キーナの魔法

小笠原慎二

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赤い髪の女編

返してくれ

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ダンッ!

水の結界を手放してテルディアスが宙に躍り出た。
結界は一瞬で蒸発してしまった。
これで大丈夫!と思ったのもつかの間、上空から炎の鎌首がテルディアス目がけて走る。
宙に浮いたテルディアスには為す術がない。
このままでは、テルディアスは炎に呑まれてしまう!
そうなったら・・・

「だめ―――!」

キーナが叫んだ。







白い光が辺りに満ちた。










「だめ―――!」

その叫び声を聞き、体がビクッと反応する。
炎の鎌首はピタリと動きを止めた。
金縛りにあったかのように、メリンダは動けなくなっていた。












ピタリと炎の鎌首が動きを止めた。
テルディアスはそのまま、地面に無事に降り立った。
赤い髪の女の後ろに、広い光を纏ったキーナの姿が見えた。











『やめて。その人を傷つけないで』

メリンダは強ばる体をゆっくりと後ろに振り向かせる。
そこには、白い光を纏い、白く長い髪を揺らして、一人の少女が立っていた。

「は・・・、はい!」

メリンダは纏っていた炎を消し、その場に跪いた。

(な、何? なんなの? 一体何が起こってるの?)

何故自分がその少女の言葉に素直に従っているのか分からない。
だが、従わなければならない気がした。
魂の深い所で、彼女という存在を認めている気がした。

(そう、なんだか・・・、なんだか・・・)

少女がゆっくりと近づいてきて、メリンダの顔に手をかける。
見上げた先に、白い光を纏った少女の無機質な顔。

(懐かしいような・・・、嬉しいような・・・、なんとも言えない・・・)

その時、少女がにこっと微笑んだ。
その笑顔は今まで見た中で一番可愛くて美しくて・・・。

ドッキューン!

メリンダのハートを鷲掴みにした。

(ああ・・・もう・・・、あたしを好きにして――――ん)

今ならば、例えどこに堕ちようとも構わない、とメリンダは思えた。
白い光がフッと消え、少女が少年の姿に・・・、いや、よく見れば髪が短い少女の姿になっていた。
少女の体がゆっくりとメリンダに向かって倒れてくる。

「あわわわわ、あらららら」

自分でもよく分からない言葉を発しながら、少女の体を抱き留めた。
少女がうっすらと目を開け、メリンダを見る。

「火の・・・、一族の・・・、人でしょ?」

少女が少し苦しそうに、切れ切れに言葉を発した。

「え? うん! そう! はい! もちろん!」

なぜか緊張して余計に言葉を発してしまう。

「お願い・・・、テルの・・・、姿を・・・、元に、戻すのに・・・、宝玉が、必要なの・・・。力を・・・貸し・・・て・・・」

そのまま少女は気を失った。
いや、ただ眠っただけかもしれない。

ざ・・・

背後にダーディンが立った。
振り向くと、穏やかな顔をしたダーディン。

「返してくれ」

その言葉に、危険は感じられなかった。
むしろ、この男の元に返すことが自然に感じられた。
少女がこのダーディンを助けた。
それだけは真実だった。



















ダーディンが大事そうに少女を抱え上げる。
本当に危害を加える気はなさそうだった。

「その子は・・・、その子は、一体何者なの?」

惹きつけられる。
側に居たいと思う。
全ての物から守ってあげたいと思う。
何故そう思うのか分からない。
少しの間こちらの様子を伺っていたダーディンが、

「騒がないと約束するなら話してやる」

そう言って、街に向かって歩き始めた。
このダーディンは危険じゃない。
不思議とそう確信できたメリンダは、ダーディンを追って歩き始めた。




















宿屋の部屋にキーナを寝かせ、メリンダはダーディンの男、テルディアスにこれまでの事情を簡単に説明してもらった。

「色々と信じられないけど、全部本当のことなのね?」
「ああ」

再びしっかりとマスクとフードを着けているテルディアス。
その表情はうかがい知れない。
ベッドでスヤスヤと眠る少女、キーナを見る。

(この子が、まず女の子だって言うことにびっくりだけど・・・)

ずっと少年だと言ってましたもんね。

(光の御子・・・、だなんて・・・。そして、ダーディンにされた人間・・・)

光の御子でさえ、とてつもない希有な存在なのに、ダーディンにされた人間なんて、今まで聞いたこともない。
だが、実際、少女のあの姿を見たならば、光の御子であると言うことは納得できた。
ならば、ダーディンも・・・。

(普通に考えたら、ありえないわよね)

ダーディンが光の御子を騙して連れ歩いているとしか思えないが、だが、あの時、

(『やめて。その人を傷つけないで』)
(「テルの・・・、姿を・・・、元に、戻すのに・・・、必要なの・・・。力を・・・貸して・・・」)

少女はそう言った。

(この子がそう言うのなら、信じる。全部信じるわ!)

この少女が守りたいと思っているのなら、自分も守りたいとそう思えた。

「確かにあたしは、火の一族の者よ。あんた達が探してる火の宝玉も、あたしの村にあるわ」
「本当か?!」

テルディアスが身を乗り出す。

「ええ。代々火の巫女が宝玉を受け継ぎ、管理してるわ」
「その村はどこにあるんだ?」

メリンダの顔が険しくなった。

「言えない」
「?!」
「言っても、例え教えたとしても、辿り着くことはできないわ」
「どういうことだ?」
「火の力は滅びの力。使い方を誤れば世界を滅ぼすこともある。
 分かる? 私の一族の人間が一人戦場にいるだけで、戦況は大きく変わるのよ。
 そのために私達は他国から狙われるようになった」

その昔、まだ世界のあちこちで戦火が上がっていた頃、火の一族の力を求め、色々な国から出兵を求められた。
だが、元来火の一族はあまり争いを好まない。
一部の者達は賞金目当てに戦場に出て行ったが、ほとんどの者が残った。
だが、その一部の者達の活躍が噂で流れ、火の一族を戦力に加えれば、大きな力になると囁かれるようになった。
だが、火の一族といっても、皆が皆火の力を自在に操れるわけでもない。
一番に力を持つという巫女は、宝玉を唯一管理できる者であり、戦場に出すわけには行かない。
頑なに拒み続ける火の一族を、ある時から狩る者が出始めた。
火の一族の出だと言うだけで、力の無い者さえ。
そうなるともう今までのようには暮らせない。
一族は逃げた。
戦火から。
人から。

「だから、山の奥の奥の奥、滅多に人が入ってこられないような所に村を作って、外界と接触をほぼ断って暮らしているのよ。
 そして、念には念を入れて、村までの道に色々な仕掛けを施してあるから、常人には決して辿り着けないわ。極偶に人が迷い込んで来たりはするけど」
「だとしても行かねばならん。教えてくれ」

メリンダが困ったような顔をする。

「この子の覚醒を待つんじゃダメなの?」
「こいつが完全に覚醒するには、『運命の恋人』とやらの存在がいるらしい。
 それがもしかしたらあんたの村にいるかもしれない。だとしたらなんとしても行かねばならん」

メリンダが下を向いた。

「・・・そう」

ポツリと呟く。

(あたしが、案内してあげられればいいんだけど。でも・・・、あたしは・・・、あたしには・・・)

6年前、村から外に出る道を、あの人と一緒に走り抜けた。
そして今、この街で自分は必要とされていた。
メリンダの顔が険しくなった。

「ん・・・」

キーナの瞼が開かれた。
メリンダとテルディアスが覗き込む。

「キーナ、起きたか?」

がばっと勢いよく起き上がる。

びびるわ!

その勢いに圧倒され、キョトンとキーナを見つめるメリンダ。
キーナと目が合う。
すると、キーナが嬉しそうに笑って、メリンダに抱きついた。

「わーい! 良かった! いた~」
「わきゃ!」

いきなり抱きつかれて幸せそうに顔を赤く染めるメリンダ。
自分以外の人間に、さも親しそうに抱きつく姿を見て、固まるテルディアス。
まあ、こいつは置いとこう。
そんなテルディアスに気づくこともなく、キーナはメリンダの顔をまじまじと見つめ、

「お姉さん」
「は、はい?」
「火の村まで案内してくれるんでしょ?」

とにっこりと笑った。
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