キーナの魔法

小笠原慎二

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記憶喪失編

洞窟

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森の奥に隠れるに丁度いい洞窟があるということなので、キーナが先に立ち案内する。

「こっちだよ」

鼻歌混じりにに森をルンルンと進んで行くキーナ。
その後ろから大人しくついて行くテルディアス。
キーナのルンルンな後ろ姿を見ながら、テルディアスは考えていた。

(どうしたら取り戻せる? こいつの記憶。ずっと旅してきた。思い入れのある場所もない・・・。いっそのこと川にでも突き落とすか?)

キーナは何故か悪寒を感じた。
キーナと出会ったのは川だった。川で溺れていた所を助けたのだ。
水の王国のこともあるし、もしかしたら水で・・・。

近くに川があったら本当に突き落としていたかもしれないこいつ。

「じゃ~ん、ここだよ!」

キーナが手をかざす方を見ると、なるほど、確かにいい大きさの洞窟。

「ここなら雨風凌げるでしょ?」
「ああ・・・」

奥行きもそこそこある。
雨風を凌ぐくらいなら確かに丁度いいだろう。

(洞窟か・・・)

洞窟での思い出・・・。
竜の巣に入って再会して、勢い余って抱きしめてしまったのだっけ。

テルディアスは思い出したことを足蹴にした。
抱きしめてみればいいのに。クスリ。

「じゃ、僕そろそろ行くね」
「ああ」
「また明日ねー!」

元気よく森の中を走って行く。
その後ろ姿を少し見送った後、テルディアスは行動する。
木の陰に隠れながら、木の枝を飛び移りながら、キーナの後を追う。
キーナは気づかず、走って走って家に辿り着いた。
チョロリっと窓から器用に入っていく。

(怖い物知らずというか、一人で森の奥まで行くなんて、危なっかしいにも程がある。記憶を失っても性格は変わらないな・・・)

森の中で妖魔に出会ってしまうかもしれないし、妖魔でなくても獣が闊歩している。
何が潜んでいるやもしれない中を、平気の平左で駆け抜けていくアホもいたものだ。
いや、キーナだからか・・・。

などと考えているテルディアスの目の前で、部屋に入ったキーナがシャツを脱いで上半身裸(下着は着けてます)になる。
慌てて木の後ろに逃げ込むテルディアス。
せめてカーテンを閉めろとも思うけど、別に外に広がるのは森ばかり、人目なんぞありはしないのだから、カーテンを閉めないのも当たり前なのか?
赤面しながら考え込むテルディアスの背後で、キーナが読者サービスを続行しておりました。
絵で見せられないのが残念です。












夕飯時。

「どこに消えたのか、見つからなかったわ。もしかしたらどこかに行っちゃったのかもしれないわね」
「そ、そーなんだ」
(見つかりませんよーに)

いつもの和やか団らんムード。
しかしキーナの心中は穏やかではなかった。

(お腹空いてないかな?)

心配されているテルディアス君は、木の上からキーナを見守っていたりするのであった。
半月はそんな二人を優しく見守っている。













それから幾日か、同じような日々が過ぎた。
朝、お姉ちゃんがいなくなると、キーナが食事を持ってテルディアスの元へ行く。
テルディアスは先回りして、洞窟で待っている。
しばらく話などをして(一方的にキーナが話していたりもするけど)、キーナが帰って行く。
その後をテルディアスがこっそり護衛して、無事に家まで見届ける。
ということを繰り返した。
そんなある日、キーナが言った。

「どうも最近誰かに見られてる気がするのよね」

ギクリとなるテルディアス。

(こういう所は変に勘がいいな・・・)

ぽへ~っとしている風にしか見えないのに。
そしてその日もまた、キーナが帰りの途につく。
テルディアスは慎重に後を付けていった。
気配を殺し、なるべく樹上から。
鼻歌混じりに早足で歩いていたキーナが、突然くるりとこちらに振り向く。
一瞬目が合った気がした。
顔を引っ込める。

(気づかれた?! いや、だが、まさか・・・、しかし・・・)

普通の者なら気づくはずはない。だが、あのキーナだ。
まぐれで振り向いただけかもしれないと、そっと様子を伺うと、

(いない?!)
「何してんの?」

真後ろから声がした。
びっくりし過ぎて心臓が飛び出しそうになり、足が滑った。
そのまままっさかさま。

突然のことで体勢を整える間もなく、顔から地面に着地した。
これは痛い。

「怪我ない?! 大丈夫?!」

木に登っていたキーナが急いで降りてくる。

「ああ・・・」
(いつの間に・・・?!)

気配など感じなかったぞ?

「視線感じたからさ~、登ってみたらいるんだもん。もしかして今までずっと?」

テルディアスは黙秘権を行使した。
だがそれは肯定してるも同じ事。

「ダメじゃん! 洞窟出ちゃ! 見つかったら殺されちゃうかもしれないんだよ!」

偉そうに説教をたれるキーナ。

(森の中を一人で帰って行くお前の方が危なっかしいんだよ)

と言いたいが、きっとキーナは、

「大丈夫だよ! 今までも何にもなかったもん」

とか言うに違いない。

「ほら、戻って戻って!」

テルディアスの背中をグイグイ押しながら、洞窟へと押し返す。
洞窟へと来ると、

「いい? 出ちゃ駄目だからね!」

と念押し。
そのまま行こうとして、クルリと振り向くと、

「出ちゃダメだよ?」
「分かったよ」

また少し行ってクルリと振り向くと、

「出ちゃダメだよ?」
「分かったって」

まただいぶ行ってクルリと振り向くと、

「出ちゃダメだよ?」
「しつっこいわ!」

そしてその姿がチラチラと木陰に見えなくなっていき、

(仕方ない・・・、後で姿が見えなくなったら追いかけるか・・・)

と考えていた横から、

「後で姿が見えなくなってから追いかけようなんて思ってないよね?」

テルディアス、びっくりして飛び跳ねた。

「どこから生えた?」
「僕はキノコじゃないよ」

分身ではありません。
そんなことがあったので、洞窟から動けなくなってしまったテルディアス。

「仕方ない・・・か」

大人しく洞窟で横になる。
一応何かあったらいつでも動けるようにしながら。















軽いランニングくらいの早さで、キーナが森の中を駆けていく。
ダーディンさんを洞窟に押し込めるので遅くなってしまった。
チョロリっと家に潜り込むと、お姉ちゃんはまだ帰っていないようだった。
ほっとしながらも急いで着替える。
そしてふと気づく。

(なんだか、いつもと違う・・・)

いつも側にあったものがなくなっているような感覚。

(見つめられてた? ううん。見守られてた?)

暮れてゆく空が、なぜか不安感をさそう。

(なんだかいつもより、夜が深く感じられる・・・)

輝き始めた満月に近い月明かりが、いつもよりハッキリと影を作り出し始めていた。












(あいつの記憶が戻らなかったら、俺は、どうしたらいい?)

洞窟の入り口に座り込むテルディアスを、月の光が冴え冴えと照らし出す。

(また・・・、一人で旅をするのか? だが・・・、あいつは・・・、あいつがいなければ・・・、俺は・・・)

キーナは光の御子だ。
もしその力が覚醒したら、すぐにでもこの呪いを解いてもらいたい。
その為にはやはり傍にいたい。
それよりもなによりも、テルディアスはキーナに傍にいて欲しかった。

キーナと別れて旅をしたあの数日。
思い知った孤独。
人が側にいる暖かさを改めて思い知った。
自ら手放した。
あの時はしょうがなかった。
魔女に追われていたから。
今改めて手放せと言われても、もうできない。したくない。
独りに戻るかもしれない恐れが、テルディアスを悩ませた。

















ベッドに月明かりがうっすらと入り込む。
カーテンの隙間から月の光が差し込んでいた。
その明かりを見ながら、キーナは布団を握りしめていた。

(なんだろう・・・。眠るのが怖い・・・)

月明かりがこんなにも明るいのに、なぜか怖くて怖くてたまらなかった。
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