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奴の名はサーガ
護衛のお仕事
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街の所々に張り紙が貼られている。
その一つを何気なく見ていたサーガが、なにか思いついたらしい。
キーナに何かを告げた。
「いいよ。お金ならまだあるもん」
「ばかだな~、金だっていつかはなくなるんだぜ? 一泊分浮くし、金貰えるし、何より練習になんぜ?」
「練習?」
「お前戦い方はまるきし素人じゃねーか」
さすがは玄人のサーガ君。一応分かるのね。
「足でまといのままでいいってんなら別にいいけどな」
「やる!」
「そーこなくっちゃな!」
かくして、なんとなくサーガの言葉に踊らされた感もあったが、戦い方の練習にもなるということで、その張り紙に書いてある仕事を請け負うことになった。
その張り紙にはこう書いてあったのだ。
「宝玉泥棒を捕まえるために、腕の立つ者を募集中!」
キーナに果たして、できるのでありましょうか?
「いやにお若いですが、大丈夫ですか…?」
受付の男が聞いてきた。
「ああ、俺は戦場で戦ってきたし、それにコイツは…」
と何やら受付の男の耳元にボソボソと囁くサーガ。
しばらく二人でじっとキーナを見つめていたが、
「分かりました。しかしこちらの規定として、命の…」
「わーってる、わーってるって!」
と受付の男の肩をバシバシと叩くと、
「あんがとよ!」
と半分無理矢理中へ通った。
キューちゃんもフラフラと着いてくる。
案内された廊下を通って、屋敷内へ入っていく。
「何話してたの?」
キーナが聞いた。
「ん? ああ、あの受付の奴、お前のことがどうにも信用ならねぇって言うから、あの名高い赤の賢者、ラオシャス
魔道士の隠し子ってことにしたんだ」
キーナがずっこけた。
誰の隠し子だと?
「隠し子? ラオシャスって誰?」
「知らねぇか? 女たらしで有名なミドル王国の宮廷魔道士」
ミドル王国? 魔道士?
というと、おじいさん?!
「おじいさんの?!」
びっくりたまげた。
「知ってるのか?」
「修行受けてた」
「あの魔道士直々に?!」
今度はサーガがブッ飛んだ。
「驚くこと?」
「だ、だっておま…」
キーナには何が凄いのかよく分かっておりません。
「女ったらしでも魔導では右に出る者はいないと謳われてるほどの実力者で、滅多なことじゃ弟子もとらないって…。本当に気に入った者しか弟子にしないことで有名で、あの魔道士直々に教わることは、魔導を志す者にとっちゃ、とてつもないことだって聞くぞ!」
「そんななんだぁ?」
おかしいなぁ? 普通に親切に教えてくれたけどなぁ。
などと考えるキーナ。
まあまだいろんなことが分かっていないのだから仕方ない。
無自覚すぎるというか、鈍感すぎるというか…。
「だったら隠し子なんかにしなくても良かったな。それだけで十分話つけられたぜ」
と頭をかくサーガ。
「そうだよ! どうすんの!?」
「今更言っても遅い!」
そういう条件で入ってしまったのだ。今更間違いとも言えません。
「なるようにしかならねぇだろ」
「投げやり!」
と言い合いながら、待合室に到着した二人。
扉を開けると、中には既に待ち人が。
「あら?」
と色っぽい声が発せられた。
「これはこれは…」
まさに二枚目とも言える声が発せられる。
「可愛らしいこと…」
色っぽい上に、本当に服を着ているのかと思しき、まさに女魔道士とも言える服装の女が言った。ほぼ大事な部分しか隠れていないので、見ているこちらが赤くなりそうだ。
キーナの感想は、
(寒くないのかしら?)
だったけど。
「お?」
思わず目がハートになるサーガ。
さすがスケベの権現。
これみよがしに、ソファーに腰掛ける色っぽいお姉さんの胸や腰や尻の辺りを眺めまわし、鼻の下を伸ばしている。
正直すぎるだろ。
「うへへへ…、お姉さん達もボディガード?」
涎の垂れそうな声でサーガが聞いた。
「そうよ。危ない仕事だから、実力のない者は帰ってもらってるの」
言うが早いか、後ろに立っていた髪の長い男が素早く動く。
気づいたサーガ、素早く剣を抜いて、
ガキィッ!!!
間一髪、剣を受け止めた。
「ふ、まぁ、そこそこの実力はありそうだな」
男がすんなり剣を引いた。
「意地汚ねぇぜ」
サーガが口の端をあげ、二人をぎらりと睨む。
「こうやって来た奴ら全員に奇襲をかけて追い出して、報酬独り占めか?」
ゆっくりと剣を納めるサーガ。
その後ろでキーナは何が起こったのかいまだに良く分かっていない顔をしている。
「ふふ…、ここの主人もね、できるだけ経費は節約したいそうなのよ。だから協力してあげてるのよ」
三人が睨み合う。
なぜこんな剣呑な空気になってしまっているのかいまいち良く分かっていないキーナだけはあたふたしている。
「みんなで仲良くやろうよう」
と言いたいのだけど、なんとなく言ってはいけないような気がしている。
正解。
「で? 俺達は合格?」
ようやくサーガが口を開いた。
「一応ね」
女魔道士がくすりと笑った。
「せいぜい、私達の足を引っ張らないように頑張って頂戴。坊や達」
ズシッ
キーナの頭に漬物石が降ってきた。
と言っても実際に降ってきているわけではなく、それだけの衝撃を受けたということです。
「ぼ、僕もがー!!!」
「お、落ち着けって…」
事態を察したサーガが慌てて止めに入る。
そしてボソボソとキーナに耳打ちする。
「面倒くせえから男だと思わせとけ」
「なんで?!」
キーナも小声で返す。
「あ~いうのはねちっこいんだよ。お前が女だって分かったらまたなにかしてくるかもしれねぇ。だから、な」
「う…ん」
煮え切らないものはあったが、これ以上ゴタゴタするのも嫌なので、この場は納得することにした。
(だけど僕、そんなに男に見えるかな?)
そのことについては…、作者沈黙。
色っぽいお姉さんと、その隣に立つハンサムで髪の長い男が自己紹介をした。
「私の名はイエムル。こっちはイグハ。あなたがたは?」
「サーガに、キーナだ」
キューちゃんについては自己紹介されなかった。
まあ仕方ないか。
依頼の内容はこうだ。
この館の主人、パーファッド・グネフトルーゼ氏が、とある筋からとても希少な宝玉、光の宝玉を手に入れた。すると先日、それを狙って賊がやってきたという。
その時賊は、展示用の贋作を持って去っていったということであるが、気がついてまた取りに来るかもしれない。
先に賊が来た折に、見張りにいた衛兵達はみなやられてしまったので、代わりに宝玉を守り、しいては賊を捉えて欲しい、ということだった。
「ねえ、サーガ」
「あん?」
「本当に来るのかな?」
「さあな」
お色気コンビが宝玉の周りの警戒に当たるというので、キーな達はとりあえず周りが見渡せる屋根に上がって周りの警戒にあたっていた。
といいながら耳くそほじってるサーガであるけど。やる気ないなこいつ。
「だいたいそんな伝説の宝玉がこんな所にあるわけねぇだろ」
「違うの?!」
てっきり本物だと思っていたキーナ。
人の話を素直に信じすぎだ。
「ったり前だろ。精巧な模造品だよ。ってか、お前も魔法使えるなら分かれよ」
「ふにゃ?」
まだまだそういう気配を感じるのは未熟なキーナ。なにせ、やっと精霊の気配を普通に感じ取れるようになったばかり。
仕方ないっちゃ仕方ない。
ウフォン…
突然空気が変わった。
「な、何?! なんにゃ?!」
慌てるキーナ。
「風の結界だろ」
ため息をつくサーガ。
そんなこともわからんで本当に魔道士かよ…。
と内心思ってみたりして。
「大方あの自信満々コンビがかけたんだろ」
と、ゴロリと横になる。
「そ~か~」
気の抜けた返事をするキーナ。
来るかどうかも分からない敵を待ち続けて、夜は更けていく…。
ウホ~
ウホ~
どこかでフクロウ?の鳴く声がする。
どれくらい時間が経ったのか、キーナもウトウトと自分の膝を枕替わりに、器用に体育座りの格好で眠っていた。
隣ではサーガがこれまた気持ちよさそうに、屋根から落ちないように器用に転がっていた。
細い三日月が心もとない弱い光で、夜空に浮かんでいる。
闇の濃くなる時間…。
不意に、キーナは目が覚めた。
何かよく分からない気配を感じて、辺りをキョロキョロと見回す。
特に変わった様子はなかった。
屋敷もみんな寝入っているのか静かであるし、風の結界もきちんと張られたまま。
何故自分の目が覚めたのかもよくわからなかった。
(何だろ…? よく分からないけど、胸がドキドキする…)
不整脈か? などと考えながら、とりあえず隣でグースカ寝ているサーガを起こす。
「サーガ、ねえサーガ」
「あん?」
寝ぼけ眼でキーナを見ると、
「なんだ? 便所か? 一人で行け」
「違うわ!」
小学生か! とつっこみを入れたかったが、この世界に小学生というものはないだろう。
その時、二人は気づいた。
その、異質な気配に。
ドオン!
突然屋敷が爆発した。
「なんにゃ?! なんにゃ?!」
「敵襲だ!」
屋根から落ちそうになって慌てるキーナ。慣れた様子のサーガ。
何かの力が働いたのは分かったが、それがどこから来たのか分からない。
「この結界破って、しかもこの威力か。相当な実力者だなこりゃ」
サーガがにやりと笑う。
揺れの収まった屋根にいまだにしがみついたまま、キーナは辺りを見回し、その気配に気づいた。
暗い夜空に黒い何かが浮かんでいる。
「サーガ」
「ん?」
キーナの指差す方を見ると、黒髪の黒いマントを身につけた若い男が、闇夜の中浮かんでいた。
「あいつか…」
「みたいだね」
静かに屋敷を見下ろしながら、ゆっくりと男は近づいてきた。
「派手にやってくれたわね」
階下から声が聞こえてきた。
「後片付けが大変だ」
あの自信満々、お色気ムンムンコンビの声だ。
覗いてみると、屋敷の壁は壊されていたが、中の方はほとんど被害がないようだった。
二重に結界を張っていたらしい。
「宝玉を… よこせ…」
男がつぶやいた。
「そうはいかないさ」
イグハがスラリと剣を抜き放つ。
「いいかキーナ。あいつらの戦い方よっく見とけよ」
「うん?」
キーナが首を傾げる。
(最悪報酬はなくなるかもしれんけど、魔道士と剣士の戦い方の手本見れるからいっか)
そこそこ戦い慣れしてそうな二人だ。それなりに手本となる動きをしてくれるに違いない。
なんとなく手本にするには性格の面で微妙ではあったが、キーナに見せる分には十分だろう。
「風(カウ)翔(レイ)」
イエムルが呪文を唱えると、イグハの体がふわりと浮き上がり、黒い男に向かって行った。
どうやら剣士の方は魔法が使えないようだった。
それだけでも三流だけど…、とサーガは心の中で突っ込む。
イグハの剣筋は悪くない。だが、黒い男はその剣をやすやすと受け止め、またはかわしている。
「ほえ~」
その戦いぶりを見ていたキーナがため息を漏らす。
「魔道士は剣士の援護をしながら、武器を伺って大きな魔法を練る」
「フムフム」
サーガ君の戦い方講座が始まった。
その一つを何気なく見ていたサーガが、なにか思いついたらしい。
キーナに何かを告げた。
「いいよ。お金ならまだあるもん」
「ばかだな~、金だっていつかはなくなるんだぜ? 一泊分浮くし、金貰えるし、何より練習になんぜ?」
「練習?」
「お前戦い方はまるきし素人じゃねーか」
さすがは玄人のサーガ君。一応分かるのね。
「足でまといのままでいいってんなら別にいいけどな」
「やる!」
「そーこなくっちゃな!」
かくして、なんとなくサーガの言葉に踊らされた感もあったが、戦い方の練習にもなるということで、その張り紙に書いてある仕事を請け負うことになった。
その張り紙にはこう書いてあったのだ。
「宝玉泥棒を捕まえるために、腕の立つ者を募集中!」
キーナに果たして、できるのでありましょうか?
「いやにお若いですが、大丈夫ですか…?」
受付の男が聞いてきた。
「ああ、俺は戦場で戦ってきたし、それにコイツは…」
と何やら受付の男の耳元にボソボソと囁くサーガ。
しばらく二人でじっとキーナを見つめていたが、
「分かりました。しかしこちらの規定として、命の…」
「わーってる、わーってるって!」
と受付の男の肩をバシバシと叩くと、
「あんがとよ!」
と半分無理矢理中へ通った。
キューちゃんもフラフラと着いてくる。
案内された廊下を通って、屋敷内へ入っていく。
「何話してたの?」
キーナが聞いた。
「ん? ああ、あの受付の奴、お前のことがどうにも信用ならねぇって言うから、あの名高い赤の賢者、ラオシャス
魔道士の隠し子ってことにしたんだ」
キーナがずっこけた。
誰の隠し子だと?
「隠し子? ラオシャスって誰?」
「知らねぇか? 女たらしで有名なミドル王国の宮廷魔道士」
ミドル王国? 魔道士?
というと、おじいさん?!
「おじいさんの?!」
びっくりたまげた。
「知ってるのか?」
「修行受けてた」
「あの魔道士直々に?!」
今度はサーガがブッ飛んだ。
「驚くこと?」
「だ、だっておま…」
キーナには何が凄いのかよく分かっておりません。
「女ったらしでも魔導では右に出る者はいないと謳われてるほどの実力者で、滅多なことじゃ弟子もとらないって…。本当に気に入った者しか弟子にしないことで有名で、あの魔道士直々に教わることは、魔導を志す者にとっちゃ、とてつもないことだって聞くぞ!」
「そんななんだぁ?」
おかしいなぁ? 普通に親切に教えてくれたけどなぁ。
などと考えるキーナ。
まあまだいろんなことが分かっていないのだから仕方ない。
無自覚すぎるというか、鈍感すぎるというか…。
「だったら隠し子なんかにしなくても良かったな。それだけで十分話つけられたぜ」
と頭をかくサーガ。
「そうだよ! どうすんの!?」
「今更言っても遅い!」
そういう条件で入ってしまったのだ。今更間違いとも言えません。
「なるようにしかならねぇだろ」
「投げやり!」
と言い合いながら、待合室に到着した二人。
扉を開けると、中には既に待ち人が。
「あら?」
と色っぽい声が発せられた。
「これはこれは…」
まさに二枚目とも言える声が発せられる。
「可愛らしいこと…」
色っぽい上に、本当に服を着ているのかと思しき、まさに女魔道士とも言える服装の女が言った。ほぼ大事な部分しか隠れていないので、見ているこちらが赤くなりそうだ。
キーナの感想は、
(寒くないのかしら?)
だったけど。
「お?」
思わず目がハートになるサーガ。
さすがスケベの権現。
これみよがしに、ソファーに腰掛ける色っぽいお姉さんの胸や腰や尻の辺りを眺めまわし、鼻の下を伸ばしている。
正直すぎるだろ。
「うへへへ…、お姉さん達もボディガード?」
涎の垂れそうな声でサーガが聞いた。
「そうよ。危ない仕事だから、実力のない者は帰ってもらってるの」
言うが早いか、後ろに立っていた髪の長い男が素早く動く。
気づいたサーガ、素早く剣を抜いて、
ガキィッ!!!
間一髪、剣を受け止めた。
「ふ、まぁ、そこそこの実力はありそうだな」
男がすんなり剣を引いた。
「意地汚ねぇぜ」
サーガが口の端をあげ、二人をぎらりと睨む。
「こうやって来た奴ら全員に奇襲をかけて追い出して、報酬独り占めか?」
ゆっくりと剣を納めるサーガ。
その後ろでキーナは何が起こったのかいまだに良く分かっていない顔をしている。
「ふふ…、ここの主人もね、できるだけ経費は節約したいそうなのよ。だから協力してあげてるのよ」
三人が睨み合う。
なぜこんな剣呑な空気になってしまっているのかいまいち良く分かっていないキーナだけはあたふたしている。
「みんなで仲良くやろうよう」
と言いたいのだけど、なんとなく言ってはいけないような気がしている。
正解。
「で? 俺達は合格?」
ようやくサーガが口を開いた。
「一応ね」
女魔道士がくすりと笑った。
「せいぜい、私達の足を引っ張らないように頑張って頂戴。坊や達」
ズシッ
キーナの頭に漬物石が降ってきた。
と言っても実際に降ってきているわけではなく、それだけの衝撃を受けたということです。
「ぼ、僕もがー!!!」
「お、落ち着けって…」
事態を察したサーガが慌てて止めに入る。
そしてボソボソとキーナに耳打ちする。
「面倒くせえから男だと思わせとけ」
「なんで?!」
キーナも小声で返す。
「あ~いうのはねちっこいんだよ。お前が女だって分かったらまたなにかしてくるかもしれねぇ。だから、な」
「う…ん」
煮え切らないものはあったが、これ以上ゴタゴタするのも嫌なので、この場は納得することにした。
(だけど僕、そんなに男に見えるかな?)
そのことについては…、作者沈黙。
色っぽいお姉さんと、その隣に立つハンサムで髪の長い男が自己紹介をした。
「私の名はイエムル。こっちはイグハ。あなたがたは?」
「サーガに、キーナだ」
キューちゃんについては自己紹介されなかった。
まあ仕方ないか。
依頼の内容はこうだ。
この館の主人、パーファッド・グネフトルーゼ氏が、とある筋からとても希少な宝玉、光の宝玉を手に入れた。すると先日、それを狙って賊がやってきたという。
その時賊は、展示用の贋作を持って去っていったということであるが、気がついてまた取りに来るかもしれない。
先に賊が来た折に、見張りにいた衛兵達はみなやられてしまったので、代わりに宝玉を守り、しいては賊を捉えて欲しい、ということだった。
「ねえ、サーガ」
「あん?」
「本当に来るのかな?」
「さあな」
お色気コンビが宝玉の周りの警戒に当たるというので、キーな達はとりあえず周りが見渡せる屋根に上がって周りの警戒にあたっていた。
といいながら耳くそほじってるサーガであるけど。やる気ないなこいつ。
「だいたいそんな伝説の宝玉がこんな所にあるわけねぇだろ」
「違うの?!」
てっきり本物だと思っていたキーナ。
人の話を素直に信じすぎだ。
「ったり前だろ。精巧な模造品だよ。ってか、お前も魔法使えるなら分かれよ」
「ふにゃ?」
まだまだそういう気配を感じるのは未熟なキーナ。なにせ、やっと精霊の気配を普通に感じ取れるようになったばかり。
仕方ないっちゃ仕方ない。
ウフォン…
突然空気が変わった。
「な、何?! なんにゃ?!」
慌てるキーナ。
「風の結界だろ」
ため息をつくサーガ。
そんなこともわからんで本当に魔道士かよ…。
と内心思ってみたりして。
「大方あの自信満々コンビがかけたんだろ」
と、ゴロリと横になる。
「そ~か~」
気の抜けた返事をするキーナ。
来るかどうかも分からない敵を待ち続けて、夜は更けていく…。
ウホ~
ウホ~
どこかでフクロウ?の鳴く声がする。
どれくらい時間が経ったのか、キーナもウトウトと自分の膝を枕替わりに、器用に体育座りの格好で眠っていた。
隣ではサーガがこれまた気持ちよさそうに、屋根から落ちないように器用に転がっていた。
細い三日月が心もとない弱い光で、夜空に浮かんでいる。
闇の濃くなる時間…。
不意に、キーナは目が覚めた。
何かよく分からない気配を感じて、辺りをキョロキョロと見回す。
特に変わった様子はなかった。
屋敷もみんな寝入っているのか静かであるし、風の結界もきちんと張られたまま。
何故自分の目が覚めたのかもよくわからなかった。
(何だろ…? よく分からないけど、胸がドキドキする…)
不整脈か? などと考えながら、とりあえず隣でグースカ寝ているサーガを起こす。
「サーガ、ねえサーガ」
「あん?」
寝ぼけ眼でキーナを見ると、
「なんだ? 便所か? 一人で行け」
「違うわ!」
小学生か! とつっこみを入れたかったが、この世界に小学生というものはないだろう。
その時、二人は気づいた。
その、異質な気配に。
ドオン!
突然屋敷が爆発した。
「なんにゃ?! なんにゃ?!」
「敵襲だ!」
屋根から落ちそうになって慌てるキーナ。慣れた様子のサーガ。
何かの力が働いたのは分かったが、それがどこから来たのか分からない。
「この結界破って、しかもこの威力か。相当な実力者だなこりゃ」
サーガがにやりと笑う。
揺れの収まった屋根にいまだにしがみついたまま、キーナは辺りを見回し、その気配に気づいた。
暗い夜空に黒い何かが浮かんでいる。
「サーガ」
「ん?」
キーナの指差す方を見ると、黒髪の黒いマントを身につけた若い男が、闇夜の中浮かんでいた。
「あいつか…」
「みたいだね」
静かに屋敷を見下ろしながら、ゆっくりと男は近づいてきた。
「派手にやってくれたわね」
階下から声が聞こえてきた。
「後片付けが大変だ」
あの自信満々、お色気ムンムンコンビの声だ。
覗いてみると、屋敷の壁は壊されていたが、中の方はほとんど被害がないようだった。
二重に結界を張っていたらしい。
「宝玉を… よこせ…」
男がつぶやいた。
「そうはいかないさ」
イグハがスラリと剣を抜き放つ。
「いいかキーナ。あいつらの戦い方よっく見とけよ」
「うん?」
キーナが首を傾げる。
(最悪報酬はなくなるかもしれんけど、魔道士と剣士の戦い方の手本見れるからいっか)
そこそこ戦い慣れしてそうな二人だ。それなりに手本となる動きをしてくれるに違いない。
なんとなく手本にするには性格の面で微妙ではあったが、キーナに見せる分には十分だろう。
「風(カウ)翔(レイ)」
イエムルが呪文を唱えると、イグハの体がふわりと浮き上がり、黒い男に向かって行った。
どうやら剣士の方は魔法が使えないようだった。
それだけでも三流だけど…、とサーガは心の中で突っ込む。
イグハの剣筋は悪くない。だが、黒い男はその剣をやすやすと受け止め、またはかわしている。
「ほえ~」
その戦いぶりを見ていたキーナがため息を漏らす。
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