キーナの魔法

小笠原慎二

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古代魔獣の遺跡編

シザーターク

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テルディアスが図書館の隅で、文献を調べていた。
有り難いことに、そこそこ古い文献も揃っている。
それと思えるものを片っ端から手にし、中を調べていく。
その中のとあるページに目が止まる。

《古代の魔物を封じた一族はその地をもって印となし…》

(魔物…。宝玉とは関係ない)

またパラパラとページを捲っていく。

《炎の燃え盛る7つの山を越え、全てを飲み込む7つの川を渡り、二叉の道を風の示す方へ7度曲がった先に、恵み豊かな楽園が広がる。彼の地を守は地の祝福を受けし者達…》

(地の祝福? 地の一族のことか? この伝承の地は…。東の未開地帯の方か…。東…)

テルディアス達のいる大陸は、北に山脈、西は開けて街が多い。
南はその先にある島々と貿易などをする海が広がり、東のみ、鬱蒼とした森が広がっていた。
東は小さな街や、街道さえ通っていない村などがあると聞いたことがあった。
つまり、かなり危険な場所だ。














「ふ~ん、その伝承ってやつを見つけに行くの?」

キーナが寝転がりながらテルディアスに尋ねる。
椅子に座り、足を組んだテルディアスが、

「伝承にはそれなりに意味を持った内容が書かれているからな。調べてみて損はないはずだ」
「東へ東へ、か。長い旅になりそうね」

ほぼ大陸を横断する形になる。

「ああ、だから、次の街で色々揃えていこう」
「次の街ってどんな街?」

キーナがもぞりと体を動かす。

「シザータークという大きな街らしい」


















キーナが動けるようになり、一同次の街を目指した。
街の真ん中に大きな石碑が建っており、何か文字が刻まれていた。

「その昔、古代の魔獣が大暴れしていたそうだ。そこへ時の大賢者が現われ、魔物を封じたらしい」

簡単に言うとそんなことが書かれているらしい。

「魔獣は今も眠りについているって書いてあるわ」

メリンダがへえと口を開く。

「本当かな?」

とウキウキ顔のキーナ。

「さあな」

いつも通り、素っ気ない返事のテルディアス。

「さって、じゃ、買い物しますか!」

メリンダがパンと手を打った。

「夕刻にここで落ち合うってのはどう?」

街の真ん中でもあるし、目立つし、宿を探すにも便利そうだ。

「ああ、そうするか」

テルディアスも同意する。

「にゅう~、テルゥ…」

と、ひっつき虫のキーナだけ渋い顔をする。
そんなキーナの肩にメリンダがポンと手を置くと、

「キーナちゃん、女の買い物に男は連れて行けないわ。反対に可哀相よ!」
「う…ん」

渋々ながらもキーナ納得。
うん、許してあげて。

「じゃ、夕方にね」

少し寂しそうな視線をテルディアスに送る。

「ああ」

キーナを落ち着かせる為か、それとも素なのか、優しげな瞳で返すテルディアス。
そんな二人の視線の交錯にもやっとしたものを感じるメリンダ。
それはヤキモチというものですな。
とにかく、キーナ達は二手に別れて、それぞれ必要な物を買い出しに行った。

(んふふ。キーナちゃんと二人っきり~)

メリンダはキーナと二人きりになれてとても嬉しそうだ。

「で、何買うの? メリンダさん」
「そうね、まずは…」




テルディアスが腰に下げている袋を確かめる。
まだだいぶ膨らみがある。

(さて、まずは…)

















夕刻のお馴染みBGM。
カラスの鳴き声が聞こえ始めて来た頃。
石碑の前にテルディアスが銅像のように立っていた。
一種の物々しさを感じ、側に寄るものはいない。

「テ~ル~」

遠くから間の抜けた声が聞こえてきた。
テルディアスが振り返る。
キーナが手を広げ、テルディアスに駆け寄っていく。
その後ろから、メリンダが悔しそうな顔をしてテルディアスを見つめていた。
テルディアスの元まで駆けてくると、

「ニョホホホホ。テルだテルだテルだ」

とテルディアスの周りではしゃぎだす。

「やめい!」

いい年の女がはしゃぐでない。
やっとこ落ち着いたキーナの頭に手を乗せ、

「終わったか?」

と尋ねる。

「うん! ばっちし!」

にししと笑うキーナ。
少しふくれっ面のメリンダが、ちょっと投げやりな感じで、

「さ、早く宿を探しましょ」

と溜息をついた。
キーナがテルディアスを慕っていることに、一応理性で無理矢理納得したようだ。
ただし、感情がついていっていないみたいだが。
あっちでよさそうな宿を見たとテルディアスが言って、三人が歩き出す。
綺麗なお風呂がある所がいいねーとか、歩き疲れたしねーなどと女達がしゃべくりまくる。
その時。

「助けてくれ!」

突然、脇の道から声がして、30くらいの男の人が飛び出して来た。

「え?」

キーナとメリンダは何が起きたのか分からず、男の顔を見た。

「た、助けて…」

テルディアスが動いた。

「な、何?」

とメリンダが疑問を口にする間に、男に手を伸ばしてその襟首を掴み、無理矢理引き摺り倒す。

「わ!」

男が膝をついた。
その時、脇道から黒い影が舞い降りてきた。
両の手の指が獣の爪のように長く鋭利になっている。
そのまま膝をついた男に振り下ろした。

ガキィン!

金属のぶつかり合う音が響き渡る。
テルディアスが剣を引き抜き、その爪を防いでいた。
全身黒ずくめの影のような者が、驚いた顔をし、再び斬りかかる。
しかし難なくそれを払うテルディアス。

「な、何なの?!」

膝をついた男の側にしゃがみ込み、一応無事を確認するメリンダ。
キーナも唖然と口を開けている。
黒い男とテルディアスは幾度か切り結んだが、テルディアスの方が実力は上か。
黒い男は押されていく。

「ち」

短い舌打ちをすると、男がやって来た時のように舞い上がり、暗がりに消えた。

「!」

テルディアスが目を見開く。
男の姿が消えた。
それも一瞬のうちに、気配までも…。

「た、助かった…」

膝をついていた男が後ろを振り向き、脅威が去ったことを確認する。
訳が分からずその男を見つめるメリンダとキーナ。
そして、訝しげな顔をしながら、テルディアスが静かに剣を鞘に収めた。







男が立ち上がり、なんとかにっこりと微笑む。

「お、おかげで命拾いしました。私はアドサンと申します。是非お礼がしたいので、我が屋敷へおいで下さい」

テルディアスとメリンダの目が光った。

「せっかくだが俺達は―――」
「行きます! 行きますとも! 是非伺わせて下さ~い」

テルディアスの声をメリンダが思いっきり遮った。
二人が睨み合う。
そして二人は顔を近づけると、コソコソと相談し始めた。

(あんな訳の分からん奴に狙われている奴の所に行くなんて…!)
(あんたねー、だからと言ってこんないい申し出断るなんて勿体ないでしょ!)

痩せていて、顔は鶏のような顔をしているが、着ている物は一目で上等と分かる物。
つまり、お屋敷はかなり立派な物であると推測できる。
お屋敷が立派であるならば、出てくる料理も豪勢であろうし、ベッドはふかふかで寝やすいだろうし、きっとお風呂も綺麗なお風呂に違いない。
おまけに、

(手持ちだって心細くなってるってのに、高待遇してくれるわよ!(きっと) 何より、キーナちゃんのため!)

とビシッと言い切る。

(これから長い旅が始まるんだから、少しでもいい環境で休ませてあげたいでしょ!!)
(そ、それはそうだが…)

気圧されるテルディアス。
蚊帳の外のキーナとアドサンは、顔を見合ってぎこちなく笑い合った。

どうなるんでしょう。

そして、話し合いは終わったらしく、つかつかと上機嫌なメリンダがアドサンに近寄り、

「お待たせしました~。よろしくお願いしま~す」

と営業スマイル。

「は、はあ…」

アドサンとしては良かったのだが、メリンダの後ろで、やり込められて肩を落としたフードの男の姿がなんとも哀れに映った。
キーナがそっと近寄り、

「テル?」

そっとテルディアスを慰めた。
しかし、テルディアスの憂いは晴れなかったのだった。
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