キーナの魔法

小笠原慎二

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古代魔獣の遺跡編

決着再び!

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「来ねぇならこっちから行くぜ!」

サーガが地を蹴る。
テルディアスも険しい表情を浮かべながら迎え撃つ。

ガギン!

剣のぶつかり合う音。

ゴウ!

途端に風が荒れ狂う。

「う…!」

突風に視界を奪われるテルディアス。
その隙を突いてサーガが剣を振り下ろす。
動きを予期したのか読んだのか、寸前でテルディアスが体を横にして剣を躱した。

「く…」

距離を取ろうとするも、サーガはさせるまいと距離を縮める。

「やっとてめぇを倒せる日が来たぜ!」

剣が交差する。
隙を突いて逃れるテルディアス。
すぐさま距離を詰めるサーガ。
テルディアスの口元がモゴモゴと動き、言葉が漏れ出す。

「地《ウル》…爆《テガ》!」

ドン!

サーガの目の前で地面が弾けた。

「残念! ハズレだ!」

立ち上がる砂埃を見上げ、サーガがにやりと笑う。
地爆《ウルテガ》は相手の足元を爆破させ、視界を奪う術だ。
多少擦り傷などはできるが、殺傷能力は無い術である。
それをハズした。
かなり追い詰められているということか。
サーガがそう確信した時。
目の前の砂埃の柱の中から、何かが突っ込んできた。

「な…」

フードを被った頭。
それをテルディアスだと認識した時にはすでに遅かった。
振り上げかけた剣が手から弾け飛ぶ。

キン!

金属特有の高い音を残し、剣は高々と宙を舞った。
その音に気付き振り向くキーナ。
テルディアスが剣を振り上げる。

「! テル! 待って! サーガは…」

テルディアスが剣を勢いよくサーガに向かって振り下ろす。

「風の一族の人なの!!」

テルディアスの目が開かれる。

ビタッ

風を切る音が途中で止む。
テルディアスの剣がサーガの顔のほんの数ミリ手前でギリギリ止まった。
顔にかかる剣の風圧がほおを撫でていく。
目の前まで振り下ろされた剣を見て、サーガの頬を、ゆっくりと汗が流れ落ちた。
そのまま剣を振り下ろされていたら…。
確実に死んでいた。
瞬きすることも忘れ、サーガは体を硬直させたまま動けない。

「風の…一族…? こいつが?!」

テルディアスの口から漏れ出でた言葉が、サーガの耳に届く。
そこでようやっとサーガは剣から目を離し、テルディアスを見た。
テルディアスがサーガを睨み付ける。

「ウソだろ?」
「ウソじゃない。ウソじゃない」

キーナが後ろで首を振る。

「冗談だろ?」
「冗談じゃない。冗談じゃない」

キーナが後ろで首を振る。

「なら、なぜあの時に…」

テルディアスの手に力がこもる。
剣がカタカタと震え出す。
サーガは何やら自分のことが話題になっているらしいと察してはいたが、何の話か分かっていない。

「お~い、何の話だ~?」

攻撃しないならこの剣をどけてくれとばかりに、剣を指でツンツンとつっつくが、

「それを言わん! やっぱり殺してやる!」

といきなりテルディアスが剣に力を込めた。

「ちょ、まて! タンマ!」

いきなり迫ってきた剣を両手で押さえ、踏ん張るサーガ。
かち割られないように頑張れ~。
そんな光景を呑気に眺めながら、メリンダが説明を始める。

「多分本当よテルディアス。風の力を詠唱なしで使えるのは風の精霊の加護を受けてる証拠だし、風の加護を受けてるから風の力以外使えない」
「ね、サーガ。風の一族なんでしょ?」

キーナがサーガを助けるべく、側に寄って問いかける。
近づいてきたキーナを見つめ、一度視線が宙を泳ぎ、

「何のこと?」

サーガは苦笑いした。
テルディアスの剣に込める力が増す。

「やめ、切れる! いーやー!」

海老反りになっていくサーガを、キーナはもはや見ていることしかできなかった。





















真っ二つを逃れたサーガが地面に座り込み、その周りをキーナ達が取り囲む。
これまでの事情を話し、サーガの身上についても問いかけるが、

「う~ん。言われてみれば確かに、当てはまる事は多いが…」

と煮え切らない返事。

「で、この姐さん何者?」

初顔合わせのメリンダを見上げる。

「あたし? あたしは火の一族のメリンダよ」

とさらりと髪を掻き上げ自己紹介。
豊満な胸がぷるんと揺れる。

「火の一族? ほえ~」

下からその様子を眺めるサーガ。
美味しそうな物を発見したかのような顔になっている。
そして、

「みんなそんな巨乳なの?」

いらん言葉を発した。
途端にメリンダの足の裏がサーガの顔面にめり込んだ。
普通に平たい靴ならばともかく、メリンダのブーツは5センチものヒール付き。
その尖った先がめり込むと、かなり痛いのは想像がつくと思う。

「ぶおおっ!!」

サーガがしばらく地面をのたうち回った。
キーナとテルディアスはそれを冷たい眼差しで見下ろしていた。
痛みが治まったのか、風で治療したのか、ほどなくサーガが落ち着き、顔を上げる。
顔の真ん中が赤くなっているけれど、この際気にしないことにする。

「ほ、本当に火の一族なんていたんだな…」

多少真剣な眼差しでメリンダを見上げる。

「あんただって風の一族でしょ」

メリンダが汚物を見るように見下ろす。

「う~ん、確かに俺の生まれた村じゃあ、風の力しか使えねーって奴はたまにいたけど…。風の一族なんて話し聞いたこともねーよ」

と腕を組んで考え込む。

「あんたが下っ端過ぎて話されなかったとか?」

メリンダが見下すように言い放つ。

「下っ端? そりゃどーゆーこった?」

サーガもメリンダを睨み付ける。

「そーゆーことよ」

二人の視線がぶつかり合う。
そのまま放っておくと火花が出そうな雰囲気。

「まーまー」

なんとかキーナが場を取り繕う。

「一応調べてみるっきゃないでしょ? ね、テル」

とテルディアスを見るも、

「…………ああ…」

もんのすんごく嫌そうに返事をする。

「そおんなに嫌なら調べなきゃいいだろ?」

サーガが今度はテルディアスを睨み付ける。

「と・て・つ・も・な・く・不本意だが、可能性がある限りは調べなけりゃならん」

とサーガに睨み返す。
またもや火花寸前の雰囲気に陥る。

「ちょいとちょいと」

なんで話を進めるほどに空気が悪くなるのかキーナにはよく分からないが、なんとなくサーガが原因であることは分かった気がする。

「ま、なんにせよ、今の仕事を片付けてからよね」
「そうだよねい」

メリンダの言葉にほっと振り向く。
とりあえず無駄な争いは避けられそうだ。

「で、なんでサーガはハッサンさんの所にいるの?」

キーナが問いかける。

「刺客の仲間だろ?」
「テル!」

喧嘩をふっかけるんじゃありません。
サーガもこの野郎という顔をする。

「俺はただハッサンのおっさんに命を狙われてるから、用心棒してくれって頼まれて。さっきもハッサンを襲った刺客を追ってただけなんだぜ?」
「え?」
「んで? お前らは?」
「アドサンて人が近頃命を狙われてるから用心棒してくれって…」
「は?」

サーガとキーナが目をパチクリさせる。

「アドサンが命を狙ってるって…」
「ハッサンが命を狙ってるって…」

4人の顔にハテナマークが踊った。

「お互いにお互いが…」
「命を狙ってるって…」
「どういうこと?」

メリンダが首を傾げる。

「う~ん。ま、俺は心当たりを探ってみるわ」

とサーガが立ち上がる。

「心当たり? あるの?」

キーナが尋ねる。

「ん~、ちょい気に掛かることが…」

サーガにも確信はないようだが、何か考えられることがあるらしい。

「俺達ももう一度アドサンに話を聞いてみよう」
「にょ?」
「何かあるはずだ」

テルディアスが鋭い目つきをして何かを考えている。
テルディアスにも何か引っかかる事があるらしい。

「ん。じゃ、またね。サーガ」
「おう。またな」

とりあえず今は目の前の問題を片付けなければならない。
再び落ち合う約束をして、キーナ達とサーガは別れる。
メリンダがさりげなく、サーガからキーナを守るように、キーナを隠すように歩き出す。
そして何故かサーガを少し睨み付け、そのうちぷいと顔を逸らし、キーナと歩き去って行った。

「?」

何故睨まれたのかよく分からず、サーガが頭をかいた。
そして、それまで忘れ去られていた、テルディアスにのされて気絶して転がったままの男を、どうしようかと悩み始めた。
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