72 / 296
キーナのバイト
グリスタ
しおりを挟む
一夜明け、森の中にも木々の隙間から朝日が差し込んできた。
三人の男達も、軽く朝食を取って動き出す。
「とうとう朝になっちまったな~」
「余程兄貴が怖いんですね!」
ゲラゲラと下品に笑いながら森の中を歩いて行く。
それを樹上から見下ろすテルディアス。
不意に、空気が変わった。
(妖気・・・。来たな・・・)
テルディアスは三人を見失わないよう、できるだけ気配を殺して近づいていった。
三人の男達が草木を掻き分け森を進むと、木立の影からしくしくと女の泣き声が聞こえてきた。
覗いてみると、女が一人、こちらに背を向け、うずくまって泣いている。
「お嬢さん、こんな所で何してんだい?」
リーダー格の男が話しかける。
「道に迷って、お腹が空いてしまって・・・」
女は弱々しく泣き続ける。
「だったら俺達のをやるよ。たんと食いな」
そう言うと、子分と思わしき男が、食料の入った袋を掲げた。
「え・・・? あなた達を・・・」
女が振り向く。
「いただいていいんですかぁ?」
耳まで裂けた口、ぎっしりと生えそろった鋭い牙。女が男達を見てその口でニヤリと笑った。
「うわあああ!」
子分が悲鳴を上げる。
「グ、グリスタか?!」
リーダー格の男が背中の剣に手を伸ばした。
だが抜くことはできなかった。
グリスタは素早く動くと、リーダー格の男を頭から丸呑みにしてしまう。
ズブリ
美味そうな音を立て、グリスタが男を飲み込んだ。
「ああ・・・、美味しい・・・。人間の恐怖は、なんと美味か・・・」
女の姿を保ったまま、その耳まで裂けた口でニヤリと笑う。
と、女の頭の右半分がボコボコと波打ち、先程呑まれたリーダー格の男の顔が浮かび上がる。
「た・・・たすけ・・・て・・・」
苦悶に満ちた顔。
掠れたような声。
「あ、兄貴?!」
子分達が叫ぶ。
だが、頼みの綱の兄貴が最初にやられてしまったのだ、最早手も足も出ないだろう。
樹上からその様子を眺めていたテルディアス。
(人語を繰り、変化もする・・・か。名が付くだけあってこれは手強いな・・・)
妖魔はその形こそ様々であるが、多くの雑魚妖魔は動物のように唸ったり吠えたりすることはあるが、喋ることはない。
そして、妖魔はすべて黒い体、塊である。
闇から生まれたその物体は、生あるものを飲み込み、その恐怖などを糧に成長していく、と師匠に教えられた。
特に人は感情豊かな生物であり、人を何人も飲み込んだ妖魔は、人語を話したり、変化したりできるようになるらしい。
人語を解すということは、人の考えも理解し始める。
つまり、戦いも一筋縄ではいかないだろう。
テルディアスは気配を殺し、機会を待つ。
下では、二人の男達が震える足でなんとか踏みとどまっていた。
「さあ、お前達の、命もおくれ」
グリスタがベロリと長い舌を這わす。
一人は腰が抜けたのか、ヘナヘナと座り込んでしまった。
もう一人は震える手でなんとか腰の剣を抜き放つ。
「う・・・あ・・・、兄貴、兄貴を、兄貴を返せ! 化け物!」
完全に腰が引けている。
グリスタが迫り、男が剣を振り上げる。
「うああああああ!!!」
振り下ろした剣は空を切る。
直前でグリスタが左へ避け、素早く男の後ろへ回り込んだ。
ゾブ!
「ぎゃああああ!!!」
肩口に噛みつかれ、悲鳴を上げる。
その時、樹上からテルディアスがグリスタ目がけて一直線に飛び降りて来た。
男の肩を骨ごと抉り取りながら、間一髪でグリスタが避ける。
ズド!
「ち」
テルディアスの剣はあと少しの所で地面に突き刺さった。
素早く体勢を整える。
「もう一匹いたか・・・」
グリスタが人の形を解いて、四つ足の豹のような体型になっている。
だが首は首長竜のようにひょろりと長く、頭からは耳のように角が生え、顔は蛇のようだった。
グリスタがテルディアスを見てニタリと笑う。
「少しは楽しめそうだな・・・」
グリスタも体勢を整える。
「おい、一応忠告しておいてやる。巻き込まれて死にたくなければ、逃げろ」
生き残って震えていた男に声をかけた。
「あ・・・あ、は、はい!」
返事を待たずテルディアスは駆け出す。
グリスタも突入してくる。
剣とグリスタの鋭い爪がぶつかり合う。
生き残った男は震える体をよたよたと動かし、肩から血を流して倒れている仲間の元へ這い寄る。
「タッダ・・・、タッダ!」
名を呼びながら肩を揺らすと、
「う・・・」
うめき声が漏れる。
「良かった・・・、生きて――」
その先の言葉はグリスタの口の中へ消えた。
頭のなくなった男の体が、ゴトリと倒れた。
グリスタがベロリと、口の周りに付いた血を舐める。
「一人も逃しはしないよ」
(逃げろと忠告してやったのに)
テルディアスにとってはどうでもいい人間だった。
忠告したのに逃げなかったのだ。あの男の自己責任だ。
「フン」
そしてまた、グリスタに向かって踏み込む。
グリスタもその牙を爪を、容赦なくテルディアスに向けた。
「いらっしゃいませ―!」
キーナの声が店に響いた。
昨日と同じ短いスカートのメイド服に、ツインテールにニーハイソックスの出で立ち。
店の中は不思議なことに、お客で溢れかえっている。
そして一様に皆キーナをポワンとした目で見つめていた。
「大盛況だな・・・」
「本当に・・・。ただし、男ばっかだけど」
お客は皆、男だった。
この店を開いて以来、こんなに席が埋まったことはない。
そして、店の外にも順番待ちの行列ができていた。
名残惜しそうに客が出て行くと、すぐに新規の客が入ってくるので、朝からてんてこ舞いだった。
中には何品も頼んで時間稼ぎをしている奴もいたが、そういう奴には女将さんが睨みをきかせたりして、出て行ってもらうこともあった。
とにかく待ってる客をどうにか処理したいのだが、何故か行列は消えるどころかどんどん長くなっていく。
しかも一回出ていった客がまた入ってくる事もあった。
その客全員が、まったくもってキーナ目当てであることは間違いない。
キーナが水を運んで注文を取りに行くと、皆ポワンとキーナを見ながら、ちょっと料金が張る料理を頼む。
すぐ傍を通り抜ける度に顔がつられて動く。
とにかく皆がキーナに見惚れていた。
ところがどっこい、キーナは忙しくてそのことにあまり気付いていない。
接客の基本である笑顔を崩さないように、朝からくるくるとよく働いていた。
その念頭にはいつもテルディアスのことがあったし。
(テル、遅いなぁ・・・。見つからないのかなぁ・・・。意外と強いのかなぁ・・・。まさか・・・)
テルディアスが血を流して倒れている姿を想像してしまう
(んーにゃ! テルは強いもん! 絶対大丈夫!)
と変な考えを振り払い、ガッツポーズ。
「おーいキーナちゃん。5番テーブル上がったぜ」
「あ、はーい」
テルディアスの心配をしながら、キーナはお店の中を動き回る。
ザザザザ!
吹き飛ばされて地面に足を付ける。
殺しきれなかった衝撃が足元で砂埃を上げる。
フードはいつの間にか衝撃で取れていた。
だが誰も見る者もいない森の中。
それに戦闘中はない方が、視野が広がって戦いやすい。
グリスタがまた向かってくる。
テルディアスも地を蹴る。
その爪が振り下ろされる瞬間、地面を蹴り上げ、グリスタの頭上を飛び越える。
「死角となる背を狙うか。なるほど、戦い慣れしている。だが、人は人であるが故に弱いものだ」
ボコボコとグリスタの背が波打ち、リーダー格の男の顔が浮かび上がった。
「た・・・、たすけ・・・て・・・くれ・・・」
「!」
涙を流しながらその男はテルディアスを見つめる。
「これでおいそれと剣を突き立てることはできまい!」
ゲゲゲゲゲとグリスタが笑った。
しかし、
ズド!
「ゲ?!」
テルディアスの剣が男の頭に深々と突き刺さっていた。
男の頭が割れ、血が噴き出す。
「バカな! わざわざ同族に刃を突き立てるなど!」
グリスタが尾を使い、背中に降り立ったテルディアスを叩こうとするが、テルディアスはすでに飛び退っていた。
「貴様・・・。人間ではないのか?!」
テルディアスがマスクを取った。
「外見はダーディンだが、中身は確かに人間だ。だがそんな人間、俺には関係ない。元より、お前をおびき寄せる餌として泳がせていただけだ」
冷たく言い放った。
「むう・・・。なるほど、面白い」
グリスタが再び迫る。
テルディアスも迎え撃つ。
その口が、悟られないように小さく動いていた。
「普通の人間の戦い方ではいかんのだな!」
そう言い放った途端、風がテルディアスに押し寄せた。
それに気付いたテルディアスは急遽ブレーキを踏むが・・・。
ガラーン!
「ご、ごめんなさい!」
キーナが持っていたお盆を取り落とした。
「大丈夫? キーナちゃん!」
女将さんが心配して声をかける。
やっぱり働かせ過ぎたかしらとチラリと考える。
「だ、大丈夫大丈夫・・・」
笑顔で誤魔化し、仕事に戻る。
すると、近場のテーブルに座っていた男が、
「大丈夫? キーナちゃん」
と声をかけてきた。
「うん。ありがと」
にっこりと笑顔で返す。
男はその笑顔に気絶しそうになる。
すると店中から、
「大丈夫か? キーナちゃん」
「大丈夫? キーナちゃん」
「大丈夫?」
「大丈夫?」
と大合唱になった。
「大丈夫だってば・・・」
さすがのキーナもちょっと唖然とした。
「じゃあ結婚してくれ!」
と騒ぎに混じって言ったバカもいたが、キーナの耳には届かなかった。
「誰だ今の?!」
女将さんがお客達を睨み付ける。
途端に静かになった。
キーナの小さな胸によぎった不安。
(僕は大丈夫だけど・・・。テル・・・)
なんだか嫌な予感がするが、今は信じて待つしかなかった。
三人の男達も、軽く朝食を取って動き出す。
「とうとう朝になっちまったな~」
「余程兄貴が怖いんですね!」
ゲラゲラと下品に笑いながら森の中を歩いて行く。
それを樹上から見下ろすテルディアス。
不意に、空気が変わった。
(妖気・・・。来たな・・・)
テルディアスは三人を見失わないよう、できるだけ気配を殺して近づいていった。
三人の男達が草木を掻き分け森を進むと、木立の影からしくしくと女の泣き声が聞こえてきた。
覗いてみると、女が一人、こちらに背を向け、うずくまって泣いている。
「お嬢さん、こんな所で何してんだい?」
リーダー格の男が話しかける。
「道に迷って、お腹が空いてしまって・・・」
女は弱々しく泣き続ける。
「だったら俺達のをやるよ。たんと食いな」
そう言うと、子分と思わしき男が、食料の入った袋を掲げた。
「え・・・? あなた達を・・・」
女が振り向く。
「いただいていいんですかぁ?」
耳まで裂けた口、ぎっしりと生えそろった鋭い牙。女が男達を見てその口でニヤリと笑った。
「うわあああ!」
子分が悲鳴を上げる。
「グ、グリスタか?!」
リーダー格の男が背中の剣に手を伸ばした。
だが抜くことはできなかった。
グリスタは素早く動くと、リーダー格の男を頭から丸呑みにしてしまう。
ズブリ
美味そうな音を立て、グリスタが男を飲み込んだ。
「ああ・・・、美味しい・・・。人間の恐怖は、なんと美味か・・・」
女の姿を保ったまま、その耳まで裂けた口でニヤリと笑う。
と、女の頭の右半分がボコボコと波打ち、先程呑まれたリーダー格の男の顔が浮かび上がる。
「た・・・たすけ・・・て・・・」
苦悶に満ちた顔。
掠れたような声。
「あ、兄貴?!」
子分達が叫ぶ。
だが、頼みの綱の兄貴が最初にやられてしまったのだ、最早手も足も出ないだろう。
樹上からその様子を眺めていたテルディアス。
(人語を繰り、変化もする・・・か。名が付くだけあってこれは手強いな・・・)
妖魔はその形こそ様々であるが、多くの雑魚妖魔は動物のように唸ったり吠えたりすることはあるが、喋ることはない。
そして、妖魔はすべて黒い体、塊である。
闇から生まれたその物体は、生あるものを飲み込み、その恐怖などを糧に成長していく、と師匠に教えられた。
特に人は感情豊かな生物であり、人を何人も飲み込んだ妖魔は、人語を話したり、変化したりできるようになるらしい。
人語を解すということは、人の考えも理解し始める。
つまり、戦いも一筋縄ではいかないだろう。
テルディアスは気配を殺し、機会を待つ。
下では、二人の男達が震える足でなんとか踏みとどまっていた。
「さあ、お前達の、命もおくれ」
グリスタがベロリと長い舌を這わす。
一人は腰が抜けたのか、ヘナヘナと座り込んでしまった。
もう一人は震える手でなんとか腰の剣を抜き放つ。
「う・・・あ・・・、兄貴、兄貴を、兄貴を返せ! 化け物!」
完全に腰が引けている。
グリスタが迫り、男が剣を振り上げる。
「うああああああ!!!」
振り下ろした剣は空を切る。
直前でグリスタが左へ避け、素早く男の後ろへ回り込んだ。
ゾブ!
「ぎゃああああ!!!」
肩口に噛みつかれ、悲鳴を上げる。
その時、樹上からテルディアスがグリスタ目がけて一直線に飛び降りて来た。
男の肩を骨ごと抉り取りながら、間一髪でグリスタが避ける。
ズド!
「ち」
テルディアスの剣はあと少しの所で地面に突き刺さった。
素早く体勢を整える。
「もう一匹いたか・・・」
グリスタが人の形を解いて、四つ足の豹のような体型になっている。
だが首は首長竜のようにひょろりと長く、頭からは耳のように角が生え、顔は蛇のようだった。
グリスタがテルディアスを見てニタリと笑う。
「少しは楽しめそうだな・・・」
グリスタも体勢を整える。
「おい、一応忠告しておいてやる。巻き込まれて死にたくなければ、逃げろ」
生き残って震えていた男に声をかけた。
「あ・・・あ、は、はい!」
返事を待たずテルディアスは駆け出す。
グリスタも突入してくる。
剣とグリスタの鋭い爪がぶつかり合う。
生き残った男は震える体をよたよたと動かし、肩から血を流して倒れている仲間の元へ這い寄る。
「タッダ・・・、タッダ!」
名を呼びながら肩を揺らすと、
「う・・・」
うめき声が漏れる。
「良かった・・・、生きて――」
その先の言葉はグリスタの口の中へ消えた。
頭のなくなった男の体が、ゴトリと倒れた。
グリスタがベロリと、口の周りに付いた血を舐める。
「一人も逃しはしないよ」
(逃げろと忠告してやったのに)
テルディアスにとってはどうでもいい人間だった。
忠告したのに逃げなかったのだ。あの男の自己責任だ。
「フン」
そしてまた、グリスタに向かって踏み込む。
グリスタもその牙を爪を、容赦なくテルディアスに向けた。
「いらっしゃいませ―!」
キーナの声が店に響いた。
昨日と同じ短いスカートのメイド服に、ツインテールにニーハイソックスの出で立ち。
店の中は不思議なことに、お客で溢れかえっている。
そして一様に皆キーナをポワンとした目で見つめていた。
「大盛況だな・・・」
「本当に・・・。ただし、男ばっかだけど」
お客は皆、男だった。
この店を開いて以来、こんなに席が埋まったことはない。
そして、店の外にも順番待ちの行列ができていた。
名残惜しそうに客が出て行くと、すぐに新規の客が入ってくるので、朝からてんてこ舞いだった。
中には何品も頼んで時間稼ぎをしている奴もいたが、そういう奴には女将さんが睨みをきかせたりして、出て行ってもらうこともあった。
とにかく待ってる客をどうにか処理したいのだが、何故か行列は消えるどころかどんどん長くなっていく。
しかも一回出ていった客がまた入ってくる事もあった。
その客全員が、まったくもってキーナ目当てであることは間違いない。
キーナが水を運んで注文を取りに行くと、皆ポワンとキーナを見ながら、ちょっと料金が張る料理を頼む。
すぐ傍を通り抜ける度に顔がつられて動く。
とにかく皆がキーナに見惚れていた。
ところがどっこい、キーナは忙しくてそのことにあまり気付いていない。
接客の基本である笑顔を崩さないように、朝からくるくるとよく働いていた。
その念頭にはいつもテルディアスのことがあったし。
(テル、遅いなぁ・・・。見つからないのかなぁ・・・。意外と強いのかなぁ・・・。まさか・・・)
テルディアスが血を流して倒れている姿を想像してしまう
(んーにゃ! テルは強いもん! 絶対大丈夫!)
と変な考えを振り払い、ガッツポーズ。
「おーいキーナちゃん。5番テーブル上がったぜ」
「あ、はーい」
テルディアスの心配をしながら、キーナはお店の中を動き回る。
ザザザザ!
吹き飛ばされて地面に足を付ける。
殺しきれなかった衝撃が足元で砂埃を上げる。
フードはいつの間にか衝撃で取れていた。
だが誰も見る者もいない森の中。
それに戦闘中はない方が、視野が広がって戦いやすい。
グリスタがまた向かってくる。
テルディアスも地を蹴る。
その爪が振り下ろされる瞬間、地面を蹴り上げ、グリスタの頭上を飛び越える。
「死角となる背を狙うか。なるほど、戦い慣れしている。だが、人は人であるが故に弱いものだ」
ボコボコとグリスタの背が波打ち、リーダー格の男の顔が浮かび上がった。
「た・・・、たすけ・・・て・・・くれ・・・」
「!」
涙を流しながらその男はテルディアスを見つめる。
「これでおいそれと剣を突き立てることはできまい!」
ゲゲゲゲゲとグリスタが笑った。
しかし、
ズド!
「ゲ?!」
テルディアスの剣が男の頭に深々と突き刺さっていた。
男の頭が割れ、血が噴き出す。
「バカな! わざわざ同族に刃を突き立てるなど!」
グリスタが尾を使い、背中に降り立ったテルディアスを叩こうとするが、テルディアスはすでに飛び退っていた。
「貴様・・・。人間ではないのか?!」
テルディアスがマスクを取った。
「外見はダーディンだが、中身は確かに人間だ。だがそんな人間、俺には関係ない。元より、お前をおびき寄せる餌として泳がせていただけだ」
冷たく言い放った。
「むう・・・。なるほど、面白い」
グリスタが再び迫る。
テルディアスも迎え撃つ。
その口が、悟られないように小さく動いていた。
「普通の人間の戦い方ではいかんのだな!」
そう言い放った途端、風がテルディアスに押し寄せた。
それに気付いたテルディアスは急遽ブレーキを踏むが・・・。
ガラーン!
「ご、ごめんなさい!」
キーナが持っていたお盆を取り落とした。
「大丈夫? キーナちゃん!」
女将さんが心配して声をかける。
やっぱり働かせ過ぎたかしらとチラリと考える。
「だ、大丈夫大丈夫・・・」
笑顔で誤魔化し、仕事に戻る。
すると、近場のテーブルに座っていた男が、
「大丈夫? キーナちゃん」
と声をかけてきた。
「うん。ありがと」
にっこりと笑顔で返す。
男はその笑顔に気絶しそうになる。
すると店中から、
「大丈夫か? キーナちゃん」
「大丈夫? キーナちゃん」
「大丈夫?」
「大丈夫?」
と大合唱になった。
「大丈夫だってば・・・」
さすがのキーナもちょっと唖然とした。
「じゃあ結婚してくれ!」
と騒ぎに混じって言ったバカもいたが、キーナの耳には届かなかった。
「誰だ今の?!」
女将さんがお客達を睨み付ける。
途端に静かになった。
キーナの小さな胸によぎった不安。
(僕は大丈夫だけど・・・。テル・・・)
なんだか嫌な予感がするが、今は信じて待つしかなかった。
0
あなたにおすすめの小説
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています
空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。
『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。
「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」
「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」
そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。
◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)
神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた
黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。
そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。
「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」
前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。
二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。
辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる