キーナの魔法

小笠原慎二

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古代魔獣の遺跡編

遺跡事件終焉

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「数多を巡る大いなる力よ この地に集いて楔とならん」

下の方から、不思議な歌のような言葉が響いた。

「時の流れに埋もれし 地に眠りし虚ろの刃よ 我が血を持ちて印となさん!」

ハッサンが首に下げていたペンダントを手に持ち、言葉を紡いでいた。
アドサンと同じ不思議な紋様のペンダントが光り出す。
そして、地響きがゆっくりと収まっていく。

「くそっ! やはり、血を絶やさなければ無理か!」

青年がハッサンを睨み付ける。
今にも飛びかからんとしたその時、

「それはできねー相談だな」

後ろから声が掛かり、青年の背に尖った物が突きつけられた。

「ぐ…!」

サーガが背後に立ち、青年に剣を突きつけていた。

「なるほどね。古代の魔獣を起こす為に、二人の命を狙ったと。お遊びはここまでだぜ」
「く…そ…」

悔しそうにサーガを睨み付ける。
このまま下手に動けば、容赦なく剣で貫かれるだろう。
青年が大人しくなった。
観念したかと、サーガが気を緩めた瞬間。

ザワ…

青年の体から闇の気配が強まる。

「!」

咄嗟にサーガが風を集めた。
闇の力がサーガに襲いかかる。

「あべっ!」

ギリギリで風を使って躱す。
その間に、青年がサーガから逃げ出す。

「逃がすか!」

風を集め、刃を繰り出す。
風の刃が宙を走り、青年に届くかと思われた瞬間、青年の姿が虚空に消えた。
風の刃は何もない空間を虚しく通り過ぎて行った。

「げ…。逃がした…」

空間に逃げるなんて卑怯だろと思いながらも、コレばかりはどうしようもないと諦める。
いかに風の力を使ったとしても、空間の狭間には風は届かない。
犯人を捕まえれば報償金が上乗せされたのに…。
と残念に思いながら。
そんな阿呆なサーガの姿を見て、

(馬鹿め…)

と密かに思うテルディアス。

「逃げた…?」
「そうだな」

キーナも空を見上げている。
そして台座に視線を戻す。

「でも…、アドサンさんは…」

腹から血を流し、動かないアドサン。
サーガが側に降り立ち、アドサンを下に運ぼうと体に手を掛ける。

「…」
「!」

サーガがアドサンの首筋に手を当てる。
微かな鼓動を感じた。

(微かだが、脈がある!!)

サーガが力を集める。
命が失われていなければ、回復させる事は可能だ。
だがしかし、癒やしの力の高い地の力ならともかく、風では瀕死の人間を回復させるまでには至らない。

(くそっ! これだけ深手だと、俺の力じゃ…!)

そこで気付いた。
自分の力では無理。
しかし、すぐ側に不可思議な存在がいる。

「キーナ!」

サーガが声を張り上げる。

「来い! 早く!」

その声に反応し、キーナがテルディアスを振り払い、サーガの側に飛んでくる。

「治せるか?!」
「生きてるの?!」
「ああ、まだ微かだが脈がある!」
「治す!」

キーナが集中する。
治したい、助けたい、死なせない!
テルディアスがキーナの後ろに降り立ったのも気付かない。
キーナの体が微かに光り始めた。
その光がアドサンを優しく包み込んでいく。












下から見上げていた二人の目にも、その光が見えた。

「あ、あの光は…?」

訳が分からないハッサンが呟く。
メリンダの顔は微笑んでいた。

(キーナちゃん…)



















アドサンの顔色が、蒼白から仄赤くなっていく。
腹の出血は止まり、不思議な事に、体についていた汚れや血の跡なども消えていく。
キーナの光が消えた。
そのままふらりと体が傾く。

「キーナ」

その体を優しく抱きとめるテルディアス。

(このキザ野郎…)

サーガが心で呟いた。

「大丈夫か?」
「ん…、ちょっと疲れただけ…」

テルディアスに寄りかかりながら、確かに疲れたような顔をしているキーナ。
やはり、瀕死の人間を治すには、かなりの力を消耗するのだろうか。
アドサンが目を開ける。
そのまま、何事もなかったかのように身を起こした。

「あ…、私は…?」

腹を刺された、いや、抉られたはずなのに、傷跡も綺麗になくなっていた。



















「兄者!」

無事な姿で遺跡から下りてきたアドサンに、ハッサンが走り寄る。

「ハッサン」
「ご無事で…、よかった…」

その顔は本当に喜びに溢れており、先程言い争っていた醜い影はどこにも見えない。

「ああ、この方達のおかげだ…」

そんなハッサンの姿に、アドサンも少し戸惑いつつ、なんだか嬉しそうだ。

「兄者…、その、私は…、あなたを、誤解していたようだ…」

あの青年から身を呈して守ってくれようとした兄の姿に、ハッサンは感動していた。
幼い頃からいがみ合っていたわけではない。
共に笑い、遊び、悪戯をして一緒に怒られていたこともあった。
そんな頃を思い出していた。

「ハッサン…」
「今までの所業、許して欲しい。そして…、実は、あのサンメリープを食べたのも、私なんだ!」

ハッサンが意を決して己の罪を明かした。
アドサンの顔がとんでもなくビックリしたと言わんばかりに大口を開けている。
だが、弟のそんな殊勝な姿を見て、ここは怒るべき場所では無い、と自分も罪を打ち明ける。

「い、いや、それを言うなら私も…、実は、プチリッツを食べたのは私なんだ!」

ハッサンの顔が驚愕に歪む。
いやいや、しかし、ここは怒る所ではない、とハッサンも理性を保つ。

「な、あれを…。い、いや、それならあの…」
「私こそ…」
「いや、私こそ…」
「それなら私も…」

しばし、己の罪打ち明け合戦となった。
いや出るわ出るわ。
そしてふと、二人は黙り込んだ。
キーナ達が顔を見合わせる。
醜い打ち明け合戦がやっと終わりを迎えたのだろうかと。
ところが、二人が互いに、互いの胸元を掴みかかる。

「いーや! 許せん! 私の楽しみにしていたラッセンドールを!」
「プリンプチュールを食べたのも兄者だったか! 素知らぬ顔をしおって!」

と、醜い諍いが始まったのだった。
さすがに呆れかえるキーナ達。

「勝手にさせとけ」

サーガの言葉に同意し、四人はその場から静かに去って行った。
遺跡の前では、しばらく男二人の醜い争いが続いていた…。





















空間の狭間。
膝をつき、肩を震わせる青年の姿。

「く、くそ…。もう少しだったのに…。くそぅ…」

悔しそうに地面を拳で叩きつける。

「なあんだ、やっぱり失敗したのかよ」

別の男の声が後ろから響き渡った。
青年が振り向く。

「あ…、す、すまない…。折角あんたが、手を貸してくれたのに…」

青年が申し訳なさそうに男に謝るが、

ズドオ

容赦ない蹴りが青年の腹部に入れられた。

「が…」
「ああ、まったくだぜ。俺がほんの気まぐれで、親切に手を貸してやったのに…」

冷たい眼で苦しむ青年を見下ろす。

「失敗するとはなあ…」

痛む腹を押さえ、青年がなんとか声を絞り出す。

「あ、あいつらが…、あいつらさえいなければ、成功したんだ! あいつらさえいなければ!!」
「ま、俺にはどうでもいいことだけどな」
「!」

あれほどに苦労して、もう一歩の所までいったことを、男はどうでもいいの一言で片付けた。
青年の顔から気力が抜け落ちていく。
自分のした事は何だったのだろうかと。

「世界を滅ぼすなんざ、興味ねえよ。俺が興味あるのは…、女だけさ」

ひゃーはははは…
不吉な笑い声を残し、男はどこかへと去って行った。





















依頼を終え、きちんとお金を貰い、街を出た所で四人が今後の方針を話し合っていた。
正確には三人か。
その内の一人、小柄な茶色い髪の、少年とおぼしき少女が、近くの木にしがみつき、よじよじと登り始めている。
きちんと話し合いに参加しなさい。

「んで? サーガの村に行くの?」

登りながらキーナが聞いてくる。

(何故登る…)
(相変わらずだな…)

テルディアスとサーガがキーナの不思議な行動に呆れ顔をしている。

「行って確かめてみた方がいいでしょ。ね? テルディアス」

どんなキーナもまるっと受け止める(驚くけれど)覚悟を決めたメリンダが、テルディアスに問いかける。

「まあ、一応確かめてみなけりゃならんだろう」

半分、いや、三分の二くら諦め、しぶしぶといった感じでテルディアスが返答する。

「んじゃ、決まりだね! サーガの村へ!」

キーナが一番下の枝にぶら下がり、サーガを見るが。

「どったの? サーガ」

何やらサーガが渋い顔をしている。

「俺の…村?」

何やら歯切れが悪い。

「何よ、なんか不都合な事でもあるわけ?」

メリンダがずずいっとサーガに寄る。
ちなみに、サーガの身長はキーナより少し上。
メリンダの身長は、ヒールの高さもあり、テルディアスより少し下。
もともとでかいのがヒールによってさらに高くなっているので、必然的にサーガはメリンダに見下ろされる形となる。
しかも胸もでかいので、近づかれると顔と胸で視界が埋まる。これは結構な迫力である。

「あ、あるっちゃー、ある…」

サーガの顔が引きつる。

「何よ、言ってみなさいよ」

メリンダの後ろから、テルディアスも圧を掛ける。
変な事を言ったら剣が走りそうである。

「う~ん、俺の…、村って…」

サーガが言いにくそうに語り始める。
キーナもよく聞くべしと、木から下りてきて近づいてきた。

「絶えず、移動してる村…、だから…」
「移動?」
「してる?」
「村?」

キーナ達が思わず復唱する。
移動する村って、遊牧民みたいな?

「一カ所にじっとしてないで、不定期に移動すんだよ。仕事を求めて」
「て…」
「こと…」
「は…」

その答えは。

「今、どこにあんのか、分かんねえ…」

なんですと?!
思わずメリンダがサーガに掴みかかる。

「ちょっと! どうしろってのよ! 何か探す方法とかないの?!」
「え! え~と…、だから~…。戦をしてる土地に行けば、運良くあるかもね♡」

と可愛くにっこり。

「あるかもね♡ じゃなーーーーい!!!」

メリンダの鉄拳が飛んだ。
ついでにサーガも吹っ飛んでいった。

「…どうする?」

予想外の展開にキーナが呟く。

「どうするも何も…」

予想外の展開に、テルディアスも呆然と呟く。

「探すしかないだろう…」
「そだね…」

風の宝玉、手に入れることは叶うのだろうか…。
テルディアスは、仄かに灯り始めた未来の灯火が、しぼんでいくような錯覚に陥った。
メリンダが火の力を集め、サーガを追い立てる。

「役立たずー! トドメじゃー!」
「うぎゃああ!!」

サーガが必死に逃げ惑う。
頑張れサーガ。
作者は応援だけ・・してるから。

メリンダが集めた特大の火の玉が、サーガに向けて放たれた。
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