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水の都編
脱出、したけど・・・
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涙が止まったキーナに水路の事を説明する。
(多分)出口であるという話を聞き、キーナも元気になる。
とにかくこの真っ暗闇の世界ともおさらばだ。
そうと聞いたら一刻も早くここから抜け出したい!
というキーナの意見にテルディアスも即同意。水路は長いのでできるだけ息を吸うようにと言い聞かせる。
「分かったな? 行くぞ」
「うん」
「1、2の3!」
バシャン!
闇の空間に水音が響く。
ゴボボボ・・・
キーナの耳に水音が聞こえる。
闇の中、水に入るというのもかなり怖いことだが、テルディアスの手がキーナを導いてくれていた。
うっすらと目を開けてみると、遠くの方に光が見えた。
ぐいっと引っ張られた手の先を見ると、うっすらとテルディアスの姿も見て取れた。
テルディアスが泳ぎ始める。キーナもテルディアスに引っ張られながら水を掻く。
(よかったぁ。やっと暗い所から出られるんだ! 暗い所は怖いもんね)
と、キーナの目が水底にある何かを捉えた。
白くボンヤリと、まるで光を放っているかのように見えるそれ。
真ん中辺りに二つの窪みがあり、それがまた不気味さを醸し出していた。
しゃれこうべ、髑髏、頭蓋骨と呼ばれるそれ。
実物を見たのは初めてだった。
驚きのあまり、口から息が大量に漏れ出す。
あ~せっかくの酸素が泡と消えていく・・・なんてうまいことを言っている場合ではない。
あっという間に息が苦しくなってくる。
思わず力が入った手に、テルディアスが異変を感じてキーナを見ると、今にも息が切れそうな顔をしている。
(だからしっかりと息を吸えと言ったろ!)
と身振り手振り。
(あれを見て驚いて息吐いちゃったの!)
とキーナが指さす。
あんなもので・・・と思うが、そう言ってる場合ではない。
行くにも戻るにも丁度中間地点辺りに来ていて、どっちに行っても少し距離がある。
かといって急いだ所で間に合いそうにない。
(仕方ない)
テルディアスがキーナの顔に顔を近づける。
突然近寄ってきたテルディアスの顔に怖じ気づくキーナ。
(こ、心の準備が!!!)
(恥ずかしがっとる場合か!)
否定しようにも息が続かない。
というか意識がやばくなってくる。
(あ・・・だめかも・・・)
(それみろ)
最後の抵抗?とばかりに身を固くするキーナを無視して、テルディアスはその唇を塞いだ。
キーナに空気を分けてやり、そのまま何事もなかったかのように、またキーナの手をとって泳ぎ出す。
キーナは顔を赤くしながらも、テルディアスに遅れまいと足を動かす。
(これで2回目・・・。水難の相でも出てるんかな?)
思ったよりも肉厚で柔らかくて温かいその感触。
あまり思い出していると心臓がドキドキして、余計な酸素を食ってしまうかもしれない、と、キーナは努めて冷静になろうと頑張る。
頑張ってはみたけれども、やっぱりドキドキが収まる気配はなかったりする。
当たり前か。
光が近づいてくる。
水面も見えてくる。
自然と水を掻き分ける手にも力がこもり、水面に手を伸ばす。
ザバアッ
「ぶはっ!」
「ぷはっ!」
テルディアスとキーナが水面に顔を出した。
それと同時に、四方八方から槍の穂先が二人に向けて構えられた。
さほど広くない部屋の真ん中に水路のような穴、それを囲むように警備兵が立ち並び、全員が槍を構えている。
「ダーディン?」
「ダーディンだ!」
「何故こんな所に!」
警備兵達がざわつく。
ただの盗人が現れるかと思いきや、異形の者が顔を出したのだ。驚くのも当然であろう。
テルディアスとキーナは水面から顔を出したままの状態から動けなくなってしまっている。
少しでも動いたらその瞬間に槍で突かれてしまうだろう。
「殺せ!」
誰かが声を上げた。
「ダーディンを生かしておくな!」
逃げられない。
(こんなことろで・・・)
テルディアスが歯噛みする。
魔法を使うにも時間がない、水の中で身動きもとれない。
絶体絶命。
「殺せ!」
槍がテルディアスに迫る。
「だめえ!!」
キーナが叫んでテルディアスを庇う。
ゆらり
と空気が動いた気がした。
パシイ!
何かが弾けたような音がして、警備兵達が吹っ飛んだ。
(今のは・・・、光の力じゃない・・・。だが・・・)
「呪文も唱えず、水の精霊の力を使うとは、お主、水の一族の者なのか?」
突然上から声が降ってきた。
見上げると階段の上の方に青い髪、青い瞳の男が立っていた。
王冠らしきものを被っていることからして、国王ではないかとテルディアスは思う。
だが、なぜ王ともあろう者がこんな所に?
「何故ダーディンに加担している?」
キーナには言っている意味が分からなかった。
水の一族?なんじゃそりゃ?
「なんだかよく分からないけど、これだけは言える。テルはダーディンなんかじゃない!」
テルディアスにとっては嬉しい言葉ではあるけれども、でもどう見ても外見はダーディンですぜ?
「悪い魔女にこんな姿にされちゃったけど、テルは人間だよ!」
力説。
「人間? そんな魔法聞いたこともないな。ダーディンが何故、宝玉を狙うのかは知らんが・・・。お主ら、宝玉が女人しか触れられぬ事を知っていながら、男二人で忍び込んできたのか?」
バシャアッ
キーナが溺れた。
すぐに体勢を立て直す。
「僕は女!!」
「なんと・・・」
王が驚きの表情を表す。
まあそうだよな・・・。と心の中で呟くテルディアス。
噛みつきそうな顔のキーナ。
「なるほど・・・、ではあれは・・・」
王が小さく呟いた。キーナ達には聞こえぬ声で。
「娘よ、お主、本当に水の一族の者ではないのか?」
「違うよ? 何それ?」
さっぱり分からんという顔で答えるキーナ。
嘘をついているようには見えない、というか嘘をつけない顔をしている。
「王様! ・・・だよね?」
後半は小さくテルディアスに確認。
「ああ・・・」
とテル君肯定。
見りゃ王様と分かるだろうが。
「無理なお願いだとは分かってるけど、宝玉をしばらく貸してください」
テルディアスが後ろで溺れた。
王はキョトンとした顔。
まさか正面切って国宝を貸してくれなどという輩がいるとは。
(何を考えてんだこいつは~・・・)
なんとか水面に上がったテルディアス。
足がつりそうになった。
「テルの身体を元に戻す為に必要なんです! 用が済んだら必ず返しますから!」
とキーナ力説。
「き、キーナ・・・」
あまりアホを言うな、とテルディアスが止めようとすると、
「わっはっはっはっは。面白い娘だな! 国王直々に宝玉を貸してくれとは・・・。ワハハハハハハハハハ」
なにやらうけたらしい。
そんなに面白いこと言ったかしら?と不思議がるキーナに、まあなと答えるテルディアス。
テルディアスも足がつりそうになったのであるし。
「娘よ、さすがに宝玉をはいどうぞと貸し与えるわけにはいかんよ」
「やっぱ無理か」
「当たり前だろ」
「だがお主は面白いものを持っているようだ」
王はキーナの顔をじっと見つめ、そして言った。
「水巫女の儀式を、特別にやらせてやろう」
倒れていた警備兵達が驚きの表情を見せる。
「水巫女の儀式?」
「もしその儀式を無事にやり遂げたならば、宝玉を貸してやっても良いぞ」
「え?!」
テルディアスの目が丸くなる。
「ナギタ王?!」
警備兵達が驚きの声を上げる。
「本当?!」
「ああ」
「やったよ! テル!」
キーナが両手を挙げて喜ぶ。
テルディアスの顔が青ざめる。
「ナギタ王! お戯れを!」
警備兵達が必死になって王を説得しようとするが、
「よいのだ」
と一言ばっさり。
みんな王の考えていることが分からない。
一介の盗賊に巫女の儀式をやらせるだけでなく、宝玉を貸す約束までしてしまうなどと。
「お前! 水巫女の儀式がどういうものか知ってて言ったのか?!」
とテルディアスが鬼気迫る顔でキーナに詰め寄るも、
「にゃ? 知らない。どんなの?」
本人はあっけらかんとしている。
「俺も知らんが、一国の王が国宝を軽々しく貸すなど言うはずがないだろう。余程難しいものに違いない。最悪命を落とすことになるかもしれんぞ?」
キーナは目をぱちくり。
「まっさか~」
とケラケラ笑い出す始末。危機意識が足りん。
「どうしてそんなに楽天的なんだ・・・」
しかたない。これがキーナなのだ。諦めれ。
「水巫女の儀式の準備にかかれ!」
「はっ」
王が声を張り上げる。
「男は拘束して会場へ連行しろ。娘は神殿へ連れて行け」
二人が水から上がると、警備兵達がテルディアスを拘束しようと近づいてくる。
「テルに乱暴しないで!」
キーナが立ち塞がる。
「キーナ」
「男に危害は加えるな」
「は」
警備兵達は怖々テルディアスに近づく。
テルディアスも抵抗する様子を見せず、大人しく後ろ手に縄で縛られる。
王がテルディアスの事を「男」と呼んでいることを、一応信じることにしたのだ。
「ダーディン」ではなく「男」。
一応人間扱いされているのだろう。
「あなたはこちらへ」
一人の警備兵がキーナを案内する為に先に立つ。
「テル! 頑張って来るから待っててね」
「ああ、気をつけてな・・・」
キーナはバイバイと軽く手を振ると、警備兵の後について行った。
(キーナ・・・)
その後ろ姿を、テルディアスは目で追う。
無事に切り抜けられることを願いながら。
階段の上から見下ろしながら、王は二人を眺めていた。
(不思議な娘だ。何故ダーディンの男の事を信じていられる?)
ダーディンは人を食らう。
最初は脅されてでもして一緒にいるのかと思ったが、すぐに違うようだと思った。
娘の行動が、言動が、表情が、そしてその瞳が、男に対する信頼に満ちているのが分かった。
階段を上って来る娘が、王の顔を見てニコリと笑う。
「王様! 約束だよ!」
と軽々しい口調で語りかけ、先を歩いていた警備兵がギョッとなるが、
「ああ」
と王も笑いながら返した。
冷や汗をかいた警備兵の後を、キーナはテクテクとついて行く。
その姿は階段の上に消えていった。
(そして何故私は、あの娘の言う事を全て受け入れられたのだろう・・・。水の女神クアマ。あなたは何を考えているのだ・・・?)
(多分)出口であるという話を聞き、キーナも元気になる。
とにかくこの真っ暗闇の世界ともおさらばだ。
そうと聞いたら一刻も早くここから抜け出したい!
というキーナの意見にテルディアスも即同意。水路は長いのでできるだけ息を吸うようにと言い聞かせる。
「分かったな? 行くぞ」
「うん」
「1、2の3!」
バシャン!
闇の空間に水音が響く。
ゴボボボ・・・
キーナの耳に水音が聞こえる。
闇の中、水に入るというのもかなり怖いことだが、テルディアスの手がキーナを導いてくれていた。
うっすらと目を開けてみると、遠くの方に光が見えた。
ぐいっと引っ張られた手の先を見ると、うっすらとテルディアスの姿も見て取れた。
テルディアスが泳ぎ始める。キーナもテルディアスに引っ張られながら水を掻く。
(よかったぁ。やっと暗い所から出られるんだ! 暗い所は怖いもんね)
と、キーナの目が水底にある何かを捉えた。
白くボンヤリと、まるで光を放っているかのように見えるそれ。
真ん中辺りに二つの窪みがあり、それがまた不気味さを醸し出していた。
しゃれこうべ、髑髏、頭蓋骨と呼ばれるそれ。
実物を見たのは初めてだった。
驚きのあまり、口から息が大量に漏れ出す。
あ~せっかくの酸素が泡と消えていく・・・なんてうまいことを言っている場合ではない。
あっという間に息が苦しくなってくる。
思わず力が入った手に、テルディアスが異変を感じてキーナを見ると、今にも息が切れそうな顔をしている。
(だからしっかりと息を吸えと言ったろ!)
と身振り手振り。
(あれを見て驚いて息吐いちゃったの!)
とキーナが指さす。
あんなもので・・・と思うが、そう言ってる場合ではない。
行くにも戻るにも丁度中間地点辺りに来ていて、どっちに行っても少し距離がある。
かといって急いだ所で間に合いそうにない。
(仕方ない)
テルディアスがキーナの顔に顔を近づける。
突然近寄ってきたテルディアスの顔に怖じ気づくキーナ。
(こ、心の準備が!!!)
(恥ずかしがっとる場合か!)
否定しようにも息が続かない。
というか意識がやばくなってくる。
(あ・・・だめかも・・・)
(それみろ)
最後の抵抗?とばかりに身を固くするキーナを無視して、テルディアスはその唇を塞いだ。
キーナに空気を分けてやり、そのまま何事もなかったかのように、またキーナの手をとって泳ぎ出す。
キーナは顔を赤くしながらも、テルディアスに遅れまいと足を動かす。
(これで2回目・・・。水難の相でも出てるんかな?)
思ったよりも肉厚で柔らかくて温かいその感触。
あまり思い出していると心臓がドキドキして、余計な酸素を食ってしまうかもしれない、と、キーナは努めて冷静になろうと頑張る。
頑張ってはみたけれども、やっぱりドキドキが収まる気配はなかったりする。
当たり前か。
光が近づいてくる。
水面も見えてくる。
自然と水を掻き分ける手にも力がこもり、水面に手を伸ばす。
ザバアッ
「ぶはっ!」
「ぷはっ!」
テルディアスとキーナが水面に顔を出した。
それと同時に、四方八方から槍の穂先が二人に向けて構えられた。
さほど広くない部屋の真ん中に水路のような穴、それを囲むように警備兵が立ち並び、全員が槍を構えている。
「ダーディン?」
「ダーディンだ!」
「何故こんな所に!」
警備兵達がざわつく。
ただの盗人が現れるかと思いきや、異形の者が顔を出したのだ。驚くのも当然であろう。
テルディアスとキーナは水面から顔を出したままの状態から動けなくなってしまっている。
少しでも動いたらその瞬間に槍で突かれてしまうだろう。
「殺せ!」
誰かが声を上げた。
「ダーディンを生かしておくな!」
逃げられない。
(こんなことろで・・・)
テルディアスが歯噛みする。
魔法を使うにも時間がない、水の中で身動きもとれない。
絶体絶命。
「殺せ!」
槍がテルディアスに迫る。
「だめえ!!」
キーナが叫んでテルディアスを庇う。
ゆらり
と空気が動いた気がした。
パシイ!
何かが弾けたような音がして、警備兵達が吹っ飛んだ。
(今のは・・・、光の力じゃない・・・。だが・・・)
「呪文も唱えず、水の精霊の力を使うとは、お主、水の一族の者なのか?」
突然上から声が降ってきた。
見上げると階段の上の方に青い髪、青い瞳の男が立っていた。
王冠らしきものを被っていることからして、国王ではないかとテルディアスは思う。
だが、なぜ王ともあろう者がこんな所に?
「何故ダーディンに加担している?」
キーナには言っている意味が分からなかった。
水の一族?なんじゃそりゃ?
「なんだかよく分からないけど、これだけは言える。テルはダーディンなんかじゃない!」
テルディアスにとっては嬉しい言葉ではあるけれども、でもどう見ても外見はダーディンですぜ?
「悪い魔女にこんな姿にされちゃったけど、テルは人間だよ!」
力説。
「人間? そんな魔法聞いたこともないな。ダーディンが何故、宝玉を狙うのかは知らんが・・・。お主ら、宝玉が女人しか触れられぬ事を知っていながら、男二人で忍び込んできたのか?」
バシャアッ
キーナが溺れた。
すぐに体勢を立て直す。
「僕は女!!」
「なんと・・・」
王が驚きの表情を表す。
まあそうだよな・・・。と心の中で呟くテルディアス。
噛みつきそうな顔のキーナ。
「なるほど・・・、ではあれは・・・」
王が小さく呟いた。キーナ達には聞こえぬ声で。
「娘よ、お主、本当に水の一族の者ではないのか?」
「違うよ? 何それ?」
さっぱり分からんという顔で答えるキーナ。
嘘をついているようには見えない、というか嘘をつけない顔をしている。
「王様! ・・・だよね?」
後半は小さくテルディアスに確認。
「ああ・・・」
とテル君肯定。
見りゃ王様と分かるだろうが。
「無理なお願いだとは分かってるけど、宝玉をしばらく貸してください」
テルディアスが後ろで溺れた。
王はキョトンとした顔。
まさか正面切って国宝を貸してくれなどという輩がいるとは。
(何を考えてんだこいつは~・・・)
なんとか水面に上がったテルディアス。
足がつりそうになった。
「テルの身体を元に戻す為に必要なんです! 用が済んだら必ず返しますから!」
とキーナ力説。
「き、キーナ・・・」
あまりアホを言うな、とテルディアスが止めようとすると、
「わっはっはっはっは。面白い娘だな! 国王直々に宝玉を貸してくれとは・・・。ワハハハハハハハハハ」
なにやらうけたらしい。
そんなに面白いこと言ったかしら?と不思議がるキーナに、まあなと答えるテルディアス。
テルディアスも足がつりそうになったのであるし。
「娘よ、さすがに宝玉をはいどうぞと貸し与えるわけにはいかんよ」
「やっぱ無理か」
「当たり前だろ」
「だがお主は面白いものを持っているようだ」
王はキーナの顔をじっと見つめ、そして言った。
「水巫女の儀式を、特別にやらせてやろう」
倒れていた警備兵達が驚きの表情を見せる。
「水巫女の儀式?」
「もしその儀式を無事にやり遂げたならば、宝玉を貸してやっても良いぞ」
「え?!」
テルディアスの目が丸くなる。
「ナギタ王?!」
警備兵達が驚きの声を上げる。
「本当?!」
「ああ」
「やったよ! テル!」
キーナが両手を挙げて喜ぶ。
テルディアスの顔が青ざめる。
「ナギタ王! お戯れを!」
警備兵達が必死になって王を説得しようとするが、
「よいのだ」
と一言ばっさり。
みんな王の考えていることが分からない。
一介の盗賊に巫女の儀式をやらせるだけでなく、宝玉を貸す約束までしてしまうなどと。
「お前! 水巫女の儀式がどういうものか知ってて言ったのか?!」
とテルディアスが鬼気迫る顔でキーナに詰め寄るも、
「にゃ? 知らない。どんなの?」
本人はあっけらかんとしている。
「俺も知らんが、一国の王が国宝を軽々しく貸すなど言うはずがないだろう。余程難しいものに違いない。最悪命を落とすことになるかもしれんぞ?」
キーナは目をぱちくり。
「まっさか~」
とケラケラ笑い出す始末。危機意識が足りん。
「どうしてそんなに楽天的なんだ・・・」
しかたない。これがキーナなのだ。諦めれ。
「水巫女の儀式の準備にかかれ!」
「はっ」
王が声を張り上げる。
「男は拘束して会場へ連行しろ。娘は神殿へ連れて行け」
二人が水から上がると、警備兵達がテルディアスを拘束しようと近づいてくる。
「テルに乱暴しないで!」
キーナが立ち塞がる。
「キーナ」
「男に危害は加えるな」
「は」
警備兵達は怖々テルディアスに近づく。
テルディアスも抵抗する様子を見せず、大人しく後ろ手に縄で縛られる。
王がテルディアスの事を「男」と呼んでいることを、一応信じることにしたのだ。
「ダーディン」ではなく「男」。
一応人間扱いされているのだろう。
「あなたはこちらへ」
一人の警備兵がキーナを案内する為に先に立つ。
「テル! 頑張って来るから待っててね」
「ああ、気をつけてな・・・」
キーナはバイバイと軽く手を振ると、警備兵の後について行った。
(キーナ・・・)
その後ろ姿を、テルディアスは目で追う。
無事に切り抜けられることを願いながら。
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(不思議な娘だ。何故ダーディンの男の事を信じていられる?)
ダーディンは人を食らう。
最初は脅されてでもして一緒にいるのかと思ったが、すぐに違うようだと思った。
娘の行動が、言動が、表情が、そしてその瞳が、男に対する信頼に満ちているのが分かった。
階段を上って来る娘が、王の顔を見てニコリと笑う。
「王様! 約束だよ!」
と軽々しい口調で語りかけ、先を歩いていた警備兵がギョッとなるが、
「ああ」
と王も笑いながら返した。
冷や汗をかいた警備兵の後を、キーナはテクテクとついて行く。
その姿は階段の上に消えていった。
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