キーナの魔法

小笠原慎二

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赤い髪の女編

シュバルティ一家

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「なあんだ、だったら、メリンダさんに案内してもらった方が早いじゃない」

あっさりと結論を言ってしまうキーナ。
それはそうなんだけどと困る二人。

「だめなの?」

とキーナが潤んだ瞳でメリンダを見つめる。
その顔にハートがズッキュンしてしまうメリンダ。

(ハアアアア~~~。可愛いいいいいい~~~~)

と密かに悶える。

(あたしってば、どうしちゃったのかしら? 女の子相手にドキドキするなんて)

今までに可愛い子がいなかったわけではない。
だがしかし、ここまで胸がときめくことはなかった。

「メリンダさん?」
「あ? は、はいっ!」

期待の眼差しを純粋に向けてくる。
その顔を直視できない。

(こ、断れない・・・。こ、断りにくい・・・。でも、でも・・・、あたしには・・・!)
「・・・ごめんね。あたし、この街を離れるわけにはいかないの」

やっと言葉を絞り出す。

「なんで?」
「それは、大人の事情ってやつね」

そう言って席を立った。

「お役に立てなくてごめんなさい」
「メリンダさん!」
「さよなら」

少し悲しそうな笑顔を見せて、メリンダは部屋を出て行った。

(あたしがこの街を離れるわけにはいかない! 皆の為に!)

出てきた扉を振り返り、

(ごめんね)

と心で呟いて、メリンダはその場から去って行った。

















「メリンダさん行っちゃった」
「仕方ない。あの女にはあの女の事情がある。とにかく、あの女から火の村のことを聞き出して、なんとか俺達だけで・・・」
「んーにゃ! メリンダさんに案内してもらう!」

きっぱりキーナが言い放つ。
どこから出てくるんだその自信。

「だからあの女は無理だと・・・」
「なんとかして説得する!」
「あのなぁ」

そのまま二人はやいのやいのと言い合った。
まあ、話がまとまることはなかったのだけれども。





















早朝。
まだやっと人々が活動を始めた頃。
お馴染みの飲み処、言ってみればバーみたいな所で、一人メリンダが朝からお酒を嗜んでいた。
ちびちびと口をつけながら、時折溜息を吐く。

「どうしたい? 昨夜の客はそんなに良くなかったのかい?」

顔なじみのマスターが心配してメリンダに声をかける。

「ん~、ま~ね~」

気の抜けた返事を返しながら、ちびりちびりと酒を舐める。

カラララン

と扉のベルが鳴り、誰かが入って来た。

「いらっしゃい」

マスターが声をかけると、顔なじみの娼婦のカーヴィラが手を上げた。
メリンダの隣に腰を下ろす。

「驚いたわ。あんたが朝から一人で飲んでるって聞いて」
「カーヴィラ・・・」

誰かから聞いてやって来たらしい。

「何かあったの?」

いつものをマスターに頼む。
心得たようで、もうマスターは準備していた。

「うん・・・」

メリンダが目を伏せた。
手元のお酒を軽く回す。

「カーヴィラ」
「ん?」
「あたし・・・、女の子もいける口だったのかしら?」

カーヴィラが口に含んだ酒を思わず噴き出してしまった。
マスターも拭こうとしていた皿を取り落としてしまう。

ガッチャン

皿の割れる音がした。

「冗談よ冗談」

グラスの中に向かって噴き出した為、幸い(?)にも自分の顔がびしょ濡れになるだけで済んだけど、アルコールの臭いがカーヴィラから漂い出す。
マスターが布巾を差し出してくれた。
何という心遣い。
それで顔を拭きながらカーヴィラが尋ねる。

「何かあったの?」

メリンダがこんな冗談を言うのも珍しい。

メリンダは昨夜のことを思い出していた。

(「メリンダさん」)

と人懐っこい顔をして笑いかけてくる少女の顔。

(あの子の顔が、焼き付いて離れない・・・)

今すぐにでも飛んで行きたかった。
側に居て守ってあげたかった。
できるなら村まで案内してあげたかった。

「昨夜の男、女だったとか?」

事情を知らぬカーヴィラが問いかける。

「ううん。いい男ではあったわ。その男にくっついてた女の子がね、とても可愛かった」

カーヴィラはまさかという想像をしてしまった・・・。

「で?・・・」

それで目覚めてしまったとか・・・?

「頼まれたのよ」

そういうプレイを?!

「あたしの生まれた村まで案内してくれって・・・」

カーヴィラはちょっとほっとした。
そういうことではないらしい。

「でも、あたしは、この街を離れるわけにはいかないから・・・」

その言葉にハッとする。

(メリンダ・・・)

カーヴィラはグラスを持つ手に力を入れた。
だからといってグラスは割れません。

カーヴィラは常々思っていた。
自分と同じくらいの女の子(子をつけていいのかは悩むが)が、一人で街を守っていることに。
たった一人に、そんな重荷を背負わせてしまっていいのだろうか。
彼女はいつも明るく笑っているが、本当は苦しんでいるのではないか。
安心して暮らせるようになったことには感謝しているが、彼女の幸せを考えるなら、何か別の策を取った方がいいのではないか・・・。
だが、いくら考えても、別の策など思い浮かばない。
だがしかし、彼女の人生を奪う権利は自分たちにはない。

「行きなさいよ」

カーヴィラが少し冷たく言い放つ。

「え?」

メリンダが顔を上げた。

「シュバルティ一家の問題は、元々この街の問題。よそ者のあんたが関わることじゃなかったのよ」
「カーヴィラ?」
「いつまでもあんた一人に背負わせてるわけにはいかない!街の皆と話して、あたし達の力で解決しないと!」
「でも、あいつらには力のある魔導師もいるし・・・」
「なんとかするわよ!」

カーヴィラが自分のグラスを睨み付ける。

「あたし達だって、いつかはなんとかしなくちゃって思っていたもの」
「でも・・・」
「あんた、いい人ができてもそんなこと言うつもり?」
「!」
「将来いい人が見つかって、この街を出たいと思った時、街の為に男を捨てられるの?!」

メリンダは何も言えなくなってしまった。

「そういうことよ。遅かれ早かれ、いつかは考えなければいけないことなんだもの」

カーヴィラがグラスに残っていた酒を一気に仰いだ。

「いい機会よ。出て行きたければいつでも出て行きなさい。元々あんたは、よそ者なんだから」

カーヴィラの厳しい言い方の中に、その優しさが見え隠れして、メリンダは胸が痛んだ。

(よそ者か・・・。そうね。結局あたしはよそ者なのよね。でも、どう考えてもこの街の人達だけじゃ、あいつらに対抗するのは無理・・・。でも、だったらあたし、本当にカーヴィラの言う通りいい人が現われた時、あたし街の人の為に、その人を捨てるなんてできるの?!)

二人の間に微妙な沈黙が流れ始めた時、

カラララン

と音がして、扉が開いた。

「いらっしゃい」

マスターがこれ幸いと声をかける。
すると、

「おや? そこにいるのはメリンダちゃん?」

とその入って来た人物が、メリンダを馴れ馴れしく呼んだ。
振り向いたメリンダがそこに立つ人物を見て声を上げる。

「あなたは・・・!」



















「すごいね、テル」
「何がだ?」
「だって街中誰に聞いてもメリンダさん知ってんだもん」
「ああ、そうだな」

とりあえずメリンダの居場所を押さえようということで、街に繰り出している二人。
その辺りの人を捕まえて尋ねると、誰も彼もがメリンダを知っていると答える。

「あの女がこの街に来て、それまでこの街にはびこっていたシュバルティ一家とやらを追い出してくれたと、聞いてもいないのに皆言ってくるからな」
「うにゃ」

メリンダを知っているか?
と尋ねると、決まって皆言うのだ。
彼女のおかげでこの街は安心して暮らせるようになったと。
塒まで知っているというのはなかなかいなかったけれど。

「「メリンダさんが来てから安心して暮らせるようになった」ってね」

キーナが我が事のように嬉しがる。

「だからあの女に道案内を頼むのは無理だろう」
「う・・・」
「あの女がこの街からいなくなったら、またシュバルティ一家がやってくるだろう。
 つまりあの女はこの街から離れられない」
「うう・・・」

キーナにもその辺りはうすうす理解し始めていた。

「でもでも~、だって~」
「いい加減現実を認めろ」

メリンダさんはこの街を離れられない。
だがしかし、メリンダさんに道案内を頼みたい。
どうすればいいのか分からないけれど、とりあえずメリンダさんを見つけなければ先へ進めない。
何かいい策はないかと考えるキーナの耳に、遠くから大きな音が聞こえた。

「爆発音?」
「みたいだな」

どこかでガスでも爆発したのかしら?
いや、この世界にはガスがないか。

「俺達には関係ない。行くぞ」
「・・・」

キーナはなんとなく、火の精達が騒いでいるように感じられた。

(気のせいかな? どこかで誰かが大きな魔法を使ってる?)
「キーナ?」

呼ばれてハッとして、

「ホワイッチュ!」

変な返事をしてしまう。
いや、元からか。

「あの女を早く探し出さにゃならんのに、何をぼーっとしている」
「ウニャニャ、ニャンでもニャいん」

慌ててテルディアスを追いかける。
そして二人は、夕暮れまで街中を、メリンダを求めて歩き回った。






















爆発音が聞こえた頃。
街から少し離れた場所で、幾人もの人達が、たった一人相手に戦っていた。
だが、その戦力差はありすぎた。
雇っていた魔導師達は薙ぎ払われ、仲間達もあっという間に倒されていく。
残った幹部らが、その人物がとある者の使いだと語った時に出た名前に、皆一様に青ざめた。
何故そんな人物がこんな小さな組織に目を向けるのか?
誰も答えを知らない。

「い、命ばかりは・・・」

と命乞いをする幹部達を眺めながら、その人物はにやりと笑うと、

「ならば・・・」

と条件を出した。
シュバルティ一家は、この日を境に、急速に力を失っていった。
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