キーナの魔法

小笠原慎二

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古代魔獣の遺跡編

危ない谷間

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街の北にそびえ立つ、一言で言えば立派な屋敷に、キーナ達は案内されていった。
期待通りの豪華な食事に招かれ、ルンルンで食べていた時、

「不躾ながら、あなた(方)を見込んで、用心棒をやって頂けないでしょうか」

と屋敷の主、アドサンが真面目な顔をして言った。
一瞬みんな手が止まった。
キーナは食べかけの肉を口に入れようとして、大口を開けて止まっていた。

「何故かは分からないのですが、ここ最近命を狙われるようになって…。雇っていた用心棒達は皆やられてしまって、今日はどうしても外せない用がありまして、一人で出かけたらあの有様…」

キーナはやっと口に肉を放り込み、モグモグと食べた。

「給金はもちろん弾みます! お願いできませんか?」

アドサンが必死に頼み込んでくる。
テルディアスは関わる気はなかったので、

「残念だが俺達は…」

と断ろうとしたが、

「もちろん! いいですよ!」

女二人の声に掻き消された。
呆然となるテルディアス。

「困ってる時はお互い様ですよ!」

とキーナが胸を叩く。
キーナはあくまで純粋な善意からだ。
メリンダはちょっと小ずるそうな顔をして、

(お給金、お給金♪)

とにやけていた。


















「用心棒がどういうものか、分かって言ってるのか?!」

テルディアスが側の机をバン!と叩きながら、怒鳴り声をあげた。
珍しく腹の底から怒っているらしい。
しょぼくれたキーナがおずおずと答える。

「だって、困ってるんだよ? 助けてあげたいじゃない…」

とモジモジ。
メリンダはへっちゃらなのか、

「それに、お給金も弾むって言ってくれてたし、手持ちも心細くなってたから丁度いいじゃない」

と片手をひらひら振っている。

「そういう問題じゃないだろ! 最悪命を落としかねるかもしれないんだぞ!」

とまたテルディアスが声を張り上げるが、

「だーかーら、あんたが頑張ってくれればいいのよ。キーナちゃんに怪我させたくなかったらね」

といけしゃあしゃあとメリンダが言った。

(やっぱり俺かい…)

メリンダは自分で動く気は最初からないのだろう。

「僕もやるよ! 僕だって強いもん!」

とキーナが立ち上がる。
一応言い出しっぺという責任も感じているのだろう。

「お前は黙って待ってろ! 俺一人でいい!」
「テル!」

テルディアスが部屋を出て行こうとしてキーナを振り見る。

「さっきの襲撃にも気付かなかったお前に何かできるのか?」

キーナが言葉に詰まった。
確かに、先程アドサンが襲われていた時も、キーナは何もできずただ見ているだけだった。
強大な魔力を持っていても、戦いは素人なのだ。

「とっとと命を狙っている奴を捕まえて、こんなもの終わらせてやる!」

そう吐き捨てると、バタン!と乱暴にドアを閉めて、出て行ってしまった。

「テル…」
「キーナちゃん、気にしなくていいのよ」

メリンダがキーナの肩に手をかけ、ベッドに一緒に座り込む。

「でも、テル怒ってた…」
「あいつはね、キーナちゃんが危ない目に遭うんじゃないかって、心配してるだけなのよ。だから大丈夫」

そう言ってメリンダがにっこりと笑った。
キーナは言われている意味の半分しか理解せず、キョトンとした顔をした。

(テル…)

テルディアスがキーナの心配をしている。
こんなことに巻き込んでしまって申し訳ないとは思うが、なんだかちょっぴり嬉しかった。


















待機する場所としてあてがわれた部屋で、テルディアスはソファーに腰を下ろし、気を落ち着かせ、神経を張り巡らせていた。
トテトテと足音が近づいて来る。
ガチャリ、と部屋の扉が開いた。

「テル?」

声のした方にテルディアスが視線を移す。
と。
白い光をうっすらと纏い、白く長い髪をふうわりとなびかせた美少女が立っていた。
テルディアスが腰を浮かしかける。

「テル?」

キーナが後ろ手に扉を閉める。
その姿はいつもの少年のようなキーナの姿だった。

「? ? ?」

自分の見た者が信じられず、目をこする。

(目の錯覚? それとも疲れ?)

確かにここのところ気の休まる暇が無い気がするが。

「テル大丈夫?」

テルディアスのおかしい様子にキーナが心配そうな顔をする。

「だ、大丈夫だ」

動揺を隠し、ソファーに腰を落ち着ける。

「どうかしたか? キーナ」

落ち着いた風を装って聞いた。
するとキーナはまたモジモジと、

「うん、テル、ゴメンね。結局、テルの負担増やしただけだよね…」

モジモジモジモジ。

「…いや。お前が正しいんだ。困っている者がいたら助けてやる。それが当たり前なんだ。俺は…、長く独りでいすぎて、人として大切なことを忘れてしまったんだ…」

人と関わらないように関わらないように、ただ必死に生きていた。
独りでいることに慣れながらも、温もりを求めた。
今こうして当たり前のようにいることが、実は奇跡に近いことなのだ。
少し前の、キーナと出会う前の自分が、どれほど虚しいものだったのか、今ならよく分かる。

キーナがテルディアスの横に座り、テルディアスにしがみついた。

「今は、独りじゃないよ」

傍に僕がいる。
そんな呟きが聞こえてきそうだった。

「ああ…。今は、お前がいる…」

テルディアスが右腕でキーナを抱きしめる。
頭に手をやって、軽くなで回す。
テルディアスの懐に包まれ、キーナが頭をテルディアスに預けた。
少しの間、無言の時が満ちた。
テルディアスがマスクを下げ、キーナを見つめる。

「いいか? キーナ」

キーナもテルディアスを見上げた。

「人を助けるにしても、身の丈に合わないことには手を出すな。それでお前が命を落とすような事になったら、元も子もないだろう? 分かったな?」
「うん!」

キーナが微笑む。
テルディアスもキーナを見つめる。
吐息がかかってしまうのではないかという程の近さで、二人は少し見つめ合う。
テルディアスの瞳が、煌めきを増した。
と思った瞬間、

「もへっ!」

テルディアスに頭を押さえ込まれ、キーナがテルディアスの胸に顔面衝突する。

「にゃ、にゃにするにゃー!」

衝突の祭にぶつけた鼻が潰れたかと思うほどにじんじん痛む。

「も、もう部屋に戻れ。ここは冷える」

テルディアスはそそそとキーナから体を離し、マスクを付け直した。
何故かそのまま、顔を隠すように手を当てている。
キーナが痛む鼻を押さえながら立ち上がる。

「う~い」

いてーぞコノヤローという顔をして、テルディアスを睨み付けているのだが、何故かテルディアスそっぽ向いたまま。

「テルは寒くない?」

じんじんする鼻を押さえながら、キーナが毛布を持って来ようかと尋ねる。

「お、俺はマントがあるから大丈ブ!」
「?」

キーナは寝間着姿だった。
本日の寝間着はノースリーブタイプ。
しかもなんだかサイズがちょっと大きいみたいでブカブカしている。
そんな格好で、テルディアスの顔を覗き込むように中腰になっている。
ので、テル君の視線の高さから、キーナの危ない谷間が見えてしまっていた。
慌てて反対方向へ顔を向け、フードで顔を隠す。

「い、いーから、早く行け…」
「? うん」

テルディアスの奇怪な行動に首を傾げたが、素直に部屋から出ることにした。

「じゃ、オヤスミ」
「ああ、オヤスミ…」

なんともない風を装って、手を振りキーナを見送る。
パタンと扉が再び閉まった。
そしてその場にテルディアスが残された。

少しすると、頭を抱えてテルディアスが悶えだした。



















草木も眠る丑三つ時。
というのがこの世界にあるのかは分からないけれど、そのくらい寝静まった刻限だということで。
屋敷の廊下を、ヒタリ、ヒタリと歩く者がいた。
足音をほとんど消し、気配も殺し、その人影は歩く。
全身黒ずくめで、頭にも黒い頭巾のような物を被っている。
唯一出ているその双眸がなければ、影が動いているのかと思えるほど。
何かを探すように、その人影はキョロキョロと辺りを見回していた。
その時。

シャッ!

何かが空を切る音がして、その人影が飛び上がった。

「ち」

テルディアスがはためいたマントをフワリと元に戻し、構える。

「気付かれたか」

影のような者も、距離を取って構えた。
睨み合う。
同時に踏み込む。
テルディアスの剣が舞う。
影のような者はその剣をギリギリで躱し、窓を割って外に躍り出た。

「待て!」

テルディアスが風を纏って外に飛び出る。
影のような者は、家々の屋根などを跳んで渡っていく。

(身軽な…)

かなりの早さだった。
テルディアスが空を飛んでいるのに追いつけないほどに。
そして、あるところまで来ると、突然その人影は消えた。

(消えた…?!)

空気に溶けるように、気配もろとも消えてしまった。
テルディアスが辺りを見回すが、動く者はなかった。
そして、足元には、アドサンの屋敷と似たような立派な屋敷がそびえ立っていた。

(でかい屋敷だな…)

この場所で消えたということは、この屋敷と関係があるのだろうか…?
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