キーナの魔法

小笠原慎二

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古代魔獣の遺跡編

黄色い男再び!

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夜が明け、テルディアスが夜の間のことを報告すると、アドサンが憤った。

ドン!

と机を叩く。

「やはりハッサンか! そうではないかと思っていたんだ!!」
「だが確証は…」
「いいや! ハッサンに違いない! 今度の長議選で邪魔な私を消したいのだろう! 我が弟ながら、あの腹黒野郎の考えそうなことだ!!」

と拳を握りしめる。

「こうなったらこっちからも刺客を――」
「送っちゃダメでしょ」

キーナがギロリと睨み付けた。
その迫力に押され、アドサンの士気があっという間にしぼんでしまう。

「はい…」
「まだ確証はないのだから、きちんと調べてからにした方がいい。もし万が一間違えていてでもしたら、長議選とやらでまずいんじゃないのか?」
「ぐ…」

テルディアスに睨まれ、アドサンが言葉を失くした。
よほど長議選とやらが大事らしい。


















街中の路地をテルディアス達一行が歩いて行く。
とにかくハッサンの家の周囲を調べてみようと言うことになったのだが。

「別に、ついてこなくてもいいぞ?」
「にゅ? 調べるくらいなら僕にもできるもん!」
「そうよ、一応、手伝わせなさい!」

テルディアスだけに働かせることに一応負い目があるらしい。
しかし、テルディアスにとっては邪魔なだけだったりして。
二人の扱いをどうしようかと悩みながら先を進んで行く。

すると、曲がり角から突然、大男が飛び出して来た。
そしてテルディアスを見ると、手に持っていた剣を振り上げる。

「覚悟しろ!」

何でだ、と突っ込む間もなく、男が剣をテルディアスに向かって振り下ろす。
テルディアスが素早い動作で腰の剣を引き抜き、その剣を受けた。

ガギイン!

金属のぶつかり合う音が響く。

「下がってろ!」
「もが…」
「危ないって!」

加勢しようとするキーナをメリンダが壁際に引き摺っていく。
勝負はあっけなくついた。
剣を払ったテルディアスが、男の脇腹に少し(かなり?)きつく剣の柄を当てた。
男は白目を剥いて倒れ込んだ。

「テル! 大丈夫?」

キーナがすぐさまテルディアスに駆け寄る。
静かに剣を収めたテルディアス、

「ああ…」

と男を見下ろす。

「どうかした?」
「昨日の奴、というわけではなさそうだな…」

昨夜の男はこんな大柄でもなかったし、こんなに弱くもなかった。
仲間なのだろうか?
しかしこんな弱い仲間がいるのか?
そして何故突然テルディアスに斬りかかってきたのか。
狙いはアドサンではなかったのか?

「よく分からないけど、知ってること全部吐いてもらえばいいんでしょ?」

テルディアスが逡巡していると、メリンダが近づいてきて、腰の鞭をサラリと抜き放ち、両手に構えた。

「あたしに、ま・か・せ・て♪」

メリンダの顔が煌めく。
二人は何故か体が震えた。

((何故だろう…。気の毒に思える…))

同じ事を考えた。

その時、

「あれ? やっぱしお前ら」

キーナにとっては久しぶり、テルディアスにとっては二度と聞きたくない人物の声が響いた。

「よお、久しぶりだなぁ」

道の先で立っていたのは、黄色い髪、黄色い瞳をもつ小柄な男。
右手に持った剣を肩に担いで、相変わらずのにやけ顔でそこにいた。

「サーガ?!」

キーナが声を上げた。

(誰?)

メリンダのみ目が点になっている。

「何してんだ? こんな所で」
「サーガこそ!!」

二度と会えないと思っていた人物が、いきなり目の前に現われたのだ。
キーナはビックリ仰天。テルディアスも驚いている。

「俺はまあ、その倒された男と、ハッサンつーおっさんの所で用心棒してて…」

と倒れた男を見ながらサーガが語る。

ハッサン?

三人の頭にハテナマークが踊った。
テルディアスの周りの空気が揺らぐ。

「つまり、この男の仲間ということか…」
「にょ?」

テルディアスのオーラが何となく暗くなった感じがして、キーナが思わず一歩後退る。

「ま、そうなるな」

と言いながら、倒れた男に向かってあかんべーをしている。
さんざんチビだとからかわれていたのだ。

「ならばお前も…」

テルディアスが腰の剣をサーガに向かって抜き放つ。
寸前、その行動に気付いたサーガが、後ろに飛んで逃げた。

「わ!」

ひゅっ

テルディアスの剣が空を切った。
キーナとメリンダは何が起こったのか分からない。
二人して唖然とする。

「何しやがる!」

サーガも剣を構えた。

「問答無用!」

テルディアスが走り寄る。

ギキイン!

剣がぶつかる音が響いた。








「テル!」

キーナが必死に叫ぶが、二人は止まる様子がない。
メリンダがキーナの肩に手を置いて、さりげなく安全な場所にキーナを移動させる。

「キーナちゃん、あの男知り合いなの?」
「うん」

メリンダの問いにキーナが頷いた。

「前に、テルが僕を置いて独りで先に行っちゃったことがあって、その時に僕の用心棒やってくれたの」

押しかけ用心棒ではあったが。

「ふ~ん」

メリンダが何故が面白くなさそうな顔をした。
何故だろう?








ギン!キン!ガン!

火花でも出そうな激しい音が響く。

「多少は腕を上げたようだな」
「あたぼーよ」

ギン!

剣を押し付け合いながら、二人が睨み合う。

「てめーを倒す為に腕を磨いてたんだ」
「ふ、ぬかせ」

剣を弾き、距離を取る。








「ど、どうしよう、止めないと…」

オロオロとキーナが二人を止めようとするが、

「あら、テルディアスに任せておけば大丈夫でしょ」

とメリンダがキーナの肩を放さない。

「うん…、でも…、なんだか、テルが…、いつものテルじゃない…」

キーナが心配そうにテルディアスを見つめる。

(? どこが?)

メリンダには何が違うのかさっぱり分からなかった。













テルディアスが距離を詰める。
サーガがにやりと笑った。

「!」

テルディアスは嫌な予感がしたが、その足を止めることはない。
その時、サーガの体の周りの風が巻いた。

「!」

呪文も唱えていないのに、風が不自然に巻くことはない。
しかし、その動きは明らかに自然の風の動きではない。
テルディアスが足を止める。
しかし、その時には風は形を整え、テルディアスに向かって来ていた。
すぐに地の魔法を発動させようとするが、間に合わない。
咄嗟に両手で頭を庇う。

ゴウ!

風が耳元で音を立てる。

「ぐああ!」

風の刃が全身を駆け抜けた。
サーガは不適な笑みを浮かべ、それをただ眺めていた。
風が通り過ぎ、テルディアスが顔を上げる。
全身のあちこちが切り刻まれていた。
力を加減されたのか、まだ扱いに慣れていないのか、致命傷になるほどの傷ではない。

(詠唱なしで風を…?!)
「へへへへ…」

テルディアスの考えが読めたのか、サーガが笑った。













「テル!」

駆け寄ろうとするキーナの肩をメリンダが必死に掴む。

「だめよ! キーナちゃん! 危ないわ!」
「でも、テルが…」
「あいつならあれくらい平気よ。それより…」

メリンダが黄色い男を見つめた。











「へへ、驚いたか?」

テルディアスが無言で睨み返す。

「詠唱なしで風を喚べる。これはかなりきついだろ?」

サーガの周りの風が踊る。
詠唱なしで魔法を使う。
これはつまり、予備動作なしで攻撃を仕掛ける事になる。
普通戦いなどでは、予備動作などから相手の動きを予測するのだが、つまりそれができないことになる。
となると、避ける、対処する事が難しくなる。
テルディアスは呼吸を整えると、再び、サーガに向かって地を蹴った。

「わかんねぇか?」

サーガが風を捲いた。
風が形作られ、刃がテルディアスに迫る。
直前、

ダン!

テルディアスが地を蹴り、壁伝いに走り出す。
風の刃はテルディアスがいた場所を通り抜けていく。

「早い!」

テルディアスの刃がサーガに迫った。
しかし、

ど!

風の塊がテルディアスの体を打った。
テルディアスの目にサーガの勝ち誇った顔が見えた。
そのまま後ろに吹っ飛ばされてしまう。

「テルゥ!!」

キーナが叫んだ。

ズダン!

両手をつきながらもなんとか着地するテルディアス。
マスクがじわりと赤く染まった。

「詠唱と詠唱の間がねぇからな。初撃を躱したくらいじゃ、避けきれねーよ」

サーガが得意そうに説明する。
テルディアスが力を込めた。

地縛ウルバル!」

その声に応えるかのように、地面から木の根が飛び出して来て、サーガに向かっていく。
サーガがそれを睨み付けると、
ザシュ!
サーガの周りで木の根が切り裂かれた。

「!」

風は地に弱い。
地の力を防ぐには、それ以上の、例えるなら2倍くらいの力を発現させなければならない。
それを軽々とやってのけた。

「へへ、こんなもんじゃ、俺は捕らえられねーぜ」

ちちちっとサーガが指を振った。













「ねえ、キーナちゃん」
「何?」

両手を祈るように合わせて、ハラハラしながらキーナが二人の戦いを見ている。

「あの男、風の一族の者なんじゃない?」

頭の後ろから降ってきた言葉に、一瞬キーナが硬直する。

「え?」

と勢いよくメリンダに振り向いた。

「だって、風を詠唱なしで操ってるし」
「…でも、本人はそんなこと一言も…」

キーナの事情は全てサーガに話してある。
もちろん、テルディアスのことも。
だからサーガは風の一族をキーナ達が探していることは承知しているはず。
そもそも水の宝玉のことを教えてくれたのはサーガなのだ。

「ん~? おっかしいわね~。確かに鍛錬を積めば常人でも詠唱なしで使えるようになるとは聞いたけど…」

チラリとサーガを見る。

「どう頑張っても15、6…」

鍛錬と言ってもそんな簡単な事ではない。
かなり長い間修行なりしなければできるはずがない。

「あ、でもサーガって、風の魔法以外使えないって…」

雪山でぽろりと零していたことを思い出した。

『俺は風しか使えねーの。相性が悪いんだかなんだか、俺は風しか習得できなかったんだ』

気になる人は、サーガ編の雪山あたりを読み返してみてね。

精霊の加護を受けた者は、その精霊の色を体に、髪と瞳に宿して生まれてくる。
火は赤。
風は黄色。
そして、加護を受けているので、他の精霊の力は使えない。
ただし、呪文を唱えることなく使うことができる。
見事にすべてに当てはまっていた。

「あ…」
「風の一族の証拠よ」
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