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奴の名はサーガ
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洞窟の入り口に三人の人影が見えてきた。
「まったく、てめーのせいでヒデーめにあったぜ」
「誰も頼んだ覚えはない」
ピシ…
張り詰める二人の間の空気。
「ねいねいテルテル! 四大精霊の宝玉ってなんなの?!」
その空気をぶった切ったキーナ。
さすがだな。
毒気を抜かれたテルがキーナに説明し始める。
「ああ、師匠から聞いたんだが、それを使えば俺の姿を元の姿に戻せるかもしれないと…」
「ふ~ん」
「ところで…」
ずずいっとテル君がキーナに近づく。
「お前、なんでここにいる?」
「えへ?」
魔女から守るためにミドル王国に置いてきたはずなのに。
しかも師匠に言って足止めさせてもらっていたのに。
なぜにここに?
「え~と、話せば長くなるのだけどぉ~」
あたおたと説明しようとするキーナだが、何から言っていいのやら?
と、そのキーナの肩をぐいっと掴んで引き寄せたサーガ。
「一生懸命に追っかけて来た相手にそれか?」
その近い距離にいらっとするテル君。
突然出てきてなんなんだこのチビは?
「貴様には関係ない。口出しするな。大体貴様何者だ」
ふふんと軽く鼻で笑うと、
「俺はこいつの用心棒さ。今までずーーーっと側にいたんだぜ。朝も昼も、もちろん、夜もな♪」
「?」
何やら近い距離に戸惑うキーナ。
その近い距離と口調に怒りマークマックスのテル君。
血管の切れる音が聞こえてきそうだ。
「なあ? キーナ?」
「う? うん…」
戸惑いながらも肯定の意を示したキーナ。
さすがは天然爆弾。落としどころを分かっている。
「とにかくその手をどけろ…」
キーナの手前なんとか冷静さを保っていたテル君でありましたが、
「やだね♪」
ブチ切れました。
一瞬で剣の柄に手をかけ引き抜き、目の前の黄色い髪のチビをたたっ切ろうとしたその時、目の前を何かが通り過ぎたかと思ったら、その物体はサーガのオデコにクリーンヒット。
ガゴン!!
いい音がしました。
「え?」
「あ! キューちゃん!」
勢い削がれて掴んだ柄に手を置いたまま、宙を飛び回る黒い物体を見つめる。
なぜか赤い三角帽を被っているが…?
その黒い物体はキーナの周りをぐるぐると飛び回った。
「にゃ~~~ごめんて~~~~。許して~~~~~」
キーナは一生懸命に謝り通すが、なかなか許してくれないキューちゃんでありました。
まあ、雪の中に生き埋め状態にされたのだから当然だな。
「なんだ?」
訳が分からず固まったままのテル君。
まあひと段落したらキーナがきっと説明してくれるよ。
多分…。
キュウ…
と気絶しているサーガの横で、やっと説得終えたキーナがいた。
でもなんで気絶してる時の擬音語ってキュウ、なのだろう?
閑話休題。
「おじいさんがね、テルに会ったら渡しなさいって。「わしからの伝言」だって」
手の上で行儀よくホバリングするキューちゃん。
「キューちゃんがね、道案内してくれたからテルのこと探し当てられたんだよ」
「そうなのか」
一つ謎は解けた。
「テル一人で見せなさいって言われてるから、あっちで見てきていいよ。サーガ見てるから」
「ああ…」
キーナの手の上でホバリングしていたキューちゃんがテルの頭上を飛び始めた。
認識しているようだ。
周りを見渡すとちょっとした陰になって見えないところがあるのでそこで見ることに。
キューちゃんを連れてテルが歩き出す。
(肝心なことが聞けてないが)
振り向くと、看ていると言った本人が何やら雪で玉を作っている。
そしてそれをサーガのたんこぶの上に乗っけて…、雪だるま? いや、たんこぶだるま? を作って…、遊んでいるようにしか見えない…。
いやまあ、たんこぶは冷やすに限るけど…。冷やしているようには見えないぞ?
(ま、大丈夫か)
岩陰に入った。
すると、ぶ・・・んとキューちゃんから音がすると、蝙蝠のような羽の形がひし形のような形に変形し、テルディアスから一定の距離をとって空中で停止した。
『テルディアス・ブラックバリー。承認した』
機械音のような擦れた声が響き渡り、キューちゃんが立体映像を投影し始めた。
(凝り好きめ…)
師匠の性格はよくわかっている。
映像なのかと思えるほどにリアルなおじいさんこと師匠の姿が映し出される。
『テルディアス、お前に伝えるべき事がたくさんできたので、この使い魔をお前の元に送る。なかなかかわいいじゃろ?』
(何をどう見たらかわいいと言えるんだ…)
テルディアスにおじいさんのセンスは分からなかった。
『まず第一に、嬢ちゃんのハートはしっかり抑えておけ!! テルディアス!!』
ガク
膝が落ちた。
コネコネと雪玉を作る。
当たらないとは分かっているが。
『冗談で言っとるわけではないぞ』
映像のおじいさんは一応真面目に先を続ける。
『お前もうすうす感じていたのではないか? 嬢ちゃんが光の者ではないかと。しかしな、それだけではない』
おじいさんの目が細められた。
『あの子は光の御子じゃ』
「…!!!」
光の御子?!
伝説の存在とまで言われる者が…、あのちっこい男か女かも一瞬見分けもつかないような…、あれが?!
ひどい言われようだ。
「な…、まさか…!!」
『驚いとるじゃろうの』
いろんな意味でね。
『じゃが真実じゃ。闇の魔女はあの子によって力を抑えられ、空間の狭間へ行ったよ。二度とこの世界へは戻っては来られんだろう。平たく言えば魔女はもういないということじゃ。そしてテルディアス。嬢ちゃんはまだ御子として完全に目覚めてはおらん。じゃからお前の側に置き、完全に覚醒した時にお前にかけられたその呪法を解いてもらうのじゃ。だがそれにも一つ問題がある』
「問題?」
『光の宮の者達が御子を迎えに動き出した』
「!」
光の宮。光の者が住まう場所。そして光の御子が鎮座する聖域。
光の者は光の宮へ行くのが決まりである。それが当たり前だ。
だがしかし…。
今のテルディアスにとっては、一つの希望を失うことを意味する。
『捕まれば即刻光の宮行き。そうなれば二度と会うことは叶わない。言っている意味は分かるな?』
静かにうなずくテルディアス。
光の宮でも謁見できるのはごく一部のあまり力を持っていないものだけ。
光の御子ともなればその存在を確認することも難しいだろう。
『分かったらとっとと、二人の☆愛の逃避行☆を始めるんじゃ!!』
ズベシャッ!!
頭から雪に突っ込んだ。
『わしの方からも手を回しておくからの』
当たらないとは分かっているが、特大雪玉を持ち上げて構える。
『なお、この使い魔は再生後自動的に消滅する』
「とっとと消えろーーー!!」
当たらないとは分かっているが、おじいさんに向けて特大雪玉を放り投げた。
予想通り雪玉は通過して行ってしまったが。
『最後に一つ言い忘れたが』
「まだあるんかい!」
思わず突っ込んでしまったテルディアス。
『嬢ちゃんに光の御子だということを知られんようにな』
「え?」
『もし知ったらお前から離れて行ってしまうやもしれん』
それは、どういうことなのだろう?
『ということで頑張れ~♪』
そう言うとあっという間に映像は途切れてしまった。
「ちょ、ちょっと待て…」
説明を求めようとするが、もうそこには何もない。
「肝心なこと言わずに消えやがった…」
ヒラヒラと役目を終えたキューちゃんが木の葉のように落ちてくる。
[キーナヲ…守ッテ…]
機械音のような擦れた音が、喋れないはずの使い魔から響いた。
「ん? ああ…」
パキュン…
キューちゃんは消滅した。
プログラムされたこと以外はできないはずの使い魔が、プログラム以外の言語を話した。
何を思って発せられた言葉だったのか。
テルディアスはしばらく無言で立ち尽くしていた。
「あ、テル~♪」
パタパタと手を振るキーナの前に、頭を丸ごと雪だるまの一部にされたサーガの胴体が転がっていた。
ところどころ黄色い髪がちょんちょんと飛び出ているのが、なんとなく憐れみを誘う。
てか、その状態で生きてるのか?
「殺す気かーーー!!」
あやうく窒息しかけたサーガがガバッと身を起こす。
「まさか☆」
キーナにそんなつもりは毛頭ない。というか、考えてもいない。
頭を丸ごと雪に埋めたらどうなるかなんて…。
考えろよ。
「あれ? テル、キューちゃんは?」
黒い影がいなくなっていることにキーナが気づいた。
サーガは無視?
「ああ、役目を終えて消滅したよ」
それを聞いてしゅんとなるキーナ。
「そか…」
「たーこ、あんなん魔法で作られたもんだろうが」
サーガがキーナのオデコをピシッとつついてやる。
「にゃ」(訳:いて)
「作り主のとこに行きゃまた会えんだろ」
それを聞いたキーナの顔がぱあっと明るくなる。
「よかったにゃ~」
「ところで…」
テルがスラリと剣を抜き、
「こいつは何者だ?」
微妙な距離にあった二人の顔の目の前、よりはサーガ寄りにずずいっと剣先を向けた。
そして二人の顔の距離は見事に離れました。
サーガは不服そうな顔をしてテルディアスを睨み付けていたけれども。
これまでのあらましを簡潔にまとめてテルに説明。
「そういうことか」
納得至極のいったテル君。
「なら何故いきなり斬りつけて…」
「わーわーわーわー!!!」
きたんだ?と続けようとしたテルの言葉を遮り、キーナの耳を覆って聞こえないようにするサーガ。
な~るほど…
と悪魔のような笑みを浮かべるテルディアス。
やべい…
となるサーガ。
もともと、テル君を探し出すという依頼で動いているのだ。
依頼主の言葉に反するようでは、傭兵失格。
「ほれ、契約通りの金だ。これを持ってさっさと消えろ」
テルディアスがサーガの足元に金を放り投げた。
「金に群がるうじ虫め」
「!!!」
サーガが唇を噛みしめる。
金に群がるうじ虫。
正統なる剣士を名乗る者達は、傭兵を嘲ってそう呼んだ。
剣士は誇りのために。
傭兵は金のために剣を取る。
剣士は汚れた剣だと傭兵を嘲り、傭兵はお貴族様のチャンバラ剣術と剣士達を馬鹿にした。
それがこの世界の常識。
だけどそれが通じないものが約一名。
「テル!!!」
キーナが立ち上がる。
「どうしてそんなひどいこと言うの!!」
「え?…」
キーナの口から出た言葉にキョトンとなる二人。
「確かに役に立たないこととかあったけど、サーガはここまでちゃんと僕を守って連れてきてくれたんだよ?」
一応フォローしているらしい。
「テルにまた会えた時にまた置いてかれないように色々教えてくれたし。だからひどいこと言わないで。サーガはいい人なんだよ」
まっすぐな瞳でテルに訴えかける。
心の底からそう思っているのだ。
そしてテルとサーガは思った。
≪人を疑うってことを知らんのかこいつは?!≫
(傭兵だの用心棒だの言ってる奴が人助けなんてするわけないだろ?!)
(最初は本当に金だけが目的で近づいただけなんだっつーの! 今はそれだけじゃないけど…)
二人で同時に頭を抱え、
はあ~~~~~~…
と大きなため息をついた。
「?」
分かっていないキーナ。
「お、俺は言われ慣れてるから平気だよ」
雪を払ってサーガが立ち上がる。
「傭兵なんざそんなもんさ」
少しぎこちないが笑みを浮かべた。
サーガの顔を見つめるキーナ。いつも鈍感なのにこういう時だけは敏感らしい。
しゃがみこんでテルが放り投げたコインを集める。
「キーナ?!」
全て拾い集めると、自分の財布からも何やらごそごそと取り出し、
「少なくとも僕にとっては、それだけじゃなかったよ」
きちんとサーガの顔を見て、サーガの手に渡した。
渡されたコインを見て気づく。
「おい、規定料以上いらねーぞ!」
「僕の気持ち!」
にっこりと笑って、
「こんなことでしか、お礼できないから。色々ありがとう! 楽しかったよサーガ!」
春の嵐。
言葉に例えるならばそんな感じだろうか。
目の前の少女から光が溢れ、暖かい風に包まれ、そして過ぎ去っていくような。
「あ、ああ…、そうか?」
なんだかおかしな返事をしてしまった。
(なんだ? 胸に…温かいものが広がって、体中の血が巡りだすような…。不思議な感覚…)
今までに感じたことのない温もりに、サーガは包まれていた。
気のせいかもしれないが、世界の色が鮮明になったような。
たった今目覚めたかのような、そんな気がした。
そんな少し呆けていたサーガに、キーナが話しかける。
「サーガ」
「んあ?」
「どうせ山下りるんだし、一緒に行くでしょ?」
テルが後ろで滑った。
一応契約はテルが見つかるまで。
ここから別行動でもいいのだけど。
「旅は道連れっていうしね♪」
「キーナ!!」
「何?テル」
「なんでそいつと一緒なんだ!」
当然契約が切れれば傭兵は次の獲物、ではなく仕事先を見つけにさっさとおさらばするものであるので、普通ならばここでバイバイでいいのだけど、いかんせんここは山の奥深く。
希望すれば別行動でもまったく構わないのであるのだけど、
「? 何かいけないの?」
「いや、そうではなくて…」
「?」
一緒に行くのがさも当然と思っているキーナに見つめられては…、さすがのテル君もたじたじとなるしかない。
「なんでもない…」
頭を抱えるしかなかった。
「?」
目をぱちくりさせて首を傾げるキーナ。
(鈍感過ぎだろ…)
こういうところで分かってやれよと、サーガ心の中で突っ込み。
といっても、キーナにはきっと無理な話なのだ。
そういう奴なのだ。
「まったく、てめーのせいでヒデーめにあったぜ」
「誰も頼んだ覚えはない」
ピシ…
張り詰める二人の間の空気。
「ねいねいテルテル! 四大精霊の宝玉ってなんなの?!」
その空気をぶった切ったキーナ。
さすがだな。
毒気を抜かれたテルがキーナに説明し始める。
「ああ、師匠から聞いたんだが、それを使えば俺の姿を元の姿に戻せるかもしれないと…」
「ふ~ん」
「ところで…」
ずずいっとテル君がキーナに近づく。
「お前、なんでここにいる?」
「えへ?」
魔女から守るためにミドル王国に置いてきたはずなのに。
しかも師匠に言って足止めさせてもらっていたのに。
なぜにここに?
「え~と、話せば長くなるのだけどぉ~」
あたおたと説明しようとするキーナだが、何から言っていいのやら?
と、そのキーナの肩をぐいっと掴んで引き寄せたサーガ。
「一生懸命に追っかけて来た相手にそれか?」
その近い距離にいらっとするテル君。
突然出てきてなんなんだこのチビは?
「貴様には関係ない。口出しするな。大体貴様何者だ」
ふふんと軽く鼻で笑うと、
「俺はこいつの用心棒さ。今までずーーーっと側にいたんだぜ。朝も昼も、もちろん、夜もな♪」
「?」
何やら近い距離に戸惑うキーナ。
その近い距離と口調に怒りマークマックスのテル君。
血管の切れる音が聞こえてきそうだ。
「なあ? キーナ?」
「う? うん…」
戸惑いながらも肯定の意を示したキーナ。
さすがは天然爆弾。落としどころを分かっている。
「とにかくその手をどけろ…」
キーナの手前なんとか冷静さを保っていたテル君でありましたが、
「やだね♪」
ブチ切れました。
一瞬で剣の柄に手をかけ引き抜き、目の前の黄色い髪のチビをたたっ切ろうとしたその時、目の前を何かが通り過ぎたかと思ったら、その物体はサーガのオデコにクリーンヒット。
ガゴン!!
いい音がしました。
「え?」
「あ! キューちゃん!」
勢い削がれて掴んだ柄に手を置いたまま、宙を飛び回る黒い物体を見つめる。
なぜか赤い三角帽を被っているが…?
その黒い物体はキーナの周りをぐるぐると飛び回った。
「にゃ~~~ごめんて~~~~。許して~~~~~」
キーナは一生懸命に謝り通すが、なかなか許してくれないキューちゃんでありました。
まあ、雪の中に生き埋め状態にされたのだから当然だな。
「なんだ?」
訳が分からず固まったままのテル君。
まあひと段落したらキーナがきっと説明してくれるよ。
多分…。
キュウ…
と気絶しているサーガの横で、やっと説得終えたキーナがいた。
でもなんで気絶してる時の擬音語ってキュウ、なのだろう?
閑話休題。
「おじいさんがね、テルに会ったら渡しなさいって。「わしからの伝言」だって」
手の上で行儀よくホバリングするキューちゃん。
「キューちゃんがね、道案内してくれたからテルのこと探し当てられたんだよ」
「そうなのか」
一つ謎は解けた。
「テル一人で見せなさいって言われてるから、あっちで見てきていいよ。サーガ見てるから」
「ああ…」
キーナの手の上でホバリングしていたキューちゃんがテルの頭上を飛び始めた。
認識しているようだ。
周りを見渡すとちょっとした陰になって見えないところがあるのでそこで見ることに。
キューちゃんを連れてテルが歩き出す。
(肝心なことが聞けてないが)
振り向くと、看ていると言った本人が何やら雪で玉を作っている。
そしてそれをサーガのたんこぶの上に乗っけて…、雪だるま? いや、たんこぶだるま? を作って…、遊んでいるようにしか見えない…。
いやまあ、たんこぶは冷やすに限るけど…。冷やしているようには見えないぞ?
(ま、大丈夫か)
岩陰に入った。
すると、ぶ・・・んとキューちゃんから音がすると、蝙蝠のような羽の形がひし形のような形に変形し、テルディアスから一定の距離をとって空中で停止した。
『テルディアス・ブラックバリー。承認した』
機械音のような擦れた声が響き渡り、キューちゃんが立体映像を投影し始めた。
(凝り好きめ…)
師匠の性格はよくわかっている。
映像なのかと思えるほどにリアルなおじいさんこと師匠の姿が映し出される。
『テルディアス、お前に伝えるべき事がたくさんできたので、この使い魔をお前の元に送る。なかなかかわいいじゃろ?』
(何をどう見たらかわいいと言えるんだ…)
テルディアスにおじいさんのセンスは分からなかった。
『まず第一に、嬢ちゃんのハートはしっかり抑えておけ!! テルディアス!!』
ガク
膝が落ちた。
コネコネと雪玉を作る。
当たらないとは分かっているが。
『冗談で言っとるわけではないぞ』
映像のおじいさんは一応真面目に先を続ける。
『お前もうすうす感じていたのではないか? 嬢ちゃんが光の者ではないかと。しかしな、それだけではない』
おじいさんの目が細められた。
『あの子は光の御子じゃ』
「…!!!」
光の御子?!
伝説の存在とまで言われる者が…、あのちっこい男か女かも一瞬見分けもつかないような…、あれが?!
ひどい言われようだ。
「な…、まさか…!!」
『驚いとるじゃろうの』
いろんな意味でね。
『じゃが真実じゃ。闇の魔女はあの子によって力を抑えられ、空間の狭間へ行ったよ。二度とこの世界へは戻っては来られんだろう。平たく言えば魔女はもういないということじゃ。そしてテルディアス。嬢ちゃんはまだ御子として完全に目覚めてはおらん。じゃからお前の側に置き、完全に覚醒した時にお前にかけられたその呪法を解いてもらうのじゃ。だがそれにも一つ問題がある』
「問題?」
『光の宮の者達が御子を迎えに動き出した』
「!」
光の宮。光の者が住まう場所。そして光の御子が鎮座する聖域。
光の者は光の宮へ行くのが決まりである。それが当たり前だ。
だがしかし…。
今のテルディアスにとっては、一つの希望を失うことを意味する。
『捕まれば即刻光の宮行き。そうなれば二度と会うことは叶わない。言っている意味は分かるな?』
静かにうなずくテルディアス。
光の宮でも謁見できるのはごく一部のあまり力を持っていないものだけ。
光の御子ともなればその存在を確認することも難しいだろう。
『分かったらとっとと、二人の☆愛の逃避行☆を始めるんじゃ!!』
ズベシャッ!!
頭から雪に突っ込んだ。
『わしの方からも手を回しておくからの』
当たらないとは分かっているが、特大雪玉を持ち上げて構える。
『なお、この使い魔は再生後自動的に消滅する』
「とっとと消えろーーー!!」
当たらないとは分かっているが、おじいさんに向けて特大雪玉を放り投げた。
予想通り雪玉は通過して行ってしまったが。
『最後に一つ言い忘れたが』
「まだあるんかい!」
思わず突っ込んでしまったテルディアス。
『嬢ちゃんに光の御子だということを知られんようにな』
「え?」
『もし知ったらお前から離れて行ってしまうやもしれん』
それは、どういうことなのだろう?
『ということで頑張れ~♪』
そう言うとあっという間に映像は途切れてしまった。
「ちょ、ちょっと待て…」
説明を求めようとするが、もうそこには何もない。
「肝心なこと言わずに消えやがった…」
ヒラヒラと役目を終えたキューちゃんが木の葉のように落ちてくる。
[キーナヲ…守ッテ…]
機械音のような擦れた音が、喋れないはずの使い魔から響いた。
「ん? ああ…」
パキュン…
キューちゃんは消滅した。
プログラムされたこと以外はできないはずの使い魔が、プログラム以外の言語を話した。
何を思って発せられた言葉だったのか。
テルディアスはしばらく無言で立ち尽くしていた。
「あ、テル~♪」
パタパタと手を振るキーナの前に、頭を丸ごと雪だるまの一部にされたサーガの胴体が転がっていた。
ところどころ黄色い髪がちょんちょんと飛び出ているのが、なんとなく憐れみを誘う。
てか、その状態で生きてるのか?
「殺す気かーーー!!」
あやうく窒息しかけたサーガがガバッと身を起こす。
「まさか☆」
キーナにそんなつもりは毛頭ない。というか、考えてもいない。
頭を丸ごと雪に埋めたらどうなるかなんて…。
考えろよ。
「あれ? テル、キューちゃんは?」
黒い影がいなくなっていることにキーナが気づいた。
サーガは無視?
「ああ、役目を終えて消滅したよ」
それを聞いてしゅんとなるキーナ。
「そか…」
「たーこ、あんなん魔法で作られたもんだろうが」
サーガがキーナのオデコをピシッとつついてやる。
「にゃ」(訳:いて)
「作り主のとこに行きゃまた会えんだろ」
それを聞いたキーナの顔がぱあっと明るくなる。
「よかったにゃ~」
「ところで…」
テルがスラリと剣を抜き、
「こいつは何者だ?」
微妙な距離にあった二人の顔の目の前、よりはサーガ寄りにずずいっと剣先を向けた。
そして二人の顔の距離は見事に離れました。
サーガは不服そうな顔をしてテルディアスを睨み付けていたけれども。
これまでのあらましを簡潔にまとめてテルに説明。
「そういうことか」
納得至極のいったテル君。
「なら何故いきなり斬りつけて…」
「わーわーわーわー!!!」
きたんだ?と続けようとしたテルの言葉を遮り、キーナの耳を覆って聞こえないようにするサーガ。
な~るほど…
と悪魔のような笑みを浮かべるテルディアス。
やべい…
となるサーガ。
もともと、テル君を探し出すという依頼で動いているのだ。
依頼主の言葉に反するようでは、傭兵失格。
「ほれ、契約通りの金だ。これを持ってさっさと消えろ」
テルディアスがサーガの足元に金を放り投げた。
「金に群がるうじ虫め」
「!!!」
サーガが唇を噛みしめる。
金に群がるうじ虫。
正統なる剣士を名乗る者達は、傭兵を嘲ってそう呼んだ。
剣士は誇りのために。
傭兵は金のために剣を取る。
剣士は汚れた剣だと傭兵を嘲り、傭兵はお貴族様のチャンバラ剣術と剣士達を馬鹿にした。
それがこの世界の常識。
だけどそれが通じないものが約一名。
「テル!!!」
キーナが立ち上がる。
「どうしてそんなひどいこと言うの!!」
「え?…」
キーナの口から出た言葉にキョトンとなる二人。
「確かに役に立たないこととかあったけど、サーガはここまでちゃんと僕を守って連れてきてくれたんだよ?」
一応フォローしているらしい。
「テルにまた会えた時にまた置いてかれないように色々教えてくれたし。だからひどいこと言わないで。サーガはいい人なんだよ」
まっすぐな瞳でテルに訴えかける。
心の底からそう思っているのだ。
そしてテルとサーガは思った。
≪人を疑うってことを知らんのかこいつは?!≫
(傭兵だの用心棒だの言ってる奴が人助けなんてするわけないだろ?!)
(最初は本当に金だけが目的で近づいただけなんだっつーの! 今はそれだけじゃないけど…)
二人で同時に頭を抱え、
はあ~~~~~~…
と大きなため息をついた。
「?」
分かっていないキーナ。
「お、俺は言われ慣れてるから平気だよ」
雪を払ってサーガが立ち上がる。
「傭兵なんざそんなもんさ」
少しぎこちないが笑みを浮かべた。
サーガの顔を見つめるキーナ。いつも鈍感なのにこういう時だけは敏感らしい。
しゃがみこんでテルが放り投げたコインを集める。
「キーナ?!」
全て拾い集めると、自分の財布からも何やらごそごそと取り出し、
「少なくとも僕にとっては、それだけじゃなかったよ」
きちんとサーガの顔を見て、サーガの手に渡した。
渡されたコインを見て気づく。
「おい、規定料以上いらねーぞ!」
「僕の気持ち!」
にっこりと笑って、
「こんなことでしか、お礼できないから。色々ありがとう! 楽しかったよサーガ!」
春の嵐。
言葉に例えるならばそんな感じだろうか。
目の前の少女から光が溢れ、暖かい風に包まれ、そして過ぎ去っていくような。
「あ、ああ…、そうか?」
なんだかおかしな返事をしてしまった。
(なんだ? 胸に…温かいものが広がって、体中の血が巡りだすような…。不思議な感覚…)
今までに感じたことのない温もりに、サーガは包まれていた。
気のせいかもしれないが、世界の色が鮮明になったような。
たった今目覚めたかのような、そんな気がした。
そんな少し呆けていたサーガに、キーナが話しかける。
「サーガ」
「んあ?」
「どうせ山下りるんだし、一緒に行くでしょ?」
テルが後ろで滑った。
一応契約はテルが見つかるまで。
ここから別行動でもいいのだけど。
「旅は道連れっていうしね♪」
「キーナ!!」
「何?テル」
「なんでそいつと一緒なんだ!」
当然契約が切れれば傭兵は次の獲物、ではなく仕事先を見つけにさっさとおさらばするものであるので、普通ならばここでバイバイでいいのだけど、いかんせんここは山の奥深く。
希望すれば別行動でもまったく構わないのであるのだけど、
「? 何かいけないの?」
「いや、そうではなくて…」
「?」
一緒に行くのがさも当然と思っているキーナに見つめられては…、さすがのテル君もたじたじとなるしかない。
「なんでもない…」
頭を抱えるしかなかった。
「?」
目をぱちくりさせて首を傾げるキーナ。
(鈍感過ぎだろ…)
こういうところで分かってやれよと、サーガ心の中で突っ込み。
といっても、キーナにはきっと無理な話なのだ。
そういう奴なのだ。
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微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています
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「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」
「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」
そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。
◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)
神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた
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※※※
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※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
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