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奴の名はサーガ
知らない人には気をつけよう
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「お? 街だ!」
街道を道なりに歩いていけば、どんなに方向音痴なやつでも必ず街にはたどり着けるわけで。
キーナもそれほど方向音痴というわけではないが、文字が読めないと地図も分からないので、今自分がどの辺りにいるかよく分かってはいなかったが、キューちゃんの後をとりあえず追っていけばテルに会えるとおじいさんに言われたことを信じて、素直にキューちゃんの後を歩いている。
てな感じで次の街に入ったキーナ。
並ぶ露天にすれ違う人々。
物珍しくついついあちこちそちこち見て回ってしまうキーナ。
道草もたいがいに。
「ねえキューちゃん、テルはこの街を通ったの?」
一応キューちゃんに尋ねてみる。
するとキューちゃんは空中で円を描くようにくるくると飛んだ。
「そか、通ったんだ」
つまりは正解という意図を読み取る。それくらいは誰でもできますね。
「せめてキューちゃん口がきけたらね~…」
そんなこと言われてもという顔をしたかどうかは分からないが、フラフラとキーナの後を着いて行くキューちゃん。
「で、ここどこだろう?」
何も考えずに歩いていたらば、人通りの少ない路地にいつの間にか迷い込んでいた。
「いつの間にか変なところに来ちゃった」
元の大通りに戻らねばとキョロキョロしていると、
「こんな所で何してるんだい?」
人あたりの良さそうな青年が声をかけてきた。
「道に迷ったみたいで…」
キーナがテレテレと頭をかく。
「ふうん」
男の目が怪しくキーナの体を舐めまわす。
その視線に気づかないキーナ。
「よかったら僕が案内しよう」
男がにっこり微笑んだ。
「本当ですか?!」
天の助けとばかりに喜ぶキーナ。
と、キューちゃんが何やらバサバサとキーナの周りをうるさく飛び回った。
「どしたの? キューちゃん?」
頭の周りを、体中を回りまわって何かを伝えようとしているようだが、残念、キーナには伝わらなかった。
「こっちだよ」
青年が呼んだ。
「はーい。行こ、キューちゃん」
何の疑いもなく着いて行こうとするキーナ。
あせるキューちゃん。
その時、キューちゃん閃いた。
突如キーナを無視して建物の間から青い空へとあっという間に飛び去って行ってしまった。
「あれ?」
それに気づいたニブチンキーナ。
(キューちゃん? テルが見つかったのかな? どこいったんだろ?)
気にはなったが親切そうな青年が呼んでいるので、とりあえずそちらへ駆けていく。
キューちゃんは焦った風に、一目散にどこかを目指して飛んでいった。
「僕急いでるんですけど」
「まあ、いいじゃないか」
長旅は疲れるだろうから、少し僕の家で休むといいよ。
そう言って青年が半分無理矢理キーナを家に連れ込んだ。
とっとと先に進んでしまいたいキーナだったが、道が分からなければ進むこともできず、仕方なく青年の家に上がり込んだ。
「ね、お茶を一杯だけでも」
そう言って簡単に支度を始める。
「う~~ん」
あまり断るのも失礼かと、キーナは仕方なく椅子に腰を下ろした。
ほどなく出された紅茶のような飲み物。
「んじゃま、一杯だけ」
とこくりと飲み干す。
「一人旅? 家族とかは心配してないのかな?」
青年がにっこり話しかける。
「はあ、人を探してるんです」
素直に受け答えるキーナ。
ところが、なんだか体がだんだん痺れるように重くなってきて、
(あれ?)
「いけないよ、子供の一人歩きは」
支えていられなくなり、ついには机に突っ伏してしまった。
(体が…、力が…入らない…)
「危ないからね」
青年の声が耳のそばで鳴り響く。
マントを脱がされ、抱きかかえられて、奥の部屋へ連れて行かれる。
「こんなご時世に一人旅なんてね」
抵抗しようにも何もできず、虚ろに眺めているしかない。
「危ない目にあっても何も言えないよ」
ベッドにキーナを横たえると、キーナの着衣を脱がしにかかる。
(体が…、痺れて…)
声も出すこともできず、されるがままにズボンを脱がされてしまう。
すると、
「おや? 女の子だったのか。てっきり男の子だと思ってた」
(ぶん殴ってやりたい!!)
青年が何やら書類に書き込む。
「さて、それじゃ、体を測るから、全裸になってもらって…」
(い?!)
ざけんじゃにゃー! 勝手に人の服脱がすにゃー! 触るにゃー!
と心で悪態をつくも、体は思い通りに動かず、あうあうと声が漏れるばかり。
「ついでに、少し味見させてもらおうかな?」
と青年がキーナの上に乗っかってきた。
(うげっ?!)
味見の意味はよく分からないが、なんだかとてつもなく嫌な感じがすることは肌で感じた。
しかし感じたところで体は動かず。
青年の手がシャツに伸びる。
(や…)
よくわからないおぞましさを覚え、キーナは顔から血の気が引くような気がした。
青年がシャツを脱がそうとまくりあげていく。
まだまだ成長途中とはいえ、それなりに膨らんでいる胸までシャツがまくり上げられた。
(テル!!)
「そのへんにしときな」
突如にゅっと現れた剣先。青年の頬にひやりと触れた。
ギクリとなって青年の動きが止まる。
「あいにくそいつは俺の連れなんだ。下手な真似したら、首が飛ぶぞ」
サーガが剣を抜き放ち、青年の首元に当てていた。
青くなっていく青年の顔。
なにやらハプニングが起きたらしいことを察したキーナが目をやると、青年の頭をぶっ飛ばしているサーガが見えた。
壁に直撃して動けなくなった青年の周りを、怒った様子のキューちゃんが飛び回っている。
「ったく、何やってんだよ」
サーガがキーナを見下ろす。
「お前、下手すりゃ…人買いに…売られ…」
サーガが生唾を飲み込む。
そりゃあ、ベッドの上で抵抗もできず、下はパンツ一枚、上は危ないところまでシャツをまくり上げられた女の子が転がっていたらば、男なら当然の反応です。
ゴスッ
サーガが自分の顔を殴った。何故でしょう?
「そ、それどころじゃねぇっての!」
なんとか理性をフル動員させ、正気を保ったまま、サーガが持っていた何かの瓶を開けた。
「単なるしびれ薬みたいだから」
とビンの中身をクイッと口に含むと、キーナの顔を少し上に向かせ、そして…。
キーナの瞳が見開かれる。
唇に熱いものが触れている。
そして、何かの液体が口の中に流れてきた。
抵抗する間もなく、その液体は喉の方へと移行し、そのまま飲み干してしまう。
「これで一時もすりゃ、動くようになるさ」
顔を離してサーガがキーナを見ると、
「…え?」
キーナの瞳から大粒の涙が落ちるところだった。
そのままポロポロと涙は溢れ出てくる。
「な、なんで泣いてんだ?! おい!」
訳が分からずオロオロするサーガ。
キーナの涙はその後もしばらく、止まることはなかった。
パー、グー、パー、グーを繰り返す。
指先になんとなくしびれは残っているもの、ほぼ問題なく手が動く。
(動くようになってきた…)
体を起こしてみる。
おお、腹筋も思い通りに動くぞ、などと変な感動をする。
そして、先ほどの唇の感触が思い出されてきた。
思ったよりも熱くて柔らかくて…、いや、そうじゃない。
非常事態だったのだから仕方がないのだ。仕方がない。
理性ではそう分かっていても、感情は納得してくれない。
なんとなくゴシゴシと唇を拭ってしまう。
初めてだったのに…。
一応14歳の女の子。
キスに対してそれなりに憧れなんかもあったりして。
仕方がないとは言え、仕方がないとは言え…。
(あんなの! キスじゃないもん!)
振り払うようにベッドから下り、側にかけてあった服を着る。
ガチャリ
丁度いいタイミングでサーガが帰ってきた。
ひらひらとキューちゃんも一緒に帰ってきた。
「キューちゃん♪」
「お、起きたか」
サーガが何やら荷物を持って部屋に入ってきた。
「どうだ? 調子は」
机に荷物を置いてゴソゴソと探り出す。
「うん…平気…」
ちょっと複雑な気持ちのキーナ。答える声に少し元気がない。
そのことに気づいているのかいないのか、
「腹減ってっだろ。これ食え」
と、何やらパンのようなものをキーナに向かってほおり投げた。
うまい具合にキーナの掌にパンが着地する。
「うん」
(なんだろ?)
ベッドに腰掛け、よく分からないけどパクついてみると、やっぱりパンだった。
この世界でもパンというのだろうか?などと疑問に思う。
「いい情報持ってきたぜ」
椅子にどかりと座って、同じようにパンをぱくつくサーガが言った。
「テルって奴によく似た風体の奴がこの街を通って言ったみたいだぜ」
「本当?!」
キーナが一気に元気になった。
「ああ、聞き込みしてきたんだ」
むしゃむしゃとパンを食べるサーガ。あっという間になくなりそうだ。
「ところで、テルって奴はお前の何なんだ? 恋人か?」
「ち、違うよ!」
思わず赤面するキーナ。
そーですよねー。違うんですよねー。
「ならなんでこんなに必死こいて探すんだ?」
そう聞かれて、うっと答えにつまるキーナ。
「い、命の恩人だから…」
きっと独りで寂しがっているから、自分が側にいてあげたいだけなのだ。
助けられたのだから助けたい。それくらいしか理由はない。
「本当にそれだけか?」
頭を悩ますキーナ。それ以上になんの理由がいるのだろう?
それだけの理由で人を探すことになんの違和感があるのだろう?
う~んと唸ってもよく分からない。
「わかったよ」
あまりにも悩む姿にサーガが呆れる。
まあ、理由なんて人それぞれなのだし、と納得する。
「んで、そのテルって奴、有名な剣士なら、名はなんてんだ? 知ってる名か?」
最後の一口を口にほおり込んでむしゃむしゃと食べてしまった。
まだ半分は残っているパンを抱えてキーナが考えこむ。
テルの名前? 長すぎて覚えられないからテルと呼んでいるのだよなぁ…。
記憶の奥底からテルの名前をほじくりだしてくる。
「んとね…、テルディ…、ブラック…なんたらって…」
それしか出てこなかった。
「テルディアス・ブラックバリー?」
サーガが目を見開く。
「ああそう! そんな感じの…」
そんな感じかよ。覚えれ。
と、突然サーガがキーナの胸ぐらを掴んだ。
「本当にテルディアスなのか?!」
何やら鬼気迫ったような迫力でキーナを引き寄せる。
「く、くるしいよぉ…」
キーナがたまらず苦痛の声をあげた。
「あ、悪ぃ…」
我に返ってキーナから手を放す。
少し首の絞められたキーナが、ケホケホと咳をした。
「そうか、テルディアスか…」
サーガの瞳が怪しく光る。
「そうか…」
何やら考え込みながら、くくくくと独りで笑っている。
そんな不気味なサーガから少し距離を置くキーナ。
また胸ぐら掴まれたらたまらない。
そして、何やら晴れ晴れとした表情を向けて、サーガが言った。
「いいぜ、とことんお前に付き合ってやるよ!」
いや、テルを見つけるまででいいんだけど…。
キーナのツッコミは言葉になることはなかった。
夜は更けていく。
今日も三日月が夜空にさえざえと光っている。
少し雲は出ているが、雨の心配をするような天気ではない。
宿屋の一室で、サーガとキーナが地図を見ながら今後のことについて話し合っていた。
「…で、こいつの示す方に行くと、次に目指すのは、この街だ」
「プロス?」
地図上の道を辿っていけば、次の街はそんなに大きな街でもなさそうだ。
「しかし本当にこいつあてになんのか?」
サーガがよく分からないキューちゃんを眺める。
黒い球に羽が生えただけの小さな使い魔。
真ん中に目のような模様が有り、今はそれが閉じている。
眠っているらしい。
「おじいさんはキューちゃんについていけば大丈夫だって」
キーナがキューちゃんをすくいあげる。
「テルの気を追うようにしてあるって」
「ふ~ん、役に立たなそうだけどな」
ピシッと指で丸い球を弾くと、キューちゃんが目を開けた。
言葉は話せないが人の言うことは理解するらしい。
「いででででででで!」
なんとなく馬鹿にされたのが分かったのか、サーガに攻撃を加える。
小さい上に素早いので反撃できないサーガ。
「頼りにはなりそう」
キーナが呟いた。
「じゃ、おやすみ~」
キーナがいそいそと布団に潜りこむ。
「ああ」
あいてててとサーガがキューちゃんに打たれたところをさすっていたが、ふと振り返ると、すでにすやすやと寝息をたててキーナが眠っていた。
「早ぇな、おい…」
ものの一分と経っていないはずだ。
キューちゃんもキーナの肩の辺りで羽を休めている。
「男がいるんだから少しは警戒しろよ…」
あまりにもすやすやと眠る寝顔を覗き込む。
う~む、ガキにしか見えない。
「ま、襲う気も起きねーけどな。こんなガキ」
「ガキじゃないもん…」
ボソリとつぶやきが返ってきた…。
「…?」
もう一度寝顔を覗き込む。
うん、寝ている。
「寝てる、よな?」
むにゃむにゃとやっぱり気持ちよさそうに眠っている。
「変なガキ」
サーガは窓際に腰を下ろし、片膝に頬杖をついて、夜空を見上げた。
三日月がやんわりと夜空を照らしている。
「テルディアスか…」
サーガがつぶやいた。
珍しく真面目な瞳をしていた。
待ってろよスターシャ。
必ず、テルディアスを倒す!
必ず!
サーガの瞳には、何がしかを決意した強い光が宿っていた。
街道を道なりに歩いていけば、どんなに方向音痴なやつでも必ず街にはたどり着けるわけで。
キーナもそれほど方向音痴というわけではないが、文字が読めないと地図も分からないので、今自分がどの辺りにいるかよく分かってはいなかったが、キューちゃんの後をとりあえず追っていけばテルに会えるとおじいさんに言われたことを信じて、素直にキューちゃんの後を歩いている。
てな感じで次の街に入ったキーナ。
並ぶ露天にすれ違う人々。
物珍しくついついあちこちそちこち見て回ってしまうキーナ。
道草もたいがいに。
「ねえキューちゃん、テルはこの街を通ったの?」
一応キューちゃんに尋ねてみる。
するとキューちゃんは空中で円を描くようにくるくると飛んだ。
「そか、通ったんだ」
つまりは正解という意図を読み取る。それくらいは誰でもできますね。
「せめてキューちゃん口がきけたらね~…」
そんなこと言われてもという顔をしたかどうかは分からないが、フラフラとキーナの後を着いて行くキューちゃん。
「で、ここどこだろう?」
何も考えずに歩いていたらば、人通りの少ない路地にいつの間にか迷い込んでいた。
「いつの間にか変なところに来ちゃった」
元の大通りに戻らねばとキョロキョロしていると、
「こんな所で何してるんだい?」
人あたりの良さそうな青年が声をかけてきた。
「道に迷ったみたいで…」
キーナがテレテレと頭をかく。
「ふうん」
男の目が怪しくキーナの体を舐めまわす。
その視線に気づかないキーナ。
「よかったら僕が案内しよう」
男がにっこり微笑んだ。
「本当ですか?!」
天の助けとばかりに喜ぶキーナ。
と、キューちゃんが何やらバサバサとキーナの周りをうるさく飛び回った。
「どしたの? キューちゃん?」
頭の周りを、体中を回りまわって何かを伝えようとしているようだが、残念、キーナには伝わらなかった。
「こっちだよ」
青年が呼んだ。
「はーい。行こ、キューちゃん」
何の疑いもなく着いて行こうとするキーナ。
あせるキューちゃん。
その時、キューちゃん閃いた。
突如キーナを無視して建物の間から青い空へとあっという間に飛び去って行ってしまった。
「あれ?」
それに気づいたニブチンキーナ。
(キューちゃん? テルが見つかったのかな? どこいったんだろ?)
気にはなったが親切そうな青年が呼んでいるので、とりあえずそちらへ駆けていく。
キューちゃんは焦った風に、一目散にどこかを目指して飛んでいった。
「僕急いでるんですけど」
「まあ、いいじゃないか」
長旅は疲れるだろうから、少し僕の家で休むといいよ。
そう言って青年が半分無理矢理キーナを家に連れ込んだ。
とっとと先に進んでしまいたいキーナだったが、道が分からなければ進むこともできず、仕方なく青年の家に上がり込んだ。
「ね、お茶を一杯だけでも」
そう言って簡単に支度を始める。
「う~~ん」
あまり断るのも失礼かと、キーナは仕方なく椅子に腰を下ろした。
ほどなく出された紅茶のような飲み物。
「んじゃま、一杯だけ」
とこくりと飲み干す。
「一人旅? 家族とかは心配してないのかな?」
青年がにっこり話しかける。
「はあ、人を探してるんです」
素直に受け答えるキーナ。
ところが、なんだか体がだんだん痺れるように重くなってきて、
(あれ?)
「いけないよ、子供の一人歩きは」
支えていられなくなり、ついには机に突っ伏してしまった。
(体が…、力が…入らない…)
「危ないからね」
青年の声が耳のそばで鳴り響く。
マントを脱がされ、抱きかかえられて、奥の部屋へ連れて行かれる。
「こんなご時世に一人旅なんてね」
抵抗しようにも何もできず、虚ろに眺めているしかない。
「危ない目にあっても何も言えないよ」
ベッドにキーナを横たえると、キーナの着衣を脱がしにかかる。
(体が…、痺れて…)
声も出すこともできず、されるがままにズボンを脱がされてしまう。
すると、
「おや? 女の子だったのか。てっきり男の子だと思ってた」
(ぶん殴ってやりたい!!)
青年が何やら書類に書き込む。
「さて、それじゃ、体を測るから、全裸になってもらって…」
(い?!)
ざけんじゃにゃー! 勝手に人の服脱がすにゃー! 触るにゃー!
と心で悪態をつくも、体は思い通りに動かず、あうあうと声が漏れるばかり。
「ついでに、少し味見させてもらおうかな?」
と青年がキーナの上に乗っかってきた。
(うげっ?!)
味見の意味はよく分からないが、なんだかとてつもなく嫌な感じがすることは肌で感じた。
しかし感じたところで体は動かず。
青年の手がシャツに伸びる。
(や…)
よくわからないおぞましさを覚え、キーナは顔から血の気が引くような気がした。
青年がシャツを脱がそうとまくりあげていく。
まだまだ成長途中とはいえ、それなりに膨らんでいる胸までシャツがまくり上げられた。
(テル!!)
「そのへんにしときな」
突如にゅっと現れた剣先。青年の頬にひやりと触れた。
ギクリとなって青年の動きが止まる。
「あいにくそいつは俺の連れなんだ。下手な真似したら、首が飛ぶぞ」
サーガが剣を抜き放ち、青年の首元に当てていた。
青くなっていく青年の顔。
なにやらハプニングが起きたらしいことを察したキーナが目をやると、青年の頭をぶっ飛ばしているサーガが見えた。
壁に直撃して動けなくなった青年の周りを、怒った様子のキューちゃんが飛び回っている。
「ったく、何やってんだよ」
サーガがキーナを見下ろす。
「お前、下手すりゃ…人買いに…売られ…」
サーガが生唾を飲み込む。
そりゃあ、ベッドの上で抵抗もできず、下はパンツ一枚、上は危ないところまでシャツをまくり上げられた女の子が転がっていたらば、男なら当然の反応です。
ゴスッ
サーガが自分の顔を殴った。何故でしょう?
「そ、それどころじゃねぇっての!」
なんとか理性をフル動員させ、正気を保ったまま、サーガが持っていた何かの瓶を開けた。
「単なるしびれ薬みたいだから」
とビンの中身をクイッと口に含むと、キーナの顔を少し上に向かせ、そして…。
キーナの瞳が見開かれる。
唇に熱いものが触れている。
そして、何かの液体が口の中に流れてきた。
抵抗する間もなく、その液体は喉の方へと移行し、そのまま飲み干してしまう。
「これで一時もすりゃ、動くようになるさ」
顔を離してサーガがキーナを見ると、
「…え?」
キーナの瞳から大粒の涙が落ちるところだった。
そのままポロポロと涙は溢れ出てくる。
「な、なんで泣いてんだ?! おい!」
訳が分からずオロオロするサーガ。
キーナの涙はその後もしばらく、止まることはなかった。
パー、グー、パー、グーを繰り返す。
指先になんとなくしびれは残っているもの、ほぼ問題なく手が動く。
(動くようになってきた…)
体を起こしてみる。
おお、腹筋も思い通りに動くぞ、などと変な感動をする。
そして、先ほどの唇の感触が思い出されてきた。
思ったよりも熱くて柔らかくて…、いや、そうじゃない。
非常事態だったのだから仕方がないのだ。仕方がない。
理性ではそう分かっていても、感情は納得してくれない。
なんとなくゴシゴシと唇を拭ってしまう。
初めてだったのに…。
一応14歳の女の子。
キスに対してそれなりに憧れなんかもあったりして。
仕方がないとは言え、仕方がないとは言え…。
(あんなの! キスじゃないもん!)
振り払うようにベッドから下り、側にかけてあった服を着る。
ガチャリ
丁度いいタイミングでサーガが帰ってきた。
ひらひらとキューちゃんも一緒に帰ってきた。
「キューちゃん♪」
「お、起きたか」
サーガが何やら荷物を持って部屋に入ってきた。
「どうだ? 調子は」
机に荷物を置いてゴソゴソと探り出す。
「うん…平気…」
ちょっと複雑な気持ちのキーナ。答える声に少し元気がない。
そのことに気づいているのかいないのか、
「腹減ってっだろ。これ食え」
と、何やらパンのようなものをキーナに向かってほおり投げた。
うまい具合にキーナの掌にパンが着地する。
「うん」
(なんだろ?)
ベッドに腰掛け、よく分からないけどパクついてみると、やっぱりパンだった。
この世界でもパンというのだろうか?などと疑問に思う。
「いい情報持ってきたぜ」
椅子にどかりと座って、同じようにパンをぱくつくサーガが言った。
「テルって奴によく似た風体の奴がこの街を通って言ったみたいだぜ」
「本当?!」
キーナが一気に元気になった。
「ああ、聞き込みしてきたんだ」
むしゃむしゃとパンを食べるサーガ。あっという間になくなりそうだ。
「ところで、テルって奴はお前の何なんだ? 恋人か?」
「ち、違うよ!」
思わず赤面するキーナ。
そーですよねー。違うんですよねー。
「ならなんでこんなに必死こいて探すんだ?」
そう聞かれて、うっと答えにつまるキーナ。
「い、命の恩人だから…」
きっと独りで寂しがっているから、自分が側にいてあげたいだけなのだ。
助けられたのだから助けたい。それくらいしか理由はない。
「本当にそれだけか?」
頭を悩ますキーナ。それ以上になんの理由がいるのだろう?
それだけの理由で人を探すことになんの違和感があるのだろう?
う~んと唸ってもよく分からない。
「わかったよ」
あまりにも悩む姿にサーガが呆れる。
まあ、理由なんて人それぞれなのだし、と納得する。
「んで、そのテルって奴、有名な剣士なら、名はなんてんだ? 知ってる名か?」
最後の一口を口にほおり込んでむしゃむしゃと食べてしまった。
まだ半分は残っているパンを抱えてキーナが考えこむ。
テルの名前? 長すぎて覚えられないからテルと呼んでいるのだよなぁ…。
記憶の奥底からテルの名前をほじくりだしてくる。
「んとね…、テルディ…、ブラック…なんたらって…」
それしか出てこなかった。
「テルディアス・ブラックバリー?」
サーガが目を見開く。
「ああそう! そんな感じの…」
そんな感じかよ。覚えれ。
と、突然サーガがキーナの胸ぐらを掴んだ。
「本当にテルディアスなのか?!」
何やら鬼気迫ったような迫力でキーナを引き寄せる。
「く、くるしいよぉ…」
キーナがたまらず苦痛の声をあげた。
「あ、悪ぃ…」
我に返ってキーナから手を放す。
少し首の絞められたキーナが、ケホケホと咳をした。
「そうか、テルディアスか…」
サーガの瞳が怪しく光る。
「そうか…」
何やら考え込みながら、くくくくと独りで笑っている。
そんな不気味なサーガから少し距離を置くキーナ。
また胸ぐら掴まれたらたまらない。
そして、何やら晴れ晴れとした表情を向けて、サーガが言った。
「いいぜ、とことんお前に付き合ってやるよ!」
いや、テルを見つけるまででいいんだけど…。
キーナのツッコミは言葉になることはなかった。
夜は更けていく。
今日も三日月が夜空にさえざえと光っている。
少し雲は出ているが、雨の心配をするような天気ではない。
宿屋の一室で、サーガとキーナが地図を見ながら今後のことについて話し合っていた。
「…で、こいつの示す方に行くと、次に目指すのは、この街だ」
「プロス?」
地図上の道を辿っていけば、次の街はそんなに大きな街でもなさそうだ。
「しかし本当にこいつあてになんのか?」
サーガがよく分からないキューちゃんを眺める。
黒い球に羽が生えただけの小さな使い魔。
真ん中に目のような模様が有り、今はそれが閉じている。
眠っているらしい。
「おじいさんはキューちゃんについていけば大丈夫だって」
キーナがキューちゃんをすくいあげる。
「テルの気を追うようにしてあるって」
「ふ~ん、役に立たなそうだけどな」
ピシッと指で丸い球を弾くと、キューちゃんが目を開けた。
言葉は話せないが人の言うことは理解するらしい。
「いででででででで!」
なんとなく馬鹿にされたのが分かったのか、サーガに攻撃を加える。
小さい上に素早いので反撃できないサーガ。
「頼りにはなりそう」
キーナが呟いた。
「じゃ、おやすみ~」
キーナがいそいそと布団に潜りこむ。
「ああ」
あいてててとサーガがキューちゃんに打たれたところをさすっていたが、ふと振り返ると、すでにすやすやと寝息をたててキーナが眠っていた。
「早ぇな、おい…」
ものの一分と経っていないはずだ。
キューちゃんもキーナの肩の辺りで羽を休めている。
「男がいるんだから少しは警戒しろよ…」
あまりにもすやすやと眠る寝顔を覗き込む。
う~む、ガキにしか見えない。
「ま、襲う気も起きねーけどな。こんなガキ」
「ガキじゃないもん…」
ボソリとつぶやきが返ってきた…。
「…?」
もう一度寝顔を覗き込む。
うん、寝ている。
「寝てる、よな?」
むにゃむにゃとやっぱり気持ちよさそうに眠っている。
「変なガキ」
サーガは窓際に腰を下ろし、片膝に頬杖をついて、夜空を見上げた。
三日月がやんわりと夜空を照らしている。
「テルディアスか…」
サーガがつぶやいた。
珍しく真面目な瞳をしていた。
待ってろよスターシャ。
必ず、テルディアスを倒す!
必ず!
サーガの瞳には、何がしかを決意した強い光が宿っていた。
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『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。
「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」
「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」
そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。
◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた
黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。
そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。
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前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。
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タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
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