キーナの魔法

小笠原慎二

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テルディアス変身!

闇に捕らわれ

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「お休み、テル」
「ああ、お休み」

パタンと扉が閉まる。
キーナ達が部屋に入ったのをきちんと確かめ、テルディアスは辺りを見回した。

「・・・」

特に変わった様子もない。

(なんだ? なんとなく、空気が違う・・・)

感覚を研ぎ澄まし、周囲を探る。
なんとなくではあるが、空気がべっとりと重くなってきているような気がした。
決して湿気のせいではない。
いつでも踏み出せるよう、構えながら周囲を探っていた。
しかし、それは一瞬のうちに、テルディアスの意識を飲み込んだ。















ゾワッ!

全身の毛が総毛立つような悪寒が走り、キーナが身を強ばらせる。
その様子に気付いたメリンダが、

「キーナちゃん? どうし・・・」

同じように悪寒を感じ、体を強ばらせた。

「何? この、感じ・・・」
「闇・・・」

キーナが自分の体を抱きしめ、震えながら呟く。

「ずっと感じてた違和感・・・。これだったんだ・・・」
「闇・・・、ですって?!」

メリンダの瞳が驚きで開かれる。

「テルッ!」

キーナが扉に手を伸ばす。

バン!

勢いよく扉を開ける。

「テルッ!」

見回すと、廊下を進んでいくテルディアスの背中が見えた。

「テルッ!!」

そのままテルディアスを追って駆け出す。

「キーナちゃん! 待って!」

慌ててメリンダもキーナを追おうとするが、背後に異様な気配を感じ取り、振り向いた。



















「テル! 待って! テルッ!」

いくら呼びかけようとも振り向きもせず、足取りを緩める事もなく歩いて行くテルディアス。
慣れないヒールでなんとか走りながら、追いつこうと必死になるキーナ。

「テ・・・」

進む先、暗闇に包まれた部屋の中に、女主人の姿が、何故かはっきりと見えた。

「!」

テルディアスが女主人に近づいていく。
女主人はテルディアスの顔にそっと手を当て、嬉しそうに微笑んだ。

「テルッ!!」

キーナが力の限り叫んだ。
テルディアスがゆっくりと振り向いた。
しかし、そのまま女主人の手を取り、部屋の中へと消えていった。

バタン

扉が閉まった。

「テルゥ!!」

キーナが扉にかじりつく。

「テル! テル!」

ドカドカと扉を叩く。
ガチャガチャと取っ手を引っ張る。

「テルを返して! テルッ! テルッ!」

どんなに押そうが、どんなに引こうが、蹴飛ばしても叩きまくっても扉はびくともしない。

「どうしよう・・・。テルが・・・、テルが・・・。そうだ、メリンダさんに、メリンダさんに相談して・・・、助けないと!」

振り向いたキーナ。
そして気付く。

(さらに強い闇・・・?! なんで・・・)

闇の気配は扉の中からしてくる。
一人ではないのか?
一人ではない?
そしてハッとなる。

「メリンダさん!」

元来た道を全速力で走っていく。

(メリンダさん、メリンダさん!)

嫌な予感しかしない。
近づいて来る深い闇の気配に、再び総毛立つ。

「メリンダさん!」

部屋に飛び込むと、そこには、闇に捕らわれ、気を失ったメリンダと、

「お、思ったより早かったな、チビッコ」

黒い服を着た、黒髪、黒い瞳の背の高い男が、こちらを見てニヤリと笑った。

「誰?! メリンダさんをどうする気?!」

キーナが身構える。

「ん~、まあ、ちょっと借りるだけさ」

ハサミでも借りるような気楽さで男は答えた。
そしてキーナを見つめる。

「お前も面白そうなもん持ってるみたいだから、この女が終わったら遊んでやるよ」
「!」
「じゃ~な」

楽しそうに笑うと、男は空間に溶けるように消えていった。
メリンダも一緒に消えた。

「メリンダさん!」

慌てて手を伸ばすが、その手は空を切るばかりだった。

「あ・・・」

辺りを見回しても誰もいない。
闇の気配もどこかに行ってしまった。

「メリンダさん・・・」

一人部屋に取り残され、恐怖と不安が押し寄せてくる。

「どうしよう・・・。どうしよう・・・」
(二人共、闇に捕まっちゃった・・・)

膝を突き、両手で顔を覆う。

(どうしたらいい?! どうしたら・・・)

涙が溢れてくる。

(テル・・・! メリンダさん・・・!)

二人に助けられてばかりで、こんな時本当に自分はどうしようもない。
どうしようもない。
だけど。
ぐしぐしぐし。
涙を拭いて、意思の力で無理矢理涙を止める。

(泣いてる場合じゃない! 悩んでる場合じゃない!)

キッと顔を上げ、立ち上がる。

(二人共捕まっちゃったなら、僕が助けなきゃ! めそめそしてる暇はないんだ!)

決断したらば後は早い。
身に付けたいらない物、動きを制限する物をどんどん外していく。

(とにかく動かなくちゃ何も始まらない!)

とうとう下着だけの姿になった。
ここは想像だけでよろしく。
そして、クローゼットに走って行った。


















「美しい方・・・」

闇の間で、女がその男の顔をなぞる。
その瞳は光を灯さず、表情もいつも無表情であるが、さらにボンヤリとした物になってしまっていた。

「まさに、私の為にあるような・・・」

その造形の美しさを目で愛で、指で愛で、女は存分に堪能する。

「さあ、その被り物もお取りになって。この常闇の場所で永遠に、甘美な時を、味わいましょう」

女が男の胸板に自身の身を預ける。
男はその重みを柔らかく受け止めながら、頭に巻いていた布を取り外した。

バサリ

そこから出てきた物に、女が驚愕の色を浮かべる。
青緑色の尖った耳。

「な・・・え?」

よく見れば、顔に化粧が施してある。
そういえば、なんとなく感触がざらりとしていた。
そういう肌質なのかと思っていたが。

「ダ、ダーディン?」

青緑の肌、銀髪、尖った耳とくれば、思い浮かべる物はダーディンしかない。

「何よコレ。どういうこと?」

自分に合った最高の男が、ダーディンだったとは!
騙された感が半端ない。
化粧して人に姿を似せて、獲物でも狩りに来ていたとでもいうのだろうか。

「ルイス! ルイス! 出てきなさい!」

女が闇に向かってその名を叫んだ。














身支度を整え、キーナが扉の前に立った。

(分かっているのはこの扉の向こうにテルがいるってこと!闇の気配もこの中からしてくるし・・・。なんとかこの扉を開けてみないと・・・)

鍵穴はない。
閂をかけているようにも思えない。
ただ、セメントででも固められたかのように、ガッチリと動かない。

(鍵穴もない。カラクリもあるように思えない。ならこの扉って・・・)

早くも行き詰まってしまう。
その時。
キーナが振り向いた。
しかし、振り向いた先に誰もいない。

(いない・・・よね?)

暗さを増した廊下には、誰の気配もない。

(空耳? にしてはハッキリと聞こえたような・・・)

耳元で誰かが囁いたような気がしたのだ。
ハッキリと。

『耳を澄ませてごらん。きっと、教えてくれるよ』

と。

(耳を、澄ませる・・・)

キーナは扉に手を当てたまま、意識を集中し始めた。
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