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奴の名はサーガ
はぐれ闇
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残ったイエムルが火の気配を掌に集中させる。
「イラ・ネハ」
イエムルが呪文を口にする。
火の気配が現象となって現れ、形を成していく。
ネハは精霊の言葉で「鳥」を意味する。
火は鳥の形を取り、翼をはためかせた。
キエエエエエエエ…
火の鳥は一声啼くと、標的に向かってまっしぐらに飛んで行った。
機を見計らい、イグハが男から離れた。
そこに迫った火の鳥が男を包み込んだ。
どん!!!
「うわあっ」
大きな爆破の音が響き渡った。
キーナが耳を抑える。
男の周りは煙で覆われ様子が見えない。
「倒したの?!」
キーナがサーがに尋ねる。
「いや、魔道士だったらあのくらい防いでる! だから…」
煙が少し晴れてくる。
うっすらと男の姿が見えた。
と、離れていたイグハが剣を振り上げ、男に迫り、
「剣士が止めを刺す!」
男の影を一刀両断した。
男の影が揺れた。
そのままイグハはイエムルの元へと飛んでいく。
術者を介した魔法はあまり長い時間持たないからである。
「どうなったの?」
キーナが空を見上げながらサーガに聞いた。
「多分、倒した…」
(倒したって…殺したってこと…?)
平和な日本で育ってきたキーナだ。まだそういうことは頭で分かっていてもどこか納得しがたいものを感じていた。
そういうことが必要なこともあるということが。
「ご苦労様イグハ」
「たいしたことないさイエムル」
下ではお色気コンビがお互いを労わり合う。
それを見て、
(あれはいいな…。終わったら巨乳美人のお出迎え)
などと考えるサ-ガ。
事態は終息した、と誰もが思っていた。
キーナ以外は。
空ではまだ煙がもくもくとしていた。
視認では男の影は確認できない。
だが、キーナは感じた。
不吉な力が集まっていることを。
そしてそれが今まさに、放たれようとしていた。
「あぶない!」
キーナが叫んだ。
遅れてサーガとお色気コンビがそれに気づいた。
放たれた力がお色気コンビに近づく。
「ウル・ロー!」
イエムルが結界を張った。
四大精霊一の守りの力。地。
火の力だけがそれを破ることができる。
とっさに張るには十分な結界であった。
普通の力であるならば。
男から放たれた力は、結界に触れても四散することなく、勢いが弱まることもなく、
ぴきん…
やすやすと結界を破った。
「な…」
イエムルが驚愕する。
「邪魔するものは、容赦しない」
男の声が響き渡った。
ズギャルルギャルウン!!
「なんだ?!」
異様な音にサーガが反応する。
火の力ならば爆発があってもおかしくない。
水の力でも、風の力でも、何がしかその印があるはずだ。
だが、今微かに見えたの力の片鱗は…。
「見てくる! 待ってろ!」
そういうとお色気コンビの元へと飛び出す。
「僕も行く!」
キーナも後に続いた。
風穴の開いた宝玉の間に二人が降り立つ。
するとそこにあったものは…。
「なんだこれは?」
サーガがつぶやいた。
黒い、人型ののっぺらぼうの人形のようなものが二つ、倒れていた。
ぞく…
キーナの背中を悪寒が走った。
(似てる…、この気配は、あの…)
すたすたと不用意に近づくサーガ。
「これは、あいつらなのか?」
そう言って黒いものに触れようとした。
「触っちゃダメ!!!」
キーナの声で思わず腕を引っ込める。
「なんだよ! いきなり!」
驚いた顔でサーガが振り向く。
「触ったら闇に…捕われる!」
瞳に異様な光を携え、キーナが言った。
「闇? 闇の力だっつーのか?」
一瞬のキーナの双眸の光に気づかず、サーガが考え込む。
「う? うん」
今一瞬自分は何をした?
とキーナが首を捻るが、わかるわけもない。
「てことは奴は…はぐれ闇か! めんどくせえ!」
「何それ?」
剣を抜き、さかさかと戦闘態勢に入るサーガ。
「後で説明してやる! 備えろ! 来るぞ! 今言えることは、奴が…思った以上にやばい相手だっつーことだ!」
いつの間にか黒い男が、静かに宝玉の間の前まで来ていた。
まとう気配は尋常ではない。
(こいつは…やばい!!)
闇の者はただでさえ厄介なのに、側にいるのは戦い方も知らない素人魔道士。
[おい…]
[ん?]
ひそひそとキーナに耳打ちする。
[隙を見て逃げろ。お前の敵う相手じゃない]
[そんな、サーガはどうするの?!]
[適当に相手したら俺も逃げる]
こんなところで命を無駄遣いするつもりはない。だが…
(そんな隙ありそうにねーけど…)
今はキーナだけでも逃がさなければならない。
サーガは覚悟を決めた。
「いくぞ!」
「うん!」
剣を握る手に力を込めた。
「風よ!」
サーガが叫ぶと、サーガの周りで風が勢いよく渦を巻いた。
「え? サーガって魔法使えるの?!」
「当たり前だろ!」
てっきり使えないもんかと思ってた…。
「いくぜ!!」
黒い男に向かってサーガが飛び出した。
剣を振り上げ、男に向かって勢いよく振り下ろす。
「せあっ!」
風は唸りながら男めがけて鋭い刃となって襲いかかった。
男は顔色一つ変えずに、結界を張り、風の力を無効化する。
「風巻!」
渦を巻いた風が男に襲いかかり、男を屋敷から遠ざける。
「これで奴は離せた! いいか、隙を見て逃げろよ!」
「ぼ、僕も戦うよ!」
へりに足をかけたサーガがキーナを睨み付ける。
「アホ! お前は逃げろ! いいな!」
でも、と言いかけるキーナを待たず、サーガが再び風を集める。
「風翔!」
集まった風は軽々とサーガを虚空へ誘った。
「サーガ!!」
男に向かってまっしぐらに飛んでいくサーガ。
離れてしまった距離を縮めようと近づく男に、風の力を纏わせた剣を振り下ろす!
ガン!!
素早く結界を張った男に阻まれる。
そのまま立て続けに剣を振り下ろすが、やはり男の結界に阻まれてしまう。
しかしそれでも、サーガは剣を振り続けた。
「サーガ…」
見ていればわかる。
あそこに行っても自分はきっと邪魔になるだけだろう。
だがしかし…。
キューちゃんがぱたぱたと慰めるかのようにキーナの周りを羽ばたく。
「キューちゃん…、どうしよう、僕どうしたらいいんだろう…? 一人で逃げるなんてできないよ…」
自分には何もできない。
でも、仲間を見捨てていくなんてできない。
(テル!)
そして、テルディアスも、側にはいない…。
「邪魔だ」
男がサーガに掌を向けた。
サーガが気づいた時にはその掌に闇の力が集まり、
キュン
ドオオン!!
大地に叩きつけられていた。
「サーガ!」
キーナが叫んだ。
「う…」
地面に半分めり込んだサーガがうめき声をあげる。
なんとか生きてはいる、だが…。
「死ね」
男が止めをささんと、掌に再び力を集める。
これをくらったらなら、今度こそ生きてはいないだろう。
闇の力が凝縮し、男の掌から放たれた。
ドオンン!!!
容赦ない破壊音が響き渡る。
地面が抉られ、ものすごい砂埃が舞った。
男がその屍を確認しようと視線を巡らす。
すると、そこには不思議な光景が待っていた。
2神精霊の力である闇。
その闇の力を退け、立っている者がいる。
薄く輝く光を身にまとい、サーガの前に立つ少女。
薄く目を開けてキーナが呟く。
「もう誰にも…、傷ついて欲しくない…」
キーナの光が増していく。
誰か! 誰か! 助けて!
白い空間でキーナがもがき苦しんでいる。
見ているだけしかできない!
僕には何もできない!
もがき苦しんでいるキーナの耳に、不意に声が聞こえた。
助けて! 助けて!
同じように助けを求める声。
見ると、自分とそっくりの人が、ガラスの壁のようなものの向こうで、壁を叩いている。
あなたは誰?
キーナが尋ねた。
私は…私
その少女が答える。
ここから先へ行けないの
だから助けてほしい
少女が言った。
でも僕、どうしたらいいのか分からないよ
キーナが壁に手をそえた。
大丈夫
あなたが強く願えば道は開かれる
少女も手をそえた。
強く…願う…?
そうしたら私もあなたを助けられる
あなたのやさしさが、すべてを救う鍵になる…
キーナの光が増していく。
そして、不思議なことに髪も伸びていく。
光で織られたかのような不思議な髪が、風になびく。
「う…う?」
不思議な温かさを感じ、サーガが目を開けると、今までに見たことのない美しい少女が立っていた。
「…」
言葉を失い見とれてしまうサーガ。
「ひ、ひか…り」
黒い男がキーナに近づいてきた。
「ひかりだ…」
キーナが男を見つめる。
『闇にのまれてしまったのね…。かわいそうな子…』
男がキーナにしがみついた。
「わ…たしの…もの…だ…」
そんな男を見やりながら、キーナが男の頬に触れた。
『苦しかったわね、もう大丈夫よ。さあおいで、そこから出してあげる』
キーナの光が男を包み始めた。
そして見ていられないほどにまぶしい光に包まれると、男の瞳が狂気の色を失くし、穏やかな光を宿し始めた。
『悪い夢を見ていただけ。ね?』
キーナが優しく男に語りかける。
「そう、夢を…、見ていた…だけ…」
そう呟くと、男はゆっくりと地面へ倒れこんだ。
悪夢から覚めたような、穏やかな顔をして。
一部始終を見ていたサーガ。
あれほど手強かった相手が穏やかに倒れ伏しているのが、なんとも奇妙だった。
それを成したのは、目の前の少女。
キーナだ。
なぜこうなっているのかはよくわからないが、目の前の少女がキーナだということだけはわかる。
キーナが振り向いた。
ドキリ
胸が高鳴った。
すうっと風のようにサーガに近づくと、
『愛しい風…』
「へ?」
サーガの頬に手を触れる。
『これからも、私を守ってくれますか?』
「も、もちろん!」
反射的にサーガは答えていた。
にっこりとキーナが微笑む。
まるで女神のように。
ドキン!
サーガの胸がまた高鳴った。
すると、あれほどに溢れていた光が薄くなっていき、キーナの髪も短くなって…。
サーガのほうへドサリと倒れてきた。
「どうわっ!」
慌ててキーナを受け止めるサーガ。
すやすやと眠るその寝顔は、別にどうってことはない、いつものキーナの顔だった。
「…」
何か聞こえた気がした。
「サーガ!!」
「うわ! びっくりした! なんだ?!」
「やっぱりどっか大丈夫でないんでない?」
「んなこたねーよん」
「本当の本当に?」
「しつけーよ!」
「ならいいけどさ」
街道を歩く二人。
知らず知らずボヘッと歩いていたサーガ。
まあ原因は、言わずもがな。
隣を歩く、少年と見間違えるような少女。
(これだもんな~)
キーナの目覚めて一言目。
「なにかあったん?」
あれだけのことをしておいて何も覚えちゃいなかった。
そのほかに関わった者達も、誰も何も覚えてはいなかった。
もちろんあのお色気コンビも無事だった。
当事者の黒い男でさえも、なぜ自分がそこにいるのか分かっていなかった。
とりあえず都合のいいように雇い主に説明して、たんまり報酬をもらった。
お色気コンビは悔しがっていたが、記憶がないのだからしょうがない。
だがしかし、だがしかしだ。
しかしもかかしもかしこさも…って何言ってんだ。
要するに問題は…
「サーガ!!」
キーーーーーン
耳が一瞬遠くなった。
キーナが耳元で叫んだのだ。
「何をさっきからぶつくさぶつくさ!」
と叫んでいるのが聞こえた。
(これ、なんだよな~…)
あの時は本当に女神かとも思えたのに…。
今は女かどうかさえ疑ってしまうような…。
「キューちゃん!」
キーナの大声でよろよろとなってしまったキューちゃんを心配する姿は、
(ガキにしか見えん!)
「う~~~~~ん」
またもサーガの口からうめき声が漏れる。
目の前の存在に、記憶と現実が重なって見えない…。
う~~~~む
(スターシャが言ったからってわけでもないけど…)
頭にキューちゃんを乗っけてみたり、肩に乗っけたり掲げてみたり。
やっぱり子供にしか見えない。
「こんなでも気絶するのか?」
とひょいとサーガがつまみあげると、「こんな」と言われたことに怒ったキューちゃんがサーガに襲いかかった。
「いでででででで!!!」
「よかった。元気だ」
「止めろーーーー!!」
なんやかやと騒がしい。
そう、一つ言えることがある。
(こいつといると、退屈はしないんだよな…)
用心棒なのに、今の状況を楽しいと思っている自分がいる。
それは今までに感じたことのない、不思議な気持ちだった。
「イラ・ネハ」
イエムルが呪文を口にする。
火の気配が現象となって現れ、形を成していく。
ネハは精霊の言葉で「鳥」を意味する。
火は鳥の形を取り、翼をはためかせた。
キエエエエエエエ…
火の鳥は一声啼くと、標的に向かってまっしぐらに飛んで行った。
機を見計らい、イグハが男から離れた。
そこに迫った火の鳥が男を包み込んだ。
どん!!!
「うわあっ」
大きな爆破の音が響き渡った。
キーナが耳を抑える。
男の周りは煙で覆われ様子が見えない。
「倒したの?!」
キーナがサーがに尋ねる。
「いや、魔道士だったらあのくらい防いでる! だから…」
煙が少し晴れてくる。
うっすらと男の姿が見えた。
と、離れていたイグハが剣を振り上げ、男に迫り、
「剣士が止めを刺す!」
男の影を一刀両断した。
男の影が揺れた。
そのままイグハはイエムルの元へと飛んでいく。
術者を介した魔法はあまり長い時間持たないからである。
「どうなったの?」
キーナが空を見上げながらサーガに聞いた。
「多分、倒した…」
(倒したって…殺したってこと…?)
平和な日本で育ってきたキーナだ。まだそういうことは頭で分かっていてもどこか納得しがたいものを感じていた。
そういうことが必要なこともあるということが。
「ご苦労様イグハ」
「たいしたことないさイエムル」
下ではお色気コンビがお互いを労わり合う。
それを見て、
(あれはいいな…。終わったら巨乳美人のお出迎え)
などと考えるサ-ガ。
事態は終息した、と誰もが思っていた。
キーナ以外は。
空ではまだ煙がもくもくとしていた。
視認では男の影は確認できない。
だが、キーナは感じた。
不吉な力が集まっていることを。
そしてそれが今まさに、放たれようとしていた。
「あぶない!」
キーナが叫んだ。
遅れてサーガとお色気コンビがそれに気づいた。
放たれた力がお色気コンビに近づく。
「ウル・ロー!」
イエムルが結界を張った。
四大精霊一の守りの力。地。
火の力だけがそれを破ることができる。
とっさに張るには十分な結界であった。
普通の力であるならば。
男から放たれた力は、結界に触れても四散することなく、勢いが弱まることもなく、
ぴきん…
やすやすと結界を破った。
「な…」
イエムルが驚愕する。
「邪魔するものは、容赦しない」
男の声が響き渡った。
ズギャルルギャルウン!!
「なんだ?!」
異様な音にサーガが反応する。
火の力ならば爆発があってもおかしくない。
水の力でも、風の力でも、何がしかその印があるはずだ。
だが、今微かに見えたの力の片鱗は…。
「見てくる! 待ってろ!」
そういうとお色気コンビの元へと飛び出す。
「僕も行く!」
キーナも後に続いた。
風穴の開いた宝玉の間に二人が降り立つ。
するとそこにあったものは…。
「なんだこれは?」
サーガがつぶやいた。
黒い、人型ののっぺらぼうの人形のようなものが二つ、倒れていた。
ぞく…
キーナの背中を悪寒が走った。
(似てる…、この気配は、あの…)
すたすたと不用意に近づくサーガ。
「これは、あいつらなのか?」
そう言って黒いものに触れようとした。
「触っちゃダメ!!!」
キーナの声で思わず腕を引っ込める。
「なんだよ! いきなり!」
驚いた顔でサーガが振り向く。
「触ったら闇に…捕われる!」
瞳に異様な光を携え、キーナが言った。
「闇? 闇の力だっつーのか?」
一瞬のキーナの双眸の光に気づかず、サーガが考え込む。
「う? うん」
今一瞬自分は何をした?
とキーナが首を捻るが、わかるわけもない。
「てことは奴は…はぐれ闇か! めんどくせえ!」
「何それ?」
剣を抜き、さかさかと戦闘態勢に入るサーガ。
「後で説明してやる! 備えろ! 来るぞ! 今言えることは、奴が…思った以上にやばい相手だっつーことだ!」
いつの間にか黒い男が、静かに宝玉の間の前まで来ていた。
まとう気配は尋常ではない。
(こいつは…やばい!!)
闇の者はただでさえ厄介なのに、側にいるのは戦い方も知らない素人魔道士。
[おい…]
[ん?]
ひそひそとキーナに耳打ちする。
[隙を見て逃げろ。お前の敵う相手じゃない]
[そんな、サーガはどうするの?!]
[適当に相手したら俺も逃げる]
こんなところで命を無駄遣いするつもりはない。だが…
(そんな隙ありそうにねーけど…)
今はキーナだけでも逃がさなければならない。
サーガは覚悟を決めた。
「いくぞ!」
「うん!」
剣を握る手に力を込めた。
「風よ!」
サーガが叫ぶと、サーガの周りで風が勢いよく渦を巻いた。
「え? サーガって魔法使えるの?!」
「当たり前だろ!」
てっきり使えないもんかと思ってた…。
「いくぜ!!」
黒い男に向かってサーガが飛び出した。
剣を振り上げ、男に向かって勢いよく振り下ろす。
「せあっ!」
風は唸りながら男めがけて鋭い刃となって襲いかかった。
男は顔色一つ変えずに、結界を張り、風の力を無効化する。
「風巻!」
渦を巻いた風が男に襲いかかり、男を屋敷から遠ざける。
「これで奴は離せた! いいか、隙を見て逃げろよ!」
「ぼ、僕も戦うよ!」
へりに足をかけたサーガがキーナを睨み付ける。
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でも、と言いかけるキーナを待たず、サーガが再び風を集める。
「風翔!」
集まった風は軽々とサーガを虚空へ誘った。
「サーガ!!」
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離れてしまった距離を縮めようと近づく男に、風の力を纏わせた剣を振り下ろす!
ガン!!
素早く結界を張った男に阻まれる。
そのまま立て続けに剣を振り下ろすが、やはり男の結界に阻まれてしまう。
しかしそれでも、サーガは剣を振り続けた。
「サーガ…」
見ていればわかる。
あそこに行っても自分はきっと邪魔になるだけだろう。
だがしかし…。
キューちゃんがぱたぱたと慰めるかのようにキーナの周りを羽ばたく。
「キューちゃん…、どうしよう、僕どうしたらいいんだろう…? 一人で逃げるなんてできないよ…」
自分には何もできない。
でも、仲間を見捨てていくなんてできない。
(テル!)
そして、テルディアスも、側にはいない…。
「邪魔だ」
男がサーガに掌を向けた。
サーガが気づいた時にはその掌に闇の力が集まり、
キュン
ドオオン!!
大地に叩きつけられていた。
「サーガ!」
キーナが叫んだ。
「う…」
地面に半分めり込んだサーガがうめき声をあげる。
なんとか生きてはいる、だが…。
「死ね」
男が止めをささんと、掌に再び力を集める。
これをくらったらなら、今度こそ生きてはいないだろう。
闇の力が凝縮し、男の掌から放たれた。
ドオンン!!!
容赦ない破壊音が響き渡る。
地面が抉られ、ものすごい砂埃が舞った。
男がその屍を確認しようと視線を巡らす。
すると、そこには不思議な光景が待っていた。
2神精霊の力である闇。
その闇の力を退け、立っている者がいる。
薄く輝く光を身にまとい、サーガの前に立つ少女。
薄く目を開けてキーナが呟く。
「もう誰にも…、傷ついて欲しくない…」
キーナの光が増していく。
誰か! 誰か! 助けて!
白い空間でキーナがもがき苦しんでいる。
見ているだけしかできない!
僕には何もできない!
もがき苦しんでいるキーナの耳に、不意に声が聞こえた。
助けて! 助けて!
同じように助けを求める声。
見ると、自分とそっくりの人が、ガラスの壁のようなものの向こうで、壁を叩いている。
あなたは誰?
キーナが尋ねた。
私は…私
その少女が答える。
ここから先へ行けないの
だから助けてほしい
少女が言った。
でも僕、どうしたらいいのか分からないよ
キーナが壁に手をそえた。
大丈夫
あなたが強く願えば道は開かれる
少女も手をそえた。
強く…願う…?
そうしたら私もあなたを助けられる
あなたのやさしさが、すべてを救う鍵になる…
キーナの光が増していく。
そして、不思議なことに髪も伸びていく。
光で織られたかのような不思議な髪が、風になびく。
「う…う?」
不思議な温かさを感じ、サーガが目を開けると、今までに見たことのない美しい少女が立っていた。
「…」
言葉を失い見とれてしまうサーガ。
「ひ、ひか…り」
黒い男がキーナに近づいてきた。
「ひかりだ…」
キーナが男を見つめる。
『闇にのまれてしまったのね…。かわいそうな子…』
男がキーナにしがみついた。
「わ…たしの…もの…だ…」
そんな男を見やりながら、キーナが男の頬に触れた。
『苦しかったわね、もう大丈夫よ。さあおいで、そこから出してあげる』
キーナの光が男を包み始めた。
そして見ていられないほどにまぶしい光に包まれると、男の瞳が狂気の色を失くし、穏やかな光を宿し始めた。
『悪い夢を見ていただけ。ね?』
キーナが優しく男に語りかける。
「そう、夢を…、見ていた…だけ…」
そう呟くと、男はゆっくりと地面へ倒れこんだ。
悪夢から覚めたような、穏やかな顔をして。
一部始終を見ていたサーガ。
あれほど手強かった相手が穏やかに倒れ伏しているのが、なんとも奇妙だった。
それを成したのは、目の前の少女。
キーナだ。
なぜこうなっているのかはよくわからないが、目の前の少女がキーナだということだけはわかる。
キーナが振り向いた。
ドキリ
胸が高鳴った。
すうっと風のようにサーガに近づくと、
『愛しい風…』
「へ?」
サーガの頬に手を触れる。
『これからも、私を守ってくれますか?』
「も、もちろん!」
反射的にサーガは答えていた。
にっこりとキーナが微笑む。
まるで女神のように。
ドキン!
サーガの胸がまた高鳴った。
すると、あれほどに溢れていた光が薄くなっていき、キーナの髪も短くなって…。
サーガのほうへドサリと倒れてきた。
「どうわっ!」
慌ててキーナを受け止めるサーガ。
すやすやと眠るその寝顔は、別にどうってことはない、いつものキーナの顔だった。
「…」
何か聞こえた気がした。
「サーガ!!」
「うわ! びっくりした! なんだ?!」
「やっぱりどっか大丈夫でないんでない?」
「んなこたねーよん」
「本当の本当に?」
「しつけーよ!」
「ならいいけどさ」
街道を歩く二人。
知らず知らずボヘッと歩いていたサーガ。
まあ原因は、言わずもがな。
隣を歩く、少年と見間違えるような少女。
(これだもんな~)
キーナの目覚めて一言目。
「なにかあったん?」
あれだけのことをしておいて何も覚えちゃいなかった。
そのほかに関わった者達も、誰も何も覚えてはいなかった。
もちろんあのお色気コンビも無事だった。
当事者の黒い男でさえも、なぜ自分がそこにいるのか分かっていなかった。
とりあえず都合のいいように雇い主に説明して、たんまり報酬をもらった。
お色気コンビは悔しがっていたが、記憶がないのだからしょうがない。
だがしかし、だがしかしだ。
しかしもかかしもかしこさも…って何言ってんだ。
要するに問題は…
「サーガ!!」
キーーーーーン
耳が一瞬遠くなった。
キーナが耳元で叫んだのだ。
「何をさっきからぶつくさぶつくさ!」
と叫んでいるのが聞こえた。
(これ、なんだよな~…)
あの時は本当に女神かとも思えたのに…。
今は女かどうかさえ疑ってしまうような…。
「キューちゃん!」
キーナの大声でよろよろとなってしまったキューちゃんを心配する姿は、
(ガキにしか見えん!)
「う~~~~~ん」
またもサーガの口からうめき声が漏れる。
目の前の存在に、記憶と現実が重なって見えない…。
う~~~~む
(スターシャが言ったからってわけでもないけど…)
頭にキューちゃんを乗っけてみたり、肩に乗っけたり掲げてみたり。
やっぱり子供にしか見えない。
「こんなでも気絶するのか?」
とひょいとサーガがつまみあげると、「こんな」と言われたことに怒ったキューちゃんがサーガに襲いかかった。
「いでででででで!!!」
「よかった。元気だ」
「止めろーーーー!!」
なんやかやと騒がしい。
そう、一つ言えることがある。
(こいつといると、退屈はしないんだよな…)
用心棒なのに、今の状況を楽しいと思っている自分がいる。
それは今までに感じたことのない、不思議な気持ちだった。
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『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。
「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」
「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」
そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。
◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)
神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた
黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。
そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。
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前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。
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辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
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バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
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その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
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公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
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出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
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※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
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