の少女の笑顔から目が離せない。
「苦しいことも哀しいこともいっぱいあるよ。でもそれだけじゃないはず」
握り返す掌は温かく、その温もりがテルディアスの顔の曇りを取っていった。
「小さな小さな喜びを見つけて! それだけで嬉しくなる、幸せになる。そうしたら、毎日楽しくなるよ」
小さな喜び。
「俺には無理だ・・・。そんなこと・・・」
感じたこともない。そんなこと。
「大丈夫! テルならできるよ!」
何故か少女は断言した。いかなる理由があって?
「一つ聞いていいか?」
「ん?」
「どうして、俺の名を知ってるんだ?」
少年テルディアスの顔から、悲壮な翳りは消えていた。
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