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火の村編
聖選の洞へ
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聖選の洞の前の広場に、数人の人が集まっていた。
「頼んだぞ。メリンダ」
「は~い。行ってきま~す」
ヒラヒラと軽く手を振りながら、メリンダは洞への階段を上って行く。
キーナとテルディアスも後に続いた。
聖選の洞は山の中腹辺りにある洞穴だった。
そこまではうねうねと階段が延び、洞の前にはしっかりとした足場もあった。
広場に集まった人々が、洞に向かう三人を見上げる。
「良いのですか? 巫女以外の人間をあの洞へなんて・・・」
一人が大婆様に問うた。
「ふ・・・、良いと言わんと、メリンダが洞へ行かんと言うだろうしのう。それに、力の無い者があの洞へ入って、無事に出て来られるとは思えんしな」
そう言って洞を見上げた。
下からでは洞はただの黒い穴にしか見えない。
その先にある物は何も・・・。
「じゃが、一応念には念を入れて、力あるものを集めておけ」
「は」
「洞の周りを固めるのじゃ」
幾人かが広場から走って行った。
大婆様は鋭い目つきで、じっと洞を見上げていた。
洞に入ってすぐ、
「う、わあ・・・」
キーナが驚きと感嘆の声を上げた。
なんだかだんだん暑くなって来ている気がしていたが、こんなことになっていたとは。
洞の中、入って少し行くと階段がある。
その階段の遙か下の方で、ごうごうと流れる物があった。
マグマだ。
「マグマの海・・・」
落ちたら一瞬で焼ける、いや、蒸発してしまうだろう。
「んふ。驚いた?」
メリンダがキーナの顔を見ながら微笑む。
「ここを通っていくの」
と軽々しく口にするが、
(どうやって?)
あまりの光景に開いた口が塞がらないキーナ。
空でも飛んで行くのかとも思うが、入り口以外に穴が見当たらない。
「テルディアス、アレ、持ってるんでしょ?」
「ああ、ここに」
と腰の辺りに触れる。
「あんたも一応守るけど、それがあればとりあえず死ぬ心配はないでしょ」
死ぬ?
何気に怖い言葉をあっけらかんと言い放つメリンダ。
「キーナちゃんはあたしがしっかり守るから」
と嬉しそうにキーナを抱きしめる。
キーナだけ?
二人共クエスチョンマークを思い浮かべるが、ここは一応メリンダの言う通りにしとこうと口を閉ざす。
「何を持ってるの?」
キーナがテルディアスに問いかけた。
あれとはなんぞ?
「水の宝玉だ」
「ああ!」
納得。
火に強いのは水。
それも最高位の力を持つ宝玉だ。
確かに死ぬ事は・・・ないんじゃないかな?
メリンダの顔つきが変わった。
真剣な眼差しでマグマを見つめる。
そして厳かに左手を差し出した。
すると、今までたぎっていたマグマが、突然二つに割れだした。
階段の下が見え、その下の地面も見えだした。
マグマがゆっくりと、完全に左右に分かれ、一本の道が現われる。
そして、その道の先に、入り口と同じような穴が見えた。
あれが次の間への入り口らしい。
「さ、行きましょ」
メリンダが足を踏み出す。
キーナの頭に浮かんだ言葉が、
(モーゼの十戒・・・)
なのは当然の事かもしれない・・・。
ただし、こちらは火の海、であるが。
またもや長い階段を下り、怖々マグマのなくなった地面を歩く。
「火の村の人達は皆こんな事できるの?」
「みんなはさすがに無理ね」
無理なんだ。
「巫女候補の者は少なくともできるわ」
マグマの海を割れる者が、何人もこの村にいる・・・。
テルディアスは背筋が寒くなった。
「火の村と言っても、みんながみんな火の精霊の加護を授かっているわけではないから、呪文を唱えないと使えない人もいるし、普通に火の力以外も使う事ができるしね」
「へー」
火の精霊の加護を持つものは、火の力以外は使えない。
加護を持たぬものは、他の精霊の力も使えるのだ。
「特に強い加護を持つ者は、私のように髪や瞳が赤くなるのよ」
精霊の加護を受けると、その精霊の色を体に宿して生まれてくる。
火は赤。
加護を受けると、他の精霊の力を使えなくなるが、代わりに、呪文などの手続きを行わずとも、その精霊の力を使えるようになる。
便利なものだ。
「ホオ! じゃあ、あの大婆様も巫女候補だったの?」
いくらか白髪は交じっていたとはいえ、まだまだ綺麗な赤い髪を持ち、赤い瞳を持った小柄なお婆さん。
迫力だけは凄まじかったけど。
「そう! かなりの有力候補だったみたいよ。結局選ばれなかったらしいけど」
巫女になる者を選ぶのは宝玉だ。
どんなに修行をしても、なれない者はなれない。
「その後、村長《ムラオサ》の妻になって、今に至るってわけ」
「ふにゃ~ん」(訳:へ~)
巫女に選ばれなかった大婆様は、その後、懇意にしていた村長《ムラオサ》の息子と結婚し、子供ももうけた。
子供はすでに独立して、村長《ムラオサ》の仕事を手伝っている。
大婆様の夫、元村長《ムラオサ》は既に亡く、今は大婆様が村長《ムラオサ》として村を仕切っているのだ。
「おっと、そうそう、テルディアス」
メリンダが後ろを歩くテルディアスを振り返った。
「なんだ?」
「ぼやぼやしてると焼け死ぬから、気をつけてね」
すぐ後ろでどっぷんと音がした。
テルディアスが振り向くと、すでに道はなく、マグマがすぐ背後まで押し寄せていた。
(いつの間に・・・)
歩きながら道を消しているらしい。
背後から他の侵入者が万が一入って来たとしても、来れないようにする為だ。
決してテルディアスを無言のうちに消してしまおうとしているわけではない。
断じて。
「あそこが次の間への入り口よ」
とメリンダが指さす。
小さく見えていた穴が、大きくなっていた。
よく見れば、柱などが立っており、ただの洞穴ではなく、入り口らしい入り口になっている。
「マグマの中にあるんだね」
「ええ、火の一族の者以外が行けないようにね」
確かに、余程の者でなければ、マグマに飛び込むなどできはしないだろう。
「しかも、通路は一度下って上るっていう構造になってるの」
万が一、穴に飛び込めたとしても、中はマグマだらけという鬼畜仕様になっております。
「マグマは?」
今この時はどうなっているのかと、キーナは心配したが、
「もちろん! 無いわよ!」
メリンダさんちゃんと除けといてくれたらしい。
三人が穴に入って行った。
後ろではまたドプンと音がした。
入り口からはまだ入って来ようとはしていないようだ。
キーナとテルディアスはなんとなく焦りながら、メリンダはいつもの歩調で階段を下り、そして上って行った。
階段を上がりきると、次の間が目の前に広がった。
入り口付近に少し広い広場があり、そしてその一角から、真っ直ぐ向こうに向かって一本の道が続いていた。
道と言うより、橋。
しかも橋脚がない。
吊っているものがない、吊り橋のようだった。
そしてその道の下には、またマグマ。
最初の間のマグマよりも元気の良い(?)マグマが蠢いていた。
「ここが次の間。火竜王の巣とも呼ばれているわ」
「ホエ~」
「道はいたって簡単だけど・・・」
その時、元気の良いマグマが蠢き、飛沫がたった。
その飛沫は高く飛び、道に、
バシャア!
と降りかかった。
「絶え間なくマグマの飛沫が襲ってくるという・・・」
二人は背筋が寒くなった。
飛沫はどこから飛んでくるかも分からない。
道も狭く、二人がやっと並んで歩けるくらい。
「だから、テルディアス」
メリンダがテルディアスに振り向き、ニヤリと笑う。
「水の結界張りながら行かないと、死ぬわよ」
殺す気?
「僕は?」
「キーナちゃんはあたしが守るから大丈夫よ!」
(テルは・・・?)
颯爽と歩き出したメリンダに、その言葉を掛ける事は、キーナにはできなかった。
マグマがうねる。
その上を三人は渡っていく。
遠くでまた飛沫が上がり、熱気が吹き付けてくる。
そんな光景を目にしながら、テルディアスはふと思う。
(常人がそうやすやすと来れるような所じゃない・・・)
一人の顔が浮かんできた。
(あの人なら・・・)
数々の伝説を持つ、ミドル王国の高名な魔導師。
あの人ならなんとか来れそうな気もするが・・・、さすがに・・・。
どうなんだろうと首を捻りながら歩く近くで、飛沫が上がった。
バシャア!
寸前までいた場所に飛沫がかかった。
「テル?!」
キーナが振り向くと、すぐ後ろにいたはずのテルディアスが遠ざかっている。
(いくら水の結界張っているとは言っても・・・、マグマの直撃はやはり・・・)
怖い。
一瞬で結界が蒸発してしまいそうな感じがする。
「大丈夫だそのまま行け・・・」
と、また飛沫が飛んできた。
バシャア!
後ろに飛んで躱す。
そこにまた飛沫。
また飛んで、また飛沫。
飛んで飛んで、入り口の前の広場まで戻ってきてしまった。
(入り口・・・)
振り出しに戻る。
「テル!」
キーナが駆け寄ろうとするが、
「待ってキーナちゃん!」
メリンダがキーナの肩を掴んで引き留めた。
そこへ、
バシャア!
飛沫が襲いかかった。
「ひゃあ!」
キーナが悲鳴を上げる。
「べ、べっくらした・・・」(訳:びっくりした)
水滴ならばいざ知らず、マグマの飛沫は心臓に悪い。
当たれば即死は免れない。
そんなマグマの動きを感じながら、メリンダは思った。
(な~んかコレ、襲ってるというより、じゃれてる?)
元々火の精は人懐っこい。
その為、四大精霊の中でも一番扱いやすいと言われている。
使い方さえ間違えなければ、一番習得しやすい力ではある。
だがしかし、ここは聖選の洞。
この中に入る者を選別し、資格なしと判断された者は、容赦なく蹴落とされてしまうところでもある。
だから攻撃して来るということはとても納得できるのではあるが、メリンダからすると、この飛沫、攻撃のような感じではない。
どちらかというと、遊ぼうよ~とじゃれついてくる子犬のような感じを受けた。
バシャア!
バシャア!
バシャア!
(なんだかひどくなってる・・・)
テルディアスが入り口付近で青ざめる。
絶え間なく降り注ぐ飛沫のおかげで、一歩も前に進めなくなってしまった。
「しょうがないわね~」
メリンダ溜息をついた。
メリンダとしては別にテルディアスがいようがいまいがどちらでも構わないのであるが、キーナがそれを許さない。
と分かっているので、テルディアスに手を貸すことにする。
なんだかテルディアスの扱いがひどい事になってきてる・・・。
右手を掲げる。
意識を集中する。
マグマが動いた。
ドオッ!
道の両側にマグマが吹き上げ、マグマの壁ができた。
「これで来れるでしょー!」
と手を振る。
(なんつー・・・)
言葉を無くしてテルディアスはマグマの壁を見上げた。
これなら確かに飛沫は飛んでこないけれども・・・。
心理的に、マグマの間を通っていくという事が、なんとも言えなかった・・・。
メリンダが操っているのだから大丈夫だと言い聞かせ、足を前に出す。
キーナ達に追いつき、先を急ぐ。
次の間への入り口に無事に辿り着き、三人でその通路へと入っていく。
そこは特に仕掛けもなく、ただのトンネルだった。
そして、次の間、最後の間に着いた。
入り口付近の松明に、メリンダが火を灯す。
入り口付近には同じように少し広い広場があった。
それだけだった。
あとは何もない。
暗闇が広がっていた。
上を見ても闇、下を覗いても闇。
「お?」
お・・・お・・・ぉ・・・ぉ・・・。
キーナの発した一言が谺した。
「何も・・・ない?」
「そ、ここが最後の間。そこで巫女舞いを舞って、宝玉に捧げるの」
とメリンダが広場の最端を指さす。
よく見ると、その一角だけ、四角く赤い色が付いている。
一応舞台なのだろうか。
今までのマグマだらけは一体何だったのだろうとキーナが周りを見回していると、メリンダがすっと前に出て、その四角い場所に立った。
「それに応えてくれれば宝玉は現われ、応えてくれなければ・・・、現われない」
まあ当然のことだろう。
「現われなかったらどうするの?」
テルディアスの為にも宝玉は必要だし、火の村の為にも、宝玉は必要だろう。
これで姿を現さなければ、最早手に入れる事は叶わない。
「さあ? どうしようかしらね?」
まるで他人事のようにメリンダは言った。
その顔は、本当に何も考えていないようだった。
「全ては、宝玉の意思のままに・・・」
メリンダが両腕を高く頭の上に上げて交差させ、腕に着けていた腕輪を鳴らす。
シャン!!
巫女舞いが始まった。
「頼んだぞ。メリンダ」
「は~い。行ってきま~す」
ヒラヒラと軽く手を振りながら、メリンダは洞への階段を上って行く。
キーナとテルディアスも後に続いた。
聖選の洞は山の中腹辺りにある洞穴だった。
そこまではうねうねと階段が延び、洞の前にはしっかりとした足場もあった。
広場に集まった人々が、洞に向かう三人を見上げる。
「良いのですか? 巫女以外の人間をあの洞へなんて・・・」
一人が大婆様に問うた。
「ふ・・・、良いと言わんと、メリンダが洞へ行かんと言うだろうしのう。それに、力の無い者があの洞へ入って、無事に出て来られるとは思えんしな」
そう言って洞を見上げた。
下からでは洞はただの黒い穴にしか見えない。
その先にある物は何も・・・。
「じゃが、一応念には念を入れて、力あるものを集めておけ」
「は」
「洞の周りを固めるのじゃ」
幾人かが広場から走って行った。
大婆様は鋭い目つきで、じっと洞を見上げていた。
洞に入ってすぐ、
「う、わあ・・・」
キーナが驚きと感嘆の声を上げた。
なんだかだんだん暑くなって来ている気がしていたが、こんなことになっていたとは。
洞の中、入って少し行くと階段がある。
その階段の遙か下の方で、ごうごうと流れる物があった。
マグマだ。
「マグマの海・・・」
落ちたら一瞬で焼ける、いや、蒸発してしまうだろう。
「んふ。驚いた?」
メリンダがキーナの顔を見ながら微笑む。
「ここを通っていくの」
と軽々しく口にするが、
(どうやって?)
あまりの光景に開いた口が塞がらないキーナ。
空でも飛んで行くのかとも思うが、入り口以外に穴が見当たらない。
「テルディアス、アレ、持ってるんでしょ?」
「ああ、ここに」
と腰の辺りに触れる。
「あんたも一応守るけど、それがあればとりあえず死ぬ心配はないでしょ」
死ぬ?
何気に怖い言葉をあっけらかんと言い放つメリンダ。
「キーナちゃんはあたしがしっかり守るから」
と嬉しそうにキーナを抱きしめる。
キーナだけ?
二人共クエスチョンマークを思い浮かべるが、ここは一応メリンダの言う通りにしとこうと口を閉ざす。
「何を持ってるの?」
キーナがテルディアスに問いかけた。
あれとはなんぞ?
「水の宝玉だ」
「ああ!」
納得。
火に強いのは水。
それも最高位の力を持つ宝玉だ。
確かに死ぬ事は・・・ないんじゃないかな?
メリンダの顔つきが変わった。
真剣な眼差しでマグマを見つめる。
そして厳かに左手を差し出した。
すると、今までたぎっていたマグマが、突然二つに割れだした。
階段の下が見え、その下の地面も見えだした。
マグマがゆっくりと、完全に左右に分かれ、一本の道が現われる。
そして、その道の先に、入り口と同じような穴が見えた。
あれが次の間への入り口らしい。
「さ、行きましょ」
メリンダが足を踏み出す。
キーナの頭に浮かんだ言葉が、
(モーゼの十戒・・・)
なのは当然の事かもしれない・・・。
ただし、こちらは火の海、であるが。
またもや長い階段を下り、怖々マグマのなくなった地面を歩く。
「火の村の人達は皆こんな事できるの?」
「みんなはさすがに無理ね」
無理なんだ。
「巫女候補の者は少なくともできるわ」
マグマの海を割れる者が、何人もこの村にいる・・・。
テルディアスは背筋が寒くなった。
「火の村と言っても、みんながみんな火の精霊の加護を授かっているわけではないから、呪文を唱えないと使えない人もいるし、普通に火の力以外も使う事ができるしね」
「へー」
火の精霊の加護を持つものは、火の力以外は使えない。
加護を持たぬものは、他の精霊の力も使えるのだ。
「特に強い加護を持つ者は、私のように髪や瞳が赤くなるのよ」
精霊の加護を受けると、その精霊の色を体に宿して生まれてくる。
火は赤。
加護を受けると、他の精霊の力を使えなくなるが、代わりに、呪文などの手続きを行わずとも、その精霊の力を使えるようになる。
便利なものだ。
「ホオ! じゃあ、あの大婆様も巫女候補だったの?」
いくらか白髪は交じっていたとはいえ、まだまだ綺麗な赤い髪を持ち、赤い瞳を持った小柄なお婆さん。
迫力だけは凄まじかったけど。
「そう! かなりの有力候補だったみたいよ。結局選ばれなかったらしいけど」
巫女になる者を選ぶのは宝玉だ。
どんなに修行をしても、なれない者はなれない。
「その後、村長《ムラオサ》の妻になって、今に至るってわけ」
「ふにゃ~ん」(訳:へ~)
巫女に選ばれなかった大婆様は、その後、懇意にしていた村長《ムラオサ》の息子と結婚し、子供ももうけた。
子供はすでに独立して、村長《ムラオサ》の仕事を手伝っている。
大婆様の夫、元村長《ムラオサ》は既に亡く、今は大婆様が村長《ムラオサ》として村を仕切っているのだ。
「おっと、そうそう、テルディアス」
メリンダが後ろを歩くテルディアスを振り返った。
「なんだ?」
「ぼやぼやしてると焼け死ぬから、気をつけてね」
すぐ後ろでどっぷんと音がした。
テルディアスが振り向くと、すでに道はなく、マグマがすぐ背後まで押し寄せていた。
(いつの間に・・・)
歩きながら道を消しているらしい。
背後から他の侵入者が万が一入って来たとしても、来れないようにする為だ。
決してテルディアスを無言のうちに消してしまおうとしているわけではない。
断じて。
「あそこが次の間への入り口よ」
とメリンダが指さす。
小さく見えていた穴が、大きくなっていた。
よく見れば、柱などが立っており、ただの洞穴ではなく、入り口らしい入り口になっている。
「マグマの中にあるんだね」
「ええ、火の一族の者以外が行けないようにね」
確かに、余程の者でなければ、マグマに飛び込むなどできはしないだろう。
「しかも、通路は一度下って上るっていう構造になってるの」
万が一、穴に飛び込めたとしても、中はマグマだらけという鬼畜仕様になっております。
「マグマは?」
今この時はどうなっているのかと、キーナは心配したが、
「もちろん! 無いわよ!」
メリンダさんちゃんと除けといてくれたらしい。
三人が穴に入って行った。
後ろではまたドプンと音がした。
入り口からはまだ入って来ようとはしていないようだ。
キーナとテルディアスはなんとなく焦りながら、メリンダはいつもの歩調で階段を下り、そして上って行った。
階段を上がりきると、次の間が目の前に広がった。
入り口付近に少し広い広場があり、そしてその一角から、真っ直ぐ向こうに向かって一本の道が続いていた。
道と言うより、橋。
しかも橋脚がない。
吊っているものがない、吊り橋のようだった。
そしてその道の下には、またマグマ。
最初の間のマグマよりも元気の良い(?)マグマが蠢いていた。
「ここが次の間。火竜王の巣とも呼ばれているわ」
「ホエ~」
「道はいたって簡単だけど・・・」
その時、元気の良いマグマが蠢き、飛沫がたった。
その飛沫は高く飛び、道に、
バシャア!
と降りかかった。
「絶え間なくマグマの飛沫が襲ってくるという・・・」
二人は背筋が寒くなった。
飛沫はどこから飛んでくるかも分からない。
道も狭く、二人がやっと並んで歩けるくらい。
「だから、テルディアス」
メリンダがテルディアスに振り向き、ニヤリと笑う。
「水の結界張りながら行かないと、死ぬわよ」
殺す気?
「僕は?」
「キーナちゃんはあたしが守るから大丈夫よ!」
(テルは・・・?)
颯爽と歩き出したメリンダに、その言葉を掛ける事は、キーナにはできなかった。
マグマがうねる。
その上を三人は渡っていく。
遠くでまた飛沫が上がり、熱気が吹き付けてくる。
そんな光景を目にしながら、テルディアスはふと思う。
(常人がそうやすやすと来れるような所じゃない・・・)
一人の顔が浮かんできた。
(あの人なら・・・)
数々の伝説を持つ、ミドル王国の高名な魔導師。
あの人ならなんとか来れそうな気もするが・・・、さすがに・・・。
どうなんだろうと首を捻りながら歩く近くで、飛沫が上がった。
バシャア!
寸前までいた場所に飛沫がかかった。
「テル?!」
キーナが振り向くと、すぐ後ろにいたはずのテルディアスが遠ざかっている。
(いくら水の結界張っているとは言っても・・・、マグマの直撃はやはり・・・)
怖い。
一瞬で結界が蒸発してしまいそうな感じがする。
「大丈夫だそのまま行け・・・」
と、また飛沫が飛んできた。
バシャア!
後ろに飛んで躱す。
そこにまた飛沫。
また飛んで、また飛沫。
飛んで飛んで、入り口の前の広場まで戻ってきてしまった。
(入り口・・・)
振り出しに戻る。
「テル!」
キーナが駆け寄ろうとするが、
「待ってキーナちゃん!」
メリンダがキーナの肩を掴んで引き留めた。
そこへ、
バシャア!
飛沫が襲いかかった。
「ひゃあ!」
キーナが悲鳴を上げる。
「べ、べっくらした・・・」(訳:びっくりした)
水滴ならばいざ知らず、マグマの飛沫は心臓に悪い。
当たれば即死は免れない。
そんなマグマの動きを感じながら、メリンダは思った。
(な~んかコレ、襲ってるというより、じゃれてる?)
元々火の精は人懐っこい。
その為、四大精霊の中でも一番扱いやすいと言われている。
使い方さえ間違えなければ、一番習得しやすい力ではある。
だがしかし、ここは聖選の洞。
この中に入る者を選別し、資格なしと判断された者は、容赦なく蹴落とされてしまうところでもある。
だから攻撃して来るということはとても納得できるのではあるが、メリンダからすると、この飛沫、攻撃のような感じではない。
どちらかというと、遊ぼうよ~とじゃれついてくる子犬のような感じを受けた。
バシャア!
バシャア!
バシャア!
(なんだかひどくなってる・・・)
テルディアスが入り口付近で青ざめる。
絶え間なく降り注ぐ飛沫のおかげで、一歩も前に進めなくなってしまった。
「しょうがないわね~」
メリンダ溜息をついた。
メリンダとしては別にテルディアスがいようがいまいがどちらでも構わないのであるが、キーナがそれを許さない。
と分かっているので、テルディアスに手を貸すことにする。
なんだかテルディアスの扱いがひどい事になってきてる・・・。
右手を掲げる。
意識を集中する。
マグマが動いた。
ドオッ!
道の両側にマグマが吹き上げ、マグマの壁ができた。
「これで来れるでしょー!」
と手を振る。
(なんつー・・・)
言葉を無くしてテルディアスはマグマの壁を見上げた。
これなら確かに飛沫は飛んでこないけれども・・・。
心理的に、マグマの間を通っていくという事が、なんとも言えなかった・・・。
メリンダが操っているのだから大丈夫だと言い聞かせ、足を前に出す。
キーナ達に追いつき、先を急ぐ。
次の間への入り口に無事に辿り着き、三人でその通路へと入っていく。
そこは特に仕掛けもなく、ただのトンネルだった。
そして、次の間、最後の間に着いた。
入り口付近の松明に、メリンダが火を灯す。
入り口付近には同じように少し広い広場があった。
それだけだった。
あとは何もない。
暗闇が広がっていた。
上を見ても闇、下を覗いても闇。
「お?」
お・・・お・・・ぉ・・・ぉ・・・。
キーナの発した一言が谺した。
「何も・・・ない?」
「そ、ここが最後の間。そこで巫女舞いを舞って、宝玉に捧げるの」
とメリンダが広場の最端を指さす。
よく見ると、その一角だけ、四角く赤い色が付いている。
一応舞台なのだろうか。
今までのマグマだらけは一体何だったのだろうとキーナが周りを見回していると、メリンダがすっと前に出て、その四角い場所に立った。
「それに応えてくれれば宝玉は現われ、応えてくれなければ・・・、現われない」
まあ当然のことだろう。
「現われなかったらどうするの?」
テルディアスの為にも宝玉は必要だし、火の村の為にも、宝玉は必要だろう。
これで姿を現さなければ、最早手に入れる事は叶わない。
「さあ? どうしようかしらね?」
まるで他人事のようにメリンダは言った。
その顔は、本当に何も考えていないようだった。
「全ては、宝玉の意思のままに・・・」
メリンダが両腕を高く頭の上に上げて交差させ、腕に着けていた腕輪を鳴らす。
シャン!!
巫女舞いが始まった。
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辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
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